アメリカ農務省(USDA)報告書が遺伝子組換え作物の神話を認める

 

最近のUSDA報告書は、アメリカ政府の公式筋が、GM作物の基本的な経済性に関する主張の大半が間違いであり疑わしい、ということを初めて明確な言葉で語ったことを明らかにした

www.btinternet.com/~nlpwessex/Documents/usdaGMeconomics.htm

訳 河田昌東

 


「恐らくこの結果の最大の課題は、農家の財政上の効果があいまいで、あるいは場合によってはマイナスであるにも関わらず、遺伝子組換え作物の急激な採用が何故起こったかをどうやって説明するか、ということである。」(遺伝子操作作物の採用Adoption of Bio-engineered Crop:合衆国農務省経済調査サービス、2002年5月)

「要するに、遺伝子組換え作物の導入の“成功”は、科学や農学上のメリットよりは市場の誇大広告に負うところが大きい」(nlpwessex:22 August 2002)

 


英国はGM作物の商業栽培を認めるかどうかの議論をこれから開始しようとしている。首相は科学的議論を期待する、と宣言した。彼はGM技術の導入が全体として経済的利益になる、と考えている。同時に、英国の農業社会内部ではGM作物の利用がイギリス農業をコストの効率化で国際市場での競争力をつける、と広く信じられている。いわゆる「競争因子」である。この信仰はアメリカの農家がそうした競争上の優位性をすでに享受している、という前提に立っている(アメリカ以外でGMの市場がどれだけあるのかという最も重要な疑問を無視した信仰だが)。

この考えを強くうちだして、英国の農業雑誌「ファーマーズウイークリー」の7月12日号は「データはGM作物の経済的成功を示す」というタイトルの論文を発表した。これはアメリカ食糧農業政策センター(NCFAP)の研究に基づいている。この報告書はGM作物の経済的有効性を強く主張している。

しかし、ファーマーズウイークリー誌は、この報告書を詳しく読む時間がなかったようで、誰がこの研究に資金を出しているかなどには注意していない。この研究にはモンサントとバイオ・インダストリー・オーガニゼーション(BIO)が資金提供している。BIOによるNCFAPへの1993年以来の支払いには、「スーパーマーケットでの販売に有害な、遺伝子組換え食品に対する政治的な一般の人々の反応を和らげる」責任が盛り込まれている。しかしながら、NCFAPの報告書が出された同じ月に、アメリカ農務省の経済調査サービス(ERS)がアメリカにおけるGM作物の経済性に関する独自の広範な分析結果を発表した。この報告書はまったく違う図を描いている。実際、このUSDAの報告書は「恐らくこの分析結果の最大の課題は、農家の財政上の効果があいまいで、あるいは場合によってはマイナスであるにも関わらず、遺伝子組換え作物の急激な採用が何故起こったかをどうやって説明するか、ということである。」とさえ結論している。

nlpwessex GMニュース・サービスの編集者マーク・グリフィスはこの問題に関してファーマーズ・ウイークリー誌に書いている。(訳注:nlpwessexはNatural Low Party Wessexの略)USDA報告書の彼の分析を要約した手紙のコピーが8月16日号の同誌に載っている。以下のとおりである。

 

USDAの報告に従えば、英国の農家が英国で除草剤耐性のGM作物を導入しても農業収入が増えることはなさそうだ、ということを秘密にすべきなのは明らかだ。(もっとも、消費者や農業補助金の出資者たちにはこのことは知らされないだろうが)。農家にとってGM作物の主たる興味は経済性なので、もしイギリスが全体として議論の結果GMフリーでいることを決定したとしても、失うものは何もなく、得る物の方が多いことをこの状況下で認識することは重要である。作物の市場性の問題は別としても(この報告書はそれに焦点を当てていない)、このUSDAによる合衆国の農業データの最新の分析はGM作物が、アメリカの農家にとって、一般に言われているような経済競争力を持たないことを明らかにしている―多くの農家自身は利益があると信じているにも関わらず。

 

これはnlpwessexが長年にわたってホームページ上で主張し、メールニュースサービスで宣伝してきたことである。それらはGM作物が広く大規模に導入された1996年以来の多くの資料で閲覧できる。

