アメリカは遺伝子組換え食品禁止問題でヨーロッパの提訴(WTOへ)を延期
ニューヨーク・タイムス
2003年2月5日
エリザベス・ベッカー
訳 河田昌東
2月4日ワシントン発:
政府高官によれば、対イラク戦争が迫る中、ブッシュ政権はEU同盟国に対して遺伝子組換え食品禁止を理由に(WTOに)提訴するのを延期した。「イラクでEUがテストされている最中に食品でさらにテストする必要はない」と名前を伏せたホワイトハウス高官は語った。
合衆国通商代表のロバート・B・ゼーリックは、ブッシュ政権が彼の言う遺伝子組換えに対する「理不尽な」反対
を理由にEUを提訴するかどうかもうすぐ決まるだろう、と言った。彼によれば問題は発展途上国における飢餓につながっている。EU農業委員が(提訴を見合わせるよう)話し合いのためにワシントンにやってきた今週、閣僚会議は提訴をキャンセルした。そうだとしても、摩擦は遅かれ早かれ表面化するだろう。ゼーリック氏は、アメリカ農民に市場が開かれている限り遺伝子組換え食品は飢餓の軽減を助けることが出来るはずだと信じており、遺伝子組換え作物を途上国が受け入れるようEUの反対とたたかうつもりだ、といった。
しかし、数週間前ゼーリック氏がバイテクに対するラダイト的態度(訳注:19世紀イギリスでの機械化
反対の熟練工の反対運動)だとしてヨーロッパを非難した熱狂的な言い方は、今週になって組換え禁止問題を取り上げる重要性を強調するにとどまった。問題は何時かである。
合衆国農務長官のアン・ベネマンは「我々の忍耐もこれまでだ」と言った。EU農業委員のフランツ・フィッシャーはベネマンと会い、問題は3ないし4ヶ月以内に解決するだろうと言った。「我々は基本的には遺伝子組換え食品に反対してない。我々はEU議会で法律を通過させる最終段階にあり、それを壊すような行動を起こさないよう強くアドバイスした」と今日の記者会見で強調した。
WTOに提訴すればアメリカが勝ち、EUは4年前のGM禁止を破棄せざるを得ないだろうと専門家の意見は一致している。同時に、この問題の究極的な解決は科学的問題ではなく、表示をどうするかにかかっており、自由で制約なき貿易というアメリカの考えに対し適切な規制をするというヨーロッパの考え方を戦わせざるをえない、という点でも一致している。
ヨーロッパの消費者は永年遺伝子組換え食品の安全性に疑問をもってきており、組換えの影響は未知であり、人間の健康への影響も解明されていない、と恐れてきた。彼らは、どれが遺伝子組換えで荒っぽい試験に合格したものかどうか知るための表示を要求している。アメリカの農業関係者はこれにまさに強く反対しており、食品が一旦試験に合格したからには警告のための表示をして区別する必要は無い、と主張している。「(表示をしたら)遺伝子組換えが何か悪いものだと暗示するようなものだ。これは別の意味の関税障壁だ」と農務省食品安全担当次官のエライザ・ムラノは言った。産業界はコストの点で異議を唱えている。「表示は見せかけだ。そんなことをすればとても高くついて輸出が閉ざされてしまう。」というのはアメリカ農業界のロビーストであるマリー・ケイ・サッチャーである。イギリスの食品・環境担当大臣のマーガレット・ベケットは、お互いの意見の違いの底にある深刻な文化の違いを双方理解しあうべきだ、といった。狂牛病(BSE)による死亡やその後の口蹄疫による牛の大量の死亡で、ヨーロッパの消費者は明確に表示され容易に追跡調査できない食品には警戒している。「過度の非難は双方の議論にしばしばある。我々が好むと好まざるとにかかわらず、ヨーロッパの消費者はあらゆる種類の食品にトレーサビリテイーと表示を求めている。GM製品が基準にあっているから例外にすべきだというのは説得力が得られないだろう」と彼女は言った。
EU諸国は消費者の深刻な恐怖感を前に表示の必要性に合意しているものの、アメリカ議会はもっと複雑な経験をもっている。農民やシェフ、環境活動家らによる12年間のロビー活動を要したが、農務省は昨年公式の有機表示制度を作り、消費者に何が農薬や化学肥料、抗生物質、成長ホルモンなどを使わない製品かを示した。食品産業は成長しつつあり、40億ドル産業になって一般の人々の反応もすっかり新たな表示を求めるようになっている。産業界が恐れているように、毎年5000ドルかかる表示のためのコストと書類つくりの手間は小規模農家にとって打撃である。連邦政府当局者はこの動きが何年かあとには怒涛のように押し寄せてくるだろう、と信じている。昨年の農業法案の中に、議会は2年以内に全ての肉、魚その他の農産物の産出国を表示する、という多くのアグリビジネスが反対した内容を盛り込んだ。すでにカナダは新しい産出国表示、特に肉に関してはアメリカとの貿易の制約になる、と反対している。先月の調査で、カナダ政府当局者はそのコストに不満をいい、新たな法案は破棄すべきだと批判した。ヨーロッパの遺伝子組換え食品禁止が破棄され、表示問題に真正面から向き合うまではそうしたことはありえないだろう。
貿易と農業問題の専門家は結局アメリカ国内及びヨーロッパ人とアメリカ人の相反する利害が調整されるだろうと予想している。カーネギー財団のジョン・オードリーは「アメリカは一枚岩ではない。ビジネス・グループは表示を受け入れざるを得ないし、反対活動家達は遺伝子組換え食品の販売を認め消費者に欲しいものを決めさせざるを得ない」といった。