ナタネ輸入港周辺における 西洋ナタネその他の遺伝子組換え植物の自生調査報告
2005年2月1日
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(文責:遺伝子組換え情報室 河田昌東)
● はじめに 日本は食用油用などとして年間200万トンのナタネを海外から輸入している。ほとんどは、カナダとオーストラリアからで全体の97%を占める。そのうち除草剤耐性などの遺伝子組換えナタネは約60%である。2004年6月に農水省による茨城県鹿島港周辺における遺伝子組換えナタネのこぼれ落ちによる自生が公表されて以来、私たちは大きな関心を持ってその事実を確認し、国内の他の穀物輸入港周辺でも地元市民団体の協力を得て追跡調査を行ってきた。我々の調査では、現在までに茨城県鹿島港、千葉県千葉港、神奈川県横浜港、静岡県清水港、愛知県名古屋港、愛知県衣浦港、三重県四日市港、兵庫県神戸港、福岡県博多港などで除草剤耐性西洋ナタネその他のGM作物の自生が確認された。 GM作物は現在59品目の輸入が許可され、多くは食用油や醤油などの加工品として利用され、あるいは家畜飼料として使われているが、国内での商業栽培は行われていない。それは、GM遺伝子による国内の栽培作物や野生植物の遺伝子汚染が懸念されるからである。2001年4月にGM食品の表示義務制度が施行されたが、豆腐や納豆など直接食用となるものについてはいまだに店頭にはGM食品は見当たらない。それは安全性についての消費者の懸念が払拭されておらず、また「地産池消」運動に見られるように、国内作物を育て自給率向上を目指そうという国内世論に応えるものである。現在、北海道はじめ各自治体によるGM作物の栽培を条例で規制しようとする動きは、こうした消費者や生産者の声に自治体が応えようというものである。 一方、食用や加工用、家畜飼料用として輸入されるGM穀物は、それ自体発芽能力を持つ種子でもある。そのため港での荷揚げ作業や外部の搾油工場や飼料工場への搬出のためのトラック輸送に伴う、いわゆる「こぼれ落ち」による周辺での自生が起こることは当初から予想されていたことである。しかし、現実に港および港周辺での自生が起こればナタネやトウモロコシなど他家受粉性植物の場合は国内での繁殖と伝播によるGM遺伝子汚染が起こる可能性があり、国内農業の保護にとっても重大な懸念材料となる。特に現在盛んになりつつある有機農業への影響は大きいと思われる。また、野生近縁植物への伝播と生態系への影響も長期的には考えざるを得ない。GM作物の多くが除草剤耐性、害虫抵抗性であることからもそれは明らかである。メキシコはトウモロコシの原産国として知られているが、規制が遅れた結果、すでに国内栽培種・野生種の10%がGM遺伝子で汚染されてしまい、原状回復が困難な状況に陥っている。 我々の調査によれば、現時点での国内におけるGM植物の自生規模は、各港ごとに大きなばらつきがあり、多くはまだ港周辺地域に限られている。しかし鹿島港などではすでに利根川沿いに上流80Kmまで自生が確認される。このまま放置すれば現在は港周辺に限られているものも同様に拡散し、国内作物や野生種への遺伝子汚染が起こり、あるいは意図しないGM植物の国内各地への拡散は避けられない。これは国産農作物への影響にとどまらず、生物多様性に対する脅威でもあり、国内生態系保護の観点からも無視できない。今後、国や地方自治体はじめ民間団体も含めたさらに大掛かりな調査によるより詳細な実態調査が行われ、具体的な防護対策を立てることが緊急の課題である。 ● 調査に参加したグループ、個人 今回、国内各港での調査に参加・協力した団体、個人は次のとおりである。 