禁止された遺伝子組換えスターリンクがまだアメリカのコーンには1%混ざっている
微量の混入がまだコーン供給で露呈
出典:http://www.centredaily.com/mld/centredaily/news/7386628.htm
ポール・ジャコブス
ナイト・リッダー紙
2003年12月1日
訳 河田昌東
カリフォルニア・サンホセ発(KRT)
食用が禁止された遺伝子組換えコーンがタコスの皮で見つかり市場から回収されてから3年経った今、汚染したコーンが国内で流通していることが明らかになった。
連邦検査プログラムが、微量のスターリンクと呼ばれる、追放されたはずのコーンを、生産者と流通業者から過去12ヶ月間に提供されたサンプルの1%以上で検出したことを政府の記録は示している。このコーンはそれ自体で殺虫能力を持つように遺伝子操作されたものだが、強いアレルギー反応を人にもたらす可能性があって、動物飼料と工業用にのみ限って使われていると思われていた。
スターリンクの健康に与える影響はまだ未解明だが、多くの人は遺伝子組換え作物の予期しない健康影響を政府がきちんと調べていない、と懸念している。医薬品やワクチン、工業用化学薬品を大量生産するために今行われている野外試験については特にそうだ。
スターリンクが何故人の食用コーンの流通経路に混ざってきたかはまだ不明である。ある生産者は自分のコーンをスターリンクと同定せずに売却したかもしれない。コーンの粒は穀物倉庫にバラで、コンテナーで運ばれ出荷されるので、少量の混入でも大量の穀物を汚染する。
スターリンク汚染の継続が示すように、ひとたび混ざり合ってしまえば、どんな穀物でも少量の混入を排除するのは非常に困難である。「一旦出した歯磨きのペーストをもう一度チューブに戻すのは無理だ」とアイオワ州の法務副長官、スチーブ・モーリンは言う。彼は17の州でスターリンクの生産者アヴェンテイス・クロップサイエンス社との和解調停の交渉を手がけた。「スターリンク問題の教訓は、汚染はある程度不可逆的だということだ」というのはグリーンピースの遺伝学専門家で、科学アドバイザーのドリーン・スタビンスキーだ。「何年か経ってもスターリンクは食品や穀物流通で見つかるだろう。」と彼は言う。
しかし、バイテク産業は、これは特別なケースだと考えている。(スターリンクを含む)コーンを食べてアレルギーになったという大勢の人々の声にも関らず、当局は汚染で健康被害は出ていない、と言っている。そして当局はまた他の遺伝子組換え植物でこの種の汚染が繰り返すとは考えられない、という。「あれはたいした事の無い汚点だ。本来必要の無い、自ら招いた膿だったんだ。あれは我々にとって決定的な打撃ではなかったし、あれで頭痛も鼻かぜも引きはしなかったよ」と貿易ロビ―・グループのバイテク企業機関の食品・農業担当副理事長のバル・ギデンスは言う。
スターリンクの種子が1998年に栽培認可された当時、製造業者の現在アベンテイス社と呼ばれる企業の部門は生産者に対し人の食用にはしない、という契約書に署名するよう同意を求めた。しかし、2000年9月に環境グループがスーパーの商品棚のタコシェルやチップス、マフィンなどにスターリンクが見つかった、と発表した。「人の食品供給ルートのスターリンクへの反応は速やかで、スターリンクを含む商品はそこにあってはならないし、広がっても、消費者に届いてはならないように、と言うものだった。」と環境保護庁農薬プログラム担当の主席政策アドバイザー、ウイリアム・ジョルダン
は振り返った。アベンテイス社は販売認可を失ったが、罰金は科せられなかった。「もし運転免許試験に合格しなかったら罰金は取られないだろう。アベンテイス社は免許を持っていないんだから」とジョルダンは言った。
食品製造業者はスーパーの棚から製品を回収し、アベンテイス社はスターリンク作物販売中止に同意し、まだ植えていない種子の追跡を行った。コーンを栽培している17の州の司法長官との調停の場で、同社は農民と種苗業者にたいし損失分の補償をすると約束した。今年、アベンテイス社は、スターリンクは植えなかったが汚染が原因でアメリカの市場を失い、損害をこうむったコーン生産者に対し、1億1千万ドルの支払いをすることに同意した。フランスの薬品会社アベンテイス社はその後作物種子部門を売却したが、スターリンクの回収騒ぎで同社がいくら損害をこうむったかは明らかにしていない。アイオワ州立大学の経済学者ナイル・E.ハールは、同社が農家と食品業者、穀物流通業者に対し5億ドル以上支払った、と推定している。
過去3年間、アメリカ農務省の試験プログラムのチェックではスターリンクの検出量は次第に減少し、試験点数も少なくなっていた。コーンを市場から回収した最初の年は、農務省は試験検体の8.6%がスターリンク陽性だと報告した。 汚染の割合は翌年9月30日までの12ヶ月で1.2%にまで下がった。「我々は(今回の汚染が)コーン供給全体に影響するとは思っていない。データは高めに出ていると思う」と試験プログラムを実施している農務省穀物検査国際部デイレクターのジョン・B・ピッチフォードは言う。
しかし、生産者と穀物流通業者は独自の検査結果を政府に報告する義務も免れている。連邦ガイドラインによれば、コーンその他の穀物の製粉過程では持ち込まれたコーンに対するスターリンクの検査を毎回行うことになっている。今年度持ち込まれた1000検体のうち1検体が陽性だった。これは2年前の100検体あたり1個からみれば減少している、と北アメリカ製粉協会の副理事長ジム・ベアは言った。
ベアはスターリンクの検査が非常に感度が良く、事実上無いに等しい10億分の5の混入でも検出できる、と不満を漏らした。FDAのピーナッツ・タンパク質の基準である1000分の1でも重大な、時には死にいたるアレルギーをもたらす。しかし、ベアその他は、昨年テキサスのバイテク企業プロデイジーン社が豚のワクチン用に試験栽培された組換えコーンで50万ブッシェルの大豆が汚染するというトラブルに見舞われた。同社は25万ドルの罰金を払い、農務省に汚染大豆の廃棄費用300万ドルを弁済する約束をした。
バイテク企業機関の責任者によれば、この事故は規制システムが機能している証拠で、スターリンクの時とは違い、これら非食用作物はわずかな面積でしか栽培されていないし、規制当局により慎重に監督されている、と言う。しかし、アイオワ州のハールは、農家が穀物を保管し、出荷し取り扱う方法が食糧供給システムからそうした混入を締め出すのを難しくしている、という。彼は「もし、これらの一つでも重大な健康影響があることが分かれば、重大な公衆衛生問題になる」という。