生物多様システムがより生産的

 

メイ・ワン・ホー

2001年11月6日 

訳 山田勝巳

 

持続的農業は、世界的に多様な作物と家畜による内部投入物を増やすことに依存します。 これとは、明らかに違う単作の工業的農業は、殆どを外部からの投入物に依存し、多くの面で持続性もないことが証明されています。 農的に多様であることの持続性に対する間接的な支持が予期せぬ方面からえられました。 純学問的生態学者は、生物多様なシステムの方がより生産的であることを見いだしています。

 

メイ・ワン・ホーが以下に報告します。

 

 30年間に亘って、純学問的生態学者は、複雑で種の豊かなエコシステムが少数の種のシステムよりも安定しているかどうかを論議してきた。 残念ながら、複雑さにも多くの定義があり、安定性については更に多くの定義があって、議論は続いている。

 

農業に最も関係があって、回答しやすい課題は、多様な生物システムがより生産的かどうかである。 多様な生物システムが実際により生産的であることの証拠が増えてきている。 生態学者は、それをどう説明するのか、保護に重要な意味を持つ、生態系を維持するのにどれくらいの種があればよいのかについてまだ合意していない。 

 

特定の種の組み合わせが、「生息域の相補性」を持っているという仮説がある。 つまり、お互いに補い合う関係にあって、種が多ければ多いほど相補性の起こる割合が増えるということだ。 これは、時間と空間をリソースの違いで住分ける必要であるのと、種間での有益な共生関係によるものだろう。

 

また、多様性によって高くなる生産性は、成長速度の速い種による短期的、過渡的効果によるものかも知れないし、単なる実験で行う人為操作の影響によるものかも知れない。 比較している種も、生存力の低いものだったり、さもなければ、極めて競争力のある成長率の高いものが含まれているかも知れない。 このようなサンプリングの影響は、多様性が大きいところでは存在する可能性が高い種であったり、支配的で生態系の進化を決定するような原動力を持つ種であったりする事による。 

 

幸いなことにセント・ポールのミネソタ大学のディビッド・ティルマンとネブラスカ大学の同僚達が1994年の5月から現在まで続いている実験〔1〕の結果からこれらの問題を検討することができる。

 

彼らは9m×9m区画に品種の数を変えて種を蒔いた。 1,2,4,8,16品種の区画を作り、全く同じものをそれぞれ39,35,29,30,35区画設置した。 区画毎の品種選定は、18種の多年生草原品種からランダムに行っており、この中には、C4(温暖品種)が4種、C3(寒冷品種)が4種、豆科4種、豆科以外の草本4種(広葉顕花草本)、木本種2種がある。 全て単作(monoculture)から作ったもので、3種以外は単作圃場2ヶ所から得られており、同じ品種が多様性を高めて行く組み合わせの中でどのように反応するかを比較している。 

 

地上の生物体量は、生育時期内に生産されているので、生産性の第一指標とする。 

それに対し、総生体量(地上と地下)は生細胞で蓄積された炭素の指標になる。 つまり、著者は特に述べていないが、空気中から取り込んだ炭素でCO2の減少や地球温暖化と関係している。

 

地上と総生体量は、年を追う毎に種の多いものの方がはっきりと有意に増えている。機能グループ構成(草本、豆科、雑草、木本科)も特に始めの数年は有意の影響がある。 しかし、1999と2000では、品種の多さが地上と総生体量に有意の陽性影響がある。

 

最初の数年は、4−8種が地上、総生体量とも高くなっている。 しかし2000年までには、1,2種で急激な増加があり、3種以降最大16種まで緩やかになるが、直線的に増えている。 2000年には、16種区画は8種区画よりも地上生体量で22%,総生体量で27%多くなっている。 種の数と機能グループ構成への依存性が年毎に増してきて、変化は1997年では1/3,2000年では2/3となっている。

 

年毎に、多様性の影響が強くなることと、増え方が次第に急勾配で直線的であることは、多様性の効果が短期的過渡現象であるという仮説を支持しない。 総生体量及び地上生体量が、多様性と機能グループ構成に比較できるほど有意に依存することは、各区画に植えられた植物種の実数で見ても、比較的豊かな種が存在する場合の測定法である‘シャノン多様性指標’によっても確認できる。

 

