遺伝子組換え情報室

2,001年の3大ニュース

 

(1)   組換え遺伝子が野生植物に侵入・・・メキシコ

懸念されていたことがとうとう現実となった。

9月になり、組換え遺伝子が野生トウモロコシの遺伝子に侵入していることが見つかったのだ。メキシコ政府の調査結果を、グリーンピースが伝えた。メキシコは世界のトウモロコシの品種改良に使われてきた野生種の原産国である。種の保存のため、メキシコ政府は1998年から国内での遺伝子組換えトウモロコシの栽培を禁止している。ところが、メキシコ中部のオアハカ州など22地点で採取された野生種のうち15地点の検体に組換え遺伝子の混入が見つかったのである。汚染濃度は310%、中には15%の汚染もあった。人里はなれた山中の野生トウモロコシがなぜ人工的な組換え遺伝子で汚染したかは、明らかでないが、98年以前に輸入された種子の栽培によるものか、あるいはアメリカから毎年数百万トン輸入されている食用・飼料用トウモロコシを誰かが栽培し、その花粉によって汚染したかもしれない。

この汚染は1128日発売のイギリスの科学雑誌ネーチャーの論文でも確認された。メキシコ政府とは独自に調査したアメリカのカリフォルニア大学のチャペラらのチームによる論文である。6検体中4検体に、遺伝子組換え体の証拠である、カリフラワー・モザイク・ウイルスの35Sプロモーターが検出された。その他、組換え遺伝子の終止配列であるT-NOSの断片や、殺虫遺伝子Cry1Aなどが見つかった。これらは、組換え体で使われている完全な遺伝子カセットではなく、いずれもばらばらに分離したり、断片化しており、組換え体の花粉による最初の汚染から何世代かあとのものであることが分った。

教訓は二つある。第1に、メキシコでは表示義務制度がないため、アメリカから輸入されるトウモロコシは、組換え体と非組換え体の分別が全く行われていない。こうした条件下では、短時間に汚染の範囲も濃度も拡大する、と言うことである。第2に、野外での遺伝子の水平伝達またはトランスポゾンによって、栽培種では安定に伝達されている組換え遺伝子カセットが、ばらばらに分断されたり断片化され、極めて不安定になるということである。品種を厳密に管理している栽培植物ではあり得ないことだ。 野生の宿主への遺伝子の入り方によっては、宿主によるサイレンシング(沈黙化)で不活性になるかもしれないが、殺虫遺伝子が機能する場合もあるし、あるいは入り方によっては強力なプロモーターであるCaMV35Sが単独で機能して、宿主の中の別の遺伝子にスイッチを入れる可能性もある。組換え体の終止信号の挿入によって、本来とは違う短い蛋白質が作られるかもしれない。即ち、野生種の一本一本毎に違う遺伝子構成をもたらし、野生種の安定性を破壊する危険がある。野生種に通常起こる点突然変異とは全く違うスケールの大きな突然変異をもたらすのである。自然状態でCaMV35SDNAが野生トウモロコシに入る可能性はないが、人工的にBt遺伝子を機能させるために、栽培種のトウモロコシに導入した事が、このDNAの野生種トウモロコシ遺伝子への侵入の突破口になったのである。これは種の危機に他ならない。いよいよ人間と野生生物との遺伝子戦争の始まりである。組換え体の安定化に苦労した開発研究者たちは、こうした事態を想定しただろうか。

 

2)汚染の拡大・・・日本で栽培用のデントコーン種子からスターリンク検出

遺伝子汚染は、一足早く栽培植物で起こっていた。最初の発覚は昨年のヨーロッパにおける非組換えナタネ種子の除草剤耐性遺伝子による汚染だが、今年はアメリカにおけるスターリンク汚染をはじめ、日本を含む世界各地で種子の汚染が拡大した。汚染源は遺伝子組換え作物の商業栽培を行っているアメリカとカナダである。アメリカ資本に支配され組換え作物を拡大中のアルゼンチンも汚染に寄与している可能性があるが、日本国内での汚染例はない。

