食卓の危険

 

カレン・ホプキン

Scientic American 3月20日 

抄訳  山田勝巳

 

アメリカのスーパーで売っている食品の半分以上は、遺伝子組み換え原料を使っている。人が食べても安全なのか確認されたのだろうか。

テキサスの熱い陽射しの中で農家がセロリを収穫する。その夜、痛みを伴った出来物が腕にパーッと出る。新たに開発された病気に強い品種のセロリが、強い皮膚反応を起こす予期せぬ物質を出す。

従来の育種法でこの有害な野菜が作り出された。しかし、遺伝子組み換え反対者達は外部から遺伝子を挿入する組み換えDNA技術は、これ以上に酷い健康被害をもたらすと恐れている。危険性は高い。GM食品は世界中で売られている。アメリカでは60%の加工食品に入っていると推測される。特に大豆、コーン、いくつかの野菜も組み換えされている。

非難する人達は、いくつか理由を挙げる。外来遺伝子を持つ蛋白質は、それ自体が人間に毒なのだ、とか、組み換え遺伝子のために栄養分が減るとか、植物が本来わずかずつ持っている毒性が強く出てしまうのではないかとか、あるいはまた、アレルギーを起こすような蛋白質を作り出すのではないかというものである。

去年、殺虫性蛋白を作り出すスターリンクが、タコスの皮、コーンチップスなどに発見されて不安を巻き起こした。このコーンが商業生産される前に、監督官庁は、これに使われるBt蛋白質はアレルギーの兆候があったので飼料としては認めたが、食品としては認めなかった。このコーンを含む食品でアレルギーが起きたという苦情を調査していたが、科学諮問委員会は、消費財に含まれる量がアレルギーを起こすには量が極めて少ないと判断した。

賛成者達は組み換え食品を擁護する。注意深く選択された遺伝子を組み込む方が、自然交配で起こるように一遍にドッサリ遺伝子を持ち込むよりも安全である。毒性のある殺虫剤を減らすことで健康被害を間接的に減らせるとか、より直接的に、普通のものよりも栄養価が高くなるような食品を研究しているとか、GM作物が新たな栄養素を持ち、貧弱な環境でも良く出きるようになれば、栄養失調で苦しむ途上国の人達を救えるというものである。

推進者は、どんな食用GM作物も健康への影響を十分に検討しているという。独立した研究はあまりないが、製造者は、自分達の売る食品が連邦安全基準に合うことが義務になっているので、広範な検査をしている。以前は、このような検査結果は売り出す前にFDAへ自主的に出されてきたが、1月に提案されたFDAの規則では、審査を義務付けている。

製造者の研究は、典型的にはGMと従来のものとの比較で始まる。導入遺伝子が化学組成や栄養価を著しく変えるかどうかを見るものだ。検知できる違いが導入遺伝子でできる蛋白質のみであれば、それを人が通常摂取するよりも何千倍もの量で動物に給与する試験を行う。組み換えがより広範な変化をもたらす場合は、食品全体を実験動物に与える。

科学者達は催アレルギー性を評価する場合、既知の500近くのアレルゲンと組み換え作物の生成する蛋白質を比較して、化学組成が似ている場合は赤旗を振る。また胃液を模した酸の中に浸けその分解性を見る。アレルゲンは、非常に酸に対し安定でびくともしない物が多い。最後に蛋白質の由来を考察する。「イチゴにピーナッツの遺伝子なんてとんでもない。ピーナッツアレルギーの人はわんさか居ますからね。」とオーストラリア・コモンウェルス科学産業研究機構のT.J.Higginsは語る。  

この検査法は今のところスターリンク蛋白質やブラジルナッツで有効性を示している。RutGers  大学の分子生物研究所の所長Peter Day は「市場に出ている製品が安全でないと言う証拠は見たことがない」という。

安全検査は必ずしも完全とは言えない。例えば、GM植物が生成する蛋白は、給与試験するには十分な量ではないので、多くはバクテリアで大量に作りそれを使う。植物の作る蛋白質と、バクテリアが作る蛋白質では少し違うのではないか。その違いが問題となる蛋白質の安全性審査に影響するのではないか。また、テストする植物体全部を給与すると、栄養バランスが崩れてテスト結果を歪めるのではないか。この影響が、1999年にGMジャガイモで外来DNAによってラットの腸壁に異常が出たという研究が批判された理由の一つでもある。

短期的影響に対し、GM食品の危害は、病原バクテリアに抗生剤耐性が広がることによってじわじわと進行するのでは、と懸念する反対者もいる。

組み換えが上手くいったかどうかを見るのに抗生物質耐性遺伝子をマーカーとして植物に組み込む。問題は耐性がGM食品から腸内細菌に水平伝達するのではないか、それが病原バクテリアが耐性を持って困っているのに更に拍車をかけるのではないかということだ。

水平伝達は宝くじに3回連続で当たるより確率が低いと言うが、それでも抗生物質耐性遺伝子の使用は今後5年以内になくす方向である。消費者の心配は、殆どの安全テストを開発企業がやっているという事だ。しかしネブラスカ大学のSteve  Taylor科学技術部部長は、「他に誰がそれをやるでしょうか、費用はどうしますか。私の税金ではやって欲しくないですね。自転車だろうがGMコーンだろうが、製品の安全に責任を持つのはメーカーですよ。」と言う。そうするかどうか監視を続けなければならない。

 

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