水平遺伝子伝達−遺伝子工学の隠れた危険
メイ・ワン・ホー
2000年8月18日
要約 山田勝巳
この論文はSCOPEのウェブサイトでも見られます。SCOPEは、NSF基金による研究プロジェクトで、サイエンス誌とカリフォルニア大学・バークレィ校とワシントン大学のシアトル校のグループが行ったものです。
遺伝子工学は種の壁を越えてゲノムに侵略するための人工的遺伝子を作る。 つまり、類縁関係にない種に遺伝物質を直接運び込む遺伝子の水平伝達を起こしやすくする。 人工遺伝子又は組み換えDNAは、感染症の治療を不可能にしてしまう抗生物質耐性遺伝子や、病気を起こすバクテリアやウィルス、その他のプラスミドを持っている。 組み換えDNAの水平伝達は、病気を引き起こしたり、薬や抗生物質耐性遺伝子をばらまく新種のウィルスやバクテリアを作り出す可能性を持っている。 早急に有効な管理体制を作り、これらの危険な生成物を環境に放したり、逃げ出したりしないようにし、極めて危険な実験を継続すべきかどうかを判断する必要がある。
用語: 抗生物質耐性遺伝子, 休止ウィルス, CaMV プロモーター、ガン、むきだしのDNA、組み換えDNA
組み換え花粉とミツバチの子
イェナ大学のハンス・ハインリッヒ・カーツ教授は、組み換え植物に挿入された遺伝子は花粉を介してミツバチの幼虫の腸内バクテリアと酵母に伝達したという未発表の新たな証拠があると報告している(1)。
もしカーツ教授の主張が実証されれば、GM作物やGM生物に導入された遺伝子や遺伝子構造物は、近縁種との花粉交雑や交配によるものだけでなく、組み換え体を食べる動物の腸内に住む全く関係のない微生物のゲノムに人工遺伝子構造物が侵入して拡がることを意味する。
この発見は予見されていたことである。 この可能性に注意を喚起していた研究者達がいる(2)が、この警告は実は、遺伝子操作が始まった1970年代中期に遡ってあったのである。 世界中の何百人もの科学者が、安全性(3)と水平伝達を主要な検討項目の一つとして、組換え体生物を環境に放つのを禁止するよう求めている。
我々の中には、関係のない種への水平遺伝子伝達は、遺伝子操作に本質的なものだと主張するものもいる(4)。 遺伝子操作で作る遺伝子や遺伝子構造物は何十億年という進化に存在しなかったものだ。 それはバクテリア、ウィルスその他病気を起こしたり薬剤や抗生物質に耐性のある遺伝子を広めるプラスミドなどからの遺伝物質で成り立っているものだ。 全ての種の壁を越えてゲノムを侵略するように設計されたものである。 このような遺伝子が拡がれば、感染症の治療法が無くなり、病気を起こす新たなウィルスやバクテリアを造り出す可能性がある。
水平遺伝子伝達は全生命圏に拡散するだろう
水平遺伝子伝達は、新たな遺伝物質を関係のない種の細胞やゲノムに生殖以外のプロセスで持ち込むものだ。 一般的生殖のプロセスでは、両親から子孫へ垂直に遺伝子が伝達されるもので種内若しくは近縁種の間で起こる。
バクテリアは、自然状態で種の壁を越えて遺伝子を交換することが知られている。 これには3種類のやり方がある。
接合(conjugation)では遺伝物質は接触した細胞間でやりとりされる。
形質導入(transduction)では、遺伝物質は感染性のウィルスによって細胞から細胞へ移される。
形質転換(transformation)では遺伝物質が環境から直接細胞に取り込まれる。
