プリオンの働きの仕組みが解明された

脳の病気の治療に役立つかもしれない

 

ネーチャー・ニュース・サービス

20034月4日

ヘレン・ピアソン

訳 河田昌東

                              

スイスの研究者らがプリオンに関して永年不明だった感染の理論を解明した、と発表した。それによれば、タンパク質の連結体が狂牛病の発現に関わっている。彼らの実験が病気の治療の研究を加速するのは必至である。動物の異常(訳注:BSEやスクレーピー)と人間の病気である変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)のどちらも、脳内の変形プリオンタンパク質が凝集し、その結果脳を破壊している。変形プリオンは正常プリオンに連結しそれを歪んだ形にすると考えられてきた。しかし、科学者らは罹患した動物に起こりつつあるこの連結中間体をこれまで突き止められなかった。

今回、スイスのチューリッヒ大学病院のアドリアノ・アグッシと彼の共同研究者らは実際に働いているプリオンを捕らえることができた(1)。彼らはマウスの遺伝子操作で新しい目印のついたプリオンを人工的に作り出した。実際のプリオンと違って、それらは細胞から分離するのが容易になった。それから彼らはその組換えプリオンを羊のBSEであるスクレーピーの原因タンパク質を持っている動物の脳内に注入した。予想通り、彼らは自分達の作った人工的プリオンが突然変異を起こした変形プリオンに結合したものを検出した。(分子の)相互作用の「これまでで最もクリアな証拠だ。これは自然状態を模擬している」とプリオン研究者でカリフォルニア大学のマイケル・スコットは言う。この連結したタンパク質はプリオン-プリオン結合をブロックする薬剤のスクリーニングや、あるいはそれに関連する他のタンパク質の同定に役立つかもしれない。「この実験は確実にこのプロセスの解明に役立つ」とスコットは言う。

 

遅れた進歩

1995年以来、英国では変異型クロイツフェルト・ヤコブ病で脳を破壊され125名の人々が死亡した。それは恐らくBSEにかかった牛肉を食べたからである。最近の予測では、将来的にこの病気による死者は英国だけで10名から7000名に及ぶと言われている。現在その治療法はない。彼らが開発した人工プリオンは新しい治療の基礎となるかもしれない、とアグッシのチームは言っている。なぜなら、この人工プリオンは変形プリオンと結合はするが、それ自体異常型に変形しないからである。 この遺伝子操作プリオンを持つマウスは、それをもたないプリオンに比べて(異常プリオンを注入後も)少なくとも3ヶ月は長生きした。アグッシのチームは遺伝子操作で人工プリオンを作るに当たって、正常プリオンタンパク質と人間の抗体タンパク質の一部とを連結させた。その結果このタンパク質は水溶性になり、それに結合した他のタンパク質とともに、すりつぶした細胞からの抽出を容易にすることが出来た。

 

プリオンの研究者は異常プリオンの増殖をストップさせ、クロイツフェルト・ヤコブ病の発現を遅らせるために薬剤や抗体を使う試みを始めている。「人工プリオンが抗体より良いかどうか、今はまだ分からない」とカナダのトロント大学で脳疾患を研究しているナイル・キャッシュマンは言う。

 

文献1Meier, P. et al. Soluble dimeric prion protein binds PrPSc in vivo

        and antagonizes prion disease. Cell, 113, 49 - 60, (2003).

 

 

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