輸血が関与した変異型CJDの新たな症例について

http://www.hpa.org.uk/hpa/news/articles/press_releases/2006/060209_cjd.htm

 

英国保健省

記者声明

2006年2月9日

訳 小森冬彦

 

最近新たに一名の患者が、輸血に関連した変異型CJDであると診断された。この患者に供血したドナーは供血の20箇月後にvCJDの症状を発現し、輸血を受けた本人は輸血の約8年後に症状を発現した。この患者は今も存命中で、国立プリオン病診療所において医師達に見守られている。

 

今回、輸血が関与したvCJDの3例目が発生したことにより、vCJDが輸血を通じて人から人へ移る場合のあることがいっそう明白になった。これまでのところこれらの3症例には全て成分輸血が関与しており、血液製剤による治療の関与はない。

 

この患者は、現在生存中の少数の人達(約30人)、すなわち、英国内で供血後にvCJDを発症したドナーから輸血を受けたことが判明している人達の一人である。vCJDに曝露された可能性のあることを全員が既に告知されており、手術などの医療行為を通じてvCJDが他人に移るリスクを減らすために、一定の予防措置をとるように要請されている。

 

HPA(英国健康保護庁)の感染症センターの責任者、ピーター・ボリエロ教授は次のように述べている。「まだ不明な点が多いとはいえ、このように少数のグループの中から3例目の患者が出たということは、感染者からの輸血がvCJDを人から人へ移すかなり効率的な伝達機構であることを示唆しています。このことは、輸血によってvCJDが人に移るリスクを低減させるために現在とられている措置が重要であることをはっきりと示しています」

 

「他にもvCJDを発症したドナーから輸血を受けていた人達がいますが、この人達を診ている医師達と我々はいつも連絡をとりあっています。この人達が今回の新たな発症例について確実に知らされ、最新の情報や自身の状態に関する専門家の助言を得られるようにするためです」

 

国営医療保健機構(NHS)の血液・移植部門の責任者であるアンジェラ・ロビンソン博士は次のように述べている。「この患者とご家族にはたいへんお気の毒です。我々にとって不断の最重要課題は血液の品質を維持して患者の安全を守ることであり、vCJDに感染する危険を防止するために広範な予防策を導入してきました。輸血による治療で命が助かる場合は多く、必要なときに輸血を受けることで得られる恩恵は輸血のあらゆる潜在的なリスクをはるかにしのぐのです」

 

vCJDはまれにしか見られない病気で、現在まで英国内の160症例の中で、輸血が関与した例は2%以下に過ぎない。

 

編集者のための注釈

 

1.ここで言う「輸血」とは、加熱の影響を受けやすい血液成分(例:赤血球、血小板、新鮮凍結血漿)の輸血、すなわち成分輸血を意味する。この最新の患者例(その前の2例も)には成分輸血が関与しており、血漿画分製剤(例:血友病など出血傾向を示す病気の治療に用いられる凝固因子)による治療は関与していない。

 

2.この3例目は国立CJD探索部局(http://www.cjd.ed.ac.uk )によってvCJDの「可能性患者」として分類されている。死亡している154例のvCJD患者のうち、死後に解剖された110例の全てが(44例は解剖されていない)神経病理学的検査(脳組織の検査)によって「確定患者」として診断が下されている。

 

3.輸血が関与したvCJDの最初の臨床例が確認されたのは2003年の12月である。その数ヶ月後にvCJDの「感染例」が確認された。この患者は症状が全くなかったが、死後の調査によって感染の証拠となる異常プリオンタンパク質の存在が証明された。この患者の死亡原因はvCJDとは無関係だった。

 

4.2003年に輸血が関与したvCJDの最初の症例が確認された後に、vCJDを持つ人からの血液の提供を防止するための予防措置として、保健省は全ての輸血経験者に対して供血を控えるように要請した。

 

5.のちにvCJDを発症した人からの輸血(例:成分輸血)を受けたか、あるいは同様な供血から調製された血漿画分製剤を投与された人は、その人が「公衆衛生上危険な状態である」と見なされることを告知され、他の人にvCJDが移るリスクを減らすため、以下に述べる予防措置をとるように要請される。

・供血、または組織や臓器の提供をしないこと。

・場合によっては本人への医療行為で使用する器具に特別な処置を施すことができるように、その人が関係する医療従事者に対して自身の「危険な状態」について伝えること。

 

6.血液を介してvCJDが人に移るリスクを最小にするために保健省は広範な対策を実施してきたが、その経緯は以下の通りである。

1997年以降、国立CJD探索部局に報告された全てのvCJD症例と、「可能性患者」として診断された診断例は、英国血液事業体のドナー記録に対して検索にかけられている。患者が供血していた場合は、その血液の未使用の残りは全て在庫から排除される。使用されてしまった血液の成分については全ての成分の経歴が追跡調査され、輸血されたか血液製剤を投与された人で生存している人は、彼らが被ったリスクについて告知を受ける。

 

1998年に保健省は、凝固因子などの血液製剤の製造に使用する血漿を英国以外の原産国から得ることにすると発表した。

 

1999年の10月以降、全ての輸血に使用される血液成分から白血球(vCJDを伝播させる危険性が最も高いと考えられる)が除去されている。

 

2002年の8月に保健省は、1996年以降に生まれた幼児及び新生児の治療に用いる新鮮凍結血漿は米国から輸入すると発表し、のちにこの措置は16歳以下の子供にまで拡大された(2005年夏)。

 

2002年12月、保健省は米国における最大の独立血漿収集業者であるLife Resources Incorporatedの買収を完了した。これにより、国営医療保健患者のために、非英国由来の血漿を長期的に確実に供給できるようになった。

 

2004年4月からは、1980年以降に英国内で輸血を受けた人からの供血は許可されないようになっている。この措置はさらに拡大され、血漿交換のドナーと、輸血を受けたことがあるかどうかの記憶が定かでない人も対象に含まれるようになった(2004年8月)。

 

・英国血液事業体は、国営医療保険によるサービス提供の全てにわたり、血液と組織、あるいはそれらの代替物の適切な使用を推進している。

 

7.vCJDに感染したかもしれない人が実際に症状を発現する可能性は明確ではなく、発症するかどうかは一人一人の感受性によると思われる。感染した人が生涯を通じて発症しない可能性もある。

 

8.さらに詳しい情報が必要な場合はHPAの報道オフィスに連絡されたい(0208 327 7098/7097/6055)。

 

9.国立プリオン病診療部門は、ロンドンのクイーンスクエアの神経・脳外科病院の中にある(http://www.nationalprionclinic.org/)。

 

10. vCJDに関するさらに詳しい情報は以下を参照のこと。

http://www.hpa.org.uk/infections/topics_az/cjd/menu.htm

http://www.dh.gov.uk/PolicyAndGuidance/HealthAndSocialCareTopics/CJD/fs/en

http://www.blood.co.uk/

http://www.cjd.ed.ac.uk

http://www.nationalprionclinic.org/

 

 

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