水平遺伝子伝達が上手くゆくためには、外来遺伝物質は、細胞のゲノムに入り込むか、別の形で受け入れ細胞の中に安定して保持されるようにならなければならない。 殆どの場合、外来遺伝物質は、別の種である場合は特に 偶然細胞に入り込むことが多く、ゲノムに入り込む前に破壊される。 まだよく理解されていない特殊な条件の時に、外来遺伝物質は破壊を免れ、ゲノムに組み込まれる。 例えば、熱ショックとか重金属のような汚染物質は水平遺伝子伝達に貢献し、抗生物質があると水平遺伝子伝達は10−10000倍起こりやすくなる(5)。
バクテリアでよく知られた水平遺伝子伝達も、植物や動物で認識されるようになったのは、ここ10年ほどである(6)。 水平遺伝子伝達の範囲は基本的に全生命圏に及び、バクテリアとウィルスは遺伝子運搬を仲介すると同時に遺伝子の増殖と組み換え(遺伝物質の組み合わせを変えるプロセス)の受け皿の働きをする(7)。
植物と動物への水平遺伝子伝達の起き方には色々なルートが考えられる。 多くのウィルスは植物や動物に感染するので形質導入が主なルートになるだろう。 遺伝子治療の最近の研究では、形質転換が人を含む哺乳類の細胞にとって非常に重要な可能性を持っていることを示している。 裸の遺伝物質は、その多くが全ての細胞種で液体として目に入ったり、皮膚に注射や擦り込まれたり、吸い込んだり飲み込んだりして簡単に取り込まれる。 殆どの場合、外来遺伝子構造物はゲノムに組み込まれる(8)。
直接の形質転換は、保護する細胞壁のある植物にとってはそれほど重要でないかもしれない。 しかし、アグロバクテリウム属の土壌菌の場合、腫瘍誘発(Ti)プラスミド(後述)のT‐DNA断片を接合と似たプロセスで植物細胞に移すことが出来る。このT-DNAは、植物の遺伝子操作(後述)では盛んに利用されている。 外来遺伝物質は植物や動物の細胞に昆虫や節足動物の鋭いくちばしでも導入できる。 更に、植物や動物の細胞に入る病原性バクテリアは、細胞に運び込まれる遺伝物質を取り込み、水平遺伝子伝達のベクターの役割をする可能性がある(9)。 外来遺伝物質が、地上の恐らくどの種の細胞にも入り込むのを防ぐ障壁は無いだろう。 最も重要な水平遺伝子伝達の障壁は、外来遺伝物質が細胞に入ってから活動を発揮する(10)。
一般的食品に含まれるような殆どの外来遺伝物質は、分解されてエネルギーや成長や修復の素材になる。 外来遺伝物質を分解する沢山の酵素があり、ゲノムに入り込んだ場合でも、化学修飾が活動を抑えて働きを排除する。
しかし、ウィルスやその他のプラスミドやトランスポゾンのような遺伝的寄生体は、特殊な遺伝信号や恐らく全体の構造によって分解を免れるようになっている。 遺伝物質で構成されるウィルスは、一般的に外皮蛋白質で覆われている。 細胞に入る時にこのオーバーコートを脱ぎ、自身のコピーを沢山作るために細胞をハイジャックするか、細胞のゲノムに直接飛び込む。
プラスミドは通常リング状の裸の遺伝物質で、細胞のゲノムとは独立して無制限に細胞に保持される。トランスポソン、又は「ジャンピング遺伝子」は、遺伝物質の固まりで、ゲノムにジャンプして出入りでき、その過程で増殖したりしなかったりする。プラスミドにも入り、そこで伝播することもできる。 ウィルス、プラスミド、トランスポゾン等遺伝的寄生体でヒッチハイクする遺伝子は、当然細胞やゲノムに上手く持ち込まれる可能性が高い。
遺伝的寄生体は水平遺伝子伝達のベクターである。
自然界の遺伝的寄生体は種の壁で制限を受ける。 だから、例えば豚のウィルスは豚に感染するけれども人間には感染しないし、カリフラワーウィルスは、トマトを攻撃しない。 宿主を特定するのはウィルスの外皮蛋白質で、それが裸のウィルスゲノム(コートをはぎ取った遺伝物質)が、無傷のウィルスよりも一般的に宿主の幅が広い理由である(11)。 同様に、別個のプラスミドやトランスポゾンを伝搬する信号も、例外もあるが、通常限定された範囲の宿主に特殊化している。