3月はじめ、アメリカ農務省は昨年大騒ぎになったスターリンク・トウモロコシが今年度作付け用の種子に混入していないかどうか、確認の調査を種子会社281社に命じた。その結果、ほとんどの種苗会社で汚染が見つかった。312日同省は汚染種子の回収を発表したが、4月になってアメリカのトウモロコシ種子の25%がスターリンク遺伝子で汚染していたことが明らかになった。スターリンクはアメリカのトウモロコシ全体から見ればたった0.4%の生産量でしかない。にもかかわらず、これだけの汚染を生じたのは、種子採取圃場の近隣にあるスターリンク畑からの花粉の飛散による。モンサントなど、大手の企業は回収終了を宣言し、事態は収まったかに見えた。しかし、種子の汚染を心配した日本の有機農業者や市民で作る「ストップ遺伝子組換え汚染種子ネット」と「週間金曜日・買ってはいけない基金」の協同調査で、9月になり日本にアメリカから輸入されたデントコーンの栽培用種子に、微量(0.1%)ではあったがスターリンク遺伝子の混入が確認された。その他、国内栽培未認可の殺虫遺伝子Bt11MON810YG、除草剤耐性遺伝子T-14なども検出された。組換え遺伝子が検出されたのは13品種中4品種、約30%である。「種子ネット」による独自の調査でも同様の汚染があった。

これらの汚染には一つの特徴があった。汚染が見つかったほとんどの品種で、殺虫遺伝子と除草剤耐性遺伝子、あるいは複数の殺虫遺伝子が入っているなど、開発時には別々の品種だった組換え体の遺伝子が、一つの品種の種子に同時に複数入っていることだった。種子の純度管理の厳しさを考慮すれば、この混入は流通の途中ではなく、種子採取の現場で、即ち採種圃場段階における汚染であることは明らかである。圃場近くにある様々な組換え体の畑から、様々な花粉が飛来し、種子圃場を汚染したのである。アメリカはすでに遺伝子汚染大国であり、純度の高い種子の確保は難しい状況にあると判断される。

これらの種子は、いずれも国内大手の種苗会社がアメリカから「非組換え体種子」としての証明をもらった上で輸入したもので、独自の分析は行っていなかった。アメリカの分析が不充分か、あるいはアメリカでは1%未満の汚染は汚染と認めていないのかも知れない。スターリンク混入があったタキイ種苗はこのロットの種子の回収を約束したが、どの程度が実際に作付けされてしまったかは不明のままである。

この経緯を通じ、種子の汚染に関して日本政府は全く未対応であることが明らかとなった。農水省によればトウモロコシなどの国内栽培用種子は、約90%がアメリカから輸入されている。国土の狭い日本では、花粉による汚染などで、種子の純度を守ることが出来ないからだと言う。しかし、輸入もとのアメリカはすでに遺伝子汚染が蔓延しており、その実態は前述の通りである。にもかかわらず、政府は種子の汚染をチェックしていないし、今後もする気はなさそうである。責任は輸入業者にある、というのが農水省の見解である。これで、国内栽培の遺伝子汚染は防げるだろうか。

農水省は、栽培未認可品種でも、厚生労働省による流通認可があれば少しぐらいの汚染は実害がないというのだが、これが規制当局の見解として正しい判断だろうか。国内における遺伝子汚染を防止するには、すべての輸入種子の検査体制を早急に整備すべきである。

こうした、栽培用に輸入された種子の汚染はフランスでもドイツでも、ギリシャでも確認され、昨年よりいっそう汚染が広がった一年となった。メキシコの野生種の汚染はこうした栽培用種の汚染の延長上にある。

 

(3)   遺伝子組換え食品の表示義務化・・・EUと日本の決定的な違い

今年4月から日本でも遺伝子組換え食品の表示義務制度が発効した。数年間にわたる消費者の運動の成果である。これによって、店頭にならぶ商品には遺伝子組換え原料が使われているかどうかを表示しなければならなくなった。アメリカ政府は表示に一貫して反対している。遺伝子組換え作物を戦略的輸出物資と位置付け、消費者の反対を押し切って遺伝子組換えを推進しているアメリカのアグリビジネスを政府は後押ししている。しかし、日本やEU各国の消費者運動は、表示義務化にこぎつけたのである。カナダでは表示義務化について現在議会の意見は割れている。アメリカから穀物などを輸入しているアジア・アフリカ各国も今後表示義務化に移行する趨勢だが、アメリカはこれに圧力をかけている。大規模なアメリカの農場を抱えている南米諸国は微妙な情勢である。

