ISIS レポート
2002
818
訳 山田勝巳

HO伝統医学への世界戦略

WHOは世界規模で伝統医学を各国の保険制度に盛り込もうとしている。 これは、特に医薬植物や伝統的知識のある第三世界にとって安全で手頃な効果的保険制度を構築する絶好の機会と言える。売り惜しみや医源的健康被害を増加させる遺伝子治療に何十億ドルも浪費するのではなく、ホリスティック医療モデルの研究にお金を使う時期が来ている。

 

サム・バーチャー
メイワンホー

 

WHOは今年1WHOとしては初めての伝統的、補完的代替医療(TMとCAM2002-2005の世界戦略を発表した。 何千年も遡る健康的実践が政策、制度、証明、生物多様性、伝統知識の保護と保存について明確にどういうものかまだはっきりしていない。

WHO健康テクノロジーの主任部長ヤスヒロ・スズキ博士は、「TMとCAMは、無批判に熱心な人達と全体的に懐疑的な人達両方の犠牲になっている。」そして、「この戦略は、人の持っている健康の真の力を引き出しながら、証明されていない、あるいは乱用されている治療のリスクを最小限にするためのものです。」という。

急性の呼吸器系の中国療法を長期的食事療法の補助として誤用してアメリカで死人が出たケースが示すようにTMを間違って使うと問題が起きかねない。  このような稀に起こるケースも、アメリカで死因の第3位になっている現在の処方薬や治療による有害反応に比べるとほとんど目立たない存在である。

 

Box 1

近代医療の副作用は、先進国に於ける不健康の原因の一部である。 地球上で最も金持ちで有力なアメリカは、その健康に支出する金額が抜きん出ているにもかかわらず、国民の健康では恒常的に成績が悪い。

19931998年の調査では、近代医学による治療や薬による以下のような死亡統計が出ている:

不必要な手術による死亡12, 000 人/年

誤った治療による死亡7, 000人/年

その他の病院の誤りによる死亡20, 000人/年 

院内感染による死亡80 ,000人/年 

誤りではなく薬害による死亡106 ,000 人/年

 アメリカのこれら医原病による225,000人/年の死亡は心臓病、癌に続く第3位の死亡原因となっており、第4位の脳血管系の病気による死亡を遥かに上回っている。 中でも薬害による死亡は106,000人/年と抜きん出ている。

出処: Starfield B. JAMA 2000, 284, 483.

 

無秩序に使用する更なる商業化によって、伝統療法が本当に必要な人々の手に届かなくなることが懸念される。エイズが蔓延している国では、4人に3人が何らかのTMを使っている。

南アでは伝統的に強壮剤として使われてきたスセーランディア・マイクロハイラの研究が進んでいる。これは、HIVAIDS患者の体重を増やし、体力や食欲を刺激するのではないかと期待されている。 近代医療で使われている薬の約25%は伝統医療で使われていたものからきていることを留意していただきたい。

WHOは、戦略準備に3年掛けており、加盟国への援助目的は:国のTM/CAM政策と計画を作り実行に移すために健康制度とTM/CAMを統合する。

必須の薬草療法を含むTM/CAMの利用のしやすさと値ごろさの確保 TM/CAM製品と治療の安全性、効果、質を確固としたものにする。

TMCAMの供給側需要側とも治療上適正な運用を促進する。

 

問題はこれらの勧告を国家レベルでどう実現するかである。

WHOによるTMの研究と評価は2000年より始められている。TMは、伝統中国医学、アーユルベーダ・インド医学、アラブのウマニ医学、ホメオパシー、整骨療法、カイロプラクティック等で構成され、これらを二つに分けている。 薬物療法では薬草やミネラル/動物の器官を用い、非薬物療法では針、マッサージ、整骨療法、リラクゼーション療法、瞑想、ヨガなどの技法を用いる。 近代医学が医療の中心である国では伝統医療はCAMとして扱われる。 今のところ、TMを医療に組み込んでいる国は中国、南北朝鮮、ベトナムがある。 中国では40%がTMで治療されている。

アフリカでは医療の80%がTMでマラリア地域では子供達の60%が家庭での薬草治療を受けている。 これはTM施術者と患者の比が12001400で一般開業医との比では120000と大きく違うためである。地元で受けられる治療が信頼できる手頃な薬草療法であることが一層重要になる。

中国の薬草療法アーテスミサ・アニュアは、薬剤耐性のあるマラリアに有効であることが最近分かり、年間150200万人この病気で死亡しているのを予防できる可能性が出てきた。

