三重県四日市港と周辺搾油工場付近に自生する遺伝子組換えセイヨウ菜種の確認について

 

遺伝子組換え情報室  河田昌東

 

 

 これは2004629日に農水省が公表した「原材料用輸入セイヨウナタネのこぼれ落ち実態調査」の結果、茨城県鹿島港周辺に遺伝子組換えセイヨウナタネの自生が発見されたことを受けて、「遺伝子組換え食品を考える中部の会」が予備的に行った調査の結果である。

 

(1)調査日:2004714

(2)調査場所:三重県四日市港3号埠頭周辺と同市内搾油工場周辺の路上

   選定とその理由:名古屋税関によれば、同税関管内の港で海外からの搾油原料ナタネ輸入

   を行っているのは、静岡県清水港(年間2122万トン)と三重県四日市港(年間約13

トン)である。四日市港の荷揚げ場所が第三号埠頭であり、ここにはカナダから搾油用ナタ

ネが輸入され、そこから市内搾油工場へ搬出が行われているので、その周辺を調査対象とし

た。

尚今回は時期的にナタネの生育時期はすでに過ぎており、試料採取は困難と思われたので、

来春の本格調査のための予備調査の予定であった。静岡県清水港は今回は調査しなかった。

 

(3)確認された事実:

    (3−1)ナタネ類の自生:

    上記の通りナタネの生育時期はすでに終わっており、植物体の採取は当初困難と考えら

    れたが、現場に行くと少なからぬナタネ科植物が生育中の状態で、中には開花中の株も

    発見された。また、枯死状態のナタネ科植物もあった。

 

   (3−2)採取試料と種の同定:

    第三号埠頭周辺路傍には少なからぬナタネ科植物が自生していた。形態観察から数種の

    ナタネ科植物を採取し筑波大学名誉教授、生井兵冶氏に種の同定をお願いした。第三号

    埠頭では生育中の植物体11株(S-1〜S-11)、四日市市内の搾油工場(K社)周辺路上

    では生育中の3株(K-1〜K-3)が採取され、合計14株を採取した。

    他に、第三号埠頭周辺では枯死状態のナタネ科植物と思われるもの2検体を採取した。

    生井教授にはこのうち12株の同定をお願いした。同教授によれば、やはり時期はずれ

    のためか、花がついていないものや、ついている花も不完全だったりで断定はできない

    が、K-1、K-2、S-1〜S-8はセイヨウナタネ(Brassica napus: ナプス種、キャ

    ノーラ菜種もこれに入る)、S-9はラパ種(Brassica rapa: 在来ナタネ・小松菜・白

    菜などと同種。北米では畑の雑草として生えている)、と思われる。S-10とS-11株は

西洋ナタネ(ナプス種)、あるいは西洋ナタネと在来ナタネ(ラパ種)との交配種の可能

性もある。

 

   (3−3)遺伝子組換え体の検査:

    検査はモンサント社の除草剤耐性組換えタンパク質(CP4EPSPS)を検出するア

    メリカのネオジェン社の簡易試験検査キットを使って行った。採取試料の青葉の一部を

    切り取り、試験紙でチェックした。極めて明瞭に結果が出、疑問の余地は無かった。

    K-1、K-3とS-3が陽性、他は陰性であった(3/14: 21.4%)。枯死植物は陰性であっ

        たが、生の状態で検査しなければ断定できない。

 

(4)調査結果へのコメント:

    (4−1)ナタネは春の植物であり、7月の盛夏に生育中でしかも開花中のものもある

    のは意外であった。これは春以降にサイロへの搬入搬出の際のこぼれ種か、あるいは昨

    年秋から今年初めにかけて生育したセイヨウナタネの種子が再び発芽し、生育した可能

    性がある。いずれにせよ、国産の在来ナタネがこの季節に、この場所で生育するはずも

    無く、明らかに輸入ナタネ由来である。現に、我々が調査した当日もサイロからのトラ

    ックへのナタネ積み込みが行われていたが、周辺にこぼれた種子を数羽のハトがついば

    んでいた。こうした情景は恐らく日常的に存在すると思われ、管理は極めて難しいと思

    われる。

 

    (4−2)検出したモンサント社の除草剤耐性CP4EPSPSタンパク質は、その遺

    伝子がナタネではキャノーラに組込まれ、カナダ産ナタネの約30%を占めることから、

    今回検出された遺伝子組換え体3体は、カナダ産キャノーラまたはその交配種である。

    また、今回我々は検出しなかったが、農水省発表では鹿島港周辺では除草剤耐性CP4

    EPSPSのほかに、アベンテイス社のPAT遺伝子(除草剤グルフォシネート耐性)

    と雄性不稔とグルフォシネート耐性の両方を合わせ持つMS1−RF1、MS1−RF2

    MS8−RF3も検出されていることから、我々の検査で陰性だった株にもこれらの組

    換え体が存在する可能性はある。

 

   (4−3)今回の調査で、港以外の搾油工場周辺での組換え体検出は国内で始めてである。

    かねてからこうした汚染は懸念されていたが、現実であることが証明されたもので、他

    の類似施設、例えば家畜飼料工場などの周辺でも同様の組換えナタネ自生の可能性は高

    い。国または地方自治体や港湾管理当局は早急に全国のこうした危険性のある場所を調

    査し、対策を立てる必要がある。ナタネ科植物は他家受粉性が高く、キャノーラと交配

    可能な在来ナタネやカラシナ、その他野菜類も多いことから、このまま放置すれば組換

    え遺伝子が自然界や在来種に広範囲に広がり、取り返しがつかなくなる恐れがある。ナ

    タネ街道などの取り組みにとっても、花粉飛散によって知らないうちに組換え遺伝子が

    侵入することは大きなリスクを負う。

 

   (4−4)オランダの研究者らによれば、モンサント社の除草剤耐性タンパク質CP4E

    PSPSには、イエダニのアレルゲン、Derp7のエピトープ(注:抗体が認識する

    アレルゲンのアミノ酸配列)が含まれており、組換えナタネが広く分布することになれ

    ば、新たな花粉症発生の恐れもある。

 

≪写真≫

四日市港1 埠頭 船から荷揚げする。

四日市港2 サイロまでのコンベア。

四日市港3 トラックでの積み出し。

四日市港4 トラックでの積み出し。

四日市港ナタネの花 四日市港サイロ付近沿道で採集したナタネ。

四日市製油工場ナタネ 製油工場付近の沿道で採集したナタネ。

四日市ナタネ検査 ネオジェン社の検査キットを使って検査の作業中。

四日市検査キットの結果 上の赤線は検査キットが正常に作用していることを示す標準線。

            両端キットの下の赤い線が、ラウンドアップ耐性のCP4EPSPSタンパク質を検出したことを示す。真中は陰性。

 

 

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