遺伝子組み替え食品・何が問題か

河田昌東

緑風出版「遺伝子組み換え食品の争点」原稿)

はじめに:

異種生物の遺伝子同士をつなぎ合わせ、増幅させる広義の遺伝子組み替えの技術的基礎は、1968年米国のH.O.スミスらが制限酵素を発見したことに始まる。制限酵素は多くのバクテリアが持つDNA分解酵素の一種で、本来自分のDNAは分解しないが、異種生物のDNA を特定の配列を認識して分解し、種の同一性を確保するのに役立っている。いわゆる遺伝子組み替え技術は、この制限酵素の特性を利用し、本来なら結合するはずのない遺伝子同士を連結して、特定の種の遺伝子に新たな遺伝子配列を持ち込もうとするものである。それが生物の世界にいかなる結果をもたらすのか、この技術は有性生殖(雌雄の交配)を基礎にした生物の進化に対する挑戦であり、単に遺伝子組み替え作物を食べる人間や動物に対する安全性の問題にとどまらない大きな問題を含んでいる。

 

問題点その(1)組み替え場所の不確定性

現在の遺伝子組み替え技術の最も大きな困難は、外来遺伝子を組み込む宿主の植物(動物)の遺伝子(染色体)のどこに組み込むか、をあらかじめ特定出来ないことである。この困難は、宿主遺伝子の全構造が解明されない限り将来にわたってつきまとうだろう。組み替えの方法がプラスミドやウイルス、トランスポゾンなど「ベクター」と呼ばれる感染性の遺伝子を使おうと、あるいはエレクトロ・ポレーション法(電気ショックで遺伝子を宿主細胞に取り込ませる)やパーテイクル・ガン法(微少な空気銃で遺伝子を宿主細胞に打ち込む)など物理的な方法を使おうと同じである。後者の場合、この困難はなおさらである。ようするに、遺伝子を散弾銃の弾のように相手の細胞に打ち込み、運良く相手の遺伝子(染色体)のどこかに取り込まれ、期待された機能(蛋白質合成)が発現すればそれで良し、という結果オーライの技術だからである。

外来遺伝子を宿主遺伝子の特定の場所に組み込む「遺伝子ターゲッテイング」の技術は酵母細胞や哺乳類細胞で基礎研究が始まったばかりである。その多くは、遺伝子の機能を知るために人工的に改変した同種生物の遺伝子を組み込む「標的遺伝子の破壊」を目的とし、現在の「遺伝子組み替え植物創出」におけるような、全く異なる生物の遺伝子を組み込むことは期待できない。正確に標的遺伝子を決め、外来遺伝子を組み込む設計が可能なのは、遺伝子の全構造がわかっている大腸菌、酵母菌、線虫などわずかである。人間の全遺伝子構造解明を目指す「ヒトゲノム計画」は現在進行中であるが、世界中で膨大な資金と人材が投入されており、こうしたことを多くの農作物で行うことはおそらく不可能だろう。

外来遺伝子をランダムに打ち込んでも何とか組み替え体がとれるのは、染色体同士の「非相同組み替え」の結果である。通常、生殖細胞が増殖するさいには2本ある染色体DNAがお互いに対合・組み替え・分離し、正確にその遺伝情報を子孫の細胞に伝えてゆく。この場合ほとんどのDNA の塩基配列は同じである。しかし、人工的に外来遺伝子を組み込む場合、偶然外来遺伝子のDNAの塩基配列の一部(塩基数にして数個〜数10個)が宿主遺伝子の塩基配列に似ていた場合、少ない確率ながらもその部分同士で対合し、大部分の配列が違っていても(つまり、外来遺伝子と全く違う機能の遺伝子でも)その外来遺伝子を取り込み、あたかも元の遺伝子の一部であったがごとくに複製・増殖する。これが「非相同組み替え」である。

しかし、自然界では多くの場合非相同組み替え体は、元の生物にとってマイナス要因となり、細胞が増殖する過程で再び外来遺伝子が排除されたり、あるいは生化学的に修飾されて不活性化され、目的の組み替え体は手に入れることが出来ない。そこで登場するのが、「組み替え体の選択」技術であ。