水海道・食の安全を考える会(茨城)、有機ネットちば、ストップ遺伝子組換え汚染・種子ネット、遺伝子組換え作物を考える静岡ネット、遺伝子組換え食品を考える中部の会、反GMイネ生産者ネット、中部よつ葉会、遺伝子組換え情報室、関西よつば連絡会、安全食品連絡会、アキコ・フリッド(在スエーデンGM活動家) ● 調査日時 : 2004年7月〜2005年1月 ● 調査した場所: 茨城県鹿島港、千葉県千葉港、神奈川県横浜港、静岡県清水港、愛知県衣浦港、愛知県名古屋港、三重県四日市港、兵庫県神戸港、岡山県水島港、岡山県宇野港、福岡県博多港 ● GM植物自生が確認された港: 鹿島港(GMナタネ)、千葉港(GMナタネ)、横浜港(GMナタネ、GMトウモロコシ)、清水港(GMナタネ、GM大豆、GMトウモロコシ)、名古屋港(GMナタネ)、四日市港(GMナタネ)、神戸港(GMナタネ)、博多港(GMナタネ) ● GM種子のこぼれ落ちが確認された港: 千葉港(GMナタネ)、清水港(GMトウモロコシ)、衣浦港(GMトウモロコシ)、四日市港(GMナタネ) ● 調査の方法 各港周辺の道路端や側溝、国道など外部へ通じる道路の街路樹脇、国道など主要道路周辺、製油工場付近の空き地などに自生している西洋ナタネやナタネ科植物、トウモロコシ、大豆などを採取し、その葉の一部を切り取り、その水抽出液を簡易GM検査キットで調べた。大豆、トウモロコシの種子については、ミキサーで破砕しその水抽出液を同様に検査した。この方法は一般に「ラテラル・フロー方式」と呼ばれ、抗原抗体反応を試験紙上で行い、目的の抗原タンパク質(GM遺伝子が作るたんぱく質)を検出する方法である。 この試験紙は我々がアメリカの Strategic Diagnostics 社および、Neogen 社から輸入した。こうした簡易検査キットは国内の各港湾施設でも輸入作物の一次スクリーニングに使われている。 ● 検出に用いた標的組換え遺伝子 除草剤耐性: ・モンサント社のラウンドアップ耐性:グリフォサート耐性 CP4EPSPS たんぱく質(ブランド名ラウンドアップレデイ:以下RR) ・バイエル社のバスタ耐性:グルフォシネート耐性PATたんぱく質(ブランド名リバテイーリンク:以下LL) 害虫抵抗性: ・モンサント社の Cry1Ab たんぱく質(ブランド名 MON810) ・モンサント社の Cry3Bb たんぱく質(ブランド名 MON863) ・アベンテイス社の Cry9C たんぱく質(ブランド名スターリンク) ● 調査結果(詳細は各ホームページのリンク参照) (1) 茨城県鹿島港(調査日 2004年10月27日) 鹿島港から80Km離れた取手市から鹿島港までを調査した。鹿島港は年間約20万トンのナタネ輸入量がある。取手市から鹿島港に至る利根川沿いに多数の西洋ナタネの自生が見られた。このうち取手市小堀では356号線沿いに多数の西洋カラシ菜が生えており、住民が食用に採取する。その西洋カラシ菜に混ざって西洋ナタネが自生開花していた。周辺にも多数のナタネの自生が見られた。この西洋ナタネはバイエル社の除草剤LL(PAT 遺伝子)陽性だった。常総大橋でも立派な西洋ナタネが発見されLL陽性だった。谷原村では124号線沿いの道路脇、歩道脇に西洋ナタネが自生していた。一箇所には小さな苗が密集していた。これはLL陽性。鹿島港に近い飼料団地の道路脇歩道には菜園と見まがう多数の西洋ナタネが自生し開花していた。ジャパンフィード近くの試料でLL陽性、昭和産業付近の検体でモンサント社の除草剤ラウンドアップ耐性RR( CP4EPSPS たんぱく質)が検出された。取手市栄橋はGM陰性、居切では道路の中央分離帯、道路脇に多数の西洋ナタネの自生が見られ、開花したものや実がなっているものもあったがGM陰性だった。飼料団地の昭和産業正門前の西洋ナタネは陰性であった。 (参照:http://www007.upp.so-net.ne.jp/Seeds-Network/frame-new.htm) なお、鹿島港でのGMナタネ自生は農水省および国立環境研究所も確認している。 (2) 千葉県千葉港(調査日 2004年12月17日) 千葉みなと駅から埠頭まで1.75Kmの道路、歩道脇などを調査した。千葉港も年間約20万トンのナタネを輸入している。この周辺には元東洋製油千葉工場(味の素、現J−オイルミルズ)がある。千葉みなと駅ロータリー周辺では開花したものから発芽後間もないナタネがあり、22株を採取したが、その中にRR陽性が検出された( CP4EPSPS たんぱく質)。他にGMが検出されたのは、同ロータリーの一般道路沿いの植え込みの中の西洋ナタネ(RR)、千葉みなと駅から国道に通じる道路脇(RR)。ここには開花期のものから種子をつけたものまで、多数の自生が確認され、数えただけで165株あった。埠頭近くの製粉工場や飼料工場、油脂工場などがつながる直線道路脇(RR)、ここではナタネの搬出時のこぼれ種と見られるナタネ種子(RR陽性)が観察された。 西洋ナタネの自生が見られたがGM陰性だった場所は、駅前ロータリーに向かう港からの直線道路、J−オイルミルズ近くの飼料会社脇である。 調査した範囲は狭かったが、季節はずれにもかかわらず極めて多数の西洋ナタネの自生が観察された。今回GM陰性だったものも、偶然の可能性があり外部への拡散が懸念される。千葉県はナタネの産地でもあり、花粉による交配が起これば取り返しのつかない事態になると考えられる。千葉港のGMナタネ自生は国立環境研究所も確認している。 (参照:http://www007.upp.so-net.ne.jp/Seeds-Network/frame-new.htm) (3) 神奈川県横浜港(調査日 2004年8月1日) 横浜港は年間約30万トンのナタネを輸入する国内最大のナタネ輸入港である。今回は、東京湾アクワライン川崎側から鶴見区大黒町、神奈川区、中区、磯子区までを調査した。 GM陽性だったのは採取場所1(鶴見区大黒町4の味の素工場入り口脇道路沿い、J−オイルミルズ)で採取した西洋ナタネがラウンドアップ耐性RRが陽性、採取場所2(中区豊浦4)の西洋カラシナがRR陽性だった。なお、中区豊浦4の日本農産工場の敷地外にはコーンが自生しており、検査の結果モンサント社の害虫抵抗性( Cry1Ab )たんぱく質を持っていた。これは国内で自生が確認された最初のGMコーンである。この地域では真夏の連日30度を越える日が続いていたにもかかわらず、多数のナタネが大きく成長し開花したものや種子をつけたものなど、時期はずれの生育が見られた。また、西洋ナタネ以外にも西洋カラシナ、イヌカキネガラシなど数種類のナタネ科植物が混合して自生しており、西洋カラシナからGMが検出されたことは、西洋カラシナとGM西洋ナタネとの交配を示唆する結果であり、今後慎重に調査する必要がある。 (参照:http://www007.upp.so-net.ne.jp/Seeds-Network/frame-new.htm) (4) 静岡県清水港(調査日 2004年12月6日) 清水港では年間約18万トンのナタネを輸入している。豊年埠頭(J−オイルミルズ専用埠頭)と一般の利用に供せられている富士見埠頭の周辺を調査した。豊年埠頭ではアスファルト道路脇のわずかな土壌がある場所などに西洋ナタネの自生が見られ、6箇所9株を確認した。その中でNo5で採取した3株がモンサント社のRR( CP4EPSPS )陽性、その他は陰性だった。バイエル社のLLについてはいずれも陰性だった。富士見埠頭では5箇所6株の西洋ナタネ自生を確認したが、1箇所(No9)の一株のみがRR陽性で他はすべて陰性だった。LLはすべて陰性だった。