人のプリオン病に於けるプリオン蛋白の異常な金属結合
神経化学ジャーナル
2001年9月号(78巻、p1400−1408)
訳 山田勝巳
スーン・セン・ウォン、シュ・G・チェン、モニカ・コルッチ、ズィリアン・シー、タオ・パン、トン・リウ、
ルィアン・リ、ピエルイジ・ガンベッチ、マンーサン・シ、ディビッド・ブラウン
(国立プリオン病病理調査センター、病理研究所、ケース・ウェスタン・リザーブ大学医学校オハイオ州クリーブランド、ケンブリッジ大学生化学部)
概要
人プリオン病は、正常プリオン蛋白(PrPc)が病原性異性体(PrPsc)になっているのが特徴である。 いくつかの病原性異性体の立体構造の違いと、異なるプリオン病タイプとは関係がある。 正常プリオン蛋白質は、銅を結合しており抗酸化力を持つ。 結合する金属イオンが変わると抗酸化力が著しく減退し、蛋白質の立体構造も変ってしまう。
我々は偶発性のクロイツフェルトヤコブ病(sCJD)患者の脳の微量元素を研究した。 sCJD患者の脳組織から、最大50%の銅の減少と約10倍のマンガンが発見された。 sCJD患者から精製したプリオン蛋白質で金属の結合状態も分析した。 正常プリオン遺伝子型と病原性型の合計で判定したところ、sCJD変種の精製プリオン蛋白質すべてに、著しいマンガンレベルの上昇と、比較的低いレベルの亜鉛の上昇に伴い、著しい銅の減少がみられた。 亜鉛とマンガンは共に対照の正常プリオン蛋白質には検出されなかった。
銅とマンガンの置換は、プリオン遺伝子のコドン129番目のメチオニンがホモで、タイプ1の病原性プリオンの患者の検体で顕著であった。 精製したプリオン蛋白質の抗酸化力は、変種sCJDのあるものでは最大85%まで劇的に減っており、sCJDの脳での酸化ストレスマーカーの増加と相関があった。 これらの結果は、プリオン蛋白質に結合する金属イオンが変わることがプリオン病の病原性に中心的な役割を果たすこと示している。 sCJDの変種毎にそれぞれ金属の置換状態が異なっているので、この違いがsCJDの色々な病状の違いに関係しているのだろう。
最後に、この研究ではCJDの診断に2つの可能性を提案している。 脳内のマンガンの有意な上昇はMRIで検出できる可能性があることと、sCJDのPrPによるマンガンの捕捉は新しい診断マーカーになる可能性がある。
PMID: 11579148 [PubMed - indexed for MEDLINE]