 

問題点その(2)組み替え体選択における異常な遺伝的圧力

通常、新たな外来遺伝子だけを目的とする宿主細胞に組み込むことは出来ない。組み込むべき外来遺伝子は別の生物の遺伝子から切断分離され、PCR法などで増やした後、プラスミドに組み込んで大腸菌内で増殖される。プラスミドは大腸菌の染色体外で自己増殖する抗生物質耐性遺伝子である。ここで外来遺伝子は大腸菌の抗生物質耐性遺伝子と連結され、以後一体のものとして取り扱われ、宿主生物の遺伝子内にまで持ち込まれる。なぜこうした回りくどい方法が必要なのか。第1に、非相同組み替えの確率がきわめて低く、細胞100個〜10万個に1個ぐらいしか組み替え体は得られない。しかも、組み替え体が安定に持続できるかどうかの保証がない。トマトやとうもろこしを数万本植えて、その中のたった1本しか組み替え体でないとしたら、全く実用性がない。そうした困難を乗り越えるために、わずかに出来た組み替え体細胞をその他大勢の非組み替え体細胞から効率よく選別するために必要なのが「選択マーカー」と呼ばれる大腸菌の「抗生物質耐性遺伝子」である。外来遺伝子と選択マーカー遺伝子を連結し、散弾銃で宿主細胞に打ち込む。細胞の培地にはたっぷりの抗生物質を入れておけば、運良くたまたまとれた組み替え体だけはその抗生物質耐性の性質によって生き残り、その他の細胞はすべて殺されてしまう。こうして、数十万個の細胞から数個の組み替え体細胞を選別出来る。繰り返すが、この細胞は、必要な外来遺伝子の他に、選択後は不必要な抗生物質耐性遺伝子も合わせ持っている。

こうして出来た組み替え体細胞は、高濃度の抗生物質という遺伝的圧力の異常な環境下で初めて生き残ったいわばモンスター生物である。特定の栄養成分の欠乏や毒物混入などという遺伝的圧力下で突然変異体を分離するという手法は微生物遺伝学では伝統的にとられてきた当たり前の手段である。しかし、こうした異常な遺伝的圧力によって目当ての性質を持った変異体植物を得る、というのはこれまでの品種改良では無かったことである。突然変異を起こさせる手段として、紫外線や放射線、化学物質を使うことはあっても選択は度重なる交配や多くの目的外の形質を持つ変異体から数少ない優良種を選ぶ、という自然環境に依拠した手法にまかされてきた。そのために、これまでの育種には多大の労力と時間がかかったのである。遺伝子組み替えの推進論者はしばしば「育種自体が遺伝子組み替え」であると主張するが、それは間違いである。第1に「交配による組み替えは遺伝子の相同組み替えであり、異種遺伝子の組み込みはなかった」、第2に「育種では抗生物質や除草剤などの異常な遺伝的圧力下での選択はなかった」からである。

異常な遺伝的圧力下でつくられた「新たな生物」が自然界でどのような振る舞いをする事になるのか、我々は長期的に観察しなければならない。これは明らかに「現存生態系と生物進化に対する干渉」だからである。

 

問題点その(3)選択マーカー遺伝子の安全性

外来遺伝子とともに宿主植物に持ち込まれる「選択マーカー遺伝子:抗生物質耐性遺伝子」は当然組み替え体植物の細胞内で発現される。発現されるからこそこの植物は生き延びたからである。多くの場合、植物の根から茎、葉、花、種子などすべての組織で抗生物質を不活性化する酵素が生産され、耐性が発揮される。従って、我々は抗生物質耐性遺伝子とともに抗生物質不活性化酵素もトマトやじゃがいもと同時に胃袋に入れることになる。牛や豚、鶏など配合飼料を与えられた家畜も同様であろう。こうした状況はこれまで私たちの歴史上なかったことである。抗生物質を混入した餌を家畜に食べさせることの安全性はずいぶん前に国会でも議論され、配合飼料に自動的に混入する事は禁止された。耐性菌の出現が恐かったからである。それでは、抗生物質耐性遺伝子や抗生物質修飾酵素は大丈夫なのか。

