英国のBSE問題世界的権威 vCJD退潮の結論は時期尚早、将来は不確実と警告

農業情報研究所(WAPIC)

05.9.26

 英国国家CJDサーベイランスユニットのジェームズ・アイロンサイド教授が、楽観論者は狂牛病(BSE)の人間版である変異型クロイツフェルトヤコブ病(vCJD)は退潮にあると主張しているけれども、それは本当か、そう結論するには時期尚早だという意見をタイのザ・ネイション紙に投稿した。

 The lingering shadow of mad cow disease,The Nation,9.24
 http://www.nationmultimedia.com/2005/09/24/opinion/index.php?news=opinion_18696904.html

 教授の中心的論点は次のとおりだ。

 1.英国におけるvCJDの流行は2000年にピークに達し、今までに156のケースが確認されていまや退潮に向かっている(9月2日の保健省の発表では、死者150人、生存者7人、計157人となっている→Monthly creutzfeldt jakob disease statistics))。しかし、英国人1万2600人の盲腸と扁桃の標本の異常プリオン蛋白質蓄積の遡及研究(英国:予想以上のvCJD感染者が潜伏―新研究,04.5.22)は、英国における感染レベルは確認されたvCJDのケースの数が示唆するよりはるかにに高いことを示唆する。

 1980年代末と1990年代初めの英国人のBSEへの広範な暴露を考えると、確認されたケースの数の数の少なさをどう説明するかが問題だ。一つの手がかりは、マウスにおjけるBSEとvCJDの伝達の研究のなかにある。これらの研究は、多くのケースでは病気の症候から死に至らず、代わりに病気が未発の症状のない”キャリア(保菌者)の段階(状態)=carrier state”を生み出せるという結果になっている。

 2.これら発見は、特定タイプの赤血球細胞の輸血を通じてのvCJDのヒトからヒトへの伝達の二つのケースを最近確認した広大な研究(輸血によるvCJD感染第二例、遺伝子型は異型型 高まる多数の感染者潜在の恐れ,04.7.24)により補強されてきた。これらのケースが特に関心を引くのは、第一のケースは、献血時には無症状だったがその後にCJDが進み、この病気で死んだ献血者からの輸血の6年半後にvCJDを発症したからだ。第二のケースは、後にvCJDで死んだ他の無症状の献血者から輸血されたこのような細胞を受け取ったことが分かっているが、神経病の証拠は示されず、無関係な原因で死んだ。それにもかかわわらず、そのリンパ組織に異常プリオン蛋白質が検出され、無症状の個人からの感染伝達を示唆している。

 これらのケースは、至るところにおける血液の安全性に大きな含意ー献血資格や血液・血液製品の加工と取り扱いに対する追加制限ーをもつ。生きている間は無症状段階にあるBSEに感染した個人が、他者に対して輸血や手術を通じての潜在的vCJD二次感染のリスクをもたらし得る。

 3.vCJDの将来に関する不確実性は、英国の患者の平均年齢がこの10年で大きく上がっていないという観察からも生じる。もしも流行が退潮にあるならば、患者の平均年齢は、(BSEに感染した英国の牛について起きたと同様に)最終段階では上昇すると予想することができる。ところが、vCJDは、BSEへの暴露が年齢に関連しているか、罹りやすさが年齢に関係しているか、どちらかのために、孤発型CJD患者よりもはるかに若い人を襲う。

 4.これらの問題に対する答えを知るまでは、我々がvCJDの終焉の始まりを目撃していると決めるのは時期尚早だ。逆に、今まで確認されたケースは氷山に一角にすぎず、二次伝達を通じて人々の健康にリスクをもたらす無症状のはるかに多数の感染があるかもしれない。

 輸血、または手術具による二次伝達は、英国人のなかでのvCJD流行病化に帰結するかもしれない。これは、手術具の洗浄や消毒の手段の改善や、無症状のキャリアを選別するための特別の検査がないために、根絶が不可能とわかる。

 英国の確認されたvCJD患者の数を有力な根拠としてわが国のvCJD患者はゼロに近いとする”予想屋”たちは、この世界的権威の意見をどう受け止めるのだろうか。

 

 

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