沢山のゲノム配列が明らかになるにつれて、遺伝子のやりとり、又は水平遺伝子伝達が全ての種の進化で重要な役割を果たしてきたことが明らかになってきている(12)。 しかし、水平遺伝子伝達が生態学的条件に対応して生物の内部抑制でコントロールされていることも明らかである(13)。
遺伝子操作は、コントロールなしの水平遺伝子伝達である
遺伝子工学は、全ての種の遺伝物質を分離したり、合成したりして、その構造を実験室でバクテリアやウィルスを使って培養し増殖するのに使われる実験室技術の総称である。 何よりも、この技術は、自然では決して交配が起こり得ない種間で遺伝物質の移動を可能にするものである。 これが、人間の遺伝子を豚や、羊、魚、バクテリアに入れたり、蜘蛛の糸の遺伝子を山羊に入れる方法である。 全く新しい、外来の遺伝子が食品や他の作物に導入されている。
遺伝子の移行や保持を制限している種の壁を克服するために、遺伝子工学研究者は非常に沢山の人工的ベクター(遺伝子の運び屋)を、色んな所からのウィルス、プラスミド、感染性の強いトランスポゾンのベクターの部分を合成して造り出した。これら人工的ベクターは、一般的に病害発生機能を取り除かれるか不活性化して、多くの種の壁を越えるように設計され、例えば、この同じベクターに人の遺伝子を組み込んで他の全ての哺乳動物とか植物に挿入出来るようになる。人工的ベクターは、水平遺伝子伝達を甚だしく強化する(14)。
人工ベクターは水平遺伝子伝達を増強する。
a.. 人工ベクターは、最も効率的に水平遺伝子伝達を媒介する自然界の遺伝的寄生体から得られている。
b.. 人工ベクターのキメラ的性質は、病原性ウィルスや界を越えた多くの種のプラスミドやトランスポゾンのDNAと相同配列を持っていることを意味する。従って広範な水平遺伝子伝達や再組み換えを容易にする。
c.. 恒常的に抗生物質耐性マーカー遺伝子を内包しているため、抗生物質が、故意に用いたり環境中に生体異物としてあったりすると、水平伝達の成功を助ける。 抗生物質は水平伝達を10−10,000倍助長することが知られている。
d.. 人工ベクターは、運び込まれた細胞の中で水平遺伝子伝達や保持を容易にする「複製開始点」や「転移配列」信号を持っていることが多い。
e.. キメラ的ベクターは構造的に不安定であることは良く知られている。つまり、壊れたり不正に合したり他のDNAとくっついたりする傾向があり、これが水平伝達や再組み換えの傾向を強める。
f.. 人工ベクターは、ゲノムに侵入するように、外来DNAを分解したり不活化する機構を克服するように設計されているため、水平伝達の可能性を高めている。
人工遺伝子は実質的には全部がキメラで、色々な種のバクテリア、動物、植物の遺伝的寄生体から得られた遺伝物質で構成されている。 重要なキメラであるシャトル・ベクターは、遺伝子を大腸菌で増殖出来るようにして植物界、動物界の全ての種に遺伝物質を伝達することが出来る。
遺伝子工学は、沢山の種類の見境のない遺伝子搬送ベクターを造り出しただけで、これまで厳しく規制され、狭隘で僅かなアクセスしかなかったプロセスに、効果的に水平遺伝子伝達と組み換えのための高速道路を開いてしまった。 これらの遺伝子搬送ハイウェイは、大腸菌という遺伝子工学で使われる共通の混合機を通して微生物群と全ての生物界の種をつなげる。 更に悪いことには、殆どの人工ベクターやその他の人工遺伝子を環境に放したり逃がしたりしないようにする法律が未だどこの国にも現在ないということだ(15)。
水平遺伝子伝達の危被害とは?
