輸血によるvCJD感染第二例、遺伝子型は異型型 高まる多数の感染者潜在の恐れ
04.7.24
英国保健省(DH)が22日、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)サーベイランス・ユニットがにより、輸血を通してのvCJD(BSEが人間に伝達したものとされる変異型クロイツフェルト・ヤコブ病)の人から人への伝達と考えられる第二のケースが確認されたと発表した(DH
Press release:Update
on precautions to protect bloodsupply)。供血後に発症したvCJD患者の血液を輸血され、他の病気で亡くなった患者は、vCJDを発症はしていなかったが、脾臓の分析で感染が確認されたという。しかも、この患者の遺伝子型は、今までのvCJD患者すべてに共通した遺伝子型とは異なるものであったという。恐れられてきた潜在感染者の存在の疑いが一層濃厚になる。詳細は、近々Lancet誌に発表されるという。
昨年12月、輸血を通して感染した可能性がある最初のケースが発見され、保健省は輸血によるvCJD伝達を防ぐための供血規制を強化したが、今回の確認はこの可能性の確かさを一層強めるものである。同省は、一層の供血規制強化を発表した。
現在まで、15人の供血者がvCJDに罹っており、少なくとも48人がその赤血球またはその他の血液成分を受け取っている。その多くは重病に罹り、vCJDとは別の原因で亡くなっているが、今年初めの段階で17人が生存している。今回感染の可能性が確認された患者は1999年に輸血を受けているが、輸血を通しての感染の予防のために血液から白血球を除去する措置が導入された99年10月の前か後かは分からない。従って、白血球除去という予防措置が有効かどうかの判断材料にはならない。
昨年12月の最初の発見を受け、保健省は80年1月以後に輸血を受けたすべての人の供血を禁止する措置を取った。今回の第二のケースが確認されると、来月からは、過去に輸血を受けてかどうかはっきりしない人すべての供血も禁止すると発表した。また、定期的に一定の血液成分を供給する職業的供血者も排除するという。
保健省は、これは高度に予防的な措置で、人々は必要なときには輸血を受けるべきだと、この発表にともなう不安増幅の沈静につとめている。輸血に関連した少しばかりのリスクと、一番必要なときに輸血を受けない重大なリスクのバランスを考えねばならないと言う。
今回の発見の意味するところは、このような輸血を通しての感染リスクの高まりだけではない。より重大なのは、この患者が、従来はvCJDへの抵抗性が強いと見られていた異型遺伝子型(メチオニン・バリン)の持ち主だったことだ。この遺伝子型の英国人は、英国人口の47%を占める。これまでのvCJD、あるいは多分vCJDと診断された147人のすべてが、英国人口の40%を占めるメチオニン同型遺伝子型の人であった。と同時に、考えられるvCJD感染者の数は、従来考えられていた数をはるかに上回る可能性も示唆される。
インディペンデント紙(New vCJD fears as second Briton is infected by
donor,The Independent,7.23)によると、英国海綿状脳症委員会(SEAC)のピーター・スミス委員長は、この意味を評価するのは時期尚早、患者は発病には至らなかったかもしれないし、これまで確認された患者の通常の感染ルートである少量の感染源の経口摂取よりも大量の感染源を輸血されることでvCJDが疑われるようになっただけかもしれないと言っている。
しかし、インペリアル・カレッジ・ロンドンのネイル・ファーガソン教授は、この病気の将来の広がりの推定は修正されねばならないかもしれないと言っている。彼によると、「これは、すべてを考慮しても明らかに悪いニュースだが、これが何を意味するかを言うのは時期尚早。悲観的な想定をすれば、この病気感染者の最終的総数は、我々があり得ると考えたものの倍になるかもしれない」。
また、ガーディアン紙(Second CJD case from transfusion,The Guardin,7.23)によると、ロンドンのセント・マリー病院国立プリオンクリニックのジョン・コリング氏は、二人が輸血で感染したかもしれないことは「極度に心配」、彼自身の研究もこの病気に罹らなかった病気のキャリア(保菌者)がいる可能性を示唆しており、科学者がリスクに曝されている全人口を正確に推定することは死活的に重要と言っている。
虫垂を調査した最新の研究は、感染者総数は3,800になり得ると推定したが、この方法による研究はなお進行中であり、3,800という数字は小さすぎるという研究者もいる(英国:予想以上のvCJD感染者が潜伏―新研究,04.5.22)。
わが国では、英国の感染者数予測を基準とするわが国のvCJD「リスク評価」によって、vCJDは一人も発生しないだろうといった予測が喧伝されている。議論が紛糾して結論が持ち越された先の食品安全委員会・プリオン専門調査会のリスク評価もそのようなものであった(食品安全委員会BSE対策見直し、結論を先延ばし、リスク評価は支離滅裂,04.7.19)。このようなリスク評価が根本的に見直されねばならないことは、英国での今回の確認によってますます明らかなこととなった。