ISISレポート
2002年6月7日
訳 山田勝巳
水平遺伝子伝達を否定し続ける学会
フィールド・オブ・ゴールドというGM作物の健康リスクを扱ったBBCのドラマが、学会の中枢から一斉に非難中傷を浴びている。 何故か? それは、禁句の水平伝達を敢えて言及しているからだ。 このドラマでは、抗生物質耐性遺伝子が種の壁を越えて作物から動物、人間へと飛び移って”スーパーバグ(超細菌)”の発生につながることを示唆している。これは水平遺伝子伝達、遺伝子が種の壁を越えることを示すためGM作物推進者のタブーになっている。メイ・ワン・ホー博士は、間違いなく起こっていることだという。
フィールド・オブ・ゴールドは土曜と日曜(6月8・9日)9.05pmからBBC1で放送される。
GM作物に関する議論では、「水平遺伝子伝達」は「世界を養う」ほど簡単に口をついては出てこない。しかし、GM作物がもたらすものの損益バランスとなると前者の方に重く秤が傾く。 GM作物がないから飢えているということには間違ってもならないが、水平遺伝子伝達の場合は確実に死をもたらす。そして、GM作物が世界を養えるという証拠よりも遥かに多く水平遺伝子伝達が起こるという証拠がある。
遺伝子組み換え自体が人手による水平遺伝子伝達に他ならない。それも、手を加えなくても起こることを。それを否定する証拠を探すのは容易でなく、我々がその容易でないことをわざわざ証拠を集めて挙げているのにそれを否定したり、言い逃れをするのに懸命になっている。
例えば、実験室の実験では一連のGM作物から単離されたDNAが、抗生物質耐性マーカー遺伝子を土壌菌に伝達することを明らかにしている。〔7〕。これまで行われた唯一の野外試験では、GM作物が収穫された後2年間組み換えDNAが土に残存することが分かっている。土壌バクテリアの培養で、当のバクテリア株が単離できないのに組み換えDNAの一部が見つかっている。 バクテリアの1%以下しか培養できないことを考えれば当然ではあるが〔8〕。土壌圏実験では、土壌に添加された組み換えDNAは、土壌菌に取り込まれていることも分かっている。その他の研究では、GM花粉や埃が人間を含む動物の口にいる細菌に伝達する可能性も示唆している〔9・10〕。
このことやこれに類する発見は、伝達を肯定する結果を遠回しに避けるような「慎重な」解釈によって無視され、排除され続けてきている。
動物の細胞は組み換えDNAを取り込むのか? ドイツ、ケルンのコロン大学遺伝学研究所の研究チームが、摂取した食べ物のDNAの行方に初めて注目した。彼らは、細菌ウィルスM13,つまりプラスミドに組み込まれた緑蛍光蛋白質のクローン遺伝子DNAをマウスに与えた。 その結果、DNAの大きな断片が腸壁を通して内容物の中に、パイヤー斑に、白血球に、脾臓と肝臓に検出できた。 妊娠中のマウスに与えた場合、このDNAは胎盤を通って胎児と新生児に検出された。
最近の実験では〔11〕、大豆の葉から取った大豆DNAを人のサイトメガロウィルスのウィルスプロモーターやシミアンウィルス(SV40)、ラウス肉腫ウィルス(RSV)に緑色蛍光蛋白をつなげた組み換えプラスミドDNA(GFP-DNA)と比較し、最終的にどうなるかを調べてみた。大豆DNAは、植物特有の核内遺伝子にあるリブロース−1,5−二燐酸カルボキシラーゼ(ルビスコ)遺伝子の有無を検出しながら追跡した。
植物遺伝子又はその断片は、腸内では給餌後2時間から49時間、盲腸では摂取後最高121時間まで認められた。 このように植物由来の自然な形で与えられたDNAは裸のDNAよりも消化器系内では安定している。全部で37匹の大豆の葉を与えられたマウスで、肝臓と脾臓からのDNAにルビスコDNAがあるかを調べた。2匹から3つの臓器にこのDNAが見つかっている。
しかし、組み換えGFP−DNAを持つプラスミドをマウスに与える実験では、3−8時間後に 肝臓、脾臓、腎臓、血液、腸壁にかなり高い割合でDNAがあった。 その数は、少ない方から16匹の中3匹から、8匹中5匹まであり、全8回の実験では87匹の内28匹に組換えDNAがあった。
この研究者は、ルビスコ遺伝子が6x10の8乗 コピーであるのに対し、組み換えDNAは10の13 乗コピーに匹敵する50マイクログラムとかなり大量に与えられている事を指摘しているが、実際には植物由来のDNAは安定しており分解せずに腸内に長く残っていた。
筋肉に注射した場合は、緑色蛍光蛋白DNAの断片は17ヶ月後もPCRで増幅することができ、注射した位置から離れた内臓のDNAでは24時間後まで、腸の内容物では6時間後まで検出できた。 これは、つまり組み換えDNAが体を循環するということを意味する。
彼らは何故組み換え植物の成分をマウスに給餌して植物遺伝子と組み換え遺伝子を調べるという簡単明瞭な実験をやらなかったのだろうか? おそらく、どのバイテク企業もそのような実験に対してはは組み換え植物成分を提供しないだろう。本当は、この簡単明瞭な実験を避けることで否定し続けることができるからだろう。証拠がないのは、事実じゃないということか。