もっと多くの研究者、医師、医療雑誌がTM/CAMを機会ある事に排除するのではなく貴重なのだということを学ばなければならない。ヨーロッパのホメオパシーは、イギリスの国家医療に統合されているだけでなく、学会の支持も得られてきている。

 

Box 2

WHO世界戦略がどう伝統療法士やその利用者を支援するのか。

 ライ・ユー・ルンは、普通の伝統療法士とは違う。薄汚れた施術室の外、小さな前室には「中国伝統マッサージと整骨」の看板が掛かっている。この若くてハンサムな中国系マレー人が患者を治療するのに使う伝統医療の組み合わせを誤らせる看板だ。 彼の患者は社会階層や人種を越えており、治療費は20分で25RM(5ポンド以下)(金儲けよりも人助けが目的であるため、時間と治療費は応談である。)。 予約で一杯である。予約に現れないことよりも予約無しで治療を求められるのが困る。「私も生活がある。友達に会ったり、自分の時間を持ちたい。」と言う。

ライは普通の学校に通い、マレー語と広東語同様英語を話すが、学校で好きなのはカンフーだった。4人の空手、タイチー、カマキリなどの流派のカンフー師範についた。そしていくつかの型を披露した。現在行っている整骨法を発明した師範につく前に薬草商からも学んでいる。 「この方法は34年前に始まったばかりだ。この技が出来るのは世界に20人もおらず、中8人は開業していない。」と話す。 彼を教えたのは4人の師範で2人は伝統的中国開業医、一人は整形外科医、一人はタイの実践者だった。

「師は、非科学的要素を全部排除して独自の流派を形成した。」と語り、師の精神を忠実に守り、筋肉や腱が骨格の上に描かれた図入りの解剖学教科書をファイリングキャビネットに保管している。

モハメッド・イドリス氏とペナンの消費者協会は、ライが皆違う病気を治癒したことで、熱心な支持者に変わった。イドリスは、ライの技術を他に指導するための学校を始めたいと願っている。私がライを訪れたときは、足が痛くて歩けない女性を治療していた。 病院の医師は、神経膠着があり何千リンギットも掛かる手術をしなければ治らないと宣言した。彼女は、知り合いがライのことを知らせるまでは絶望的だったが、たった一回の治療で既に歩けるようになり、今回が2度目の治療だった。 彼は女性の足関節全てに手技を施し、次に足首、そして膝、腰へと移っていった。関節が狂うために問題の起こることが多く、神経膠着などと言うのはばかげていると話す。

「よく公園を歩くと、たくさんの人がジョッギングをしているのを見かけるが、体の使い方がおかしくて後で問題になりそうな人が多い。 本当はその人達に近づいていって『お嬢さんそんな歩き方は拙いですよ。私についていらっしゃい。どう歩くのがよいかお教えしますよ。』と言いたいのですが、何を勘違いするか分かりませんからね。ナンパしていると思いかねないですからね。」と自信たっぷりの話すのを見て、そんな風に感ずる人は少ないだろうと思った。 治療デモを見にいらっしゃい「そうしないと本当に理解できませんよ。」というのを聞いて断る理由がなかった。 それで、実際に完全治療セミナーに参加した。 私は、自分が足とお尻に痛みがあるのに初めて気付いた。腹と胸が少し前に出過ぎて歩き方が悪くからだが疲れていたのだ。治療を終えて歩くように言われたとき、驚いたことにまるで空中を歩いているように感じた。

「重い物を持ち上げないようにし、靴底の平らなのを廃棄、足を組んではいけません。」と後ろから声を掛けた。 ライが気に入らない三つ目のことは、患者が指示通りしないことだ。

(Dr. Mae-Wan Hoのペナンへの訪問記.)

 

伝統代替医療は、途上国に多くの熱心な施術者と利用者がいる。伝統/代替医療が近代医療と併用できること、実際に行われていることは余り知られていない。 併用して害があるというケースは余りない。 代替医療は、先進国で広く使われている。 カナダでは70%、オーストラリアでは48%、USA42%フランスでは38%となっている。 伝統・代替医療に使われる費用は世界的に急速に増えてきている。 マレーシアでは、伝統医療の費用は西洋医療に較べるとほんの少しだがそれでも合計すると西洋医療にはUS3億ドルであるのに対し伝統医療費はUS5億ドルとなっている。 USAでは代替医療に27億ドル/年支出され、オーストラリアとカナダではそれぞれ8000万ドル、24億ドルとなっている。伝統医療の地球規模の市場は600億ドルとなっており、イギリスでは23US$が毎年伝統医療に支払われている。

