ラウンドアップ耐性大豆の収量低下の原因に関する研究2題
(解説 河田昌東)
(1)
ラウンドアップ除草剤の薬効成分グリフォサートが根粒の発達を妨害する。
――――アーカンサス州立大学の研究――――
C.Andy King,Larry C.Purcell,and Earl D.Vories
Plant Growth and Nitrogenase Activity of Glyphosate‐Tolerant Soybean in Response to Foliar Applications
Agronomy Journal 93: 179‐186(2001)
アメリカ農学会機関誌に最近掲載されたこの論文は、ラウンドアップ耐性大豆が持っている芳香族アミノ酸合成酵素CP4EPSPSはグリフォサートに対して抵抗性を持つが、大豆の根に共生している根粒菌Bradyrhizobium japonicumの芳香族アミノ酸合成酵素EPSPSは耐性を持たないので、ラウンドアップ散布によってどのような影響を受けるか研究した。ラウンドアップ耐性大豆を温室、実験箱、野外の3種類の条件で栽培し、色々な時期にラウンドアップを散布し、窒素固定能力、生育速度、大豆収量などを調べた。生育初期に散布すると、植物体内への窒素固定が遅れ、発芽19日目には生育障害と体内窒素の減少が見られた。しかし、40日目には回復した。実験室では土壌中の水分量が少ないと窒素固定と生育に遅れが見られた。野外栽培では、栽培した土地によって収量に違いが見られ、水分の少ない土地では生育遅れとマメの収量低下が見られた。こうした結果から、グリフォサートが根粒菌の発達を妨害し、結果的に大豆の成長や収量に悪影響を与える可能性が指摘された。土壌に水分や肥料が不充分だと収量低下につながる。
(2)
グリフォサート耐性遺伝子挿入による直接的影響。
――― ネブラスカ州立大学の研究 ――――
R.W.Elmore,F.W.Roeth,LenisA.Nelson,Charles A.Shapiro,
Robert N.Klein,Stevan Z.Knezevic and Alex Martin
Glyphosate‐Resistant Soybean Cultivar Yields Compared with Sister
Lines. :Agronomy Journal 93: 408‐412(2001)
この研究者らは、ラウンドアップ耐性大豆の収量低下の原因が、外来遺伝子の挿入と関係があるかどうかを調べた。ネブラスカ州内4箇所で二年間にわたる実験結果である。在来種大豆の親株5種類とそれぞれにCP4EPSPS遺伝子を組み込んだラウンドアップ耐性株5種類を用意した。その他に比較対象のために、3種類の非組換え大豆、5種類のラウンドアップ耐性大豆を栽培した。組換え大豆は平均して5%(200Kg/ha)の収量低下があった。組換え体大豆に比べて非組換えの親株は大豆の重量が大きく、草丈は非換え体のほうが組換え体に比べて平均2p低かった。その他の形質に違いは無かった。非組換え体の高収量品種は、非組換え体親株よりも平均5%収量が多く、結果的に組換え体よりも10%高収量だった。
除草剤グリフォサートの代謝に与える影響を排除するために除草は基本的に手作業で行われた。4個所のうち3箇所では発芽前にメトラクロールとメトリブジン除草剤(ラウンドアップと違う除草剤)で除草した。他の1箇所ではメトラクロールとメトリブジン、グリフォサートの混合除草剤による除草試験のものと、s−メトラクロールとグリフォサートによる除草も行った。こうした実験の収量比較から、グリフォサート耐性大豆の収量低下5%は外来遺伝子挿入過程で生じたものか、あるいは外来遺伝子自体の遺伝学的影響によるものと考えられた。同研究者らの別の実験で、グリフォサート自体は耐性大豆には悪影響を与えていない、と結論されている。