作物から雑草へと伝わる遺伝子は世代に渡って存続する
アメリカ環境協会年次集会
2001年8月9日
マディソン, ウィスコンシン州
翻訳 道長
オハイオ州立大学のラディッシュ(二十日大根)で行なわれた研究によれば、作物から類縁の雑草に伝わった遺伝的形質は、少なくとも6世代、おそらくさらに長期にわたって存続しつづける。これは作物に発現させた、たとえば害虫抵抗性というような遺伝的形質が、継続的に雑草の一部となり、その結果作物に対してリスクをもたらす可能性のあることを意味する。
この結果はバイテク会社が、雑草に移行しうる形質をもつ組み換えラディッュの品種の開発を避けるべきであることを示唆している、と研究の共著者の一人、オハイオ州立大学の環境学の教授であるアリソン・スノウは言った。
組み換え作物とは、ウイルス病、害虫、除草剤耐性などの特殊化された形質を持つように開発された作物である。スノウによれば、新しい交雑雑草は、はじめはその野生原種ほど適応性がなくても、繁殖適応性を速やかに獲得するようである。さらにスノウは、「これらやその他の適応に関する特性が雑草種へ移行することは避けられない」と言った。「その結果、非常に強力で駆除しにくい雑草が出現するだろう。」
カリフォルニアでは、この組換えラディッシュそれ自体は大成功したが、大きな損害を与える雑草ももたらした。科学者は、この変化が野生のラディッシュの遺伝子により促進されたものであると推測している。事実、野生ラディッシュは世界中でもっとも経済的損害の大きな100種類の雑草のひとつである。
「作物からその近縁野生種への遺伝子の移行は、結局は作物に有害となる雑草への急速な進化的適応に拍車をかけうる、ひとつの進行中のプロセスなのである。」とスノウは言う。
スノウは8月9日、ウィスコンシン州マディソンでのアメリカ生態学会の年次総会の席上でこう結論を提示した。
研究者たちは6年間ミシガンで、4種類の遺伝子組換え種と野生ラディッシュについて研究した。はじめに、作物ラディッシュと野生ラディッシュの交雑種の第一世代100個体と野生ラディッシュ100個体を植えた区画がつくられた。
その群落の中に、作物ラディッシュの遺伝子があるかどうかを調べるため、研究者たちは4つの遺伝的形質を探した:すなわち2つの酵素, 花の色および花粉の受粉能力である。平均して、野生ラディッシュは交雑種よりも開花期が一ヶ月早かった。交雑種は、野生種に比べて1果実あたりの種子が少なく、受粉可能な花粉粒の生産量も少なかった。野生種の92〜97%が実を実らせたのに対して、交雑種はかなりの割合で結実できなかった(60〜78%)。にもかかわらず、白い花の色というような、元の作物ラディッシュから伝わった形質は、次世代以降の交雑ラディッシュに継続して伝えられた。「開花が遅れ、繁殖力が悪くなるといった影響で、もとの作物の形質が後続世代へ移行する事が妨げられたにもかかわらず、われわれはまさに各世代にもとの作物遺伝子が存在する証拠を見つけたのです。」とスノウは言った。
野生種と交雑種の一世代の繁殖力を比較するため、研究者らは鉢植えラディッシュを育成した。生殖可能な花粉は、野生種が92%なのに比べて、交雑種の平均は63%であった。交雑種は野生種に比べて、半数の種子を生産したにすぎなかった。
鉢植えの交雑種は、鉢植えの野生種より平均半月遅れて開花したが、交雑ラディッシュは生育期間中受粉がおこるに十分可能な長い時間生殖可能な花粉を生産した。
「交雑種は生態学的に高水準な生殖能力がある。」とスノウは言う。「二世代目の交雑種も依然として適応性は不利だったが、第一世代よりその度合いが改善された。これは生殖適応能力が増加していることを示している。」
次のステップは、作物の遺伝子が雑草の種に利益を与えるかどうかを調べ、また、作物がいかにたや
く野生化するのかを評価することだ。
「作物と雑草の間でくりかえされる遺伝子の伝達は、だれも気づかないようなとらえにくいプロセスだが、進化は非常に速やかに起こりうる。」とスノウは言う。
スノウは、オハイオ州立大学の進化学、生態学、生態生物学の大学院生クリステン・ウサスと、アーバインのカリフォルニア大学の研究者テレサ・クーリーと協同で研究を行った。
スノウの研究はオハイオ州立大学の国際科学基金と、ミシガン州立大学生物学部の交付金で支えられた。
連絡:Allison Snow,614-292-3445; snow.1@osu.edu(オハイオ州立大学);
筆者 Holly Wagner, 614-292-3445; wagner.235@osu.edu*
Email:information@biotech-info.net