これは当然大問題である。アメリカの食品医薬品安全局(FDA)は19989月にこの問題をめぐって専門家を集めて公聴会を開き遺伝子組み替え作物を作る企業のためのガイドラインを作成し企業に配布したが、強制ではなくコメント目的だけだとした(1)。この中でFDAは「組み替え体植物がもつ抗生物質耐性遺伝子は植物のプロモーター(遺伝子のスイッチ)の支配下で機能するほかに、その遺伝子の増幅の際に使われたバクテリアのプロモーターでも機能するようになっているので、組み替え体生産者は抗生物質耐性遺伝子の安全性を評価しなければならな」と述べている。この問題については、現在アメリカでも研究者による科学研究費獲得のテーマになっており、日本政府や企業が言うように安全性が確保されたとはとうてい言いがたい。

ネオマイシンやカナマイシンなどの抗生物質を不活性化する酵素は、もしこうした抗生物質を投与されている患者が体内に取り入れれば、治療を台無しにし患者を危機にさらす可能性がある。FDAは現在認可されている組み替え作物のなかの抗生物質修飾(分解)酵素濃度は低く、体内で分解されてしまうだろうから心配ないと主張しているが、同時にバンコマイシンなど現在最も重要な第3世代の抗生物質に対する耐性は利用すべきでない、とコメントしている。これはいかにも語るに落ちる議論である。アメリカが輸出する遺伝子組み替えとうもろこしやじゃがいも、大豆などを食べるのは、先進国だけでなくアジアやアフリカなどで、ネオマイシンやカナマイシンなど第1世代の抗生物質が重要な治療手段になっている国々の人々である。FDAは、家畜の飼料にも言及しているが、加工過程でこれらの酵素は失活してしまう可能性が高いので心配いらない、とも言っている。根拠は遺伝子組み替え大手の一つであるCalgene社のデータを利用した。家畜飼料への抗生物質耐性遺伝子や抗生物質不活性化酵素の混入は、牛や豚が感染症にかかった場合、抗生物質による治療を困難にし、畜産農家に被害をもたらす危険性も無視できない。

抗生物質耐性遺伝子が体内のバクテリアの遺伝子と組み替えを起こし、体内に耐性菌が出現する可能性は大いにある。この公聴会に呼ばれたドイツのW.Doerflerはこの分野の世界的権威である。彼は元々SV40というガン遺伝子の発現と細胞内遺伝子への取り込みを研究していたが、1997年に発表した論文で、大腸菌のM13という小型のウイルスの遺伝子をマウスに経口摂取させたところ、その一部がマウスの腸内から腸管表皮を通って血液中に入り、白血球や脾臓、肝臓などの遺伝子DNAに入り込んだ事実を詳細な実験によって突き止めた(2)。もし、こうしたことが遺伝子組み替え作物の抗生物質耐性遺伝子でも起こったら大変である。極論すれば我々自身の体が抗生物質耐性になってしまう。FDAのこのガイドラインのための公聴会もDoarflerのこの研究による危機感が原因のようである。

ところが、この検討会ではCalgene社のデータなどを根拠に、体内に取り込まれたDNAは短時間で分解され、腸内細菌との遺伝子組み替えのチャンスは少ない、と結論した。この結論に大きな力になったのは、遺伝子組み替えに熱心なイリノイ大学の大御所A.Salyersのようである。同氏はイギリスの有名な科学雑誌Nature が遺伝子組み替えに批判的な記事を載せたのに抗議の手紙を書いた(1996年)(3)が、FDAはデータも無い単なる感情的な抗議文をあたかも論文であるかのように引用し、無害説の根拠とした。また、Calgene社が主張するDNAが腸内で早期に分解するという論文は、1970年代や1980年代の古い論文でDNA検出法が古く、Doarfler らが使った、感度の良い近代的な遺伝子検出法とは比較にならない。結局、FDAの結論は、今の所大丈夫だが、選択マーカーに何を使っても良いか悪いかは、個々のケースで判断する、というものであった。可能性のあることは必ず起こる、というのが遺伝子の世界である。今後、多くの抗生物質耐性作物が消費されるようになれば、必ず事件は起こるだろう。

