バイエル社の炭素菌抗生剤販売が公衆衛生の脅威

 

ニューヨーク・タイムス

エレン・k・スィルバージェルド、ポリー・ウォーカー

2001年11月3日

訳 山田勝巳

 

シプロ(Cipro)が効かなくなったらどうなるか。

シプロ(訳注:抗生物質シプロプリスチン)は、炭素菌の予防と治療で有名になったが、いわゆるポスト抗生剤時代の災難のもとになりそうである。シプロを製造するバイエル社は、大規模養鶏で世界中に広く使われている化学組成がシプロと似ているバイトリル(Baytril)も売っている。 この養鶏で広く使われているバイトリルのために、人間に使うシプロが良く効かない症例も既に出てきている。

 バイエル社は、感染した鶏にのみバイトリルを使うよう推奨しており、公衆衛生の脅威にはならないと言っている。 だが、抗生物質の農業使用が、アメリカの公衆衛生で大きな問題になっている。 憂慮する科学者同盟によると、アメリカで生産される70%近くの抗生物質は、“成長促進”の目的で家畜に与えられている、つまり売る為の重量稼ぎ、という。 家畜で効かなくなるばかりでなく、人間に現実的危害をもたらす恐れがある。

 

人の病気を治したり、命を救う抗生物質の発見と利用は、近代医療の最大の功績である。 多くの人が抗生物質のおかげで生きている。60年前、抗生物質の発見は医療に革命を起こし、病原菌の海の中に囲まれた人間に分が良くなったのだ。 それが、今回の生物テロの脅威で、抗生物質の効力を維持することが緊急の課題になっているのである。

 

バクテリアは、人間がその突然変異に追いつくよりも早く効率的に、常に新薬に適応している。 慎重な利用によって、病気を治す薬の効力を維持しながら、新たな防衛法を求めて自然や化学を研究して行く。 なのに、我々は、この貴重な資源を乱用して、強力な抗生剤を家畜や鶏に治療目的以外でぞんざいに扱っている。

 

アグリビジネスは、安く食糧を供給し続けるためには、抗生剤の使用は不可欠だという。 しかし、多くの国では、医学の金庫を略奪しなくとも安全に効率的に家畜を生産している。 EUでは、抗生物質の治療目的以外での使用を禁止している。

 

食用動物生産に抗生物質を使えば、動物製品を食べる人間が薬の効かない感染症にかかる危険性につながる。 全国ネットの食品検査にも関わらず、疾病予防管理センター(CDC)は、毎年薬の効かないバクテリアによる食中毒を報告している。 また、抗生剤を農業で使うことは、薬と薬剤耐性菌による環境汚染に繋がる。 先月、ニューイングランドジャーナル・オブ・メヂシンは、ワシントンDC区にあるスーパーマーケットで購入した肉に抗生物質耐性菌が検出されたと報告している。 その論説の中で、抗生物質を治療目的以外で家畜に用いるのを禁止すべきだと述べている。 

 

この領域に関する適切な情報と政府の監視が必要だ。 家畜に現在使われている抗生物質の量に関して、様々な意見が出ている。 まず、それぞれの抗生物質がどのような目的でどれくらい使われているのかを知るための追跡システム(食品医薬品局FDAが提案しているように)の構築するべきだ。 FDAが1月に主催した会議では、抗生物質の使用に関する報告義務が話題になったが、法律や規則が実際に提案されたことはない。

 

バイトリルを製造するバイエルにとっては、やるべき事ははっきりしている。 バイトリルは、成長促進と治療のグレー領域ので使用されており、養鶏業界では、病気が無くともバイトリルを出荷前の数週間飲み水に混ぜるのは慣例になっている。 昨年FDAは、養鶏薬品製造のバイエルとアボット・ラボラトリィに対し、自主的にシプロ系統の抗生物質を農業利用から引き揚げるよう要請したが、アボットは同意したもののバイエルは拒否した。 

 

バイエルは、連邦政府に割引価格でシプロを供給して、国を挙げての公衆衛生に協力している。 バイトリルを自主的に引き揚げることで、公衆衛生に本気で取り組む姿勢を示せる。

 

 エレン・K・シルバージェルドは、メリーランド医科大学の伝染病学教授。 ポリー・ウォーカーは、ジョン・ホプキンス、生きられる未来(Livable Future) センターの理事。

 

 

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