輸入コーン種子からスターリンク検出!!!

 

河田昌東

 

輸入種子にスターリンクなど未認可組換え遺伝子確認

恐れていたことが現実となった。週間金曜日の「買ってはいけない基金」と市民団体「ストップ遺伝子組換え汚染種子ネット」が共同で進めていた国内栽培用に輸入されたアメリカ産飼料用トウモロコシ種子からスターリンクが検出されたのである。栽培が前提の種子から、国内未承認の遺伝子組換え体が出ること自体問題だが、アメリカでも栽培禁止となっているスターリンクが検出されたことは、これまで問題となった家畜飼料や食品での検出とは次元の異なる対応が必要であることを意味する。汚染が検出されたのはタキイ種苗()がアメリカから輸入した「ロイヤルデント ネオ120」。検出された組換え体はAgrEvo社のCBH351SL(スターリンク)が混入率0.1%以下、とモンサント社のMON810YG(イールドガード)が混入率1%以下。いずれも国内栽培未認可品種である。

 

スターリンク問題の影響

昨年9月アメリカで、10月には日本で未認可のBt遺伝子組換え体スターリンクが食用コーンに検出されて以来、スターリンクは危険な遺伝子組換え体として世界中で問題になり、アメリカの穀物に依存している日本、台湾、韓国ばかりでなく、依存度の低いEUでも輸入禁止処置がとられ、遺伝子組換え作物の流通と安全性の見直しのきっかけとなった。スターリンクの開発者であるアベンテイス・クロップサイエンス社は、アメリカ国内での栽培認可を取り下げ、アメリカ国内でも栽培禁止となった。アメリカではコーンの輸出が大幅に落ちこみ、コーン農家は大きな経済的打撃を受けた。アメリカ農務省の最近の発表によれば、今年度のコーンの輸出は予定より5000万ブッシェル(約150万トン)減少した。アメリカ農家の出荷時のコーン価格は1ブッシェル当たり1.85ドルで1980年代半ば以来、最低に落ち込んだ。

 

安全性は未確認

アメリカでスターリンクが食用に認可されなかった理由は、スターリンク遺伝子の作る蛋白質(Cry9C

が加熱処理や胃腸消化液による分解を受けにくく、人間にアレルギーを起こす危険があるとEPA(環境保護局)に判定されたからである。その結果、スターリンク・コーンは家畜飼料用としてのみ認可され、分別流通が義務付けられた。アメリカでは昨年9月にタコスの皮にスターリンクが発見されたと報道されて以来、スターリンクによるアレルギー被害の訴えが消費者から相次いだ。そのうち2名は急性ショック症状で救急車で診療所に運ばれていた。こうした事態にFDA(食品医薬品局)とCDC(合衆国疾病管理センター)は訴えのあった51名のうち疑わしい17名の血液を採取し、Cry9C蛋白質に対する抗体の検査を行った。6月に発表された結果は全員シロで、アレルギーとスターリンクは無関係、と発表された。この分析結果はデータと共に公表されたが、筆者始めアメリカの環境保護団体の専門家からも分析の信頼性について批判が相次いだ。17名の中の一人、フロリダの検眼士キース・フィンガーはその後スターリンクが入っていないはずのホワイトコーン製品を食べて再びアレルギー症状をおこし、サンプルをFDAに提供して分析を依頼した結果、その中に実際にスターリンク遺伝子が検出され、当初の発表の信頼性は更に怪しくなった。

アヴェンテイス社から追加資料の提供を受けたEPAはスターリンクを再認可するかどうか諮問委員会に再度諮った。今年7EPAは新たな資料でもアレルギーの可能性は否定できない、としアレルギー性の確認には更に長期間の調査が必要との理由で認可を再び拒否し現在に至っている。なを、EPAはすべてのBt作物の認可確認作業を現在行っている。

 

