欧州食品安全機関、GMトウモロコシ・Bt10で意見 欧州委は米国コーン輸入停止を考慮

 農業情報研究所(WAPIC)

05.4.14

 欧州食品安全機関(EFSA)が12日、シンジェンタ社の未承認遺伝子組み換え(GM)トウモロコシ・Bt10の安全性に関連した問題で欧州委員会に科学的支援を提供するという声明を出した(EFSA provides scientific support to the European Commission on issues related to the safety of Bt10 maize:http://www.efsa.eu.int/press_room/press_statements/884/efsa_statement_bt10maize_en1.pdf)。

 声明によると、EFSAは3月23日に米国でBt10が誤って販売され、スペインとフランスに承認済みのBt11として研究用に輸出されたと伝えられた。シンジェンタ社によると、Bt10とBt11に発現する二つの新たな蛋白質(Cry1AbとPAT)が認められる。Bt11はEUで食品・飼料用に承認されているが、Bt10は抗生物質・アンピシリンに抵抗性を与える遺伝子(blaTEM)を含む。ESFAのGMOパネルは、現在、Bt11の栽培利用申請を評価している最中である。Bt10の誤っての放出の報を受けて、Bt10の存在によりBt11のリスク評価が危うくされないかどうかを確認するために、直ちに申請者に情報を求めた。EFSAは欧州委員会と緊密に協力、Bt10の安全性の問題に取り組むという。

 この観点からとして、EFSAは、アンピシリン抵抗性マーカー遺伝子を含むGM作物は商業販売されてはならず、実験にのみ利用できるという以前のEFSAの意見(欧州食品安全庁、GM植物における抗生物質抵抗性マーカー遺伝子利用について意見,04.4.21)にもかかわらず、その存在が、それ自体としてはアンピシリン抵抗性遺伝子をマーカー遺伝子として利用することから生じるリスクに関する重要な考慮要因であるこの抗生物質に抵抗性を持つバクテリアのプールを大きく変えることはないと指摘する。さらに、この遺伝子のバクテリアへの移転もフィールド条件では発見されていないとも指摘、マーカー遺伝子からくる現実的リスクを暗に否定する。

 その上で、この遺伝子の存在を別として、Bt10はとBt11と類似しているという主張はまだ確認されていないと言う。マーカー遺伝子の問題とは別に、Bt10の改めての安全性評価が必要ということだ。従って、EFSAと欧州委員会は、シンジェンタ社に対し、さらなる評価のためにBt10の安全特性とBt11の違いに関する完全な情報の提供を要求したという。

 しかし、欧州委員会にとっては、Bt10が仮に安全と確認されたとしても、問題落着というわけにはいかない。今回の事件は、消費者の反GM感情を沈静するために導入され、EUが完璧と豪語するGMOトレーサビリティーの働きをめぐる根本的問題を露見させたからだ。トレーサビリティーは、まさにこのような場合に、問題のGMOの迅速な発見・回収・廃棄を可能にするところに本来の役割がある。ところが、今回のケースでは、未だにBt10がどこに存在するかも分からない。Bt10の検出方法をシンジェンタ社が提供していないからだ。

 EUは、食品・飼料中のGMOを検出し、定量するための方法を開発し、その有効性を検証するためのGMO研究所欧州ネットワーク(ENGL)を立ち上げた(EU:GMO研究所欧州ネットワーク(ENGL)が始動,02.12.6)。しかし、このネットワークで枢要な役割を演じるのは農業バイテク企業だ。バイテク企業は、GM物質の検出に必要なDNAの配列に関する詳細情報を提供し、検出・定量のための方法の開発を可能にするなど、ENGLに全面的に協力する(自由意志で)こととされている。しかし、バイテク企業が販売許可を申請していないGMOについては、このような方法は通用しないだろう。開発途上のものや、承認未申請のものについても情報が提供されなければ、今回のようなケースは、いつでもどこでも起こり得るし、露見するこうしたケースは氷山の一角にすぎないかもしれない。現在のトレーサビリティーには、その厳正な執行を不可能にする根本的問題があるということだ。

 一部のマスコミ報道(*)によると、欧州委員会は、米国トウモロコシの一時的輸入停止を考えているようだ。AP発信情報としてワシントン・ポスト紙が伝えるところでは、EUのスポークスマンが、EUは年間4億5000万ドルにのぼる動物飼料用のコーングルテンの輸入停止を考えている語った。11日のEUの食品安全専門家の会合と、マルコス・キプリアヌEU保健担当委員とマイク・マック・シンジェンタ・シーズ営業主任との協議を経て、一時的輸入停止を考えることになったという。輸入停止はシンジェンタ社がBt10の検出方法を提供するまで続ける。マック氏はその提供に合意したが、11日の協議では提供はしなかった。輸入停止には各国閣僚の同意が必要だから、今すぐ実行されることはなかろうが、欧州委員会の慌てぶりが伺われる。

 しかし、このような措置が実行されても、問題が解決するわけではない。それがもたらす米欧貿易摩擦の問題は別としても、トレーサビリティーの根本的欠陥が埋まるわけではない。欧州市民の反GM感情は昂ぶるばかりだろう。

 EUの騒ぎを他所に、わが国当局は沈黙したままだ。マスコミも、消費者も沈黙している。ただ、6日付のNikkei English Newsによると、東京の穀物貿易業者は日本政府が輸入を拒絶、米国に送り返せと言えば混乱が起きると恐れ、一部バイヤーが米国トウモロコシの輸入を自発的に停止したと語っている。日本政府が輸入品にBt10が含まれるかどうか検査する方法を確立していないから、待機が安全なアプローチだという。しかし、一部バイヤーは、日本政府がトウモロコシ輸入を止めることはないと信じ、通常通りに輸入しているともいう。さらに、別の貿易業者は、米国政府がすぐにBt10を承認し、日本政府もそれに続くだろうと見ている。日本政府は、米国がBt10の承認に踏みきるのを待っているのかもしれない。

 *Concern over US modified corn imports,Fiancial Times,05.4.12,p.4
  EU Ponders Suspending Corn Gluten Imports(AP),The Washington Post,4.11 

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