殆どの人工ベクターにはウィルスかウィルスの遺伝子があり、種の壁を越えてゲノムに侵入するように設計されている。 そして他のウィルスの遺伝物質と組み換えを起こして、種の壁を越えられる新種の感染性ウィルスを発生させる能力がある。 そのようなウィルスが恐ろしい頻度で発生してきている。 人工ベクターによって運ばれる抗生物質耐性遺伝子もまた病原バクテリアを拡散しうる。 商業規模の遺伝子工学は、ここ25年間の薬剤や抗生物質感染症の復活の原因なのか? 既に水平遺伝子伝達と組み換えが新種のウィルスや病原菌を造り出し、かつ薬剤や抗生物質耐性を病原菌に広めたという動かし難い証拠がある。 新種の病原性ウィルスを生み出す可能性の一つに、全てのゲノムや植物、動物に例外なくある休止していたり、不活性な又は不活化したウィルス性遺伝物質が、組み換えによって活性化出来る事がある。 外来ウィルス、常在ウィルス、休止ウィルス間の組み換えは、多くの動物の癌に関わっている(17)。
前述のように、人類を含む全ての種の細胞は、外来遺伝物質を取り込める。 ゲノムに侵入するように設計された人工遺伝子は、人間にも当然侵入する。 これらの挿入が遺伝子の不適切な不活化や活性化をもたらし(挿入突然変異)、その中には癌に繋がるものもあり得る(挿入発ガン性)(18)。 水平遺伝子伝達の危被害を、表2にまとめた。(表 2略)
遺伝子操作による水平遺伝子伝達の危険性
a.. 新種の種間病原ウィルスの生成
b.. 新種の病原バクテリアの生成
c.. ウィルス性、バクテリア性病原体への薬剤及び抗生物質耐性遺伝子の伝搬による感染症治療の不可能化
d.. 細胞のゲノムにでたらめに挿入されて癌など有害な影響を起こす
e.. 全ての細胞やゲノムにある休止ウィルスを活性化して病気を起こす
f.. これまで存在しなかった新種の遺伝子や遺伝構造をばらまく
g.. これら全てが生態系へ複合的に影響する。
組み換えDNAは、非組み換えDNAよりも水平伝達しやすいだろう
遺伝子工学で使われる人工ベクターと組換え体を作るための遺伝子転送は、病気と関係のあるウィルスやバクテリアからのものが殆どで、何十億年もの進化で存在しなかった組み合わせでこれらを組み上げている。
遺伝子は決して単独では組み込まれない。 「発現カセット」と呼ばれる組み合わせて組み込まれる。 各遺伝子は、プロモーターという細胞に遺伝子をオンする、つまりDNA遺伝子配列をRNAに転写する信号を出す特殊な遺伝物質が連結していなければならない。 遺伝子の最後には、別の「ターミネーター」という転写を終了し、RNAにマークを付けて、更にプロセスを進め蛋白質に翻訳されて行くようにする信号がなければならない。 最も簡単なカセットは、このようなものだ:
プロモーター ・遺伝子・ ターミネーター
通常、各構成要素:プロモーター、遺伝子、ターミネーターは皆別のものからもって来る。 遺伝子自体が色々なものからの組み合わせであることもある。 最終的には、いくつかの発現カセットが繋がって、又は積み上げられているのが普通である。 発現カセットの少なくとも一つは抗生物質耐性マーカー遺伝子で外来遺伝子を取り込んだ細胞が抗生物質で選び出せるようになっている。 抗生物質耐性遺伝子カセットは、組み換え体の中に残ることが多い。
最も一般的プロモーターは、重病と関係のあるウィルスからのものである。 理由は、そのようなウィルス性プロモーターは、その影響下にある遺伝子を継続的に過剰発現させるためだ。 同じ基本構造が農業でも医療でも全ての遺伝子工学に応用されており、同じ危被害がある。 組み換えDNAは、生物自体のDNAよりも水平に拡がりやすいという信じるに足る理由がある(19)。
DNA 組み換えDNAが非組み換えDNAよりも水平に拡がりやすいと疑われる理由
a.. 人口構造やベクターは、異種ゲノムに侵入し種の壁を克服するように設計されている。