しかしながら、USDAの最近の報告書はアメリカ政府筋が公式に、明確な言葉でGM作物に対してこれまで主張されてきた基本的な経済性の多くが間違いで、疑わしいことを明らかにしている。そうした経済的「利益神話」が長年にわたって継続してきたのは、近代農業科学の性格と衣をまとった興味で農家に伝えられてきたその手法について多くを物語っている。

USDAの報告書が焦点を当てているポイントの大部分は、GM作物の農業上の実力に対する失望であり、nlpwessexの雑誌の読者にはおなじみであろう。しかしながら、この新しい報告書には以前は注目されてこなかったが、特に興味深い一つの視点がある。

もっとも多く栽培されているGM作物のGM大豆の分析に基づき、この報告書は「除草剤耐性種子の使用は不耕起栽培の採用に特別影響を与えなかった」と確認している。この見解は不耕起農業における経済性と環境改善を背景にGM作物を推進することを目指したこれまでの主張と際立った違いを示す。USDA報告書が指摘するように、アメリカにおける不耕起栽培の面積はGM作物が導入される以前から着実に増加してきた。この以前からのトレンドは単純に継続してきたのである。実際はUSDAの分析によればその後ある程度低下した。不耕起栽培を行うにあたってGM作物を栽培する必要はなかったのである。

実際、全耕作可能面積に対する割合でもっとも早いスピードで不耕起栽培を拡張してきたのはラテン・アメリカ諸国であって、そこではアルゼンチンだけがかなりの商業規模でGM作物を栽培している。(不耕起は1990年パラグアイで大規模農場でのトラクター採用と同時に導入され、1997年には全栽培面積の51%が不耕起である。2000年と2001年の比をとれば、パラグアイでは52%、アルゼンチンで32%、ブラジル21%、アメリカでは16%である)。

報告書の最後でUSDA報告書はアメリカで何故こうも急激にGM作物が普及したかを説明するのに苦心している。なにか便利な点があったのだろう、と述べてはいるのだが。しかしながら、1998年のアイオワ州立大学の研究によれば、GM作物採用は農家が作物の販売成績が上がる、と信じることで加速されたのである。実際の成績もそうなった。もちろん、商売の世界では市場の受け入れが全てである。アイオワ大学の研究では、除草剤耐性GM大豆を栽培した農家の半数以上が、在来種より収量が増えると信じて採用したことが確認されている。しかしながら、同大学が農家の収穫量を分析すると、農家の信じたこととは逆の結果が判明した(実際は遺伝子組換え大豆は意図せざる植物の機能攪乱の結果、収量を下げることがわかっている)。 その後同大学は、アイオワ州における大豆の農場現場における経済性を詳細に検証した。その結果、種子や除草剤、肥料、機械操作の費用、保険、税金など全てのコストを計算すれば、「除草剤耐性大豆と非組換え大豆の畑で本質的にコストの差はなかった」ことを確認した。しかし、非GM大豆の方が、収量が高かったので、農家にとってはGM大豆よりは利益が多かった。この研究は経済性で劣るにもかかわらず除草剤耐性大豆の利用が増えた一つの理由として、宣伝広告による圧力の可能性を示唆する。

要するに、アメリカにおけるGM作物導入による「成功」は、客観的な科学的事実や農学的成績よりは、市場での誇大広告に負うところが大きいのである。 この残念な開発結果は時間がたつにつれて明らかになってきた。バージニア州立大学の客員教授でアメリカ農務省のチャールズ・ハゲドルン教授は、1998年9月にこうした状況について、「商業的な開発と市場獲得が科学に先行するという、科学文献に述べられている典型的なケースだ」と指摘している。 世界農業の未来は健全な科学を基礎にして発展されるのであって、巨大なPRと市場予算あるいはそれに依拠する多くの学者たちのテクノロジーに依存するのではない、というのは確かに重要である。(GMテクノロジー反対でそうしたポストが失われるのは当然だが科学の社会における見当違いの恐怖である。近代バイオテクノロジーの別の側面は一般に広く受け入れられ、遺伝子組換えDNA導入よりは長期的にはもっと潜在的に大きな可能性がある、と産業界ですら認めている。この分野は、科学者の社会と一般の人々の願望の双方を満足させる潜在的な「解決」を提供する。)