さて、日本で表示制度が出来て消費者は安全になったか。無いよりはましだが、極めて不充分といわざるを得ない。原因は表示対象の定義にある。即ち、現在の技術で原材料又は加工品の段階で組換え遺伝子、又はその遺伝子の作る蛋白質が検出される可能性があるもの、に限られているからである。この定義により、組換え体を使っていても、味噌や醤油、食用油などは加工段階で遺伝子や蛋白質が壊れてしまい検出できないので、表示の必要が無い。表示の必要が無いのは家畜飼料も同じである。これら加工品と家畜飼料で、アメリカから輸入される大豆とトウモロコシの大半を占めるのであるから、この表示制度は事実上穴の開いたバケツと同じである。アメリカにとっては痛くも痒くも無いのである。事実ウォールストリート・ジャーナル紙などでは、日本の表示制度にそうした評価をしている。更に、組換え遺伝子とその蛋白質が混入していても5%以下なら「非組換え体」表示をしてもかまわない、というおまけがついている。その他、組換え体と非組換え体を分別しない場合の「不分別」という分類もあるが、これは上記の実態を考えれば、事実上あっても無くても良いアリバイ作りに過ぎない。こうした、遺伝子組換えに甘い基準のお陰で、現在スーパーの店頭に「遺伝子組換え大豆使用」などの表示はほとんど見かけないのである。

EUではまだ表示制度の義務化は発効していない。今年7月に専門家会議が制度の原案を作り、加盟各国の議会の承認を二年間かけて得る段取りである。遅いと言えばいえるが、これには条件がある。EU各国は、遺伝子組換え問題が社会問題になってから、新たな組換え体の承認を3年前(98)から凍結しており、現在流通しているのは遺伝子組換え作物11品目、医薬品など7品目に限られている。表示義務化は、この凍結を解除するための条件として出されたものである。ついでながら、この間日本は次々と認可品目をふやし、4月現在で遺伝子組換え食品35品目、食品添加物7品目が認可されている。表示義務化以降も認可品目はますます増加中である。

EU案と日本の表示制度との大きな違いは、第一に、原料が遺伝子組換え体ならば、遺伝子と蛋白質が検出可能でなくとも表示対象となる、という点である。これは、遺伝子組換えによって起こる危険性が必ずしも導入遺伝子産物だけとは限らない、という安全重視の観点からすれば極めて妥当な基準である。第2に、日本案と最も大きな違いは、遺伝子組換え食品の「トレーサビリテイー(追跡可能性)」の義務化であろう。これは、何か事故があった場合、その食品の販売、加工、流通から生産現場にまでさかのぼって追跡出来るようにする制度である。事故が起こった場合の原因追求に大きな威力を発揮しよう。BSE(牛海綿状脳症)の失敗に学んだ結果である。日本では、消費者の不勉強もあったが、政府や議会においても議論の対象にさえならなかった。第3の違いは、混入率1%の許容である。先に述べたように、すでに遺伝子汚染が蔓延している現在の世界状況で、アメリカやカナダからの輸入品に混入ゼロを課すのは現実的でない、という理由でもうけられた項目である。これが、日本ではEUでも混入1%を認めた、として5%混入基準を正当化する根拠として挙げられることがある。しかし、事実は異なる。EU案の1%混入許容には、対象品目がきめられており、すでに認可済の品目か又は認可前だが、安全審査は終わっている品目に限られる。それ以外は、1%以下でも非組換え表示は許されないのである。日本の5%許容とは大きな違いである。

こうして、EUの表示制度は2003年までお預けだが、EUの大勢はアメリカの圧力にもかかわらず、それまで現在の認可凍結を継続しそうである。食糧・飼料を全面的にアメリカに頼る日本と自給率の進んだEUとの違いである。               

20011229 河田昌東)

 

 

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