GM見直し両天秤

 

政府の専門家委員会は最近イギリスにおける遺伝的修飾を受けた作物(GM作物)の栽培についての裁断を下しました.しかし我々はいつになったらGM農業をするようになるのでしょうか?

 

2003年8月4日(月)

ガーディアン(英)

訳 鴨下顕彦

 

見直し委員会の目的は何ですか?誰が委員に選ばれているのですか?

今回の見直しは、政府のGM作物に対する3つの調査のうちの2つ目で、GM技術の人体と環境に対する影響についての最も大掛かりな科学的な調査です.政府の科学顧問長デビッド・キング卿教授に率いられて、政府、学界、バイテク産業界、環境保護団体からの25名の科学者からなる委員会は、8ヶ月がかりでGM作物・食糧・飼料の影響に関する600報以上の論文を審査しました.

(ロバート・ユーリ(Robert Uhlig)、Daily Telegraph、7月22日)

 

報告の内容は?

報告の大要は予期していたよりずっと慎重で、消費者と田園を保護し、GM技術の望ましくない副作用を避けるためのより多くの研究の必要性を強調しました.報告では、これまでGM食品の導入によるはっきりとした健康への影響はなかったが、それらの食品が全く安全であるともいえない、としています.アレルギーは潜在的な問題の1つでした.政府の立場からの最も重大な結論は、GM作物を栽培すると、同一作物種の有機栽培と慣行栽培の圃場での交雑による汚染が必ず起きる、ということです.

(ポール・ブラウン、ガーディアン、7月22日)

 

報告は他にどんな点を懸念していますか?

イギリスで栽培予定のGM作物が耐性を持つように加工されている超強力な除草剤がありますが、これには農地の鳥や他の野生生物が依存している食物連鎖の根底にある雑草や虫を一掃させてしまうかもしれない危険性があることを強調しました.農地の野生生物への潜在的な影響を懸念して、政府の環境保護の顧問であるイングリッシュ・ネイチャーは、野生生物と除草剤の関係についての大規模な試験を行う一方で、1998年にGM作物の商業的栽培の猶予期間を設けるように要求したのです.これらの試験は、農場レベルでの評価としてちょうど完了し、9月には結果が公表されます.

(ミカエル・マックカーシー、インディペンデント、7月22日)

 

その報告はどのような評価を受けたのですか?

その見直しは、前環境大臣のミカエル・ミーチャ−によると、“パブリック・スキャンダル”と評されました.彼は、GM食品は人体に“非常に深刻な”影響を及ぼし得ることと、これまでの試験は十分に厳格なものではなかったと言いました.グリーンピースの主席研究員のダグ・パー博士は、“この委員は故意にGM推進派が多数を占めていたが、にもかかわらず、結果は危険性を正当化できるようなものではなかった”と言いました.バイテク部門で働く人々は、問題に対する“計量的な”“論理的な”アプローチを歓迎しました.

(オンラインBBCニュース、7月21日)

 

政府の次のステップは何ですか?

GM作物はイギリスでは2年以内に商業的に栽培される可能性があります.GMに関する公的な科学的な見直しの裁断によって、GM技術の商業的利用の特許を取ることを考えているトニー・ブレアやGM推進大臣らの立場は強固なものになりました.キング教授は、今年後半の農場レベルでの試験結果を考慮した後、首相に見直しの最終的な推奨をします.しかし、たとえ圃場試験によって環境への負の影響が発見されたとしても、GM技術全体が拒絶されるべきではありません.キング教授は言いました、“GM作物の問題点がこれらの試験で見つかれば、それらを放置して技術を推進することは難しくなるだろう.しかし、他の生産物についてもその結果を適用するのが妥当であるとは必ずしもいえないだろう。”(マーク・ヘンダーソン、タイムズ、7月22日)

 

遺伝工学は世界的な食糧生産に革新をもたらすでしょうか?

世界の農業にとって代わるどころか、GM作物は世界の農地の5%にも満ちません.市場は躊躇しており、科学的不確実性もあいまって、ヨーロッパとアジアでの普及は引き続き遅くなるでしょう.大げさな救済の約束と、不吉な破滅の予測にもかかわらず、過去5年間の市民の抵抗運動によって、GM技術は地についたものとなりました.将来的には、世界の特定の地域での特定の分野においてGM技術は適用されるでしょう.GMは決して世界的な奇跡を意味しません.(エコノミスト、7月26日)

 

 

 

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