遺伝子組換え医薬品(フランケンファーム)の矛盾をUSA Today が取材

 

USA TODAY

2002年9月 23日

エリザベス・ワイズ

訳 河田昌東

 

自然は山羊にクモの糸を作らせるようなことは決してしなかった。しかしそうしたことは今ではいくらでも出来るようになった。ナマズは自分の病院を持たないが、科学者がナマズに蛾の遺伝子を入れると、ナマズは病気から自分を守る抗菌タンパク質を作り始めた。

以前、農民は豚の糞をどうにも出来なかったが、科学は豚の遺伝子を改変して豚糞に燐酸が少なくなるようにし、池や川の汚染を減らし、魚を殺し飲み水の汚染もたらす水の華(訳注:アオコ)の発生をとめるようにした。

こうした研究の目的はしばしば価値のあるものである。即ち、動物の遺伝的構成を変えれば世界の食糧をもっと豊かにすることができる。あるいは、動物を人間の医薬品を作る工場に利用する。又は、生物をもっと環境にやさしくなるように変えることも出来る。

 

しかし、こうした動物たちは有用なのか、それとも化け物なのか? 彼らは環境に脅威を与えるのか? そうした動物を作ることは思いやりのあることなのか? 彼らをどのようにコントロールしたら良いのか? 彼らの肉やミルクは食べても大丈夫か? こうした問題が火曜日(9月24日)から始まる食品とバイオテクノロジーに関するピュー・イニシアテイブ主催のダラス会議で議論される。そこで、専門家達は農家の納屋で行われるバイテクによって起こるリスクや、利益、そして社会的問題などについて討論する。 議論はアカデミックなものだけではない。派生して起こる問題は野生動物の遺伝的形質や環境のバランスにも影響を与えるかも知れない。神の意思を離れ、こうした生物を食卓に載せることをどう考えたら良いのか人々は確信がもてないでいる。

 

 消費者は動物の遺伝子操作を植物のそれよりも嫌っているように見える。しかし、それは人々がテクノロジーについてあまり良く知らないのが一つの原因だ、とピュー・イニシアテイブの事務局長マイケル・ロードメイヤーは言う。

 遺伝子組換え魚に反対する、先走った運動で、200以上のシェフや食料品店、海産物問屋などが先週そうしたものが販売認可されても買わないし、売らない、という声明を発表した。

彼らの懸念の主なものは環境問題である。大きな魚は小さい魚より交配成功率が高い。もし、遺伝子組換え鮭が海に逃げ出したら、それは野生の鮭と交配し、野生種を滅すかもしれない。

 ヨーロッパでは植物の遺伝子組換え食品の販売は合法的だが、事実上は禁止で、大半の店ではそれらを売っていない。

 

消費者の新しい疑問

将来、店にいけば「紙だかプラスチックだか分からない」という問題よりさらに複雑なものが店頭に現れるだろう。なぜなら我々の目の前にはすでに脂肪が少ない肉、ねずみの遺伝子が組み込まれた牛が作る心臓に負担のかからない牛乳、豚を工場としその精液から作られた(慎重に精製はされているが)関節炎の薬、といったもの存在するからである。産業界は我々が政府の言葉を信じ、ローストの出所が何かを聞かないことを望むだろう。論争点はもしFDAがその食品を安全だと認定したとしても、それに表示するのはバイテク食品が他のものとは違うという印象を与えて消費者に混乱をもたらすかどうかである。11月におこなわれる全ての遺伝子組換え食品に表示を求めるオレゴン州の投票の発議はこの厄介な論争の第一ラウンドのように見える。 「消費者にとって遺伝子組換え原料が使われているかどうかが問題なのではない。私は、食品にどんな手を加えたかどうか知りたいだけなんだ。消費者は自分達が食べているものが何かを知る権利がある」というのは教会での会議を主催するウイスコンシン大学動物科学教授のニール・ファーストである。

しかし、全ての人がそのことで心配しているわけでもない。先月日本の農水省はクローン牛の肉と牛乳は自然に生まれた牛とほとんど同じであることが分かったので、成牛の細胞から作ったクローン牛の消費に許可を与えるだろう、と発表した。これは世界ではじめてである。最終報告書は3月に公表される見込みである。

この勇敢な新しい世界は、植物の形ですでに我々の食事に入り込んでいる。 食品製造協会によればスーパーの加工食品の70%にはすでにバイテク作物が使われている。しかし、誰もバイテク牛がアメリカ人の食卓にそんなに簡単にうろうろ入り込むとは思っていない。議論の深まりに注目しよう。最初はFDAがクローン動物の安全ガイドラインを発表する2003年であり、それ以降恐らく2004年には組換え遺伝子動物についてのガイドラインが出される。遺伝子操作は動物のゲノムにしばしば全く違う種の遺伝子を挿入し、その動物が通常は作らないタンパク質を作らせる、即ち発現させるようにする。例えば、あるカナダの会社はクモの遺伝子を雌山羊に組み込み、山羊の乳のなかに蜘蛛糸のシルクを作り出すことに成功した。これらのタンパク質は回収され超強力な繊維の原料にされる。

科学がスピードアップするとともに、産業界も遅れをとらないようになってきた。すでに数百種類の遺伝子組換え動物やクローン動物がわが国の研究室や企業には存在する。しかし、クローン動物や遺伝子組換え動物の製品の安全性に関してFDAが非公式に禁止しているので、それらのミルクは廃棄され、組換え動物は死ねば破壊されている。それらは食品として売られることはない。こうした膠着状態は、8月にナショナル・科学アカデミーが待ちに待った遺伝子組換え動物のもたらす環境への影響と食品安全性、動物の健康と保護に関する報告書を発表してから動きが出始めた。