 

問題点その(4)「実質的同等性」の落とし穴

遺伝子組み替え作物の安全性の根拠の一つは、宿主例えばトマトや大豆に新たな遺伝子を導入しても、その外来遺伝子がつくる蛋白質(例えば、除草剤を修飾し働かなくする蛋白質と選択マーカー遺伝子がつくる蛋白質)が宿主蛋白質に追加されるだけで、あとはすべて同じ組成である、という前提である。例えば土壌微生物や枯草菌などのバクテリアの遺伝子を一個(と大腸菌のマーカー遺伝子)追加するだけだから、トマトはトマト、大豆は大豆、というわけである。これをもって「実質的同等性」という。

これは、そうとう大雑把な乱暴な主張である。非相同組み替えの場合、すでに述べたように外来遺伝子は宿主のDNA塩基配列が少し似ているだけで、無理矢理挿入されてしまう。従って、挿入場所の遺伝子はもちろん、挿入後の両端周辺の塩基配列はあらかじめ予想も設計も出来ない。挿入場所は一カ所と限らないし、塩基配列が似ていれば、宿主にとって必要な蛋白質の遺伝子の構造内部に割り込んだりもする。こうした宿主遺伝子配列に対する撹乱は宿主遺伝子の発現に様々な不都合をもたらす。

A)外来遺伝子が宿主の遺伝子構造に割り込めば、その遺伝子の蛋白質は作られず機能破壊が起きてしまう。また、(B)外来遺伝子の両端の塩基配列とつながった宿主遺伝子の塩基配列によっては、フレームシフトと呼ばれる、遺伝暗号の読みとりのズレが起こる危険もある。新たにプロモーター配列が形成されたり、新たな構造遺伝子が作られて、本来存在しない予想外の新たな蛋白質が出来ることもあり得る。これが例えばアレルギーを起こす蛋白質であれば大きな被害をもたらす。現在遺伝子組み替え作物のアレルギー安全性は「既知のアレルゲン物質が見つからない」ことを根拠としている。しかし、この問題を討議したアメリカのFDA(食品医薬品局)・EPA(環境保護庁)・DA(農務省)の合同委員会(1994年)は遺伝子組み替え作物のアレルギー性は、既知のアレルゲンがあるかどうかしかチェックできず、新しい蛋白質がアレルゲンかどうかを未然に知る方法は無い、と明言している(4)。すなわち被害が出てからでなければ分からないのである。実際、アレルゲンとしては低い活性を持つと思われたブラジルナッツの2Sアルブミン蛋白質の遺伝子を大豆に導入したところ、この組み替え大豆の蛋白質は、ブラジルナッツに感受性のある患者の血清と強いアレルギー反応を起こした、という報告がある (5)。

さらに(C)異種生物間の遺伝暗号の読みとり機構の違いから、目的とする外来遺伝子の生産物のアミノ酸配列が、意図したものと違うものになる危険性もある。それは、特にバクテリアや下等微生物の遺伝子を宿主作物に組み込んだ場合である。遺伝暗号は大半の生物で同じだが、ミトコンドリアや一部の繊毛虫、マイコプラズマ等では遺伝暗号読みとり(遺伝暗号から蛋白質のアミノ酸配列に変換すること)の際、同じ遺伝暗号でも違うアミノ酸に読み込まれることが分かっている。例えば通常CUAという塩基配列はロイシンというアミノ酸の暗号だが、酵母菌のミトコンドリアではスレオニンという全く違うアミノ酸に対応し、UGAは通常蛋白質合成の終わりを告げるストップ暗号だが、ミトコンドリアではトリプトファンという必須アミノ酸の暗号である。酵母菌にはバリンというアミノ酸の遺伝暗号は2種類あるが、大腸菌ではこのうち片方しか読み込まれない。人間のインシュリン様成長ホルモン(IGF-1)の遺伝子を大腸菌で発現させたところ、本来アルギニンというアミノ酸の入る場所にリジンという別のアミノ酸が入った、という報告がある(6)。原因は、生物間で遺伝暗号を読みとる転移RNAの量が違うからである。これはモンサント社の生物科学部門の研究者たちの論文である。人間のインシュリンを大腸菌で作った場合、全部で51個のアミノ酸のうち、B鎖のカルボキシル末端に近いプロリン(28番目)とリジン(29番目)が他のアミノ酸に変わっている。遺伝子の運び屋(ベクター)としてしばしば使われる無毒化されたウイルス遺伝子もこれらのメカニズムで感染性を復活し、他の植物に被害を与える可能性がある。

