遺伝子の水平遺伝子伝達は起こるU
The Institute of Science in Society
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メイ・ワン・ホー
訳 山田勝己
水平遺伝子伝達の証拠が蓄積されてきている。メイ・ワン・ホーが最近の科学論文を検証する。
(論文1)
組み換えトウモロコシの抗生物質耐性遺伝子を持つDNAの生存及び羊のだ液、胃液そしてサイレージ漏出液中のDNAの形質変換活性 (Duggan PS, Chambers
PA,Heritage J and Forbes JM. FEMS Microbiology Letters 2000, 191, 71-7.)
害虫耐性トウモロコシCG00526-176系はバクテリアの遺伝子を3つ持っている。 cry1A(b)(鱗翅目用殺虫遺伝子)、bar遺伝子(グルフォシネート耐性遺伝子)、bla遺伝子(TEM-1β−ラクタマーゼ(アンピシリン耐性)遺伝子)の3つである。 bla遺伝子はクローンを作る大腸菌ベクターPUC18からのものでトウモロコシでは発現しないがバクテリアを制御する配列をもち、バクテリア細胞内に戻されると働き始める。 トウモロコシCG526-176系のDNAにはcry1A(b)とbla遺伝子は少なくとも2セットずつ組み込まれている。
研究者が研究したのは、唾液、胃液、サイレージの漏出液中で組み換えトウモロコシのDNAが生き残るかという事と、抗生物質耐性bla遺伝子がバクテリアに転移するかということで、共に口腔内、胃液中、サイレージ液中での遺伝子の水平伝達と関係がある。
水平伝達に用いられた検定微生物は大腸菌DH5α株である。 DNAの分解後ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)とゲル電気泳動法を行った。 これにはPUC18プラスミドと組み換えトウモロコシ遺伝子が試料として用いられた。
ゲル電気泳動法で見るとプラスミドDNAとトウモロコシDNAは共に胃液とサイレージ漏出液内で1分以内に急速に分解したが、唾液中では少なくとも1時間経過しても完全には分解しなかった。
PCR解析において、胃液中ではbla遺伝子の大きな破片(>350bp)が依然見られ、プラスミドは30分まで、トウモロコシDNAは1分まで見られた。 プラスミドとトウモロコシDNAのさらに大きな破片(>350
及び >684 bp)は、サイレージ漏出液での培養では30分まで見られ、唾液中ではそれぞれ24時間と2時間迄見られた。
PCR解析では更に、トウモロコシDNA中のcry11A(b)の破片(>1914bp)
が、胃液中では1分、サイレージ漏出液中では5分、唾液中では60分間見られた。
唾液に曝して24時間経過してもプラスミドDNAは、殺菌水中24時間後の1.6
x103 cfuに較べて20 cfu (colony forming units) と能率は悪いが大腸菌をアンピシリン耐性に変換することが出来る。 事前に胃液に30秒曝すと変換は1/5に落ちる。 プラスミドDNAがサイレージ漏出液又は胃液に1分以上曝された場合、形質転換細胞はできなかった。
しかし、大腸菌とプラスミドを同時に濾過消毒したサイレージ液や胃液に加えた場合は、胃液で4.5時間後4.75x103 cfu /ml、サイレージ液では3時間後11cfu/mlの形質転換細胞が回収された。
結論は、水平遺伝子伝達はDNAが完全に分解するまでは、それが胃液やサイレージ中でいかに急速に分解されようとも起こりうる。 唾液中ではDNAの分解が極めて遅い。 従って口腔内は水平遺伝子伝達が発生する最有力な場所となる。
(論文2)
土壌菌シュードモナス・シュトゥッツェリPseudomonas stutzeriとアシネトバクターsp. Acinetobacter spの組み換え植物DNAによる形質転換の自然発生は、受容細胞に相同配列があるかどうかに厳密に依存する。 DeVries
J, Meier P and Wackernagel W. FEMS Microbiology Letters 2001,195, 211-5.
