スイスにおける20年間の研究で有機農業の優位性が明らかに
2002年5月 30日
BBC ニュース・オンライン
アレックス・カービー記者
訳 河田昌東
20年間の研究で、スイスの科学者らは有機農法に勝利の軍配を上げた。彼らによれば有機農業は従来の農業に比べて20%収量が少ない。しかし、それを上回る生態学的メリットがあり、有機農産物はエネルギーやその他の資源的観点からもより効率的であることが証明された。科学者らは、有機農業は在来農業に対して生き残り得る選択肢だ、と結論した。
この論文を発表したのはスイスの有機農業研究所とスイス連邦農業生態学および農業文化ステーションの科学者らである。彼らは論文を科学雑誌に発表した(訳注:原論文は「Soil Fertility and Biodiversity in Organic Farming:有機農業における土壌の肥沃度と生物多様性」Paul
Mader, Andreas Fliebach, David Dubois,Lucie Gunst, Padruot Fried, Urs Niggli1:
Science Vol 296, Number 5573, 31 May 2002, pp. 1694-1697)。
ポール・メーダーがリーダーのこの研究チームは、有機農業と在来農法によって農地で栽培したポテト、大麦、小麦、ビート、クローバーについて各種のデータを比較した。輪作回数、栽培品種、耕作などは全て同一にした。1978年から始まった全研究期間にわたって、彼らは通常の有機農法と、ルドルフ・シュタイナーによるバイオダイナミック農法と呼ばれる別の有機農法、そして2種類の在来農法を比較した。
植物の根圏微生物の構造
■化学肥料と堆肥を使ったものと比較。
有機農法では在来農法に比べて収量は20%少なかったが、肥料とエネルギーの投入量は34%から53%、農薬は97%少なくてすんだ。
全体として、チームは有機システムは資源を効率的に利用し、エネルギーその他の諸資源の単位当たりの収量は良いことを発見した。科学者らはまた、有機土壌には大量かつ多種類の微生物社会があることを見出した。その中には土壌の栄養サイクルをつかさどる微生物や、根菌、植物の窒素肥料吸収を助ける根粒菌などがある。
彼らによれば、カビ類は少なくとも部分的には有機土壌の物理的構造をより安定化させることに役立っている。有機土壌の方が在来法による土壌よりも昆虫類が2倍多くより多様性に富む。その中には害虫を食べる蜘蛛類や甲虫も含まれる。ミミズも最も多く、雑草の種類も多い。そのいくつかには特殊な絶滅の危機に瀕しているものも見つかった。
ポール・メーダーの言うには「この結果は有機農家を勇気づけるはずだ。何故なら時間が経っても収量は安定し、土壌の肥沃度も増すことが分ったから」「我々の結果は土壌の肥沃度を増すことによって生物多様性を増やせることを示唆している」
■野外での小麦の成長の評価。
研究者らは有機土壌が有機物を分解し、植物と微生物による栄養素や炭素源の吸収をより効率的にすることを見出した。彼らは「有機システムは効率的な資源利用と堆肥で典型的な動植物の多様性をもたらす。我々は有機堆肥の利用、農場自体の生産する有機肥料を使った豆科植物を基本にした輪作が在来システムに変わり得る現実的選択肢だと結論する」
■金のかかる期間。
イギリスでは多くの農家が在来の化学肥料に依存した農業から有機農業に切り換えたいと考えている。イギリスで消費されている有機農産物の多くは輸入品である。何故なら国内生産だけでは市場をまかなえないからで、値段が高いにも関わらず有機農産物は消費者を引きつけている。
しかし、障害は多くの場合化学肥料を止め、有機農業に転換するまでの時間である。政府の援助が無ければ多くの生産者にとってそれは不可能なほど大きなギャップである。