GMトウモロコシを承認した劣悪な科学(Bad Science)

 

2002年2月26日

ISIS レポート

メイ・ワン・ホー

訳 山田勝巳

 

  4時間に亘る公聴会で明らかになったのは、アベンティスT25GMトウモロコシを市場が認めているというのは最初から最後まで科学的でっち上げだと言うことだ。

 

 公聴会の小さな部屋は満席で、前の席はアベンティス用に取られていた。 私の傍聴席は前列に取っておくと聞いていたのに後ろ側の席だった。 公聴会は、急に決められ、開催を知っていた団体は少なく、出席や証拠提出を求められた団体は更に少なかった。 にもかかわらず、ウエールズやスコットランドのような遠いところからも参加があった。

 

  14人の証言者が、水平遺伝子伝達と遺伝子の安定性、環境リスク評価と監視、成分同等性、飼料安全評価、鶏給餌試験の5つの分野で5分ずつ発言した。 アベンティス・クロップ・サイエンス社は、5回証言し、それに組みする証言者が2名話した。 明らかにアベンティスに有利な配陣だった。 更に、4人の専門家が提出された証拠に対し発言するようになっており、傍聴者の発言は一切認められていなかった。 反対者達は、ひどく不利な状況に置かれていた。 この手続きに対し地球の友の担当者が抗議したが、議長のアラン・グレィ教授によって厳重に却下された。

  グレィは、科学的根拠だけが検討対象であって、社会的・倫理的な議論は一切考慮しないと明言した。 これは科学が倫理的責任とか社会的責任とは決別しているという学会特有の人を惑わす病弊を暴露している。 C.P.スノウは、科学者が研究内容に対する責任逃れを許すこのような姿勢を、1960年代に「道徳の落とし穴(themoral trap)」と呼んだ。 いづれにしても、公聴会が始まってみると科学をどれほど狭義に解釈しても、アベンティスもACREもとても合格とは言えないことが明らかになってきた。 彼らを拒否し、その怠慢に対する科学的証拠が積み上げられ、アベンティスは話すたびに墓穴を掘っていった。 半分過ぎたところで、アベンティスは「新たな証拠を持ち出す」必要を認めざるを得なかった。

 

  公聴会の前日に配られた議案書では、私が最初の証言者になっていたが、全く予告もなくリカルダ・シュタインブレヒャー博士(エコネクサス)が話すよう求められた。 少しどぎまぎしながらも落ち着いたふうを見せたリカルダだったが、かつての意図的リリース指導要領に基づいてT25の最終的承認責任のあるEUの植物科学委員会の無知を暴露した。この委員会では、グルフォシネート耐性を発現するpat遺伝子をコントロールしているカリフラワーモザイクウィルス・プロモーターはバクテリア中で不活性であるから、バクテリアに取り込まれても問題ないと想定している。 実は、CaMV35Sがバクテリア中で活性があるというのは1990年以来ずっと知られている。 この間違いは、アベンティスの公聴会提出資料でも繰り返されていた。

 

pat遺伝子は、元々カメレオンから単離されたストレプトマイセス・ビリドクロモジーン(訳注:カビの一種)の特定の株からの物である。 この遺伝子は、アベンティスの主張とは違い、ヨーロッパの土壌菌やストレプトマイセス菌には全く分布していない。 アセチル基をグルフォシネートに変換する酵素をコード化する事によって植物中で無毒化している。 だが、殆どの酵素同様逆の反応にも触媒作用がある。 (基礎化学では、物質や生成物の濃度によるが、全ての化学反応は可逆性がある。)

 

25トウモロコシを与えられる乳牛のおなかの中には膨大な数と量の微生物がいて、このpat遺伝子を取り込む機会は山ほどある。 これらのバクテリアはアセチル・グルフォシネートからアセチル基を取り除いてグルフォシネートに戻すようになるだろう。 この除草剤は、人などの哺乳動物に、奇形児や神経細胞を損傷する毒性があることが知られている。 pat遺伝子が土壌中でどのような挙動をするかは分からない。 グルフォシネートは、ダニ類、いも虫などの昆虫に害をなす(メイ・ワン・ホーのマンロッキー警告を支持したスコットランド議会への要望書に詳しいhttp://www.i-sis.org.uk/ 。)