このように、かけ離れた異種生物の遺伝子同士の結合には相当慎重で無ければならない。完全に設計通りの組み替えをやろうとすれば、少なくとも宿主の全遺伝子構造と、挿入する外来遺伝子の全構造が分かっていなければならない。「実質的同等」というのは、そもそも違うものを同じだと言いくるめる詭弁である。

 

問題点その(5)外来遺伝子導入によるDNAの変化

導入された外来遺伝子は、かなり頻繁に宿主の細胞の中でDNAの中のC(シトシン)という塩基にメチル化という化学的修飾を受け5-メチルシトシンという塩基にかわる。通常、植物や動物ではメチル化はガン化や発生過程における遺伝子の発現調節に利用されている大切な機能であることが最近分かってきた。一方、外来遺伝子に対するこの修飾は宿主細胞が自らの同一性を守るための、いわば植物の免疫反応のようなものである。従って、外来遺伝子はメチル化によって機能を失うかそれが目印になって、細胞分裂を繰り返すうちに宿主遺伝子から排除される。こうした現象を一般に遺伝子のサイレンシング(沈黙化)と言っている(7)。すでに述べた、外来遺伝子によって割り込まれ、機能を失った宿主遺伝子もメチル化ではないが宿主遺伝子のサイレンシングの一種である。メチル化によるサイレンシングは外来遺伝子だけでなく、宿主の遺伝子にも及ぶことが分かっている。原因は、宿主細胞が外来遺伝子の不活性化のために、メチル化酵素を多量に生産し、その結果自分の遺伝子までメチル化するらしい。こうした場合、必要な遺伝子の機能が失われたり、生育に問題が出たり、動物の場合ガン抑制遺伝子が不活化されガン化が起こったりる。この獲得されたメチル化の性質は遺伝する。この場合もまた「実質的同等性」の議論に大きな疑念を提供する。

実は外来遺伝子のサイレンシングは遺伝子組み替えを推進する人々にとっては今でもやっかいな現象である。せっかく外来遺伝子を宿主に挿入しても、細胞分裂が繰り返されるうちに機能不全になったり、排除されてしまい、元の木阿弥になるからである。そうした困難を越えて安定的に組み込まれた外来遺伝子のみが「遺伝子組み替え作物」の中に存在するが、メチル化反応の活性化によって、本来の宿主の遺伝子がどのように修飾されているかはなどは全く無視されている。

 

問題点その(6)環境への影響

A)異種生物間遺伝子伝達(ホリゾンタル・トランスファー)の危険性

遺伝子の「ホリゾンタル・トランスファー」は最近流行の研究テーマである。異種生物間で遺伝子がやりとりされる現象をいうが、これが進化の原動力かもしれないと考えられているからである。勿論、これが頻繁に起これば「種の同一性」は損なわれるので、通常自然界では外来遺伝子が入り込んでも、宿主に大きな影響を与えることがない場合に限って許されている。

いわゆる遺伝子組み替え作物は、人為的・強制的に遺伝子のホリゾンタル・トランスファーを起こしている。これが問題なのは、組み替え体作物が野外で栽培される結果、その遺伝子が近縁種との交配・摂食・死骸の分解などによって野生動植物や、土壌細菌などに伝搬し、生態系に広く拡散する恐れがあるためである。こうした生態系に与える影響は、人間に対する直接の安全性問題とは別に、長期的にみて生物環境にはきわめて大きな影響があり、生態系の安定性と生物進化に対する干渉と考えられる。