存続性の低い(low-vaibility)種がプールに含まれていたのではというサンプリング仮説を検証するために、2000年の単作種から総生体量の最も少ない5品種を選んで、これらを含む区画は全て分析から除外してみた。 それでも、残りの131区画で、総生体量は品種の数と機能グループの構成に有意に依存していた。 除外した単作で総生体量の少ない5種を含む区画でも同じ傾向を示していた。 有意な結果は、総生体量が最も少ない30区画と、地上生体量が最も少ない31区画を除外した場合にも、同じだった。プールに混じることによるサンプリング効果だけによるものではない。

 

では、最も競争力のある種が多様性のあり方を決めるという仮説はどうだろうか。これは2000年の分析で、2000年に単作で最も総生体量の多かった9種から少なくとも一種を含む区画だけで調べている。 総生体量は、これらの145区画と、9種中少なくとも2種ある95小区画では、依然として種の数と機能グループ構成に有意に依存する。 同様の結果が2000年に地上生体量でも得られている。 1999と2000では、高多様区画が地上量、総体量とも最良単作よりも多かった。 このような区画の割合は、種の数が増えるほど多くなり、16種区画の約半分は地上量又は総体量で、最良単作よりも多かった。 競争力のある種のサンプリング効果では、多様化による生産性の増加が十分に説明出来ない。

 

生産性に強く関与しているのは、種の数と植物間の補完的関係にある。 補完性は、多くの種で起きるものなのか。 つまり、殆どの種が生息域の生体量増加に関与しているのだろうか、それとも何種類かの補完関係の種のセットがあって、これらが多様性の高いところでは多く存在するのだろうか。

 

地上生体量と総生体量に関してそれぞれの種が同時に有ったり、無かったりすることによる影響を知るために、ANOVA法(変化の分析法ー所定の一般的統計手法)を使う。3種または4種が全ての年で有意なプラス効果があった。 豆科では、Lupinus perennis が9つの試験全部で有意な影響があり、Lespedeza capitat が6つの試験で、Petalostemum が2つの試験で有意な影響があった。 Schizachyrium scopariumとSorghastrum mutansは共にC4草でそれぞれ5つの試験で有意だった。 これらが6種混合の中で最も多い5種であった。  稀な広葉草本種も有意な影響があった。

 同様に、2000では、ANOVAで機能グループの有無で区画を見た場合、地上生体量では、豆科、広葉草本、C4に有意な影響があり、総体量では豆科とC4草本に有意な影響が見られた。 地上生体量では、豆科 X C4草本の相互作用の影響が有意に陽性(この意味するところは、2種一緒の方が片方だけの時より多かったと言うこと)で、総体量では、僅かに有意に陽性だった。

 

しかし、全ての機能グループの有無を操作した後でも、2000の地上量、総体量とも種類数で陽性影響が見られ、生体量は、機能グループだけに依存するのではなく、その種の多さに依存することを示している。

 

結論として、生産性に対する多様性の影響は、短期的にも長期的にもサンプリング効果や低窒素土壌での豆科の有無によるものでもない。 むしろ、種の数と特定の種間や機能グループ間の認識できない相補的関係が貢献している。 1999と2000の平均では、単作で最も成績の良い種の平均と比較して、16種の区画では地上生体量で39%,総生体量では42%多い。 更に、1999と2000の16種区画では、地上量、総体量で、全単作種の平均より2.7―2.9倍多かった。 生産性への多様性の影響は年と共に強まって行く。

 

これは、生物多様なシステムがより生産的であるという最も包括的な証拠である。 ここで見られた生産性は、種の数が最大最大になっても留まる様子がないので、種の多様性が更に大きくなればより高い生産性が得られるのか今のところまだ分からな

い。

 

そして、余談だが、私はティルマン教授に試験区画は有機的に管理されたのかを聞いてみた。 彼の答えは、「最近はそうです。始めの頃は違っていましたが。 どのような肥料も一切使っていません。 しかし、除草剤は最初の数年、草原植物種を早く定着させるために使った区画もあります。 特に単作区では。 多様性の高い区画では、極めて雑草種の成長や侵入に強いですが、単作区や低多様性区ではその状態に維持するのが難しいですね。」だった。

 

ご覧なさい、生物多様なシステムは、雑草も蔓延しないでしょ。

 

引用文献

 

1. Tilman D, Reich PB, Knops J, Wedin D, Mielke T and Lehman C. 長期草地試験に於ける多様性と生産性。Sience;2001, vol.294, 843-5.

 

 

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