生物収奪、生物多様性および地域社会の権利に関するヨハネスブルク宣言

 

訳 森野俊子

 

われわれ、世界中からやってきた各地域、市民団体、NGOの代表は、20028月と9月、ここヨハネスブルクで開催された地球サミットにつどい、生物資源の私有化について、および特に生物多様性に関するそれぞれの土地に根ざした知識や技術の継承者の権利保護についての問題を討議した。

 

    この宣言の内容と真意は、食物、水および生物多様性の私有化に対する10年間にわたる反対の集大成であることを忘れずに

 

    人類は、地球上の生命のつながりの一部であり、私たちの福利は生態系とさまざまな生物種の健全な状態に由来し、恩恵をこうむっていることをしっかりと認識し

 

    相互に高めあっている生態学的なつながりが、人類の行動により壊されることがないようにと決意し

 

    地域社会、原住民、農民そしてとくに女性によって果たされてきた基本的な役割と、過去現在未来にわたり食物と健康を確保するための生物多様性を守り維持する上での彼らの伝統的な知識とを、認識し誇りに思い

 

    けっして離れることのない投機がらみの生物探索と遺伝子操作の癒着に注意し

 

    経済の自由化と企業支配によりもたらされた現在の主な発展モデルは、世界中で社会的な不平等を増し、自国の民を守るべき国家の主権をそいでいることを各人に思い起こさせ

 

    ますます力をもつ多国籍企業が、生物、土地そして水資源を私有化することにより、地域社会やそこの天然資源の宝庫を破壊しており、その強力な手段が生物特許であることを認識し

 

    地域社会は投機的生物探索によっては豊かにならず、生物多様性保護、社会的公正さ,貧困打破の手段としてのうたい文句は達成されず、生物学的資源や知識の不公平な横領を合法化したことに気づきながら

 

われわれは 宣言する

 

    地域社会、原住民および農民は生物多様性の守り人であり、その保護のもとで生物多様性を運用し保存し交換し発展させ続けるという他には譲渡できない権利と責任をもっていることを。その権利と責任はどんな外部からの商業的利益にも勝り優先されるべきものである。

 

    同様に、われわれは食料主権、すなわち、人々がいかなるときも十分に健康な食物を得、天然資源にアクセスできる権利を考慮する。本質的に、この権利は、他の利益や思惑に屈するべきものではない。さらに人々は、保健の知識と恩恵を得、健康に生きる糧である生物資源を手にする基本的な権利を有する。

 

    われわれは、商業利益に毒されたり、われわれの生活を維持し管理する私たち独自の文化や力を損なうグローバル化への、現在の推進に反対する。

 

    われわれは、生物資源や知識の収奪および特許に反対する。なぜなら、その行為は人権や文化権やアイデンティティに反することだからである。われわれは、特許がなくても恩恵を共有することができると確信する。

 

    われわれは、遺伝研究の対象としてのヒトの保護は人権にかかわる問題であり、利益本位の研究や実験から個人や団体を保護するために、厳しく監視され実施される綿密に練られた政策や法律が必要であると信じる。

 

    われわれは、 生命の特許化および作物や種子の特許化に反対することを宣言する。なぜなら、多国籍企業が、地域社会と農民から食料生産の手段を奪うことを懸念するからである。

 

    われわれは、食料や農業における遺伝子操作は重大かつとり返しのつかない環境と健康への危害を与えることを宣言する。

 

    われわれは、生物多様性ならびにその土地固有の知識に対する地域社会の権利は、現実には集合的なもので、それゆえに私有化したり一個人のものにすることはできないと信じる。生物多様性や伝統的な知識に適用される知的所有権は、事実私的かつ独占的なものであり、それゆえに地域の権利とは相容れないものなのである。知的所有権は伝統的な知識体系のなかには存在しないし、この二つの世界を結びつけようとしても、それは誤った考えであり、受け入れられないことである。

 

    これと関連して、われわれは、世界知的所有権機関(WIPO)が、伝統的知識の保護を目的としたシステムを拡充しようと主導権を握ることは、非常に場違いなことであると宣言する。WIPOは生物多様性をにらんだ特許が原因で生じる生物収奪を止めさせるために行動すべきで、地域社会の人々自身が決定すべき権利を定義すべきではない。