古典的に知られている遺伝子のホリゾンタル・トランスファーは抗生物質耐性遺伝子の異種バクテリア間伝搬であろう。抗生物質耐性遺伝子は、はじめは少数の細菌の持つ細胞内因子(プラスミド)の突然変異によると考えられているが、抗生物質が広く使用されるようになった結果、耐性プラスミドは多くの細菌間に伝搬し、耐性菌の蔓延を引き起こす結果となった。これらの細菌にはペニシリン耐性のように分解酵素の遺伝子を持つものや、カナマイシン耐性のように酵素による化学的修飾によって不活性化する遺伝子を持つものもある。最近有名になった病原性大腸菌O-157の持つ「ベロ毒素遺伝子」は、本来この毒素を持つ志賀赤痢菌(Shigella dysenteriae 1)から毒素遺伝子が本来無害な大腸菌に伝搬した可能性が高いと言われている。

作物の遺伝子組み替えは、遺伝子の増幅や宿主への導入のために、元々感染性のプラスミドやウイルス、トランスポゾン(細胞間を渡り歩く遺伝子ユニット)を使うために、野外に放出された場合、異種生物の遺伝子に伝搬し組み替えを起こして一人歩きをする可能性がきわめて高い。すでに、除草剤(BASTA)耐性遺伝子を組み込んだトウモロコシと菜種の栽培土壌からこの植物の耐性遺伝子(ホスホノスリシン・アセチルトランスフェラーゼ遺伝子pat)を持った土壌菌が多数検出されている。また、多くの海水中のバクテリアがウイルス様粒子(VLP)を通じて、その遺伝子を大腸菌に伝達することや、下水処理場でのバクテリア間遺伝子伝達が実験室条件よりも高率で起こることも報告されている。遺伝子組み替え大豆やトウモロコシを食べた人間や動物の腸内で、ホリゾンタル・トランスファーによって抗生物質耐性遺伝子が腸内細菌に伝達される可能性は高い。はじめに述べたDoerflerらの研究は、感度の高い検出法によって、経口投与されたウイルスのDNAがマウスの白血球や脾臓細胞のDNAに取り込まれていることを示した典型的な例である。

(B) 外来遺伝子の物理的拡散

組み替え遺伝子は、植物の花粉や植物を食べた昆虫、それを食べた鳥や動物の糞などを通じて、物理的にも広く拡散する。そうした被害の典型的な例は最近話題になった、米コーネル大学のJ.ローシーらによる、殺虫遺伝子(Bt)を持つとうもろこしの花粉を食べたオオカバマダラ蝶の幼虫の死亡や成長障害の報告であろう(8)。オオカバマダラは北米の主要な蝶であり、これは生物多様性維持に対する大きな脅威である。遺伝子組み替え体植物の花粉が1キロメートル以上も飛散し、類縁種の野生植物と交配してその遺伝子を伝搬した例は、ハツカ大根(9)、ジャガイモ(10)、アブラナでの報告がある。アブラナの場合、花粉は2.54 Kmも先まで飛散して他の近縁種に交配して除草剤(ラウンドアップ)耐性遺伝子を伝達し(11)、またアブラナから野生のラデイッシュに伝搬したラウンドアップ耐性遺伝子は4世代にわたって伝達された(12)。

 いずれにせよ、組み替え遺伝子が広く環境中にばらまかれた場合に起こる生態系への影響は長期的に見れば生態系の安定性と生物進化に対する大きな撹乱要因となってその影響は計り知れないものになろう。

 

問題点その(7)予想外の物質の生産

例1)1989年、昭和電工(株)がアメリカで健康食品として販売していた必須アミノ酸のトリプトファンをさらに多量に生産出来るように、バクテリア(Bacillus amyloliquefaciens)に遺伝子組み替えを行ったところ、予期しない不純物(EBT, 3AA 等、1050ppm程度)が出来て混入し、これを飲んだ37名が死亡し1500名余が回復困難な病気(EMS好酸球筋痛症候群)になった。原因は、トリプトファンの濃度増加と精製過程での不備である