 

CaMV35Sプロモーターは、バクテリア中で活性があるだけでなくカエルの卵や人の細胞を含む全ての生物界で活性がある事は、ホー、ライアン、カミンズが1999−2000にかけて詳細な科学論文で発表している。 後から発言を求められた二人の専門家は、我々がこれまで関わってきた専門家同様これらの発見を良く知らないと発言した。 T25が遺伝的に安定であるという証拠がないのは最悪だと私は指摘した。遺伝的安定性は最も重要な基準で、環境や健康へのリスクを検討する以前の問題だ。 前のT25の公聴会は、一年以上前に当時の弁別性、均一性、安定性についてEC検査を通らないことが分かって停止されている。

 

新しいEC指導要領では、ゲノム中のどこに、どのような形で挿入されたのかを少なくとも5世代に亘って厳密な分子証明、私は事象毎の分子証明を強調、が求められている。 これまで当局側は、このような分子データを求めたことはなかった。 その代わり、いわゆるメンデルの遺伝法則を受け入れてきた。 これもまた業界を有利にする科学の過ちであった。 メンデルの比率に合わないというのはメンデルの法則の証明ではないのは、真っ当な科学者なら知っているはずで、特に親株の遺伝型がそれぞれ特定されていなければなおさらだ。 アベンティスがイギリスでの圃場試験について提出した資料の中には、間違ったメンデルの比率さえ記載されている物もある。 アベンティスは、メンデルの比率が安定性の証拠ではないことを認めた。

 

組み換えの不安定性、特に構造的不安定性はそれ自体が安全性の懸念であり、水平遺伝子伝達や組み換えを起こす可能性が大きくなる。 水平遺伝子伝達は、単なる理論的可能性ではない。 長い間実験室や微生物実験で起こっていることだ。 その上で、圃場で起こらないことの証明を要求しているのだ。 しかし、これまでの姿勢は、「実験室で起こるからといって圃場でも起こることにはならない」に終始してきた。 そして実際に圃場で起こる証拠をドイツの研究者が発見したとき、正しい科学と予防原則(これらは一体のものだと思うが)に反してACREはこの証拠を特別な物と解釈した。 私は、次に何故自然のDNAではなく組み換えDNAを食べることに懸念があるのかを詳しく述べた。 組み換えDNAは、多くの意味で水平遺伝子伝達で拡散し、バクテリアから人に至までの細胞のゲノムに侵入するように最適化されているのだ。(GM作物の隠された秘密、ISISレポート2月14日2002を参照)。

 

専門家として出席したJPW・ヤング教授(ヨーク大学微生物遺伝学)とヘルスロップ・ハリソン教授(ライセスター大学ゲノム安定性)は、水平遺伝子伝達は選択の力に依存すると述べた。 組み換え遺伝子は安定かとの問いに対しては、ヘスロップ・ハリソンは、自然のゲノムも「比較するとかなり頻度は低い」が不安定で、組織培養では頻度が高くなる。 残念ながら、議論になっている劣悪な科学(bad science)は、「水平遺伝子伝達は、選択の強い力があるときのみ起こる」ということを指摘するのを妨げられた。 ここの「選択」は、抗生物質耐性を選択するために抗生物質を使うことを意味している。 抗生物質は水平遺伝子伝達と組み換えが起こってから、実験者が抗生物質耐性遺伝子を持つ組み換え材料を選択的に拾い出すために使われる。 

 

