Biochemical Society Transactions 30: 906-910 (2002)

 

プロラミンスーパーファミリー植物タンパクと食物アレルギー

Plant protein families and their relationships to food allergy

http://www.jpha.or.jp/jpha/jphanews/anzen_news/55.html#6

Key Words : 2S アルブミン/アレルゲン/脂質輸送タンパク/プロラミンスーパーファミリー/種子タンパク

訳 河田昌東

 

 植物タンパク化学の研究は1745年, ボローニャ大学の Jacopo Beccari による小麦グルテンの単離にはじまり, 今日まで250年以上にわたる長い歴史を持っている. 植物タンパクのうち, もっとも注目され研究が進んでいるのは種子のタンパクであるが, これは種子タンパクの単離や結晶化の容易さとともに, これらのタンパクが家畜飼養や食品加工において重要であるからに他ならない. さらに近年ではトランスジェニック食品やその他の新しい食品によるアレルギーへの関心が, 特に欧米での研究に拍車をかけているのである.

 植物タンパク質の分類は, その研究の黎明期においては溶解性に基づいて行なわれていた. しかし, 近年になると, タンパク質の分類は機能あるいは推定された機能に注目して行なわれる様になった. シロイヌナズナやイネにおけるプロテオーム解析による分類がその好例である.

 植物タンパクのうちもっとも広範囲に分布し, 食物アレルギーにも深く関与しているものの1つに, プロラミンスーパーファミリーがある. プロラミンスーパーファミリーに属するタンパクは, 分子量 15,000 Da 以下の含硫低分子量タンパクで, 8個あるいはそれ以上のシステイン残基を持ち, ジスルフィド結合によって安定化されたαヘリックスによる折りたたまれた束状構造を持っている. プロラミンスーパーファミリーのタンパク質は, 2つに大別される. 第1のグループには, ハイドロキシプロリンが豊富な糖タンパク質である細胞壁構造タンパク質等が含まれ, 第2のグループには穀類種子中の貯留タンパク質が多く, 双子葉植物種子の 2S 蓄積アルブミン, αアミラーゼ/トリプシンインヒビター, ピューロインドリン, 穀物軟化タンパク質, 大豆疎水タンパク質, 非特異的脂質輸送タンパク質が含まれる. 異なるファミリー間ではジスルフィド結合のパターンも異なるものと推定される.

 スーパーファミリーの名前の由来となったプロラミンはαアミラーゼ/トリプシンインヒビターファミリーの一員で, 穀物の貯蔵タンパク質であり, 水に難溶, アルコール/水混合液に可溶で, しばしばプロリンおよびグルタミンが多い異常なアミノ酸組成を持つ事で知られている.

 シロイヌナズナの遺伝子の解析から, プロラミンスーパーファミリーのタンパク質は, 最も大きなファミリーの1つで, 食物アレルギーの原因となるものが多く存在することが明らかになった. 食物アレルギー調査資源プログラムのデータベース (http://www.allergenonline.com/) によれば, このスーパーファミリーにおける既知の食物アレルゲンは98にも及び, 例えば小麦プロラミンは, アトピー性皮膚炎や運動誘発性アナフィラキシーの原因となる. 以上のことから現在では, プロラミンスーパーファミリータンパク質は植物性食物アレルギーの原因として最も重要なものと考えられている.

 

Shewry PR1, Beaudoin F1, Jenkins J2, Griffiths-Jones S3, Mills EN2
(1 Bristol 大学, 農学部, Long Ashton 研究ステーション, Long Ashton, Bristol, 2 Norwich Research Park, 食品研究所, Colney, Norwich, 3 Wellcome Trust Genome Campus, Hinxton, Cambridge, UK)

 

 

 

戻るTOPへ