この細菌の実験で唯一慰められるのは、何日も連続して組み換え緑色蛍光蛋白DNAを8代にわたって与えられたマウスが組み換えマウスにならなかったことだろう。つまり摂取したDNAでは生殖細胞系列DNAへの伝達はないということだ。自分は別として、まだ産まれぬ子供は大丈夫ということだ。
参考文献 * 印はISISで販売している。問い合わせは: sam@i-sis.org.uk
1.. Ho MW, Traavik T, Olsvik R, Tappeser B, Howard V, von Weizsacker C,
McGavin G.
Gene technology and gene ecology of infectious
diseases. Microb.E.col. Health
Dis. 1998, 10, 33-59.*
2.. Ho MW. Genetic Engineering Dream or Nightmare?
Gateway, Gill & Macmillan, Dublin, 1998, (2nd ed.)1999.
3.. Traavik T. Too early may be too late. Ecological risks associated
with the use
of naked DNA as a biological tool for research,
production and
therapy. Research report for Directorate for Nature
Management, Norway,1999.
4.. Ho MW. Horizontal Gene Transfer. The Hidden
Hazards of Genetic Engineering, TWN Biotechnology Series, Third World Network, 2001.
*
5.. Ho MW, Ryan A. Cummins J. and Traavik T.
Slipping Through the Regulatory Net: ‘Naked’ and ‘Free’ Nucleic Acids, TWN
Biotechnology Series, Third World Network, 2001.*
6.. Ho MW and Ryan A. Horizontal Gene Transfer, ISIS
Reprints, March 2001, Institute of Science in Society, London.*
7.. De Vries, J., and Wackernagel, W. (1998)
Detection of nptII (kanamycin resistance) genes in genomes of transgenic plants
by marker-rescue transformation. Mol. Gen. Genet. 257: 606-613.
8.. Gebhard, F., and Smalla, K. (1999) Monitoring
field releases of genetically modified sugar beets for persistence of
transgenic plant DNA and horizontal gene transfer. FEMS Microbiol. Ecol. 28: 261-272.
9.. Mercer DK, Scott KP, Bruce-Johnson WA, Glover LA and Flint JH. Fate
of
free DNA and transformation
of the oral bacterium Streptococcus gordonii DL1 by plasmid DNA in human
saliva. Applied and Environmental Microbiology 1999,65, 6-10.
10.. Duggan PS, Chambers PA, Heritage J and Forbes JM Survival of free
DNA
encoding antibiotic
resistance from transgenic maize and the transformation activity of DNA in
ovine saliva, ovine rumen fluid and silage effluent. FEMSMicrobiology Letters 2000,
191, 71-7.
11.. Hohlweg U. and Doerfler W. On the fate of plant
or other foreign genes upon the uptake in food or after intramuscular injection
in mice. Mol Genet Genomics 2001, 265, 225-33.\par