富士見埠頭では埠頭から外部に通じる道路脇の広い範囲で西洋ナタネの自生が認められ、外部へのトラック輸送時のこぼれ落ちが疑われた。 清水港調査で特筆すべきは、自生大豆が多数確認され、その中にRR陽性のものが見られたことである。これは国内で始めて確認された自生のGM大豆である。大豆は豊年埠頭のJ−オイルミルズ社に面した岸壁脇のわずかな土壌に10〜20cmのものが多数自生(39株を採取)していたがこれはすべてGM陰性だった。富士見埠頭でも外部に通じる道路脇に雑草といっしょに大豆が自生しており、8株採取し検査した結果、RR陽性であった。また、富士見埠頭から外部に通じる道路脇には自生トウモロコシ1株が発見されたが、検査の結果、害虫抵抗性 Cry1Ab たんぱく質が検出された。Cry9C(スターリンク)および Cry3Bb(MON863)は陰性だった。 清水港から外部に通じる道路も調査したが、埠頭外の一般道路上では西洋ナタネも大豆、トウモロコシの自生も見当たらなかった。詳しい調査が必要だが、現時点ではGM植物が広く外部へ進出している可能性は低いと考えられる。 (参照:http://www2.odn.ne.jp/~cdu37690/simizukougmjisei.htm ) ( http://www.kit.hi-ho.ne.jp/sa-to/simi-port.htm ) (5) 愛知県衣浦港(調査日 2005年1月6日) 碧南市港本町立体交差点付近および県道46号線知多郵便局付近で自生ナタネを採取したが、いずれもGM陰性であった。港本町立体交差点付近で採取した、トウモロコシ種子1検体が Cry1Ab( MON810)陽性であった。衣浦港は年間約150万トンのトウモロコシを輸入している。 (6) 愛知県名古屋港(調査日2004年8月13日、9月16日、2005年1月6日) 名古屋港は年間約14万トンのナタネを輸入している。名古屋港潮見埠頭を調査した8月13日および9月16日は猛暑の盛りであったが、季節はずれにもかかわらず、西洋ナタネの自生と開花が確認された。ここにはリノール油脂工場の専用バースがあり、陸揚げと同時に同製油工場で処理されるが、荷役中または外部へのトラック輸送によるこぼれ種による自生と思われる。採取した7検体のうち3検体がRR陽性であり、LLはすべて陰性であった。潮見埠頭は周辺が海で囲まれており、ここからの広範囲の汚染は考えにくいが、製油工場から1Km以上はなれた道路脇でも自生が確認され、トラックによる外部への搬出による沿道のこぼれ落ちが疑われる。より広範囲の調査が必要である。 (http://www.kit.hi-ho.ne.jp/sa-to/nagoyaport.htm) 2005年1月6日には愛知県知多市の名古屋港北浜埠頭の穀物基地を調査した。ここは大豆、トウモロコシ、小麦、綿実などが大量に輸入され、主として製粉、家畜飼料として加工されている巨大穀物基地である。埋立地に作られた広大な工場群は海側に立地、バースなどが隔離されベルトコンベアなどが隔離されているためか周辺の道路や道路脇には自生GM植物は見当たらなかった。 (7) 三重県四日市港(2004年7月21日、8月23日) 四日市港2・3号埠頭の日本トランスシテイ・サイロ周辺と、同埠頭から輸入ナタネが運ばれ搾油されている四日市市内の製油工場周辺を調査した。四日市港のナタネ輸入量は年間約13万トンである。 7月21日の調査では埠頭のベルトコンベアやサイロ周辺には多数の西洋ナタネの自生があった。開花期のものもあれば発芽直後のものもあり、生育時期はさまざまでこぼれ落ちは日常的に起こっていると推定される。また、ベルトコンベアやサイロからトラックへの積み出しの際にナタネ種子が地面にこぼれ落ち、地面に堆積し、鳩がついばむ光景も目撃された。