(13)。ほとんどすべての生物の細胞内で必須アミノ酸のトリプトファンの濃度は低濃度であり、これはトリプトファンの水に対する溶解度がきわめて低いことと関連がある。こうした自然を無視した組み替え体細胞の中で高濃度になったトリプトファンは、同じく細胞内の通常の成分であるアセトアルデヒドと化学的に反応してトリプトファン2量体(EBT)を生成してしまった。この例は、目的とする遺伝子産物にだけ注目すればよい、という「実質的同等」の考え方に大きな警鐘を鳴らすものである。遺伝子組み替えが具体的に人体被害を起こした最初の例である。昭和電工は患者側に2000億円の和解金を払って裁判を避けた。

 

例2   )大腸菌に豚または牛の成長ホルモン(ソマトトロピン)遺伝子を組み込んだところ

生産された成長ホルモンには、本来なら存在しないN-アセチルリジンというアミノ酸が1個含まれていた。本来のリジンをアセチル化(修飾)する酵素が働いたと見られるが、そのメカニズムは分かっていない(14)。

 

例3)    植物油の不飽和脂肪酸の一つであるリノール酸(2重結合2個)の不飽和度をさらに

高め、動物や人間に有用なガンマ・リノレイン酸(GLA2重結合3個)に変えるために、シアノバクテリアの不飽和化酵素(デルター6ーデサチュラーゼ)の遺伝子を単離し、手始めに(目的は菜種)タバコの細胞に組み込んだ。GLAは出来た(全体の1%程度)が、同時にさらに不飽和度の進んだ、オクタデカテトラノエン酸(OTA2重結合4個)がより多く(全体の12.9%)出来た。GLAOTAも通常のタバコには存在しない。これは遺伝子組み替え植物で、予期しない不飽和脂肪酸が出来た最初の例である。シアノバクテリアと高等植物のタバコでは遺伝暗号の読みとり方法が違うからかもしれない。OTAは工業原料としては有用だが、人間には毒物である(15)。

 

例4)    酵母菌の発酵能力を高めるために、遺伝子操作を加えたところ、予期しない物質

メチルグリオキサールが出来た。これは組み替え遺伝子の直接の生産物蛋白質ではなく低分子量の毒物であり突然変異源である(16)。

 

 

例5)    ブラジルナッツの遺伝子を大豆に組み込んだところ、ブラジルナッツにアレルギ

を持つ人に対して、強いアレルギーを起こす蛋白質が出来た(前述)

 

 

(1)Guidance for Industry: Use of Antibiotic Resistance Marker Genes in Transgenic Plants.

U.S. Food and Drug Administration Center for Food Safety and Applied Nutrition. Office of Premarket Approval (September 4,1998)

 

(2)Shubbert, R., D. Renz, B. Schmitz, and W. Doerfler:  Proc.Natl. Acad. Sci. USA, 94: 961-966 (1997)

 

(3)A. Salyers, Nature 384:304(1996)

(4)Conference on Scientific Issues Related to Potential Allergenicity in Transgenic Food Crops (US Food and Drug Administration Center for Food Safty and Applied Nutrition, CFSAN Hand out :1994))

 

(5)J.A. Nordlee et.al., New England Journal of Medicine, 334:726-728 (March 14, 1996)

(6)R. Seetharam et al. Biochemical And Biophysical Research Communication, 155: 518-

523(1988)

(7)M.A.Matzke &A.J.M.Matzke , Plant Physiology, 107:679-685(1995) 

(8)J.E.Losey, L.S.Rayor, and M.E.Carter, Nature, 399:214 (1999)

(9)T. Klinger , P.E.Arriola and N.C.Ellstrand, Am.J.Bot.,79: 1431-1435(1992)

10)I. Skogamyr , Theor. Appl.Genet., 88: 770-774(1994)

(11)T.R.Mikkelsen, B.Andersen and R.B.Joergensen, Nature, 380:31(1996)

(12)A.M.Timmons et al, Nature,380: 487 (1996)

(13)E.A. BELONGIA et al.The New England Journal of Medicine, 323: 358~365 (1990)

(14)B.N. VIOLAND et al.Protein Science , 3: 1089-1097(1994)

(15)A.S.REDDY et al.Nature Biotechnology, 14: 639-643 (1996)

(16)T. INOUE et al., Int. J. Food Science Technology, 30: 141-146(1995)

 

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