自然のウィルスと人工的遺伝子操作

 

メイ・ワン・ホー(市民科学研究所と放送大学生物科学部)

ウォルトンホール, ミルトンケインス( MK7 6AA, UK)

抄訳 山田勝巳

 

トレワバス氏とリーバース氏のネーチャー誌に出た長い文書に対する我々の以下の回答は、「新たな論点がない」という理由で掲載を拒否されたものです。 私は彼らの間違った議論をまともに取る人が居てはいけないと考え再度提出するものです。

 

 トレワバス氏とリーバー卿は遺伝子組み換えは、進化の過程で起こってきた自然のプロセスと何ら変わらないと述べている。 そして、それが私の書いた本でも支持されているというのです。

 

 恐らく彼らは全部を読んではいないのでしょう。 私は特に第2版において、人工的遺伝子操作は制御できず、ランダムで予測不能なのに対し、自然の遺伝子組み換えは、生体全体で制御されていて極めて正確で再現性があると説明しています(3)。

 この制御システムは何億年も進化し続けており、安定した状態で、校正、DNA修復等の仕組みで、DNAが一定で安定であるようにしています。 勿論、予測可能な再配列、増幅、削除、突然変異も正常な生育の過程で起こり得るし、環境条件への適応で起こることもある。

 

 それに対し、試験管でのDNAポリメラーゼ反応はエラーが起きやすい。 人工的組み換えは予測できず再現性のない結果となり、得られた組み換え系統は、不安定なことが多い。 トレワバス氏とリーバー卿は、[植物にとって]致命的な挿入は、選択で淘汰され、[消費者にとって]無害な挿入は、実質的同等性を示しているという。しかし、現在のリスク評価では、プロセスの予測不能性や組み換え系統の安定性は殆ど調べられていない(4)。

 

 人工的遺伝子操作の予測不能性と不安定性には主に2つの理由がある。 まず、外来DNAはバラバラにされて宿主細胞の抑制機構で不活化される。 第2に組み換え体DNAは別々の沢山生物からのDNAで成り立っているは、構造的に不安定である(5)。

 

 普通数種類の発現カセットが直列に繋げられていて、それぞれの遺伝子カセットにプロモーター(ターミネーターも)がついている。 プロモーターは遺伝子を過剰発現させるためにウィルスから取り入れることが多い。 繋がったカセットは交互にベクターに挿入され、最も頻繁に使われるのがアグロバクテリウムのT−DNAで、組み込むのはこの構造全体です。 しかし、予測できない削除、再配列、繰り返しは、実際の挿入では常に起こっている。 組み換え不安定性は、挿入後も残ることもある(6)。ウィルスプロモーターの下に置く導入遺伝子の本質的な過剰発現は、恐らく遺伝子停止(7)の理由の一つで、ホットスポットの再配列が別の理由だろう。

 

 現在販売中の組み換え作物の殆ど全てに使われている、カリフラワーモザイクウィルスの35Sプロモーターの3端末と同じく、T-DNAの境界は組み換え頻発箇所である。組み換え頻発箇所は、2次移動と水平遺伝子伝達の発生を高めると考えられている(9)。 宿主ゲノム内での2次移動は、組み換え系統の作物としてや他の特性でも著しく変えうる再配列などを起こす可能性がある。

 

 植物ゲノムと言えども動物ゲノム同様、トランスポゾン、レトロウィルスの残骸、パラレトロウィルス(10)を内包しており、安心の理由にはならない。 これらの配列は何百万年もゲノムにあったもので、植物自体やそれと作用し合う生物にももう害はないのだろう。 しかしながらこれらが、組み換えDNAのCaMVプロモーター(又はその一部)と組合わさると、生きたウィルスが再生される可能性がある。 組み換えDNAもこれら遺物要素で動かされるかも知れない。

 

 水平遺伝子伝達は、組み換えDNAを、関係のない種、原理的には、全ての組み換え植物と接触する種、バクテリアやあらゆる環境にいるウィルス、そしてその植物を食べる動物にも拡散しうる。 危害の中でも重要なものは、抗生物質耐性マーカ遺伝子の拡散と、病原となる新たなウィルスやバクテリアの生成、そして哺乳類のガンを含む挿入突然変異がある。 これらの可能性は、実質的同等性といういい加減な保証ではなく、実証試験を通して確認しなければならない。

 

1. Trewavas, A. and Leaver, C. Nature 403, 12 (2000).

2. Ho, M.W. Genetic Engineering Dream or Nightmare? Gateway Books, Bath(1998); 2nd ed., Gill & Macmillan, Dublin (1999).

3. See Shapiro, J. Trends in Genetics 13, 98-104 (1997).

4. See Ho, M.W. and Steinbrecher, R. Environmental and Nutritional Interactions 2, 51-84 (1998).

5. The structural instability of artificial vectors made by joining DNA from widely different sources is a text-book topic. See Old, R.W. and Primrose,S.B. Principles of Gene Manipulation

(fifth edition), Blackwell, Oxford(1994); also Prazeres, D.M.F. et al. Tibtech 17, 169174 (1999).

6. See Srivastava, V., Anderson, O.D. and Ow, D.W. Proc. Nat. Acad. Sci. USA 96, 11117-11121 (1999).

7. See Finnegan, J. and McElroy, D. Bio/Technology 12, 883-888 (1994).

8. See Kohli, A., et al. The Plant Journal 17, 591-601 (1999).

9. See Ho, M.W., Ryan, A. and Cummins, J. Microbial Ecology in Health andDisease (in press).

10. Jakowitsch, J., et al. Proc. Nat. Acad. Sci. USA 96, 13241-13246 (1999).

 

 

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