埠頭周辺で採取した11株のうち、1株がRR陽性、他は陰性であった。また、旧熊沢製油工場周辺の空き地で採取した3株の西洋ナタネのうち2株がRR陽性であった。全体として14検体のうち3検体がRR陽性であった。この日はRR以外の検査を行わなかった。 8月23日の調査では埠頭ばかりでなく、埠頭から国道へ通じる道路、国道23号線までを調査した。7月同様、埠頭には多数の西洋ナタネの自生が見られた。採取した15検体のうち、6検体がRR陽性、3検体がLL陽性であった。すなわち、15検体のうち9検体(60%)がGMだったことになる。7月の調査と同様、製油工場周辺空き地で採取した検体はやはりRR陽性であった。また、埠頭から遠く離れた国道23号線沿いの道路脇にも自生西洋ナタネがあった。このうち国道23号線午起西交差点の検体はGM陰性だったが、国道23号線海山道1東地点で採取した検体はRR陽性であり、GMナタネは港から約2.5Km離れた国道23号線にまで進出していることが確認された。埠頭から23号線を通って北方向と南方向に輸入ナタネが搬出されていることは明らかであり、県内外の製油工場までの拡散が懸念される。埠頭から国道23号線までの市道では、埠頭サイロから出て行くトラックが通る道路の左側に自生が顕著であり、搬出時におけるこぼれ落ちが原因である。 (参照:http://www2.odn.ne.jp/~cdu37690/yokkaitikounonatanenojisei.htm http://www.kit.hi-ho.ne.jp/sa-to/yokkaichiport.htm) (8) 兵庫県神戸港(調査日:2004年9月25日、10月6日、10月27日、11月22日) 神戸港は年間約28万トンのナタネを輸入し、横浜港に次いで国内第2のナタネ輸入港である。 9月25日の調査では、J−オイルミルズ神戸第一工場(旧吉原製油)周辺、甲南埠頭(株)、日本配合飼料周辺を調査した。J−オイルミルズ工場周辺はきれいに除草されていたが、ベルトコンベア下で発芽したナタネの群生が確認された。これらはGM陰性であった。甲南埠頭付近にナタネの自生はなかった。 10月6日の調査ではJ−オイルミルズ敷地内では多数のナタネの自生が見られたが、敷地外では少なかった。採取した4検体中、1検体がLL陽性であった。 10月27日調査では、甲南埠頭でもナタネの自生が見られ、5検体のうち1検体がLL陽性であった。11月22日調査では、J−オイルミルズ周辺と甲南埠頭で5検体を採取したが、そのうち1検体がLL陽性、1検体がRR陽性であった。結局4回の調査で15検体を調べたが、3検体がLL、1検体がRR陽性で陽性率は26.6%である。 (参照:http://www.kit.hi-ho.ne.jp/sa-to/kobe-port.htm) (9) 岡山県水島港(調査日:2004年11月25日、12月19日) 高梁川をはさんで西に玉島港、東に水島港がある。二つは水島大橋で連絡し巨大な石油基地と穀物基地がある。水島港は鹿島港とほぼ同じ年間19万トンのナタネを輸入している。 玉島港、水島港とも広大な敷地にナタネだけでなく他の穀類も輸入し、家畜飼料や食用油への加工を行う巨大な基地と化している。しかし今回の調査ではナタネ始め他の穀物の自生は全く観察できなかった。この原因が企業による積極的な駆除によるものか、立地条件によるものかは分からないが、原因が明らかになればGM自生対策の手がかりとなるかもしれない。 (10)岡山県宇野港(調査日:2004年11月25日) 宇野港の加藤製油工場周辺で1検体採取したが、GM陰性であった。 (11)福岡県博多港(調査日:2004年11月24日) 博多港では年間約6万トンのナタネが輸入されている。