人間産業

ISISレポート

20011225

訳 山田勝巳

 

" 我が社は色々なサービスを提供します、

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  b.. お好みの有名人の男又は女の胚幹細胞、無菌でウィルスフリーの完熟代用品

  c.. ご自身の胚幹細胞保存プログラム

  d.. ご自身の遺伝的改善プログラム

  e.. ご自身の生殖細胞改善プログラム "

 

胚性幹細胞研究、人クローン、そして生殖細胞改造の議論の裏側で、「全ての知識は悪意でない限り必要で、応用のみが規制されればよい」というごまかしがまかり通り、密かに人の生殖を企業支配下に置こうとする研究者達がいる。 このようにして無謀な(brave)新世界が明けて行く。 メイ・ワン・ホー博士は、規制のない研究は最大の悪事で、このことこそが議論されるべきだと主張する。

 

ロンドンの帝国大学、受精研究室の教授ロバート・ウィンストンは、極度の貧血を起こす血液欠陥のある2才の男の子が、IVFと胚の移植前遺伝子スクリーニングを行うことを、この子の両親に許可した人受精発生学局(Human Fertilisation and Embryology Authority: HFEA)を、激しく批判した(1)。 この両親は、次の子がこの病気にならないことを希望し、かつ長男と組織が適合するようにして、紐帯の細胞を使って2才の子の命を救いたいと考えたのだ。 

 

もし、最初の処置を失敗すると、赤ん坊は後で骨髄や他の組織、臓器さえも渡さざるを得なくなる。 しかも、組織適合化は非常に難しく、現在の成功率も23%以下であるため、この実験は失敗する可能性が高いのだ。 「本当に心配な事は、人間性さえも卑しめてしまう可能性がある。」事だと教授は言う。

 

だが、ウィンストンは人クローンに反対なのか? そうではない。 彼は、この問題は双子を作るようなものだとはぐらかす。 「人クローンを作ることが悪い事だとは言えない。 何れにしても、イギリスには、完全に普通の生活をしている約25,000人のクローンが居る。 一卵性双生児だ。」  人のクローンを作りたがっているセベリノ・アンチノリのような人に対する彼の主な懸念は、下手なことをして「価値あるDNA科学が社会的に不評を買う」事なのだ。

 

そして、人クローンの生産が「商品化の危険性を伴う」ことに反対はするものの、「治療目的」の人クローンと胚性幹細胞研究の熱心な支持者である。 しかし、どちらも人の胚を商品化する以外の何物でもない。

 

ゲノム研究ケンブリッジセンターの前所長ジョン・サルストンやその他の著名な学者のように、ロバート・ウィンストンも、科学は中立で、恵み深いものでさえあり、応用だけを議論すればよい、と触れ回っている。 意味するところは、研究は神聖であり、規制するのは、冒涜ないしは犯罪だ、と言うのだ。 「生命倫理学者」なる賢者もこれに同意して頷き、市民は彼らの利益のためのやんわりした「議論」にこっくりと居眠りをしている。

 

知る者(観察者)と知られる者(被観察者)を分けることは出来ない、またどうやって知るかが何を知るかを決定するという事を判断する量子物理を発見した研究者は一人も居ないのは明らかだ。 分かりやすく言うと、今日の「科学」なるものは圧倒的に応用目的で、常に売れるかどうかを目安にしているということに気づいている研究者が一人も居ないということだ。

 

だから、研究者は殺人罪を免れているだけではなく、人間を産業的に生産する無謀な新世界へ、我々を押し込もうとしているのだ。 何が研究の地平に見えているか、この後を読んでいただきたい。

 

最初の人クローンと「空の卵子」提供者

 

「初めての人クローン胚」は、感謝祭の日に、マサチューセッツの会社アドバンスト・セル・テクノロジー(ACT)によって発表された。 この会社の創業者で社長のマイケル・ウェストは、これが「医学の新世紀」をもたらし、「丁度車が故障したときの修理のように、交換用の細胞や組織を使えるようにする」ものだ、とテレビで説明した(2)。

 

研究内容は、余り知られていない電子ジャーナルに掲載された。 ウェストは、この研究をUSニュースと同時に発表することに同意する学術出版社を見つけるために、わざと権威ある専門家が審査する雑誌をバイパスした、と後になって認めている。

 

実は、この会社が作ったのは、「人胚」とは似ても似つかないものだった。 核移植(羊のドリーを作った方法)後の卵が発生したのは最高で6細胞段階までだった。 発生するように化学的に刺激された未受精卵は、停止する前にこの段階を遥かに越えたので、実験は完全な失敗だった(囲み1を参照)。

 

囲み 1 クローン実験は完全な失敗

 

研究報告(3)では、全部で71卵子を7人の「生物学的子供が少なくとも1人居る24才から35才の間の女性」ボランティアから得ている。

 

移植用の核は、「同意した成人ボランティア」から得た成人の生検用皮膚を培養した繊維芽細胞、又は卵子ドナーの卵丘細胞からのもの。 核は細胞から取り出され、事前に核を除いた直後に卵に注入された。

 

