舌への感染でプリオンによる早期神経侵襲が引き起こされる

       Rapid Prion Neuroinvasion following Tongue Infection

 

http://www.pubmedcentral.gov/articlerender.fcgi?tool=pubmed&pubmedid=12477862

 

Journal of Virology 77(1): 83-591(2003)

Jason C. Bartz,1 Anthony E. Kincaid,2 and Richard A. Bessen1*

Department of Medical Microbiology and Immunology,1 Department of Physical Therapy, Creighton University, Omaha, Nebraska 681782, USA

要旨 訳 小森冬彦

 

食べ物を介したプリオンの伝達は、腸管への感染と内臓神経及び迷走神経を通じた神経へのプリオン侵入をもたらす可能性がある。今回我々は、プリオンを舌に接種すると経口摂取の10万倍もの効率でミンク伝達性海綿状脳症(TME)がハムスターに伝達することを報告する。舌以外の筋肉内接種も含めて5種類の非神経系接種を実施したところ、TMEの病原体(以下TME)の接種から発症までの潜伏期間は、舌の筋肉内接種が最短であった。TMEを舌に接種後1週間目から2週間目にかけて、まず舌と下顎下リンパ節に異常プリオンタンパク質アイソフォームすなわちPrPScの沈着が認められた。舌でのPrPScの沈着は個々の神経軸索に結合していた。脳幹にTMEの出現が確認され始めたのは接種後2週間目で、部位は舌下神経核であった。その後PrPScは舌下神経核に直接連絡する脳細胞群に集中するようになり、TMEがニューロンを介して伝わったことが示された。頸髄の吻側部でPrPScが検出されたのは脳幹にTME PrPScが侵入してからであった。

以上の結果はTMEの自己複製が舌と局所リンパ節の両方で起こり得ることを示す一方、舌下神経を経て舌下神経核に至る逆行性軸索輸送の経路こそがプリオンがより早く脳に侵入する経路であることを示唆している。TMEを舌表面の浅い傷に局所塗布した実験でも、経口摂取の場合に比べて罹患率が高く潜伏期間も短いという結果が得られた。従って、家畜でもヒトでも舌の表面に剥離があると、舌につながる脳神経は経口ルートによってプリオンに感染しやすくなると考えられる。関連する試験として、ハムスターに順化させた6種のプリオン株を脳内接種して検討したところ、ハムスターの舌にPrPScが検出された。このことは舌につながる脳神経を通じてプリオンが脳から舌へ順行的にも移動することを示している。以上の知見は、反芻動物やシカの舌を含む食品が、ヒトに対するプリオンの感染源になり得ることを示唆している。

 

 

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