もし、一般の人々が何か新しいテクノロジーから最も良いサービスを受けようとするなら、依拠する科学は十分な分析と精査の対象にならなければならない。この点に関して、ファーマーズ・ウイークリーが7月号で特に取り上げたNCFAPの多くの見解を分析することが大切である。この報告書の大部分は現在認可されている品種のこれまでの収量に比べて将来のGM作物は希望がもてる、という主張に費やされている。さらに、NCFAP報告書は一連の結果を作成する過程でこれまでの研究で使われた手法を変更した、と述べている。採用された新たな多くの仮定を検証してみようという科学者もいるかもしれない(にもかかわらずこの研究は、GMの収量改善は肥料の多用で説明できる、という別の研究者の研究結果を排除している)。

この報告書は多くの文献を引用しているが、注目すべきことにこの研究分野でこれまで行われたもっとも徹底的な科学的な研究を無視している。その研究はネブラスカ大学で行われたものだが、世界でもっとも大量に栽培されているGM除草剤耐性大豆の収量低下を確認したものである。とくに、この収量低下は遺伝子組換え自体で起こったもので、使われた除草剤の影響によるものではない、と結論し「GR(グリフォサート耐性)大豆品種で収量は抑制されている。・・・・この研究は5%の収量低下が挿入遺伝子自身、または挿入過程に関連し、残りの5%低下は品種の遺伝的違いによることを証明している。生産者は大豆生産の全体的な収益評価に際して、GR組換え大豆と非組換え大豆に5〜10%収量差があることを考慮すべきである。」と述べている。

NCFAP報告書がこの研究を取り上げなかった失敗には驚く。なぜならこれは、遺伝的に近縁の兄弟品種を対照として使い、GM除草剤耐性作物を厳密な農学的コントロール下で試験した数少ない研究の一つで、科学論文雑誌(Agronomy Journal 93:408-412 (2001))に発表されたものだからである。この分野でこれほど科学的に行われた研究は、あったとしても数少ないはずである。

 

しかし、科学者の間ではBt綿(英国には無関係だが)のおかげで殺虫剤使用量が減る、という意見が一般的である。これがいつまで続くかについては、Bt毒に対する昆虫の耐性の発現が現れるのではないかという懸念がある(化学薬品にしろ遺伝子組換えによる毒性にしろ)。その上、Bt綿の採用でも殺虫剤使用はなくならないし、オーストラリアにおける研究ではBt品種は1999年以来殺虫剤散布がコンスタントに増えつづけていることを示している。

この段階でも、「Innovate Australia」(オーストラリアの食糧、繊維、自然資源の研究と開発企業)は「新たな技術(Bt綿)による生産者の経済的利益にはばらつきがあるが、一般的には在来種と比べて利益は極わずかである」と述べている。すでにオーストラリアでは第一世代のBt綿からは問題があるために撤退する計画がある。2つのBt毒素で置き換える、という救助策を導入しても長続きはしないだろう。2001年9月に出版された「コットン・ワールド」の論文で、オーストラリア・コットン協同研究センターの主任研究員ギャリー・フィット博士は「2重遺伝子」綿はさらに虫害のバランスを崩し、アリマキや緑食害虫が増加する可能性がある、と警告している。したがって、このアプローチ(Bt遺伝子組換え)も長期的には、オーストラリアが現在かなり成功を収めつつある総合病虫害防除技術(IPM)を基礎にした害虫駆除に取って代わる満足の行くものにはなりそうにない。

 