種子汚染の始まり

今年3月になって事態は更に発展した。2,001年度の作付けにあたって、アメリカ農務省は全米のコーン種苗会社281社に販売予定の種子へのスターリンク混入検査を命じていたが、その結果種子会社の25%でスターリンク混入が明らかになったからである。 2000年度のアメリカのコーン栽培面積32億ヘクタールのうち、スターリンクの栽培面積は1400万ヘクタール、わずか0.4%に過ぎない。にもかかわらずこうした大規模な汚染が起こったのはコーンが他家受粉性の作物であり、非組換え体コーンの畑の近隣にスターリンクの畑があれば、花粉の飛来により、容易に受粉してしまう性質による。分別流通によって、食品や種子への混入を避ける、という戦略は現実には機能しなかったのである。一般の圃場栽培と異なり種子採取のための栽培は他品種による汚染が起こらないように厳重に管理された状態で行われる。にもかかわらずこうした汚染が起こったことは、すでにアメリカでのコーン種子の純度保護は破綻したことを示すかも知れない。まして、スターリンク以外の、栽培認可のある組換え体による汚染は恐らく防ぎようがないであろう。

 

2種類同時汚染は栽培現場で

今回、週刊金曜日と「ストップ遺伝子組換え汚染種子ネット」によって アメリカから輸入されたコーンの種子に検出された組換え遺伝子は、12品種中4品種、そのうち3品種からは2種類の組換え遺伝子が同時に検出されている。国内での栽培認可品種はモンサント社のMonGA21(除草剤ラウンドアップ耐性)のみで、その他検出されたモンサント社のMon810(殺虫遺伝子Cry1Ab)、アグレボ社のT14(除草剤グルフォシネート耐性),ノースロップキング社のNKBt11(殺虫遺伝子Cry1Ab)、アグレボ社のCBH351(商品名スターリンク:殺虫遺伝子Cry9C)が国内栽培未承認品種である。これらはいずれもアメリかでは単独での組換え体の栽培流通の認可が行われているもので、同一品種に複数含まれているものはない。従って、今回同一種子に2種類の組換え遺伝子が確認されたことは大きな問題である。種子の取り扱いにおける純度管理の厳しさを考えれば、2種類以上の混入は栽培現場での汚染、即ち花粉による汚染と考えるのが妥当である。

 

Mon810にもアレルギーの疑い

アメリカの環境保護団体、「地球の友」の遺伝子組換えの専門家ビル・フリーズは、EPAに対し、モンサント社から出された安全審査申請書の独自の調査結果をこの921日に提出した。それによれば、Mon810の作る殺虫蛋白質Cry1Abは、スターリンク同様、耐熱性と耐酸性があり、アレルギーの危険がある。消化性に関するモンサント社の実験は正規の実験条件と異なり、信頼性に欠ける。また、EPACry1Abと他のアレルギーたんぱく質とのアミノ酸配列の比較も行っていない。その結果Mon810組換え体もスターリンク同様アレルギー誘発の危険を否定出来ず、認可を取り消すべきだという。Mon810は現在もアメリかで栽培・流通とも認可されており、今回の検査でも1%の混入が確認された。スターリンクだけでなく、他のCry1Abも問題、となれば種子の汚染は更に深刻になろう。

 

メキシコで在来種コーンが組換え遺伝子で汚染!

 918日、メキシコ政府は同国で栽培が禁止されている組換え遺伝子が、栽培中の在来種コーンに検出された、と発表した。汚染コーンは同国のコーン栽培の中心である中部メキシコ地域の15箇所で見つかった。メキシコはコーンの発祥地として国際的に種の保存について注目されており、遺伝子組換え種の栽培を禁止していた。汚染の原因は不明だが、同国にアメリカから食用や飼料として輸入されるコーンは年間550万トンにのぼっており、メキシコでは遺伝子組換え食品の表示制度が無いこともあって、同国への最大の輸出業者であるアメリカのカーギル社は非組換えコーンと組換えコーンを分別をしていなかった。輸入されたコーンを誰かが栽培した結果、在来種への交配がおこり、組換え遺伝子が混入したと考えられる。調査の詳細は未発表だが、関係者によれば検出されたのは、カリフラワーモザイクウイルスの遺伝子(筆者注:Bt遺伝子のプロモーターとして使われる)である。メキシコにおける在来種コーンの汚染は、種の保存を訴える研究者や環境保護団体に大きな衝撃を与えている。

 

早急な対策を!

