環境に優しくない、葉緑体への遺伝子操作

ISISニュース

訳 山田勝巳

 


監督機関や市民はこれまで、科学者が新たに技術を開発した場合、その人体や環境への安全性を確実にするための必要十分な評価研究を、開発者が行うものとして信頼してきた。 しかし、バイテク企業のCEO(社長)が、「自分達を苦しめるようなことをするのが仕事ではない。」とあけすけに言うに及んでは、外部の研究者による評価が絶対に必要となる。 Dr.David Quistが葉緑体への遺伝子挿入で欠けているその厳密な評価をする。

 

 


葉緑体遺伝子操作(cpGE)は、GM技術の新たな展開だ。 栽培作物、医薬植物での次世代組み換え製品の手法として急速に確立しつつある。 組み換え遺伝子を植物ゲノムに押し込むかわりに、葉緑体のゲノに押し込むのだ。 葉緑体は、光を取り込む色素、葉緑素を持つ細胞小胞体である。 顕花植物の場合、各細胞にはかなりの数(10−100個)の葉緑体があり、各葉緑体は同異含めて複数(20−50)のゲノムがあるので、細胞一個に何千もの葉緑体DNAが存在する。

 

葉緑体遺伝子の発現、制御、細胞機能について全く答えのない現在、これだけでも問題がある。

開発者は、葉緑体操作は、安定で、正確、極めて発現の良いシステムで環境にも優しいと言っている。 この言い分は、「証拠の無いのが証拠」という悪名高い前提に基づいており、ほんの数種の植物科にしか当てはまらないものもある。 反対論文は、「稀」な出来事で重要性はないとして排除されることが多い。 これらの言い分が現実的、生態学的解釈で有効であることを証明する明確な実験証拠はない。

 

組み換え安定性は証明されていない。

葉緑体組み換え発現の安定性と組み換え配列の世代間や交配での安定性は、全く試験されていない。GM作物が確実に予測できる農業作物としての性能を発揮するには、信頼性の高い導入遺伝子の発現が重要で、そうでなければ、目的とした恩恵は得られない。 残念ながら、宣伝されている安定した導入遺伝子の発現は、それを否定する証拠がないということに基づいており、公表された研究で(葉緑体の)組み換え第一世代(T1)以降の遺伝子発現を調べたものは一つもない。報告されている発現パターン(レベルではない)は、現段階では不安定な核の組み換えで見られるものと全く変わりがなく、勝手に突然変異を起こしたり、再配列したり、外来遺伝子を見分け不活化する宿主本来の防御メカニズムの影響も受ける。 小麦の葉緑体DNAの分析では、副次的組み換えを含む一連のメカニズムに媒介される構造変化がいくつか見られた。 葉緑体導入遺伝子配列とその製品の長期的安定性研究では、宣伝されているようなDNAや導入遺伝子発現の安定性についてまだ行われていない。 

 

遺伝子抑制効果(サイレンシング)問題は解決されていない

 葉緑体組み換え遺伝子が、転写後遺伝子抑制を含む遺伝子抑制メカニズムに柔軟性を持っているという想定は、実験によって確認されていない。導入遺伝子の発現を確実に安定化することは、宿主植物がゲノムに挿入された外来DNAを不活化しようとするいくつかのメカニズムのために従来から問題だった。 これらの自然な宿主の防御機構は、遺伝子レベル、転写時、そして転写後のレベルで働く。 CpGEで遺伝子抑制を避けるられるという言い分は間違いである。 ヘテロクロマチン(ゲノムの不活性な領域)への挿入を避けるために、もし導入遺伝子を、例えば、葉緑体の特定の位置へ狙い定めて導入出来れば、遺伝子発現抑制を防げるのではと考える。  しかし、色々な転写後の遺伝子抑制メカニズム(PTGS)を含めて、他の形の挿入遺伝子抑制は、さほど「避けやすい」わけではない。 その上、人工的な組み換え配列と宿主のゲノム配列の高い類似性(葉緑体ゲノム内で導入遺伝子の発現を制御するために必要)が、侵入DNAを不活化させるメチル化(DNAの化学修飾)を、実際には促進するという証拠がある。 cpGE植物、特にPTGSのあるもので、どの程度抑制効果が封じられるかははまだ分かっていない。 

 

