ニューサイエンティスト
02年6月2日
訳 河田昌東
GMポテトはある害虫を撃退するが、別の害虫を呼ぶ
ポテトにアブラムシに対する抵抗性を持たせる試みは、遺伝子組換えの予想外の結果に光を当てた。この組換え植物は標的外の害虫にはかえって弱いことがわかり、個々の組換え作物を個別に評価する重要性を明らかにした。
トウモロコシや綿のような作物は、すでに細菌の毒素Bt遺伝子を付加することで害虫に抵抗性を持たせている。しかし、Btはアブラムシのような樹液を吸う害虫には効かないので、遺伝子組換え技術者たちは昆虫を追い詰める他の自然界の物質、例えば多くの植物や種子に含まれるレクチンのようなタンパク質を探している。
レクチンには矛盾した歴史がある。アーパド・プシュタイが作ったレクチンの遺伝子組換えポテトはGM食品の安全性について英国中に嵐を巻き起こした。今度は、スコットランドの作物研究所のニック・バーチのチームがレクチン遺伝子で組み換えたポテトは、多くの動物や昆虫が嫌いなグリコアルカロイドと呼ばれる苦い味の化学物質の量を低下させることがわかった。
レクチン遺伝子で組み換えたポテトの葉のグリコアルカロイドのレベルは、組み換える前の44%まで下がった。これは遺伝子組換え操作それ自体に原因があると考えられる。なぜなら、ササゲのトリプシン・インヒビターと呼ばれる別の昆虫忌避剤を作る、異なるタイプの遺伝子を導入しても、やはりグリコアルカロイドのレベルは70%も落ちたからである。
この研究チームは、グリコアルカロイドのレベルが下がると、ヨコバイなど別の色々な害虫の攻撃を受けやすくなる、と警告している。 αカコニンと呼ばれるグリコアルカロイドのレベル低下で、実際にはポテトのアブラムシ被害は促進されてしまった。
茎割れ
GM作物のリスクを研究しているチューリッヒのスイス連邦技術研究所の生態学者アンジェラ・ヒルベックはこの結果に驚いている。「色々な遺伝子組換え技術の副作用について我々はまだまだ学ぶべきことがある」
このポテトはまだ実験段階の品種だが、商業化されているGM作物でも予想外の影響が明らかになっている。モンサントが作った除草剤耐性大豆の茎は気温が高いと割れてしまう、といった例がある(New Scientist, 20 November 1999, p 25)。
予期しない影響は従来の品種改良でも起こる、とスコットランド作物研究所のホワード・デービスは指摘する。だが、彼は新しい技術は問題を解決するために役立つべきだ、という。彼によれば「メタボリック・プロファイル技術で、数千とはいかないが数百の代謝物質を同時に測定する技術が今開発されつつある」。このアプローチは、数千個の遺伝子、あるいはタンパク質を同時に測定する技術とともに、遺伝子組換えでもたらされる予期しない影響をはっきりさせるのに役立つだろう、と彼は言う。
文献: Annals of Applied Biology (vol 140, p 143)