こうした状況の発生は遺伝子汚染防止に新たな対応が必要なことを示す。食品や加工品の場合は未認可組換え体が発見されれば、販売停止や回収で対応出来るし、消費者は買わないことも出来る。しかし、種子の場合はひとたび栽培されれば汚染は国内に拡散し、国内で汚染の拡散が継続し続ける危険がある。狭い国内での栽培では、近隣に食用コーンの栽培も考えられ、花粉によって飼料用から食用コーンへの遺伝子伝播もあり得る。未認可品種の混入は絶対に許さない、水際での阻止が必要である。

種子汚染に関し農水省はアメリカの検査体制を信頼し、法の未整備などを理由に種子輸入会社などに検査を義務付けることは出来ないとしてきたが、こうした消極的な姿勢が未認可品種の流入を許した原因である。昨年来のスターリンク・コーンやニューリーフ・ポテトなど未認可組換え体食品の混入を始め、狂牛病に至るまで、すべて問題が起こってから対応するという政府のやり方はかえって消費者の不安を増幅させ、生産者に犠牲を強いる結果になっている。作物の種子の純度を守る重要性と難しさは国内でイネ等の種子生産にあたっている関係者は身にしみて感じていることである。種子の純度は将来に渡ってその国の食糧生産の根幹にかかわることだからである。政府は早急に種子汚染防止のための法律を整備し、輸入種子は全数チェックの義務付けを輸入業者に課すべきである。同時に、アメリカ以外からの種子輸入や安全な国内産種子の確保と栽培農家への奨励を急がなければならない。来年度作付けの準備はすでに始まっている。栽培に関して消費者はもっぱら受身であり、国民の健康を守るには生産者と行政がすべての責任を負わなければならない。             

 

 

 

 

トウモロコシ種子で検出された組換え遺伝子の特性など      

(検体:ロイヤルデント ネオ120:米国産)

名称

開発企業

目的

導入遺伝子とその発現

認可状況

Mon810YG

モンサント社

害虫耐性

(アワノメイガ)

構造遺伝子:cry1Ab(Bt)

プロモーター:CMV 35S

イントロン:コーンhsp70

終止配列:NOS3’

この遺伝子セットが1

 

Cry1Ab蛋白質発現量

 葉 :9.35μg/g

 種子:0.31μg/g

アルゼンチン

(食・飼・栽:1998年)

オーストラリア

(食:2000年)

カナダ

(食・飼・栽:1997年)

EU

(食・飼・栽:1998年)

日本 (食・飼:2001年)

南ア (食・飼・栽:1997年)

スイス(食・飼:2000年)

アメリカ(食・飼:1996年)

    (栽:1995年)

 

 

CBH351 SL

(スターリンク)

 

 

アグレボ社

害虫耐性

(アワノメイガ)

 

 

 

 

除草剤耐性

(グルフォシネート)

 

 

 

 

 

抗生物質耐性

(アンピシリン)

構造遺伝子:cry9c(Bt)、殺虫遺伝子

プロモーター:CaMV 35S

CTP :ペチュニア葉緑体から

終止配列:CaMV 35 PolyA

この遺伝子セットが1組以上

 

構造遺伝子:bar(PAT)

   グルフォシネート耐性

プロモーター:CaMV 35S

終止配列:NOS3’

   植物ガンウイルス

この遺伝子セットが4組以上

 

構造遺伝子及びプロモーター

bla (アンピシリン耐性)

ori (プラスミド複製開始配列)

大腸菌より(植物では発現せず)

  

 

アメリカ

(飼料、栽培:1998年)

 20005月認可取消し

 

その他の国では未承認

 

 

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