  入手した71卵の中22卵が単為発生するように化学的に刺激を加えられ、19卵が核移植クローンに使われた。 それ以外の卵をどうしたかは不明。 繊維芽細胞核移植を受けた11卵のどれも分割しなかった。 核移植された8卵中3卵が46細胞段階に到達した。

 

対照的に、化学的に刺激された卵は分割段階まで発生し、22卵中17卵は胚腔段階まで成長した。 この段階では全ての胚の部分を発生する胚性幹細胞を内包した内細胞塊が出来ている。 しかし、単為発生した胚には内細胞塊がなかった。

 

学術本流からの非難は非常に早かった。 治療用の人クローンに反対するからではなく、粗悪な実験と誇大発表したことが、一般の賛同を得にくくしかねないためだった。 イギリス政府が、生殖目的の人クローンを禁止する緊急法案を提出したことによって、更に煙幕が張られた(囲み2参照)。

 

ACT社の発表は、「核移植(NT)の臨床応用は著しい利点があり、積極的に追求するべきであると提案されてきている………しかし、人の生殖にNTを使うのは、今のところ保証がない。」と結んでいる。 ここで引用されている提案は、アメリカの国立科学アカデミーのもの以外の何物でもない(4)。 大西洋を挟んだ両方の学会は、治療目的の人クローン研究は推進すべきだと主張している。

 

この学会は、胚性幹細胞を抽出する過程で殺されるために作った胚については言及していない。 より可能性の高い成熟幹細胞についても触れていない。 空の卵子を提供した7人のボランティア女性については、当然のことのながら触れていない(5)。

 

この女性達は、ドナーとして選ばれる前に 肉体的、精神的に一連の試験を受け、感染症の検査も受けている。 ホルモン療法を受けて、過剰排卵するようにし、卵子の採取も日数を限定されないまま続けられた。 これが女性とその卵子を商品にしていないと、誰が言えるのか。 女性に不自由することはない。 特に貧しい人達は、開放世界市場で卵子を売ることを強要されるに違いない。 

 

囲み 2  えっ、クローンは駄目?

 

イギリスのクローンに関する規制は、現行法では人の生殖クローンは禁止していないという11月の高裁の判決で混乱に陥った。1990年の法律は、反中絶グループ プロ・ライフ同盟によって訴えられていた(6)。

 

緊急人生殖クローン法案は、「受精以外の方法で作られた人の胚を女性に定植することを禁止する」もので、違反した場合最高10年の懲役刑がある。

 

イギリスのバイテク産業(ヨーロッパでは最大)と医療協会は、抜け穴をふさぐこの動きを歓迎した。 生命産業組合は、人の生殖クローンに「全面反対」するが、「科学研究には文明的環境」を望んでいると声明を出した。 これは、まさに研究者も望んでいることだ。 研究者は、胚性幹細胞を使った「治療目的」のクローンは、患者個々に適合した移植片が育てられるので医療に革命を起こせると主張している。

 

GM人間と代理オスへの地滑り  最近出た2つの報告によって、更にGM人間を作る方向へ

 

まず、米国FDAは、遺伝子治療実験は生殖細胞を変えるのではないかという懸念のため中止した(7)。 国立保健研究所の組み換えDNA諮問委員会(RAC)は、影響を検討するために200112月に会議を開き、委員会の数人から研究の再開を許可すべきだと表明があった。

 

スタンフォード大学の分子生物学者マーク・ケイは、9人登録した中の最初のボランティアの精子にベクター(腺に関わるウィルス)のDNAが現れたことで、9月に詳しい調査を受けた研究の主任だ。 ベクターDNA10日間検出され、この間精子へベクターを挿入できたはずであった。 しかし、RAC委員の1人、ニューヨーク市のマウント・シナイ医学校の神経学者ジョン・ゴードンは、生殖細胞の改造による危害は「極めて少ない」と主張した。 FDAは、実験再開を許可する方向だが、研究者達に生殖細胞への影響試験を義務づけると見られる。

 

生殖細胞の改変は成体遺伝子治療では以前から可能性が知られていた。 これについては私達が1999年の報告で注意を喚起していた(8)。

 

これまで1人も救えていない「遺伝子治療」の惨憺たる実績(9)から考えれば、またベクター自体が癌を誘発したり、毒性ショックで死を招くと分かっているのに(10)、このような実験を許可するとは信じがたい事だ。 それも、生殖細胞の改変を「副作用」の一種として片づけてまで。

 

生殖細胞の改変がいかに簡単かは、雄の生殖幹細胞をマウスの睾丸から単離して、試験管内で遺伝子操作した研究報告で図入りで説明されている(11)。 組み換えられた幹細胞は、遺伝的に不妊なマウスの睾丸に注射され、細胞は上手くコロニーを作り、精子まで成長している。

 

囲み 3 雄の生殖幹細胞の遺伝子操作

 

  雄の生殖幹細胞の遺伝子操作は、レトロウィルスベクターを使って行われた。レトロウィルスは、RNAを遺伝物質として持つウィルスで、逆転写して相補DNAcDNA)配列にしなければならない。 これを宿主細胞のゲノムに挿入して複製サイクルを完成する。