箱崎埠頭の理研工場の周辺道路脇で2検体採取したが、いずれもLL陽性、RR陰性であった。博多港は須崎埠頭および箱崎埠頭を中心に年間100万トンを超えるトウモロコシや大豆などの穀類とその加工品も輸入している。大豆やトウモロコシの自生がないかどうかさらに調査する必要がある。 (参照:http://www007.upp.so-net.ne.jp/Seeds-Network/frame-new.htm) ● 考察 今回調査した国内11港のうち9港でGM西洋ナタネ(カノーラ)の自生とこぼれたGM種子が確認された。自生規模は港によってまちまちだが、限られた能力による調査でもこれだけの事実が確認されたことは、すでに国内の栽培植物や野生(自生在来)植物との自然交配によるGM遺伝子汚染を考えなければならない時期に来ていることを示すに充分である。西洋ナタネは昆虫や風によって大量の花粉を飛散させることから、GMナタネの自生範囲が広がれば栽培植物や野生種へのGM遺伝子拡散が憂慮すべき現実問題となる。国内の栽培植物には西洋ナタネはもとより、在来ナタネ、ハクサイ、カブなどのカブ類やハガラシナやタカナなどのカラシナ類など交雑可能な植物は多数存在する。現在多くの自治体やNGOなどが進めているナタネ街道や、ジーゼル油、食用油生産のための菜種栽培にこれらのGM遺伝子が入り込めば、国内での非GMナタネの生産は不可能になる恐れがある。国内栽培のナタネを保護し、GMナタネによる自生在来植物との交雑を避けるため、早急に対策を立てる必要がある。また、今後さらに調査をすすめ、国内栽培植物や自生在来植物との自然交雑の実態を研究する必要がある。現在全国に蔓延っている西洋タンポポ等の外来植物もおそらく港から侵入したであろうが、最初の1株には誰も注意を払わなかった結果である。 ナタネ調査の際の偶然の発見ではあるが、今回、国の調査で確認されていないGM大豆やGMトウモロコシの自生が確認されたことは、これら穀物の輸入港を中心にした調査をさらに追加する必要を示している。トウモロコシは国内で交配可能な野生種が存在しないとはいえ、飼料用や食用トウモロコシは各地で栽培されており、こぼれ落ちによる自生トウモロコシがGM遺伝子を拡散させる危険は皆無ではない。すでにアメリカでは、栽培用の非組換え種子といえどもGM遺伝子の混入をゼロにすることは不可能に近くなっている。前書きでも述べたように、メキシコはトウモロコシの原産国であるにもかかわらず、規制が遅れたため多くの野生種や国産栽培種がGMで汚染され、汚染は平均10%にも及んでいる。それだけでなく、同一の栽培トウモロコシに害虫抵抗性と除草剤耐性など複数の組換え遺伝子が混入した複合汚染も珍しくない状況にある。こうした事態を国内にもたらさないために、関係企業はもちろん、国や地方自治体、農家、関係研究機関も真剣に努力する必要がある。 今回確認されたGM大豆の自生も無視できない。大豆は通常自家受粉性であり、国産大豆との交配可能性は低いと見られているが、近距離にあれば交配は皆無ではないし、国立環境研究所の研究によれば、野生の豆科植物である、つる豆がGM大豆と交配可能で開花期も同じであることから、こうした自生在来植物へのGM遺伝子拡散も懸念される。野生つる豆は市街地でも広く繁殖している雑草であり、これらが除草剤耐性になれば生態系への影響も考えなければならない。 今回は港周辺を主に調査したが、ナタネその他の輸入穀物が港のサイロから内陸部の製油工場や家畜飼料工場に搬出されていることは明らかである。四日市では港と離れた市内の製油工場周辺で自生GMナタネが確認された。こうしたことは、他の港に関連する加工工場周辺での自生も起こっている可能性を強く示唆する。鹿島港から利根川上流80Kmの取手市までGMナタネが自生していることは特に重大な事実である。