WHOの伝統医療勧告では新しい医療素材の保護と保全記録データも入っている。原住民の知識も真剣に受け止められており、現地の部族代表は生物多様性の保護が目的だが、同時に土着の植物や動物が持ち去られ特許化されたり、最悪絶滅されたりという悪質な海賊行為を止めさせるために自分達の権利を主張している。 何世紀も正しく使われてきた土着の知恵が、住民に文化的に適合しない西洋医学が押しつけられ取って代わられている。(ドクターがきたぞ、助産婦を守れ!ISISニュース11122001を参照)この知識の喪失が、地元民の健康を害している。

伝統・代替医療でも一律に受け入れられているものもある。 2001年には針と薬草医療に関する規則がイギリス上院で批准された。針治療は中国で発祥し、78カ国の針治療師と一般開業医で行われてきた。アジアには50,000,ヨーロッパには15,000人の針治療師がいる。3000年の歴史の中で、鎮痛効果や出産前後の障害、癌の代替医療の一つとして良く知られるようになっていた。 多くの実証と上院の支持で、針は病院や一次医療の一部となりうる有力候補である。 英国針協会は、良く分かる……”関節炎、癌、心臓発作、血圧等と題した44冊のシリーズ冊子を家庭医出版(BMAと共同で)発行している。これが医師と同じくらい患者への情報源になっている。

現在英国では、10%の一次医療トラスト(PCT)は代替医療を取り入れたいとしている。健康生活センターではPCTと共同して組み入れが進んでおり、一般医からの紹介も受け付けている。チャールズ皇太子総合健康基金は、評価、医療の質の管理、証拠原理に関する情報を作成するための支援を行っている。 このサービスは、共同学習として知られ、成功例をネットワークで提供する専門家が居る。

世界戦略を実行するためには国家レベルの協力が必要で、現在情報の共有とデータ収集に19の研究所が関わっている。ホリスティックな健康管理専門家と彼らの方法をモニターし、評価し説明する地球規模の団体やNGOが出始めている。 これが伝統医療・代替医療の国際基準、ガイドラインを設定し、研究、教育、開発、保存、法的位置づけを規定している。 

現在の所WHO191加盟国中25カ国が伝統医療・代替医療政策を作っている。

 

Box 3

CAMの為に奔走するチャールズ皇太子

チャールズ皇太子は、2000年にザ・タイムスに記事を書いて代替医療を国民医療サービス(NHS)に組み込むよう主張している。 自身の基金を使って代替医療の臨床的効果を研究する国家戦略を実行する統合医療を提案した。毎年基金へ50万ポンド寄付している。皇太子が代替医療に関心を持ったのは、自分の腰痛が近代医療で治らなかったためで、整骨によって症状がなくなり、その時同時に薬草医療やアロマテラピーも試みている。「代替医療が、人気があるということは、市民が近代医療に不満があるか代替医療で実際に救われているためだろう」と言う。 

今後の研究で代替医療の意義が確認されれば、治療費が払える人達だけでなく国の医療サービスで使えるようにすべきだと皇太子はいう。

パトリック・ベーテソン教授(ケンブリッジの学寮長でGM動物の支持者)は、そして極めて批判的だ。「チャールズ皇太子は、完全に間違っている。彼は全く証拠がないのに色々と主張する」と極めて批判的で、「もし、自分の懐に手をやって臨床試験の費用を出すというなら良いぞというかも知れない。」という。

保健省の広報官は、しかしNHSには代替医療の果たすべき役割があるという視点は歓迎するという。総合医療基金が後援した病院や一次保健サービスでの代替医療調査によると、マッサージ、リフレクソロジー、アロマテラピー、リラクゼーション、芸術両方などの代替医療は癌患者の看護を非常に助けているという結果が出ている。 代替医療によって放射線患者の薬剤使用が格段に減っているという調査研究結果が多くある。

グラストンベリー保健センターは19941997までの間NHS一次ケアサービスの統合医療モデルを設定しており、これを他のNHSでも模倣できる。 患者には、針治療、薬草医療、ホメオパシー、マッサージ療法、整骨療法が用意されている。 代替医療は、総合的活動力、社会性、心の健康、骨や筋肉に障害があったり、身体的不快感がある人達の苦痛を大幅に和らげるという調査結果がある。 近代医療と伝統医療の利点を選んだ患者の場合は、一般開業医、処方、X線その他の検査など、他の保健サービスの使用を減らすことが出来ている。

イギリスでは伝統医療を行っている人の数が一般開業医の数を40,00030,000上回っている。殆ど未利用の重要な保健ソースである。

 

 

 

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