種子をめぐる戦いは最高裁へ
「我々が戦っているのは自分達のためだけではなく、
世界中の農民と彼らが自ら種子を利用する権利のためだ。
だから我々はモンサントに立ち向かっているのだ」―パーシー・シュマイザ―
チム・ハーシュ
BBCニュース(サスカチュワン発)
2003年8月1日
有機消費者協会ニュースより
訳 河田昌東
カナダのプレイリーに住む一人の農民が巨大バイテク企業と最高裁で闘う準備をしている。
サスカチュワン州ブルーノの陽気な72歳の農民、パーシー・シュマイザーはモンサントが種子の特許権を強化しようとする試みに抵抗し、世界中の反GM運動のヒーローになった。この裁判の結果は遺伝子組み換え作物にとどまらず、他の多くの分野の遺伝子技術の特許についても大きな影響を与えるだろう。シュマイザー氏のモンサントとの戦いは1998年にさかのぼる。この年、モンサントは同社の遺伝子組み換えキャノーラ・ナタネを無断で栽培しているとして彼を告発し、GM作物を契約栽培した際に支払うべき費用と同額のお金を払うように要求したのである。彼はそれを拒否し、自分はいつものように自分の作物から種子を採り来年のために備えているだけだ、もし生えているなら近所のGMキャノーラから汚染したに違いない、と主張した。
法廷へ
シュマイザー氏はBBC・ニュースオンラインに次のように語った。「非常に困ったことだ。なぜならこの半世紀、我々が自分で開発してきた純粋な種子が汚染してしまったからだ。我々はモンサントに訴えられた時、もし、我々の純粋な種子にGMOが入っていたとしたら、そちらにこそ責任があり、あなた方こそ訴えられるべきだ、と言った」。モンサントは彼の作物の中の除草剤耐性の混入レベルは偶然とは考えられない、と主張したが裁判でこれを立証は出来なかったし、またその必要もないと主張した。
第一審判決では、GM種子がどうしてシュマイザー氏の畑にやってきたかは問題でないと判断したので、彼はGMキャノーラを単に無許可で栽培し収穫しただけで同社の特許権を侵害した、とみなされた。
この判決は、彼がモンサントのラウンドアップ除草剤を散布せず、組み換え遺伝子をもつ植物から利益を得なかったとしても、それは(特許権侵害とは)無関係だ、とした。
招かれざる“雑草”
カナダ農民連合のスチュアート・ウエルズは言う。「この判決は農民が 自分の畑で欲しくない雑草化したGM作物が生えたのを発見しても苦情を言わないようにしてしまった。汚染があってもモンサントに報告しない農民がたくさんいるはずだ。なぜなら自分の畑が汚染したことを知らせ、モンサントに管理されたくないからだ。もし農民は何をしようが勝手ということになれば、これは一種のキャッチ22と同様の状況だ(訳注)。結局モンサントがシュマイザーにしているようなたぐいのトラブルになるだろう。」
モンサント自身は、GM種子が偶然畑に生えたとしても農民を訴えたりはしない、しかし彼らの技術が故意に悪用されたなら特許権を守るだろう、といった。
権力とマウス(Might and mouse)
シュマイザー氏の弁護士は最高裁で企業が植物全体に対して特許を主張する権利はない、と争うだろう。この種の問題は、最近同最高裁で「ハーバード・マウス」に関する判決が出て熱い論争になっている。最近、ハーバード大学が医学研究用にガンに罹りやすい遺伝子組み換えマウスを作り特許を申請した。しかし、同裁判所は「高等生物はそれ自体新規開発物とは認められない」という判決をくだした。パーシー・シュマイザーは自分の畑の大半を、罰金を払うために抵当に入れなければならなかったし、5年に及ぶモンサントとの戦いは多大なストレスと彼にもたらしたことを認める。しかし彼はそれを後悔してはいないと言った。「我々が戦っているのは我々のためだけではなく、世界中の農民と彼らが自ら種子を利用する権利のためだ。だから我々はモンサントに立ち向かっているのだ」