過剰発現を強調し危険を無視

  導入遺伝子の高い発現性が、cpGE植物の最も強調された特徴で、医薬生産には最も魅力的な技術だ。この葉緑体導入遺伝子の「過剰発現」は、各細胞にある何千もの葉緑体ゲノムのコピーによるところが大きい。殆どの研究が報告しているのは、核内遺伝子の組み換え植物に導入された単一コピーに比べて、cpGEでは30−100倍導入遺伝子の発現が多いことだ。非常に高い葉緑体導入遺伝子の発現により、外来蛋白質であるBt毒素の例では、Btタンパク質含量が細胞内の全可溶性蛋白質の45%にもなると報告されている。この過剰な生成物が業界にとっては有利だと見られているが、これらの蛋白質の植物や環境中の標的外生物に対する毒性影響は考慮されていない。 この導入遺伝子の過剰発現は、マーカー蛋白質(つまり、抗生物質耐性をもたらす)が細胞内の全可溶性蛋白質の10%をも占めるので、マーカー遺伝子の場合特に心配である。 環境中では、これがバクテリアの抗生物質耐性の発生を強化しかねない。 新しい、非抗生物質マーカー方式が提案されているが現在は使われていない。その理由は恐らく開発のために時間やコスト、努力がかかり過ぎるためである。

 

欠陥蛋白質が出来る恐れも

葉緑体遺伝子の発現には、複雑なRNA編集(RNA-editing)が絡んでいる。 これはDNAから転写されたRNAが、化学修飾を受けて塩基配列が変わり、従ってそれから翻訳された蛋白質が、遺伝子に暗号化された物とは完全に違う物になるRNA転写プロセスだからである(現在出ている「GMOの何が問題か」Science in Society 16を参照)。 葉緑体で転写されたRNAの編集が、宿主植物の健康を左右することは知られている。 未編集の外来メッセンジャーRNA(葉緑体挿入遺伝子からの)若しくは、外来遺伝子のプロセス制御を受けた転写の発現の結果、機能に欠陥のある蛋白質が出来ることがある。 これらの異常蛋白質は、宿主である植物、人、又は標的外の生物に毒性を持ったり、意図したワクチンや薬としてのこの蛋白質の効果を無効にする可能性がある。

 

流出する遺伝子

 バイテク技術の一般受けを良くするための新たな戦術としてcpGEを「環境に優しい」技術として売り出してきたが驚くには当たらない。葉緑体遺伝子の子孫への伝達は、完全に母系で、父系の花粉による組み換え遺伝子の流出は避けうると考えられているからである。しかし、殆どの被子植物で葉緑体遺伝子の母系遺伝であるが、すべてがそうではない(ジョー・カミンズの「葉緑体への組換え遺伝子囲い込みの落とし穴」Science in Society 16を参照)。「微量レベル」の父系葉緑体遺伝が、これまで単為生殖母系葉緑体遺伝のみと考えられていた顕花植物に見られる。葉緑体の父系もしくは混合遺伝が特定の条件下で見られる種もある。この現象は、実際に行われた数少ない研究で出てきているにもかかわらず、極めて「稀」なことで考慮に値しないとされている。

 

核内遺伝子組み換えの難問

葉緑体にDNAを導入する方法次第では核のDNAが変わりうる。 導入遺伝子は葉緑体ゲノム中では相同組み換えするように作れるが、導入DNAを植物細胞に遺伝子銃で打ち込むのは、導入DNAを葉緑体ゲノムだけを標的にするのではないし、そうできもしない。 多くの組み換えDNAが細胞質や核に打ち込まれ、核のゲノムに結合する可能性がある。 別の遺伝子導入法ではポリエチレングリコールを用いて細胞質へ取り込み、そして未知のメカニズムによって葉緑体に取り込まれる。 ここでもまた、細胞質中の導入DNAが核に取り込まれることもある。

 

外来DNAの核への同時組み込み頻度を知る最適な方法は、分子解析であることは明らかだ。 サザンブロット法で信号がないことが、核組み込みがない事の証拠であるとされているケースもあるが、この方法は核ゲノムへの組み込みコピーの数が少ない場合には感度が不十分である。まず第一に、挿入された場所が葉緑体なのか核ゲノムなのか細胞内の位置を知るもっとも確実な方法は、未だに事象毎に導入遺伝子の構造を決定することである。 

 

今後の課題

GM技術の最大の課題の一つに、長期的に挿入遺伝子が安定的して機能するか どうかがある。挿入遺伝子ホモ原形質植物(葉緑体ゲノムの全部が遺伝子組換えされている)の保持は、明らかに課題のままである。 葉緑体挿入遺伝子の安定性を記録した実験データは存在しない。

大規模利用を検討する前に、挿入遺伝子の安定性と生態について、うまく設計された分かり易い科学研究が、特に葉緑体ゲノムに押し込まれた挿入遺伝子については必要である。 現在証明として引用されている「証拠の欠如」だけでなく、実験による証明が必要である。 挿入遺伝子特有の過剰発現と葉緑体遺伝子発現の制御が複雑であるため、健康と環境へのリスクは非常に大きい。 cpGEが、「環境に優しい」という宣伝を証明するには、現在の研究では不十分だ。

 

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