b.. 全ての人工遺伝子構造は、構造的に不安定(20)なので、組み換えや水平伝達しやすい。
c.. 外来遺伝子がゲノムに入りやすい仕組みは、同時に飛び出したり、別の位置に再侵入したり、別のゲノムに侵入したりを可能にする。
d.. 遺伝子を運ぶ最も一般的に使われる人工ベクターの組み込み位置は、「組み換えホットスポット」で、水平伝達の傾向が強い。
e.. ウィルス性プロモーター(カリフラワーモザイクウィルスのような)は、組み込み遺伝子が過剰発現するように広く使われており、組み換え「ホットスポット」を持っている(21)ので、更に水平遺伝子伝達を起こしやすい。
f.. 組み込み遺伝子の 持続的過剰発現のため、宿主生物に代謝ストレスが起き、これが挿入部の不安定性の原因になることが考えられる(22)。
g.. 外来遺伝子とそれを挿入したベクターは、通常様々な種とそれらの遺伝的寄生体のつぎはぎDNA配列である。 これは、多くの種とその遺伝寄生体の遺伝物質と相同配列を持っていることを意味し、これが広範な水平遺伝子伝達と組み換えを容易にする。
ウィルスプロモーターによる他の危害
我々は、農業で最も広く使われているカリフラワーモザイク・ウィルス(CaMV)プロモーターにまつわる別の危害について注意を喚起している(23)。 既に商業化されたものや野外試験を行っているもの、悪名高い「ゴールデン・ライス」を含めて開発中のかなりのものに使われている(24)。
CaMVは、B型肝炎ウィルスと極めて近く、エイズのようなレトロウィルスとも近い(25)。 このウィルスは自然状態では、カンラン科のものにしか感染しないが、プロモーターの機能としては無差別で、全ての高等植物、藻類、酵母、大腸菌で活性があり(26)、カエルや人間の細胞組織でも同様である(27)。 全てのウィルスや細胞の遺伝子プロモーターのように、他の植物や動物のウィルスプロモーターと共通な交換し合える部品で組み上がったユニット構造をしている。 組み換え植物を作るのに最も多く使われるアグロバクテリウムT‐DNAベクターとの境界部分の組み換えホットスポットと似た、複数の組み換え修飾と隣り合わせに組み換えホットスポットがある。 組み換えのメカニズムには、殆ど又は全くDNAとの相同性が要らないようだ。 組み換え植物の一部であるウィルス性遺伝子は、感染性のウィルスと組み換えを起こし新種のウィルスを作ることが発見されている(28)。 この組み換えウィルスは、その元のウィルスよりも感染力が強いものもある。
プロウィルスの配列(通常ウィルスゲノムの不活性なコピー)は、全ての植物や動物のゲノムに存在する。 そして、全てのウィルスプロモーターは、組立ユニットで少なくともTATAボックスは共通にある。 組み換え遺伝子のCaMV35Sプロモーターが、組み換えによって休止していたウィルスを活性化したり、新種のウィルスを発生することは考えられないことではない。 CaMV35Sプロモーターは、広範なウィルスゲノムのコピーやラボで作られた感染性のウィルスに人工的に組み付けられてきている(29)。 また、ゲノム中のプロウィルス配列が再活性化できるという証拠もある(30)。
これらのことは最近の発見でCaMV35SプロモーターとアグロバクテリウムT-DNAで組み換えられたGMポテトが若いラットに害があるということと特に関係があり、「構造又は遺伝子組み換え(又は両方の)(35)」影響がかなりあるのではないかと思われる。 執筆者達は、ウィルス感染の非特異的兆候である腸壁へのリンパ球の増加も報告している(32)。
組み換えDNAに於ける水平伝達の証拠
組み換えDNAは、一度組み込まれたら、本来のDNAのように生物の中で安定であるということはしばしば言われるが、この仮定には直接、間接にそうでないという証拠がある。 組み換えDNAは、より拡散しやすく水平遺伝子伝達で拡がることが分かっている。