面白いことに、NCFAP報告書は「Bt綿はアラバマ州の綿産業を救う保険だ」と述べている。偶然nlpwessexは2000年5月にアーバン大学のアラバマ農業普及専門員と連絡が取れた。彼はBt綿に情熱を傾けていた。Nlpwessexは彼にアラバマにおける綿栽培の実際とIPM技術利用についていくつかの質問をした。一つの質問は「同じ畑で綿は何回栽培するか」というものだったが、回答は「北アラバマでは150年前の市民戦争以来綿を生産していない畑はない。いくつかの畑は有機物はゼロまで減っている。」であった。より一般的な彼のアドバイスは、綿は連作から隔年作まで色々あるが「多くの人は少なくとも半分は綿畑で、人によっては全部のこともある」という。そうした状況はアラバマに限らない。テネシー大学教授のロバート・ヘイズによれば、「残念ながらほとんどの綿生産者は輪作をしていない。やってもわずかだ」という。にもかかわらず、USDAの報告書は、綿作農家の多く(63%)は2001年にBt品種を植えていない、その理由は必要ないかあるいは経済性が悪いからだといっている。一方、2002年8月17日のNew Scientist 誌の論文はモンサント社が新しい化学特許をとった、と報告している。同社は遺伝子組換えによる害虫駆除は長期的には望ましくない、その理由は抵抗害虫が発生し、実際の栽培現場では多くの問題が残っていることを認めている、という。

遺伝子組換え技術の基本的な機能に失敗の危険性があるのはBtだけではない。大学の雑草科学専門家たちは、今月始めに行われた「非耕起栽培の日」の集まりで、西部テネシーの20万エーカーの大豆畑ではグリフォサート耐性の雑草marestailが問題になっていると報告した。同じ問題は同州の全ての綿畑の36%にも影響していることが報告された。モンサントは現在来年度の雑草防除方法の変更を勧告している(ここで実証されたような、GM作物栽培を採用後にこうした変更を行う見通しは、英国自身が行う農場規模のGM試験栽培の有用性にさらに疑問を投げかけるものである)。持続的農業に向けた進歩の足音はほとんど聞こえず、たった一回の試験ですら「いつまで続けられるの?」という疑問に変わる。  

テネシー州における最近の状況は、1999年まで現れなかった最初のグリフォサート耐性雑草が非常に早いスピードではびこり始めた、ということを示している。GM作物が出来て勇気付けられた「一種類を全てに適用」という類の単純な農場管理手法は、栽培にとって結局は負荷となる農業生態学的問題を生ずる危険を常に伴う。この場合、数年間は問題のない生産が出来たが、それから技術を台無しにする問題が山ほどやってきたのだ。ラウンドアップ・レデイー綿に続いて登場するグリフォサート耐性大豆の雑草は「特に厄介」な問題になりつつある、とヘイズ教授は言う。GM綿の雑草防除失敗の経験によるアドバイスは、グリフォサートを他の除草剤と一緒に使うことである。

同じ問題はグルフォシネート耐性品種の他のGM作物でも起こっている。2001年にモンサントが取得した混合除草剤特許は、この問題が広く拡散するとモンサントが予測していることを示唆する。こうした困難について、ファーマーズ・ウイ-クリー誌は「アメリカにおけるバイテク作物の経済・環境への利点に関する最も包括的研究」と述べているにも関わらず、そのNCFAP報告ではまったく触れられていない。幸い、綿と大豆、トウモロコシが支えている巨大動物飼料会社を除いては、アメリカの農民でバイテクのあとを追っかけようという人々は少ない。NCFAP報告書はフロリダ・スイート・コーン生産者は、GM種が1998年に商業栽培が登録されたにもかかわらず、組換え体品種を栽培していないことを認めている。配送業者は人間が直接食べるスイート・コーンの市場を台無しにするのを望んでいない。同じ理由でGM砂糖大根とジャガイモは栽培認可が下りたにも関わらず、どちらもアメリカの農家は採用していない(訳注:これは間違い。GMポテトは栽培されている)。NCFAP報告書は加工業者がこれらのGM作物を受け入れず、モンサントがポテト部門を2001年に閉鎖したことを確認している。2000年に発表された国連食糧農業機関(FAO)の報告書は、世界はGM作物なしでも将来数十年にわたって食糧を供給できることを明らかにしている。この報告書は、現存の技術だけでも途上国の食糧生産は増加する、と予測している。

 仮にGM作物の生産性と市場競争力が事実としても、過去数週間に公表された世界の貧困国にGMを導入することに対する反対の増加は正しい判断だと思われる。しかしながら、この見解が来週南アフリカのヨハネスブルグで開かれる持続的開発のための世界サミットで広く受け入れられるかどうかはわからない。世界農業の将来的な持続可能性に正しい科学的アプローチがあるなら、それを踏みにじってはならない。

 

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