それによると最大の危険性は遺伝子組換え魚、貝、昆虫が野外に逃げ出し、自然の仲間と置き換わることによる潜在的な危険性である。FDAは成長ホルモンの遺伝子を埋め込んだ鮭が通常の鮭よりも4倍から6倍早く成長する場合を対象に考えている。

 

FDAの結論に注目しよう

そんな時代になる前にどのような規制をすべきか決める必要がある。FDAが1年以内に規制からはずしたいと願っている一方で、議論沸騰間違いなしの組換え魚が順番待ちである。カリフォルニア大学デービス校のジム・ムレー教授のジレンマを考えてみよう。彼とその仲間は山羊を遺伝子組換えして、乳の中に人間の母乳の中にある抗体を作るようにし、赤ちゃんの胃を感染症から守ることが出来るようにした。別の研究者達は牛にちょっとばかり余分なDNAを入れてチーズが出来易い牛乳を作れるようにした。第三のグループはラットの遺伝子に組換えをしてミルクの脂肪組成を変え、人間の心臓を健康にするミルクを作れるようにした。

しかし、遺伝子組換えした山羊の群れを見つめながら、現在何もない状態で彼は自分がどのようなルールに従った良いのか困っている。例えば、遺伝子組換えで作り出したが、体内で組換え遺伝子は働いていない、したがって外来タンパク質を作っていない動物を売ることは合法的なのかどうか。 組換え動物から生まれる50%のオスの子どもはどうしたら良いのか。 このオスの子どもたちは組換え遺伝子は持っているが外来遺伝子は発現せず、ミルクを造らないだろう。 「遺伝子が発現していないことを証明するために私は何をしなければならないのか。肉にも血液にも組換えタンパク質が入っていないことを証明するだけで良いのか。組換えミルクを飲んだ子ども達をどう取り扱ったら良いのか。FDAはこうしたさまざまなシナリオに対する規制を考えなければならない。」と彼は言う。

 

しかし、こうしたことは消費者が出会う最初の問題にすぎないだろう。我々にとって最初の食糧供給システムに入り込んでくるのはクローン動物製品だろう。一つの懸念はそれらの製品がアレルギーの引き金を引き、それを食べた人々に有害な影響をもたらさないかどうか、である。 理論的には、クローン動物とその自然親には何の違いもないはずである。しかし、ナショナル・アカデミーの専門委員会の科学者らはどんな影響があるかを知る方法はない、ということを見出した。なぜなら、予期しない成分の違いを評価する分析的研究は皆無だからである。

現在、大量のクローン牛を作り出すことは出来そうにない。クローンは難しくて高価だからである。テキサスA&M大学の畜産学教授マーク・ウエシューシンは猫、牛、犬などのクローンを作った、しかし、妊娠した卵の85%から90%は 最初の3ヶ月でだめになった。1匹の雄牛を使って、彼の研究室では初め成体細胞を189個の卵に挿入した。それから40個の生きた胚が生まれ、26個が借り腹のメス牛(の子宮)に移植された。そのうち6匹だけが妊娠したが、出産までこぎつけたのはたった1匹だけだった。 こうした困難にたいし、ノースカロライナ州立大学の動物倫理学者ギャリー・コムストックは赤旗を掲げる。彼は我々が動物を操作し、その胚を何の問題もなく加工することは出来ないだろう、と信じている。「何かが良くないことを自然が我々に語りかけているんだ」と彼は言う・

 

ユック・ファクター

それから、ユック・ファクターというものがある。これは科学論文上で実際に名付けられたものである。選択交配を行って重篤な骨の病気を持つブロイラーが作り出された。遺伝子操作はあり得る問題を何でも作り出す。 「生産性をあげるために我々はどこまで動物をいじろうとしているのか」というのはカリフォルニア大学デービス校の研究者ジョイ・メンチである。クローン動物は環境問題を起こす危険がなさそうだが、組換え動物には危険性が存在する。 新たな遺伝子は動物に利益をもたらすが、それは高価なものになる。自分で抗生物質を作り出すナマズを考えよう。これを攻撃するさらに強い細菌が出現するだろう。生物学には、赤い女王仮説(訳注)として知られる問題がある。これはキャロル・ルイスの「鏡の中のアリス」の話に出てくる嫌いなチェス駒に付けられた名前で、同じ場所にとどまろうとすれば早く、もっと早く走りつづけなければならない、という例えである。 「ウイルス抵抗性を引き伸ばそうとしても、数年以内にはウイルスにつかまってしまう」というのはパヂュー大学の動物学者ウイリアム・ミューアである。

それに、クローンにしても組換え遺伝子動物にしても、我々は全てのリスクを知ることが出来ないのではないか、と研究者たちは恐れている。何人かの科学者たちは無知の危険を懸念している。即ち、リスクに関して間違った質問をしたり、正しい質問をしなかったり、といった懸念である。「我々は我々自身の無知を知らない。質問すべき問いは何なのかさえ我々には分からないんだ」とミューアは言う。

 

(訳注:特定の昆虫と食草、動物と寄生虫など共生関係にある生物同士において、どちらかに突然変異が起これば、相手にも突然変異が起こらざるを得ず、二つは競争しながら走りつづけ進化する。これを「共進化:coevolution」という。)

 

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