組み換え株は不安定で増殖も忠実でないことで有名である(33)。 連続した世代でゲノムへの組み込み位置や遺伝子の配列に関する組み換えDNAの構造的安定性を記述した分子データは僅かしかない。 それどころか、組み換え遺伝子は後の世代で休止したり、完全に失われる可能性がある(34)。
ベクターを使ってアラビドプシス(シロイヌナズナ)に挿入された除草剤耐性遺伝子は、突然変異で得られた同じ遺伝子よりも最大30倍逃げ出して拡散することが発見されている(35)。 これが起こりうる理由の一つとして考えられるのは、花粉や蜜を求めて訪れる昆虫による二次的水平遺伝子伝達である(36)。 組み換えDNAが花粉によって蜂の幼虫の腸内細菌に見つかった報告がこれに関係している。
GM作物の組み換え遺伝子と抗生物質耐性マーカー遺伝子が、土壌菌や糸状菌へ二次的に水平伝達するというのは実験室で確認されている。 糸状菌への伝達は、同時培養で簡単に出来た(37)。 細菌への伝達は、再分離(re-isolated)組み換えDNAと組み換え植物全DNAで成功している(38)。 カナマイシン耐性マーカー遺伝子のアシネトバクター土壌菌への伝達は、Solanum
tuberosum (ジャガイモ), Nicotiana tabacum (タバコ), Beta vulgaris (砂糖大根), Brassica
napus (ナタネ) そしてLycopersicon esculentum (トマト) (39)等組み換え植物の葉のジュースから抽出した全DNAを用いて成功している。 植物DNAは、その600万倍以上の存在するにも関わらず、カナマイシン耐性遺伝子は約2500コピー(同じ数の植物細胞から)あれば一個のバクテリアを形質変換するのに十分だと推定されている。 例えば2.5兆個の細胞からなる植物1本があれば、10億のバクテリアを形質変換できることになる。
誤解を招くような表題を付けた出版物(40)だが、その中で最適環境では受け入れバクテリア一個当たり5.8X10−2の高頻度で遺伝子伝達が起こることが示されている。 筆者達は、各要素が独自に作用したと仮定して「自然状態」を類推した場合、最も低い伝達頻度は2.0X10−17と算出している。 しかし、自然状態は、殆ど分かっていないし予測できないし、著者の認めるところでは、相乗効果が無視できない。 フリーな組み換えDNAは植物根の根圏に溢れており、ここは遺伝子伝達の「環境ホットスポット」でもある(41)。 別の研究者はアシネトバクターの組み換えDNAのカナマイシン耐性が水平伝達した証拠を発見しており、当該植物の葉のジュースのほんの100μリットルを使って陽性の結果が得られている(42)。
バイテク産業の擁護者は、実験室で水平遺伝子伝達が起こったからといって自然界で起こるとは限らないと主張している。 だが、自然界でも起こっているのではないかという証拠が既にある。 まず、死んだ細胞や生きた細胞から放出される遺伝物質は、全ての環境で生き残り、これまで想像していたほど急速には分解しないことが発見されている。 粘土や砂、フミン酸粒子などに付着し、広範な土壌微生物に感染(組み換え)力を保持している(43)。粘土や砂、フミン酸などに吸着したDNAによる土壌菌の組み換えは、微生物界(microcosm)実験で確認されている(44)。
ドイツの研究者は1993年に、カナマイシン耐性マーカー遺伝子を組み込んだリゾマニア耐性の組み換え砂糖大根(beta
vulgaris)の一般栽培で、組み換えDNAの生存性と土壌菌への組み換えDNAの水平遺伝子伝達を調べる一連の実験を開始した(45)。 このような実験は、何万という栽培許可や何千万ヘクタールも組み換え作物で栽培されてから初めてだ。この実験で発見されることは、詳しく調べるに値する。
