ウォールストリートジャーナル 

2002115

スコット・キルマン

シカゴ

訳 森野 俊子

 

バイオ医薬品栽培計画に関する食品業界とバイオ業界の対立

 

合衆国の食品およびバイオテクノロジー業界の間で、医薬品や化学物質を生産するために食料用の作物を遺伝子組み換えする計画をめぐって争いが起こっている。

 

バイオ医薬品栽培(バイオ ファーミングBio-pharming)は、作物バイオテクノロジー部門にとっては次期有望事業として広く考えられている。 作物バイオ部門はいままでは作物をより育てやすくすることに焦点をあててきた。この業界の人々は、現在創始期にある分野が十年先には何十億ドルのビジネスに発展することを期待している。これは発酵工業に比べはるかに安い費用で医学的に重要なたんぱく質をつくるために、植物の力を利用する技術である。

 

しかし、五千億ドル食品産業を擁し政治権力をもつ業界団体は、連邦政府の取り締まり機関に対し、バイオファーミング会社にとって生産をやりにくくするような新規制をつくるよう運動する準備をしている。 いままで、概して作物バイオテクノロジーを支持してきた食品業界は、バイオファーミングビジネスの手から作物を取り上げる運動に消費者をまきこもうとしているようだ。

 

『市民に向え』

「ことによっては消費者に訴えることもできる。」とワシントンDCの全米食品加工業者協会の科学および規制部門の副会長ローナ・アップルバウム氏は述べた。

 

たいていの食品業界重役は、バイオテク会社の農業部門への介入を長らく支持してきた。彼らは、味がよく長持ちし、消費者にアレルギー反応を起こさない作物の出現を期待してきた。

 

しかし、彼らは自分たちの気に入りの作物が他の誰かのために遺伝子組み換えされるのをよしとしない。多くの重役たちは、ワクチン、酵素、抗体やホルモンが偶然自分たちの生産物に紛れ込むことを恐れている。そうなれば費用のかかるリコールへとつながる。彼らは、操作過誤が起こり、医薬品目的に作られた植物の花粉が風で遠くへ運ばれ、食料用として栽培されている近縁作物を受精させることを懸念している。

 

『トウモロコシは肩入れされている』

「われわれは自分たちのトウモロコシこそ確実に保護されるよう要求する。われわれは懸念している。」とペプシコ会社ユニット クエーカーオウツの報道官マーク・ドルキンス氏は語った。この会社はアイオワ州のスィーダーラピッヅに朝食用シリアル工場をもっている。アイオワ州は何百万ドルも払って、州の最大の作物であるトウモロコシを使って生産をするのに関心を示すバイオファーミング会社を誘致している。

 

合衆国農務省は、規制の見直しをしてきたが、バイオファーミング発明者に、試験栽培作物を近縁植物の圃場から一定距離に保っておくこと、彼らの圃場の結実サイクルを近接農場のサイクルと同調せぬようにしておくことを要求している。しかしバイオファーミング実施の地域や使える植物についてはなんの規制もない。

 

アメリカ食品製造業者協会や全米食品加工業者協会などの同業者団体は、バイオテクノロジー業界に対し、タバコのような非食料作物だけから医薬品を作るよう主張している。しかしトウモロコシ、カノーラ、ジャガイモやトマトのような食料となる作物が、多くのバイオファーミング研究者の選択する植物なのである。

 

『医薬品栽培場で』  

北米最大のバイオテク産業団体であるバイオテクノロジー企業連合は、先月下旬和解をしようとした。所属のバイオファーミング会社は合衆国とカナダでおよそ十数社だが、トウモロコシ主要産地であるアイオワ、イリノイ、インディアナ州と、ネブラスカおよび他の5州の一部でトウモロコシを植えるのを避けると約束した。

 

『すべての食料用作物に適用されるわけではない』

しかし、医薬品栽培をしない地帯は食品業界の多くにとって十分広くない。すべての食料用作物にこの協定が適用されるわけではないし、いわば紳士協定のようなものである。さらに、バイオファーミングに関心のある会社の中にはバイオテク企業連合に所属していないところもある。

 

アイオワ州政府役人は、たとえば州最大の作物であるトウモロコシのまわりに建設されるバイオファーミング企業を育てるのにやっきになっている。

 

「われわれは、やはりアイオワ州がバイオテクノロジー産業にとってうってつけの場所であることをあきらかにするだろう。」とアイオワ州政府トーマス・ヴィルサック氏は述べた。ミッドウェスト(合衆国中西部)の経済学者らはバイオファーミングのことを、農家がトウモロコシを栽培してさらに収入を増やすたぐいまれなチャンスだ、とみなしている。

「都会から離れたアイオワのような場所にとって、この賭けは大きい。」とモンタナ州カンザスシテイの連邦準備銀行の経済学者であるマーク・ドゥラベンストット氏は述べた。 さらに彼は、人々にとってこのような経済の好機がやってくることはそう多くはない、と付け加えた。

 

アイオワ州はバイオファーミング産業を育成しようとしているもっとも積極的な州のうちのひとつになった。州は何百万ドルも州立大学での研究につぎこみ、創始企業を誘致するため税金の優遇を設けた。そして、作物から医薬品としてのたんぱく質を抽出するための施設を建設する計画を推し進めている。

 

『メリステム誘致』

アイオワ州の誘致した企業のひとつが、フランスのバイオテクノロジー会社のメリステム セラポイテクスである。この会社は今年、胃液リパーゼを生産するため遺伝子組み換えしたトウモロコシ用に1エーカーの試験栽培を行った。その酵素は嚢胞性線維症によりおこる消化障害を治療するため使われる。

 

アイオワ州ロックウェルシティの農業者であるビル・ホラン氏は、このトウモロコシの試験栽培をしたのだが、この企画が来年もアイオワ州で継続されるかどうかについて言及しようとしなかった。

メリステムは、休戦協定をとりまとめた産業団体、バイオテク企業連合(BIO)のメンバーである。連合の報道官は、メリステムが協定を遵守することを望むと述べたが、この企画についてメリステムの役員のコメントを得ることはできなかった。

 

協定によると、テキサス州カレッジステイションにあるBIOの手堅いメンバーのプロディジーン社は、ネブラスカ州のひとつの郡から遺伝子組み換えされた何百エーカーものトウモロコシを移さねばならぬだろう、と最高責任者であるアントニー・ラオス氏は述べた。

 

そのトウモロコシは膵臓でつくられるたんぱく質であるトリプシンをつくるために遺伝子操作されている。製薬会社はそのたんぱく質をほかでもないインシュリンを合成するために使う。

 

産業団体のモラトリアムはどのくらいの期間続くか、という意味では期間限定がない。しかし、ラオス氏は一年間協定を守り、そのあと再考するつもりだ、と述べた。彼はまたトウモロコシを使い続けることに関しては徹底している。トウモロコシはもっとも遺伝子組み換えしやすい植物のひとつで、手軽な貯蔵庫として種子の中に素晴らしいたんぱく質を作る点で優れている、と彼は言う。

「われわれはやや譲歩したが、私はこれからも戦っていくつもりだ。」と最高責任者は述べた。

 

 注意:合衆国法典第17107項により、当資料は研究および教育目的に限り配信される。

最終更新日  2002115

Eメールアドレス:information@biotech-info.net

 

 

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