四日市港とその周辺のGMナタネ自生調査報告

―――港外での多年草化と経代繁殖、野生近縁種との混在による交配可能性――

 

河田昌東 (遺伝子組換え食品を考える中部の会)

 

はじめに

昨年7月以来、我々は三重県四日市港内外でのGMナタネ自生の追跡調査を行ってきた。最近の調査の結果、GMナタネの自生はこれまで考えていたよりもさらに深刻な事態に発展しつつあることがわかった。即ち、一般の田の畦に多数のラウンドアップ耐性西洋ナタネ(以下RR)が自生し、しかもその株の大きさ(茎など)から多年草化が示唆され、その周辺にその株の種子によると見られる若いGMナタネが繁殖している。また、四日市市郊外の河川敷には野生化した西洋カラシナの大群がお花畑のように開花期を迎えていたが、その中にRRナタネと除草剤バスタ耐性(以下LL)ナタネや白菜などが混在・開花しており交配の危険性が高まっている。

 

(1)   明らかになった事実(その1):国道23号線沿いのGMナタネ

これまでの調査で、四日市港の第2号、3号埠頭周辺およびサイロ周辺と、国道164号線から国道23号線(以下R23)を経由して南側の一志郡嬉野町の辻精油所に向かう道路沿いの中央分離帯と道路わきには多数のGMナタネが見られた。菜種の繁殖期ではない7、8月の真夏にも開花しているものが観察された。2005年4月の調査ではさらに多くの自生が確認された。開花期のため目視しやすいという条件もあると思われる。逆に開花期以外の時期は生えていても見逃すことが多いと思われる。四日市港内とその周辺での自生ナタネは採取時期によって30〜50%がラウンドアップ耐性(以下RR)又はバスタ耐性(LL)であったが、港から辻精油所にいたる48KmのR23沿いの自生ナタネは、採取した試料の70%(9/14)がRRであった。中央分離帯など環境が悪いところでは15cmほどの小さな苗でも花をつけているものがある一方、田んぼの畦などで環境の良い場所では1mを超える大株に成長し、多数の花をつけているものも少なくない。何らかの条件の違いから、四日市港から鈴鹿市近くまでは自生が少ないがその先は間断なく自生が確認される。輸送車が空で四日市港に戻る反対車線側は極端に自生が少ないことはやはりトラック輸送がこぼれ落ち自生の主たる原因であることを示している。

今回、四日市から名古屋方面に向かう国道23号線(R23)の北側方向での自生が初めて確認された。津市方向に向かう南側路線に比べれば数は少ないものの、明らかに中央分離帯や道路わきに開花したナタネが自生しており、こぼれ落ちは確実である。これが四日市港からどこに向かう輸送車によるものかは不明である。

 

(2)   明らかになった事実(その2):多年草化による世代交代と周辺への拡散

  23沿いの鈴鹿市林崎町の田んぼの畦(R23から2〜30mほど)にはGMナタネの株が多数自生している。あたかも人間が栽培したかのように畦に並んで繁殖し、開花結実しているがいずれもRR陽性株であった。除草剤による抑草対策が、かえってGMナタネに優位性を与え、拡散を促している可能性がある。特筆すべきはその株の大きさである。株の茎は根元の直径が2〜3cmもあり、明らかに木質化し、そこから新たな枝が多数伸びて花と実をつけている。その周辺には、そのこぼれ種から発芽したと思われる若いナタネが何本も生えているが、これもRR陽性である。ナタネは通常は1年草だが条件が良く前年度の結実が不十分であれば多年草になることが知られており、上記の状況から考えるとGMナタネがここで多年草化し、自らの種子で子孫を繁殖させる世代交代が起こっていることを示唆している。これは今回始めて確認された事実である。ちなみに、その近くで採取したGMナタネ(RR)の種子をポットに播種したところ、30粒すべてが発芽し発芽率は100%であった。この場所は田の畦ということもあって水分や肥料の補給があり、生育には好条件なことがこうした世代交代を可能にしたと思われる。多年草化と世帯交代は、トラック輸送などによるこぼれ落ちがひとたび起これば、その後はGMナタネが自力で種子をばら撒き、拡散するチャンスをつくることを示している。この状況は一過性のこぼれ落ちによる自生の段階をすでに超えたことを意味する。

 

(3)   明らかになった事実(その3):河川敷に混在するGMナタネと国内近縁種の交配の危険性

四日市港の南にある内部川河川敷は、春になれば野生化したカラシナの大群落で美しいお花畑と化している。これは美しい日本の景色として誰もが愛でる対象であろう。四日市周辺は古くからナタネの里として知られ、四日市出身の作家、故丹羽文雄の小説にもたびたび「四日市のナタネ」は登場する。四日市周辺はナタネの自生に適した気候風土である。 内部川にかかる塩浜大橋がR23をつないでおり、輸送トラックはこの橋の下にもGMナタネをばら撒きながら走っていると思われる。実際、今回の調査で塩浜大橋の橋脚付近やその周辺の河川敷にカラシナの群落に混じってGMナタネの自生が明らかになった。4月12日の調査ではRR(ラウンドアップ耐性)だけでなく、LL(バスタ耐性)のナタネ株も確認された。大群落を形成しているカラシナに混じってGMナタネが自生すれば、互いに交配の危険性が生ずるのは当然である。交配による拡散を阻止しようとすれば開花期前に刈り取るなどの対策が必要だが、この美しいお花畑を見て、恐らく誰もがそうした対策をとろうとは思わないだろう。国内ではこれまでGMナタネと国内近縁種との交配株は発見されていない。しかし、この内部川河川敷の状況をみれば、その懸念が現実のものとなる可能性が高い。交配種が出来るかどうかは単に生物学的な種の壁の高さと自生頻度だけである。この河川敷には、典型的なカラシナと西洋ナタネに混じって、所々に素人目には両方の形質を備えた(花、葉のつき方など)株が散在している。4月7日の調査では、こうした株のひとつがRR陽性であったが、12日の調査では4株すべてがRR陰性であった。交配種かどうかを科学的に調べるには染色体数の検査などが必要である。いったん、国内近縁種との交配が起これば、その子孫を媒介により多くの近縁株に外来遺伝子が伝播するだろう。GM遺伝子の国内近縁種との交配による拡散は単なる理論的可能性から起こりうる具体的な危険性になった。

 

GMを含む西洋ナタネと交配する可能性はカラシナだけでなく、在来菜種、白菜、カブ、コマツナ、チンゲンサイ、ミズナなど国内の栽培作物にも及ぶ。これら国内作物との交配がいったん起これば、組換え遺伝子の拡散を防ぐことは事実上不可能になる。現在、日本タンポポを駆逐し、国中にはびこっている西洋タンポポも始めはたった一本の侵入からだった。生態系を守り農業を守るために、GMナタネがこれ以上拡散しないうちに速やかな対策をとる必要がある。

 

 

 

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