組み換えDNAは、組み換え作物が植えられてから2年土壌に生存することが発見されている。 コメントはしていないが、データでは、土壌中のカナマイシン耐性バクテリアの割合は1.5−2年の間に有意に増えている。 これは組み換えDNA中の抗生物質耐性マーカー遺伝子が水平伝達したものによるのだろうか。 単離した4000(数は少ないが)の土壌菌コロニーには、使ったプローブでは組み換えDNAを取り込んだかどうか分かっていないが、7検体の全バクテリアDNA中2検体で18ヶ月後に陽性になっている。 この意味するところは、水平遺伝子伝達が起こったかも知れないが、組み換えDNAを取り込んだ特定のバクテリアをコロニーとして単離出来なかったということになる。 土壌菌の1%以下しか培養できないことを考えるとこれは驚くに当たらない。 著者は、DNAがバクテリアに挿入されたのではなくバクテリアの表面に吸着された可能性を否定していない。
また、全組み換え砂糖大根DNAを殺菌していない自然な微生物のいる土壌に添加する微生物圏実験も行っている。組み換えDNAの信号強度は、最初数日は低下したがその後上昇している。 これは、組み換えDNAがバクテリアによって取り込まれ、その結果増殖したことを示すものと解釈できる。
これと並行して、サンプル土壌を塗って全バクテリア壌地(lawn)を4日間生育させ、その後DNAを抽出している。陽性信号が何点か得られ、「受容能力のあるバクテリアが組み換えDNAを取り込んだ可能性を示す。」
執筆者達は、組み換えDNA配列を持つ特定のバクテリアを単離出来なかったというだけで結論を出すことに慎重である。 だが、結果は明らかに水平遺伝子伝達は圃場でも土壌圏でも起こった可能性を示している。
DNAは腸内でも急速には分解しないから、蜂の幼虫の組み換えDNAが腸内細菌に移ったとしても不思議ではない。 組み換えプラスミドは人の唾液中で60分後に6−25%生存することが分かっている。 部分的に分解したプラスミドのDNAは、人の口や喉に常在するバクテリアの一つ、ストレプトコッカス・ゴルドニを組み換えできる。
組み換え頻度は、唾液への暴露時間に対し相乗的に減っていったが、10分後でも検出されている。 実は、人の唾液には、常在菌がDNAで変換される性質を促進する因子を持っている(46)。
ウィルスDNAをネズミに与えると、腸壁を経由して白血球、脾臓、肝臓細胞に到達し、ネズミの細胞ゲノムの一部になることが発見されている(47)。 妊娠中のマウスに与えると、ウィルスDNAは胎児の細胞や新生児の細胞に到達しており、胎盤を通過することを示している(48)。 「外来DNAを取り込むことによる突然変異や発ガン性への影響は調査していない。」と述べている(49)。 既に述べたように、細菌の遺伝子治療の実験では裸の核酸構造は哺乳動物の細胞に簡単に入り込み、多くの場合細胞のゲノムに組み込まれる。
結論
水平遺伝子伝達は、立証された現象である。 これまでの進化の過程で起こったことであり、現在も続いている。自然に起こる水平遺伝子伝達は、制御されたプロセスで、種の壁で分解し不活化するメカニズムで制限されていることを示している。 残念ながら、遺伝子工学は種の壁を越え基本的に全てのゲノムに侵入するように設計された膨大な人工遺伝子構造を造り出してしまった。 基本構造は全ての応用で共通しているが、組み換え体を隔離使用しているところの廃棄物から最も危険なものが発生するかも知れない(50)。 これらは癌や癌治療薬を研究するラボからのウィルスや細胞の癌遺伝子や、病理学実験室のバクテリアやウィルスからの猛毒遺伝子などが含まれる。 要するに、生命圏は、これまで存在しなかった、そして遺伝子工学でなければ存在し得ない色々な種類の新種の構造物や遺伝子の組み合わせに曝されているということである。
最初の段階で、これらの危険な人工遺伝子が環境中に放たれないようにする有効な監視規制を設置することが緊急に求められており、非常に危険な部類の実験は今後も続けられるべきかどうか検討されなければならない。