組み換えジャガイモ植物体中のカナマイシン耐性遺伝子nptUは、植物DNAが106
倍以上あるにも関わらず、プラスミドDNA( 3x10-5 -1x10-4) のnptU遺伝子と同様の高い効率で土壌菌シュードモナス・シュトゥッツェリとアシネトバクターBD413のコンピテント細胞(共に僅かな欠損部を持ち機能しないnptU遺伝子を持つプラスミドを内包している受容細胞)を自然に形質転換する。しかし、受容細胞に相同配列がないと、形質転換は、検出限界以下少なくともP.シュトゥッツェリで約108 倍、 アシネトバクターで約109 倍まで落ちる。
60種類以上のバクテリアが外来DNAを受け入れ組み込む(形質転換が起こる)ことが確認されている。 バチルス・サブチリスBacillus
subtili(枯草菌)やアシネトバクターsp.BD413株のように多くのバクテリアは、明らかにどんなDNAでも細胞質の中に取り込んでしまう。 安定的に保持するか発現するかは遺伝子組み換えが起こりゲノムに組み込まれるかどうかに掛かっている。
論文の著者らは、「非相同なDNAの破片が形質転換の際に非相同組換えによって組み込まれる確率は極めて低い。」と言うが、果たしてそうだろうか。 そうは思わない。
相同組換えの頻度が高いのは、組換え遺伝子がGM作物や組み換え体生物の廃棄物として高濃度で環境中に放出されることと関連がある。 組換え遺伝子は多くの異なる種のバクテリアやウィルスと相同な部分を持っている。 従って様々な種類のバクテリアやウィルスと広範かつ頻繁に組み換えを起こしうるのである。
非相同組み換えの発生頻度は低いかも知れないが、組換え遺伝子の放出が大規模になれば発生の度合いは十分に高くなる。特に多くの組換え遺伝子がもっているホットスポット(例えばCaMV35Sプロモーターのあるもの等)は、非相同組み換えの頻度を高くする。
(論文3)
大麦の苗の根圏と種子圏
(spermosphere)におけるシュウドモナス菌の間の遺伝子水平伝達における組み換え遺伝子カセットのゲノム上の位置による影響 Sengelov G,
Kristensen KJ, SorensenAH, Kroer N, and Sorensen SJ. Current Microbiology 2001,
42, 160-7.
根圏ー植物の根の表面領域−と種子圏−発芽した種子の表面領域−は、バクテリア同士の水平遺伝子伝達のホットスポットとして確認されている。 水平伝達の頻度は遺伝子の位置にもよるがバクテリアの染色体にあるのか、移動するプラスミドにあるのか、つまり他のプラスミドの補助機能で伝達するプラスミドか、接合時(細菌間の交接)に独自に伝達する機能を持っている接合プラスミドか、による。 研究者が発見した根圏と種子圏で共に 最も水平遺伝子伝達の頻度が高いのは、GMカセットが接合プラスミドにあるときで、移動プラスミドの中にあるときは若干低く、細菌の染色体に挿入されたときは検出できなかった。
しかし、組換え遺伝子が細菌の染色体上にあれば伝達が起こらないと言うわけではない。筆者は、根圏、種子圏とも水平伝達が起こる主な状態は接合時であると慎重に指摘している。その他では、形質転換(DNAの直接摂取による)がより重要で、染色体の方が形質転換の効率がよい兆候がある。
筆者は、「土中における形質転換による水平遺伝子伝達が頻度は低いが起こる事、そしてこのプロセスは圃場規模では重要な影響があり得、リスク評価では特に重要な点である。 このような稀な事象は、実験室規模では研究できないので圃場試験で遡及的に扱われなければならない。」と警告する。
唯一行われた遡及的調査では、まさに水平遺伝子伝達が組み換え植物から土壌菌へ起こることを発見している。(「水平遺伝子伝達は起こる」を参照。)GM植物から根圏微生物に水平伝達が起こるかは、今後調査しなければならない。
(論文4)
メダカのゲノムに最近起こったTol2転移因子の侵入の証拠 Koga A, Shimada A,Shima, A, Sakaizumi, M, Tachida H
and Hori H. Genetics 2000, 155, 273-81
トランスポゾンは、自己増殖するしないに関わらず、次々と他の染色体に移動できる遺伝単位だ。Tol2は、4.7kbpのエレメントで、メダカ(Oryzias latipes)のゲノム上にあり、両末端に逆反復配列をもち、ミバエ、トウモロコシ、干しぶどうのトランスポゾン・グループに似た4つの遺伝子を持っている。 メダカのゲノム上には10−30個のTol2のコピーがあって、構造は殆ど相同で、メダカのクローンをランダムに5匹調べたところ基本配列は全く同じであった。これはトランスポゾンが通常互いに非相同で同じゲノムにも欠損した部分をもつコピーが沢山見つかるので、珍しいものだ。
オリジア属(メダカ)には10以上の種がある。 筆者達は10種を調査したがTol2はO.curvinotus とO. latipes.の2種にしか見つかっていない。 Tol2の構造は互いに相同で、近縁でもないし自然には交雑もしないこの2種の種間と種内で両方とも同一である。
これらの結果は水平遺伝子伝達がつい最近起こったことを示している。 この2種は中国南部付近で分布域が交差していると思われる。 Tol2は、種間で伝達したか、両方とも共通のものから獲得した可能性がある。 遺伝子を運ぶベクターとしてトランスポゾンを使うことの危険性を例証しているものだ。