水平遺伝子伝達は、本来非選択プロセスである: 抗生物質に対し、違う種がそれぞれ最も貴重な財産を生存のために共有するのだ。 実際には、抗生物質があると水平遺伝子伝達の頻度が10−10000倍に増加するという証拠が既にある。 いつになったら生物学者達は、自然淘汰を隠れ蓑にして論理思考を曇らせ一般市民を混乱させるのを止めるのだろうか。 同じ脈絡で業界側は、抗生物質耐性を産んでいるのは農業や医療での抗生物質使用の過剰によるものだから、抗生物質が段階的に廃止されれば問題はなくなるとのたまう。 抗生物質が段階的に廃止された後でも抗生物質耐性は際限なく存続し続けるという確たる証拠がある。 単純化した極端な予測は、その度毎に、複雑にもつれ合う遺伝子機能のため外れてきている。 (抗生物質を段階的に廃止することでは抗生物質耐性は減らない。ISISニュース9月6日2000、メイ・ワン・ホーを参照 www.i-sis.org.uk>)

 

  反対者はますます強力になっていった。 だが、間の悪い質問はACREメンバーからも出た。 クリス・ポラック教授は、リリース後の監視法について知りたがった。情報収集はどうするのか。 監視法や記録内容、有意な変更とは何か、と。 これには、アベンティスは何一つ答えられなかった。 生産性だけが売りだ。 別のACREメンバーが、土壌微生物は調査したのかと質問した。 アベンティスが野生生物に変化はなかったと答えると、どの種とどの病害が記録されているのかと質問した。 これに対しアベンティスは、そのデータはアメリカで取られたと回答した。 スー・メイヤー博士(GeneWatch)は、リスク評価に対し、環境評価、監視案、動物の健康と食物連鎖への影響が含まれていないものは受け入れられないときっぱり言った。 「違いがない」とか「影響がない」といったいくつかの当たり障りのない主張は、信頼できるデータの裏付けがない。 その程度でACREは1996年に圃場試験を許可したのだ。 そして、今でも新たな原則を持ち込む様子はない。

 

審問中に突然ポラックは、圃場試験はGMOの評価のためではなく、生産に新たな除草方法を導入するだけだと宣言した。 その場に居た全員にとって寝耳に水だった。 こんな事には賛成できない。 ACREは我々に本当のことを言わなければならない。 ポラックが正しいとすれば、そもそもこの公聴会を開く理由であるT25を市場が受入るかどうかなど検討する必要がない。 成分同等性については、ビビアン・ハワード博士(リバプール大学、毒物学)が、GMと非GMでは統計的に有意な違いが見られ、中には全部の品種で範囲外のものがあるにもかかわらず、これが無視されて実質的に同等であるとされていると指摘した。

 給餌試験も、バクテリアから精製した蛋白質をネズミに与えているが、これはGM作物を本来意図する牛が食べることと全く関係がない。 成分同等性は化学評価であって、生物学的リスクには全く関係がない。

 

リチャード・フィップス教授は成分同等性を根拠に実質的同等性を擁護した。おかしな事に彼の使ったデータはアベンティスが提出したものとは違っていて、この点はビビアン・ハワードが非難した。 フィップスの理論的説明によると、成分比較でGMが非GMと実質的に同等であったので、唯一の違いは遺伝子産物そのものに違いない。 従って純粋な蛋白質を使って研究した。 実質的同等性はばかげた還元主義者がリスク評価を正当化するための道具だ。 全ての遺伝子間、蛋白質間、代謝物質間等全部の相互作用を無視している。

 

  雑な化学分析では、そもそも違いを見つけるのが難しく、蛋白質は、特に平均値では、すべてがほぼ同じアミノ酸成分を持っている。 ホーとスタインバーガーは、これを1998年の科学論文で指摘しており、最低限でも分子プロファイリングを要求してきた。アベンティスに鋭い質問が出された。 データの範囲はどれだけか? 特定の年度だけのものか、また何故ビビアン・ハワードが使ったものと違うのか?安全性に対する成分同等値はいくらか? アベンティスはどれにも答えられなかった。 そして、成分同等は、「安全性の指標ではない」また「別の証拠を提出しなければならない」と認めざるを得なかった。 