 

雄の生殖幹細胞は、動物の一生を通しての生殖細胞、つまり精子を生産し続けるので増殖する細胞である。 つい最近まで、動物の遺伝子組み換えは、受精卵か雌の生殖細胞に集中していたが、雄の生殖細胞を遺伝子操作する方がずっと簡単であることが分かってきた。

 

精子は、成熟した雄マウスの睾丸で生殖工程で極めて整然と生産される。 毎日推定1000万個の精子が睾丸組織1グラムで生産される。 全ての哺乳動物はこれくらいの生産量がある。 雄は一生の間生産し続ける。 このプロセスの根幹には、雄の生殖幹細胞があり、自己再生して何度も増殖して精子を作る娘細胞を発生するので、幹細胞を遺伝子操作すれば、大量の生殖細胞を発生して、多くの組み換え子孫を造り出すことができる。 更に、雄の生殖幹細胞は凍結して保存できるし、培養もでき、遺伝子組み換えにはもってこいの存在である。 

 

ペンシルバニア大学の獣医学校の研究グループはレトロウィルス・ベクターが、培養した雄生殖幹細胞の220%まで外来遺伝子を挿入できることを示した。これに使われたレトロウィルス・ベクターは、染色すると青くなるバクテリアのベータ・ガラクトシダーゼを持つマウスの白血病ウィルスから得られたものである。 組み換え幹細胞は、睾丸に分化できない細胞を持つ不妊の雄マウスに移植された。 組み換え雄の生殖幹細胞を移植された不妊の雄マウス9匹中7匹は、繁殖能力を持つようになった。 7匹中5匹は組み換え子孫を生んだ。 そして、生まれた組み換え児の少なくとも2匹は、次の世代へ安定して組み換え遺伝子を伝えた。

 

遺伝子操作が簡単に出来るということは、将来人を含む全てのGM動物に使われる方法となる可能性がある。 研究者が検討していない、明らかに切っても切れない危険が一つある。 それは、ゲノム中に内生するウィルス配列が、ベクターと組み換えを起こして、病原ウィルスが発生することである。 実質的に全てのレトロウィルス・ベクターは、病原ウィルスから得られている。  

 

もう一つの注目すべき結果は、遺伝的に不妊な雄の睾丸が、雄の生殖幹細胞で簡単にコロニー形成されて、雄系を際限なく繁殖させることで、これは雄の繁殖に企業支配の道を開くものである。 この方面では、明らかに大きな前進である。

 

試験管受精、人の核移植クローン、代理母。 これらが、みな学会から殆ど文句も出ず通過してきたのは、女性の生殖を操作することが目標になっていたからだろう。

 

だが、今度は人の代理精子転送屋や普及屋が視界に入ってきた。 自分の生殖系を広めて際限なく増やし、不死を得る一手段として希望する独裁者や産業界の大物が出るだろう。 睾丸を植民化するために、不妊の男を大勢採用したり、造り出したりするだろう。 空の卵子を提供する女性も採用する。 そのどちらも、植物的に存在する短い期間を無菌室に閉じ込められることだろう。 

 

文献

1.. "With this designer baby we open the door to a scientific nightmare" Robert Winston, December 15, 2001 (Reuters, London) via Human Genetics Alert(www.hgalert.org) Info@hgalert.org

2.. "The Cloning Game" by Jonathan Cohn, Daily Express, 29 November 2001.

3.. Cibelli JB, Kiessling AA, Cunniff, K, Richards C, Lanza RP and West MD. Rapid Communication: Somatic cell nuclear transfer in humans: pronuclear and early embryonic development. E-biomed: The Journal of Regenerative Medicine 2001, 2, 25-31.

4.. Stem Cells and the Future of Regenerative Medicine. National Academy of Sciences, National Academy Press, Washington, 2001.

5.. "Hushing up on adult stem cells" ISIS Report by Mae-Wan Ho and Joe Cummins, to be circulated.

6.. "Planned Cloning Bill Has Loopholes, Watchdog Says" 27 November 2001, London (Reuters) via Info@hgalert.org

7.. Panel reviews risks of germ line changes, Eliot Marshall, Science 2001, 294, 2269.

8.. Ho MW, Ryan A, Cummins J and Traavik T. Slipping Through the Regulatory Net, ‘Naked’ and ‘Free’ Nucleic Acids, Third World Network Biotechnology Series, Third World Network, Penang, 2001.

9.. "Gene therapy oversold by scientists who disregard risks" by Angela Ryan, ISIS News 9/10, July, 2001, ISSN: 1474-1547 (print); ISSN: 1474-1814 (online) www.i-sis.org

10.. "Common gene therapy vector causes cancer" by Mae-Wan Ho and Joe Cummins, ISIS News 11/12, October 2001, , ISSN: 1474-1547 (print); ISSN:1474-1814 (online) www.i-sis.org

11.. Na1gano M, Brinster CJ, Orwig KE, Ryu B-Y, Avarbock MR and Brinster RL. Transgenic mice produced by retroviral transduction of male germ-line stem cells. PNAS 2001, 98, 13090-5.

 

 

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