感染性海綿状脳症(TSE)に関するパーディ仮説
新説:プリオン病因説は間違っている
抄訳 山田勝巳
プリオンが異常化し、狂牛病やクロイツフェルト・ヤコブ病になるのは、単に結果であって、原因ではない。 正常なプリオンが異常化する原因は土壌や環境中の微量要素、マンガンや銅、亜鉛等の異常であり、農薬や飼料、飼育方法の間違いである。 このような説を唱えている農学者がイギリスにおり、最近ようやくその仮説に注目する研究者が出てきている。
イギリスの有機農業者で農学者でもあるマーク・パーディは、BSEが近隣の農家で多発しているとき、自分の農場の牛は1頭もBSEを感染せず、また有機畜産をやっている畜産農家の牛にも一頭も出ていないことから、当時ウシバエ駆除に大量に使われていた農薬(有機リン系殺虫剤)の使用に原因があるのではないかと疑い始め、様々な調査を開始した。
その結果、脳の神経伝達や抗酸化作用をしている金属(銅)蛋白質であるプリオンの異常化したものに銅ではなくマンガン含有が高く、これがその飼育環境中の土壌や水、飼料、空気等のマンガン含有量に関連していることを調査で確認し、独自の原因説を展開している。
以下はその前文の紹介。全文は、ホームページ http://purdeyenvironment.com/で読むことが出来る。
また、訳出したものが工学者より「狂牛病」として出版されている。(山田勝巳)
感染性海綿状脳症(TSE)の原因仮説紹介
マーク・パーディ
感染性海綿状脳症(TSE)は、牛のBSE、人のクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、変異CJD(vCJD)、ゲルストマン・シュトラウスラー・症候群(GSS)、クールー病、羊のスクレイピー、鹿やカモシカの慢性消耗病(CWD)、猫の猫科海綿状脳症(FSE)などの様々な神経退行性の病気である。孤発性TSEは、多因性の病気で、遺伝学的要素があり、宿主のプリオン蛋白形成過程に異常を来す様々な環境要因の組み合わせで起こるものだと考えている。 宿主は、銅やマンガンなどの微量元素と複合体を作るプリオンとして知られている蛋白質と金属との構成が変わり、酸化物質が発生する電子を処理できなくなる。
最も共通する前提条件は: 1)マンガン濃度が高い、2)銅や抗酸化物質濃度が低い、3)酸化物質濃度が高い、である。 宿主への感染因子の関与は必要条件ではない。
神経系に多く発現する金属蛋白質は、プリオンと呼ばれ、これの異常型が病理の中心であることは広く認められている。 この蛋白質は通常アミノ酸と銅原子2−3個からなり、オクタペプチド(訳注アミノ酸8個からなる短い配列)の反復領域にあるヒスチジン残基(アミノ酸の一種)に結合している。
このプリオンは細胞膜の表面に移動し、糖脂質アンカーに数時間結びついた後リソソーム(蛋白質の分解酵素が詰まっている細胞内器官)でアミノ酸に分解され再利用される。
正常プリオン蛋白質は抗酸化物質として働くスーパーオキサイド・デスムターゼ(SOD酵素)の一種で、細胞表面の最適場所に位置して、銅が自由電子を捕捉することで神経細胞膜をフリーラジカルによる破壊から保護している。 また銅を細胞に取り込んだり出したりしてシナプスで銅を神経伝達に使えるようにし、毒性や欠乏を防ぐために銅を分配している。 これ以外にも未知の働きがいくつかあると思われる。 網膜や皮膚に多くあるのは、電子の受け渡しや光エネルギーを取り込むことに関与しているものと思われる。
マンガンが多く銅が少ない場合、細胞は正常な銅蛋白を形成できず、代わりに第2候補としてマンガンと結びつく。 蛋白質のライフサイクルの、恐らく細胞膜に位置したときと思われるが、異常な形に折り畳まれて(立体構造が変化して)しまう。 この原因は強い酸化ストレスと考えられ、これがマンガンの帯電状態を変えてしまうのだろう。 このプリオンは、抗酸化力と銅の運び屋という重要な役目を果たせなくなり、事態を悪くさせる。 異常な形態のプリオンは、リソソームの蛋白質分解酵素で分解できず、細胞中に蓄積し、細胞はついに破裂する。 異常蛋白はその後凝集して(異常な帯電状態によるものと思われる)、TSE特有の金属の多い小繊維を形成する。
非伝染性海綿状脳症(SE)は、銅を減らす(キレート)化学物質に動物を曝すことによって起こり得る。 これは60年代にI.H.パティソン等によって示された実験モデルに適合しており(3)、特殊な異常細胞化学が致命的プリオン病を動物に起こすという考えに先駆けるものだ。
TSEが蔓延している環境を調査したところ、マンガン濃度が高く、銅や抗酸化物質の濃度が低い。これは、内部の細胞質ゾルの環境をある程度反映するだろう。 高濃度(10倍)のマンガンは、最近ブラウン博士が検査したCJDの脳組織にも見られる。 恒常性は遺伝子型で決まり、金属の均衡を取り戻そうとするが、局所で局部的に効果的で動物によっても違う。 環境中にマンガン濃度が高ければ、プリオンによって取り込まれるもの多くなる。
異常プリオン物質は、伝染性の病原性を持つが、特定の稀な状況で起こる二次的なことだと考える。 伝染の研究では、脳内や血管へ接種したり、すりつぶした脳を食べさせると実験動物を感染できる。 しかし、これでは実際に起こることを正確に再現していないので、コッホの前提条件を満たしていない(動物も人間も均質化:ホモジェナイズしたものは食べない)。 均質化加工は非常に強烈で蛋白質に結合している活性金属を引き離して脳の成分を化学的に変えてしまう。 この状態では毒性のフリーラジカルが極端に増える(12)。 動物を感染させるために抽出物質を濃縮して使う。 これでは生体による経口感染の信頼できる傍証とはならない。特にフリーラジカルや二価の陽イオン(Mn,Fe,Cu)が中心的役割を果たしている病気では信頼できない。
伝達性は、輸血の場合には重要で、血液細胞はプリオン蛋白を発現し、「種の壁」以外の保護がない。 白血球細胞プリオンが異常化した場合、CJDをうつすことが出来る(英国で輸血用血液から白血球を取り除くのはこのため)。 感染力は、マンガンや鉄のような反応性の強い金属が豊富にある蛋白質の塊によるとするのは、現実的に思える。 神経毒性については、電子が細胞膜を出入りできるプリオンの正常機能が失われるに従い、プリオン特有の経路で致命的フリーラジカルがどれくらい発生するかによって変わる。 変異プリオンは、それ自体が強力な酸化物質として働き、余剰電子が溜まって、水酸基ラジカル、過酸化水素、過酸化窒素のような毒性副産物を大量に発生することになり、これらによって最終的に神経細胞が破壊される。 これはTSEの小型版であるアルツハイマー症のメカニズムによく似ている。