この原因が、港周辺のこぼれ落ちによる西洋ナタネが繁殖し、その後代の種子によって次第に利根川上流までさかのぼったものか、あるいは外部への種子の搬出による日常的なこぼれ落ちの結果かを慎重に調べる必要がある。 全国の製油工場、飼料工場周辺での調査も必要である。多くの港では荷揚げした穀物を港湾地域内の飼料工場で加工し内陸部に輸送している。家畜飼料は原材料がナタネや大豆、トウモロコシから食用油を搾ったあとの油粕や、穀物自体を過熱変性したものが使われるが、熱変性は特に乾燥状態では不十分になりやすく、発芽能力を保持したまま、個々の畜産現場に搬入されている恐れがある。あるいは、共用サイロでさまざまな穀物が搬出されたあとの残渣や、不良品として排除された食用穀物を回収し家畜飼料や肥料として梱包し搬出する例もあるという。現在日本では家畜飼料に表示義務がなく、畜産農家は無意識にGM穀物を取り扱っている可能性があり、もし発芽能力を保持したまま現場で使われていれば、港に限らず広い範囲でGMの拡散につながる。 ● 対策についての提案 今回の調査は不十分だが、茨城県鹿島港を除けば港から遠く離れた場所での自生はまだ限られた範囲であることを示す。また、港毎に自生状態が大きくばらついていることはGMナタネの拡散に何らかの歯止めが可能であることを示唆する。実際、昨年6月の農水省発表や我々の調査結果の新聞報道のあと、港の加工工場周辺では目だってGMナタネの自生が減った事実がある。従って、現段階でも取りうるGM遺伝子拡散防止対策はあると考えられる。 輸入GM作物が港から入ってくることを考えれば、輸入業者や保管・輸送業者、加工施設管理者、港湾管理者などがそれぞれの立場からこぼれ落ち防止に取りうる手段はある。我々の観察によれば、老朽化したベルトコンベアやサイロからはナタネ種子が飛散している。特にベルトコンベアの曲がり部分からのこぼれ落ちやサイロからトラックへの積み込みの際のこぼれ落ちは多く、ベルトコンベアの下にこぼれたナタネやトウモロコシの受け皿としてドラム缶を置いている例も見受けられた。ナタネ種子は小さく容易に風による飛散が起こりやすい。GM作物が輸入されなかった時代にはこれも当然と考えられたのであろうが、遺伝子汚染の時代には関係者の意識改革が求められる。また、工場外の道路や側溝はきれいに清掃しながら、工場敷地内にはGMナタネの自生が放置されている例もあった。これも、花粉の飛散を考えれば不十分である。 トラックは幌付のものや、タンクローリー型のものまでさまざまだが、カバーを被せただけの輸送は沿線にこぼれ落ちをばら撒く結果になる。サイロからトラックへの積み込みも開放空間での自然落下によるものが多く、密閉構造にすれば飛散は防げるはずである。またトラックからの積み下ろしの際にもこぼれ落ちはあり、周辺で鳩などがついばんでいる光景は一般的である。これらのことは具体的に対応できることであり、関係業界の努力が求められる。これらがまず第一に必要な対策である。 港のサイロや工場敷地外の道路、外部に通じる道路、国道や国道沿線などは、国やそれぞれ責任のある地方自治体、港湾管理者による調査と駆除が必要である。多くの外来植物の例を考えれば、初期段階での防除がその後の拡散に大きな影響をもつのは明らかである。GM植物の自生が限られている現在、適切な対策をとればGM遺伝子の汚染拡大を防ぐことは可能と考えられる。 ● 謝辞 今回の調査では各地で活動している団体や個人、研究者の方々に多大なご協力とアドバイスをいただきました。これらの方々の援助がなければ短期間の広範囲にわたる調査はありえなかったと思います。ここに改めて感謝いたします。 以上
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