 

われわれは 提案する

 

    食料、保健そして環境に関することがらは、国際貿易の利害に勝るべきである。WTO(世界貿易機関)はこれらの問題を決定すべき場ではない。また、地方や二国間の貿易協定が、地域の生物多様性の管理に影響を及ぼすべきではない。

 

    各国政府は、政策、法律や研究を進展させ発効させるため、およびこれらを開発への総合的なアプローチ、資源の地域管理の推進、そして決議への地域社会、農民、原住民の積極的参加へと向け直すため、中心的な責任を果たすべきである。

 

    われわれは、国際社会が、生物収奪を防ぎ、生物および遺伝資源に関する国家主権を保証し、かつ、原住のそして地域社会の人々の資源や知識に関する権利を守るために、CBD(生物多様性条約)のもとに法的な拘束力のある協定を結ぶ行動を起こすよう要請する。

 

    生物資源や遺伝資源へのアクセスは、原住民や地域社会の人々の決めた条件や前提のもとで、彼らの事前承諾があって初めて認められるべきものである。 これは、恩恵を共有するための必須要件である。遺伝研究により影響を受けるおそれのある集団や個人は、その研究の利点や損害について十分かつ透明な公開情報を得る権利、および参加に同意するかあるいは断る権利を有する。

 

    地域社会の管理のもとにあり生物多様性にもとづいた持続的な農業システムは、農業生産および他の食料生産の主要な形態として採用され推進されるべきである。

 

    われわれの政府は、われわれの国や農業システムにおいて、GMO(遺伝子組み換え生物)のいない環境を保証すべきであり、遺伝子操作が環境や人体の健康に与える真のあるいは潜在的な影響について、農民や消費者に私たちが注意を喚起する活動を支援するべきである。

 

    生物の特許化ならびに生物多様性や伝統的な知識に関する知的所有権の行使は、全面的に禁止するべきである。私たちは、地域社会や農民が生物資源を守り交換し大切にはぐくみ利用しさらに発展させることを保証するために、関連国際協定や国家レベルで、地域社会の権利や農民の権利を強化することを望む。

 

    アフリカの各国政府は、国内法で‘地域社会の権利のためのアフリカモデル法’を遂行するための処置を講ずるべきである。私たちは、さらに国際社会がこの法律の施行を支援し、アフリカ諸国によるこの法律の採用や実施を、直接間接に妨げる活動や政策を断念するよう勧告する。

 

    われわれは、WTO(世界貿易機関)加盟国に、すべての生物や生命活動はどの加盟国においても特許化できないということを謳うため、TRIPs(知的所有権の貿易関連側面に関する協定)を改正するよう要請する。私たちは、またWTO加盟国が、植物の多様性に関する種独特(sui generis)の保護システムを確立するために、各国にできうる限りの柔軟性を許すよう要請する。それは、農民や原住の地域社会の資源や伝統的知識に対する権利を保護するものである。

 

われわれは 誓う

 

    生物の特許化を止めさせ、遺伝子組み換え生物のいない環境に対する権利を保障するための努力や活動を強化することを。

 

    生物多様性の保全や利用における地域社会、原住民、農民そして女性の役割を強化推進し、それを実行する彼らの権利を守り主張することを。

 

    生物多様性についての、私たちの地方の知識体系を守り豊かにし、われわれの地域や組織でも、生物多様性にもとづいたさまざまな完成された農業と食料生産システムを積極的に推進することを。

 

    われわれは、地球のように心広く、水のように清く、風のように強く、そして太陽のように遥かに、それでいて親密であることを約束する。そして、世代から世代へと受け継がれた知識と知恵の種を交換することを誓う。

 

この宣言は、最近の二つの市民団体宣言を編集したものである。

    バレーオブ1000ヒル宣言 20023月  南アフリカ クウァズルナタル(KwaZulu Natal)にてアフリカの40の地域およびNGO団体の参加による       

▼ リオブランコ公約 20025月  ブラジル リオブランコ(Rio Branco)にて  世界中の100の地域およびNGO団体の参加による

    この宣言は、また20028月ヨハネスブルクで開かれた第二回南―南生物収奪サミットにおける参加団体の大多数により表明された見解を反映するものである

 

 

戻るTOPへ