 

食品安全性評価については、ボブ・オルスコフ教授(マコウレィ研究所、反芻動物の栄養専門家)が、「化学的分析値は、乳牛のミルクの安全性とは何の関わりもない。」と確信しており、「反芻動物に餌を与えることは、バクテリアを与えることだ。」と発言した。 これについては研究がされていない。 「簡単なことだ。誰も検査をするように求めなかっただけだ。 ミルクを飲んでも大丈夫だといえるのか。」と質問した。 「慌てることはない。 実験室で先ず微生物検査をする、そして給餌試験をしてからミルクを検査する。 始めに予備検査を沢山しなければならない。」と話した。

 

ACREの担当者は、化学分析は常に新しい飼料の特性評価に使われてきたと指摘した。しかし、これはそもそもGMと非GMに違いがないという基本的に誤った前提に立っているので、GM飼料には全く適さない。 いづれにしてもオルスコフは、化学成分分析をすべきなのは穀物ではなく牧草だと指摘した。

 

微生物には、化学成分からは予測できない「突発異常」があるのをご存知かとクリス・ポラックは質問した。 勿論、知っている。 セルロースの分解性などだ。 セルロースには側枝が出ていて難分解性のものがある。

 

ディビッド・ビーバー教授(レディング大学)がアベンティスの側に立って、DNAは加工段階で破壊されるので何ら心配することはないと話した。 彼は、MAFFの資金研究で出た結果を不正確に述べており、実際には殆どの商業加工したものはDNAがそのままか不完全にしか分解されておらず、動物にGMサイレージを与えてはいけないとはっきり書いている。(ISISレポート 動物飼料中の組み換えDNA と水平遺伝子伝達2002年を参照のこと) ジャネット・ベインブリッジが、動物製品は組み換えDNAの検査を定期的にすべきかと質問したのに対し、ビーバーは、時間の無駄だろうと答えた。

 

エミリー・ダイアモンドとアドリアン・ベッブ(地球の友)は、ACREが新型食料品諮問委員会(ACNFP)の中心的科学者が出した安全性の勧告に反して無頓着であることを非難した。 給餌試験で使ったのが牛ではなくネズミと鶏であることに異議を唱えた。 ACNFPのベインブリッジは、問題を見直してその結果をウェブサイトに載せると話した。

 

最後に、トビー・ノウルズ教授(ブリストル大学統計学者)は、アベンティスの給餌試験ではGMを食べた方が非GMを食べた鶏よりも2倍死亡鶏が出ていることを、欠陥設計、低水準科学、何の証明にもならないと強く非難した。 発表などとんでもないと拒否した。 この見解は全体としてステファン・セン教授(ロンドン大学付属カレッジ、薬剤部統計助手)も共有するものの、公表については、もし「科学に於ける統計の基準は極めて曖昧なものである」ということが一般的であるなら、良いだろうと話す。 これは、GMに関してはその通りなのだ。 そして、証明試験、仮説試験の責任について深刻な疑問がある。 (ISISニュース9月6日2000年ピーター・サウンダースの{予防原則の適用と乱用」 及び、ISIS転載ピーター・サウンダース/メイ・ワン・ホー2002年の予防原則を参照}。

 

予防原則を適用する場合、統計の違った使い方が必要なのかという問題について、二人の統計学者とも踏み込まなかったのはがっかりだ。 彼らがGMトウモロコシを食べるか、GMトウモロコシで育った牛を食べるか聞きたいものだ。 英国統計学士院の前学長は、安全性についてネズミが一匹でも死ねば問題にすべきだとコメントしたことがある。 それならば、少なくとも統計的有意性を10%、若しくは5%以上に設定し直すべきではないか。 そうすれば不必要に動物を苦しめることもない。ACREは議事報告と書類を公表すると約束した。 

 

 

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