ニューリーフ・ポテトについて
国内であいついて未承認の遺伝子組み換え体が発見されたとして問題になっている「ニューリーフ・ポテト」とはいったいどんなものか、簡単にまとめた。
(河田昌東:遺伝子データの出典は Australia New Zealand Food Authority,DRAFT RISK ANALYSIS REPORT APPLICATION A383 および A384)
(1) 混入発見と事実経過(新聞記事より)
月 日 |
メーカー名 |
食品名その他 |
原 因 |
発見された組換え体 |
5月24日 |
ハウス食品 |
ポテトスナック 「オーザック」3種類 製品で120万袋以上(約4億円)。 24日から回収始まる。 |
99年産ポテトを米国3社、 カナダ1社から輸入 (粉状ポテト2800トン)。 |
ニューリーフ・プラス |
6月20日 |
カルビー |
ポテトスナック 「じゃがりこチーズ」 「じゃがりこうすしお味」 26万4804個すべてを回収 |
カナダから輸入。 |
ニューリーフ・プラス (同上) |
6月22日 |
ブルボン |
ポテトスナック 「ポテルカ」「ポテルカ・インドカレー」 74万個回収。 |
アメリカとカナダから輸入。 |
ニューリーフ・プラス ニューリーフY |
(2) 組換え体について
ニューリーフ・プラスには組み換え体が3種類ある(RBMT21-129、RBMT21-350、RBMT22-82)が今回検出されたものがどれかは不明。
いずれも土壌細菌Bacillus thuringiensis(subspecies tenebrinosis)から取った殺虫遺伝子Cry3Aaを持つ。標的昆虫はColorado
Potato Beetle(CPB):コロラドハムシである。
その他に、ポテトリーフロール・ウイルス耐性遺伝子(PLRVrep)を持つ。これはウイルスの遺伝子RNAの複製を行う酵素の遺伝子だが、
この遺伝子導入によってなぜウイルスの増殖が押さえられるのかは現在良く分かっていない。
ニューリーフYにも3種類(RBMT15-101、RBMT15-02、RBMT15-15)あるが、標的昆虫は同じくコロラドハムシで殺虫遺伝子Cry3Aa
を持つが、標的ウイルスはポテトウイルスYで耐性遺伝子はPVYcpである。この遺伝子はウイルスの外被たんぱく質の遺伝子である。この
たんぱく質(coat protein)は過剰に生成されると、ウイルスRNAに結合し増殖を押さえるリプレッサーの働きをする。
開発したのは、いずれもモンサント社である。
これらの組み換え体には、殺虫遺伝子とウイルス耐性遺伝子のほかに、開発に伴って使われた選択マーカー遺伝子がそれぞれ混入している。
名 称 |
組み換え体名 |
含まれる遺伝子 |
備 考 |
ニューリーフ・プラス |
RBMT21-129 利用プラスミド PV-STMT21 |
Cry3Aa(殺虫遺伝子):2箇所に挿入(1個は不完全) PLRVrep(ウイルス耐性遺伝子): 2箇所に挿入(1個は不完全) nptll(抗生物質耐性遺伝子):1箇所に挿入(完全) |
nptll はネオマイシン、カナマイシン、ゲネチシンなどの抗生物質に耐性を与える大腸菌トランスポゾンTn5由来の遺伝子。組み換え体細胞の選択マーカーとして利用。 |
RBMT21-350 利用プラスミド PV-STMT21 |
Cry3Aa(殺虫遺伝子):2箇所に挿入(完全) PLRVrep(ウイルス耐性遺伝子): 2箇所に挿入(1個不完全) nptll(抗生物質耐性遺伝子):2箇所に挿入(完全) |
同上 |
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RBMT-22-82 利用プラスミド PV-STMT22 |
Cry3Aa(殺虫遺伝子):3箇所に挿入(完全) PLRVrep(ウイルス耐性遺伝子):3箇所に挿入(完全) CP4EPSPS(除草剤ラウンドアップ耐性遺伝子): 3箇所に挿入(1個不完全) aad(抗生物質耐性遺伝子):1個所に挿入(多分不完全) |
CP4EPSPSはラウンドアップの成分グリフォサート耐性遺伝子。 aadはストレプトマイシンとスペクチノマイシンに耐性を与える大腸菌トランスポゾンTn7由来の遺伝子。両者とも選択マーカーとして利用。 CP4EPSPS遺伝子はポテトに除草剤耐性の形質を与えるが、除草剤耐性ポテトとしては利用されていない。 |
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ニューリーフY |
RBMT15-101 利用プラスミド PV-STMT15 |
どの遺伝子も3~4個挿入されている。その内少なくとも一箇所は2組が逆向きに連結して入っている。 Cry3Aa(殺虫遺伝子): (1個はプロモーターと遺伝子末端が不完全) PVYcp(ウイルス耐性遺伝子): (プロモーター1個不完全) nptll(抗生物質耐性遺伝子):(プロモーター1個不完全) |
ニューリーフ・プラスとの違いは、標的ウイルスが「ポテトウイルスY」で、耐性遺伝子PVYcpはこのウイルスの外皮たんぱく質を作る遺伝子cpであること。PVYはRNAウイルス。 |
RBMT15-02 利用プラスミド PV-STMT15 |
どの遺伝子も4~5個挿入されている。その内少なくとも一箇所は2組が逆向きに連結して入っている。 Cry3Aa(殺虫遺伝子):(完全) PVYcp(ウイルス耐性遺伝子): (プロモーター1個不完全) nptll(抗生物質耐性遺伝子):(プロモーター1個不完全 、構造遺伝子も1個断片化) aad(抗生物質耐性遺伝子):(完全) oriV(AgrobacteriumのプラスミドRK2の複製開始配列) ori322(大腸菌プラスミドpBR322の複製開始配列) |
上記RBMT15-101との違いは抗生物質耐性遺伝子が2種類入っていること。 大腸菌プラスミドの複製開始DNA配列(ori322)とアグロバクテリウムのプラスミドの複製開始DNA配列(oriV)が入っていること。 |
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RBMT15-15 利用プラスミド PV-STMT15 |
どの遺伝子も4~5個挿入されている。その内少なくとも一箇所は2組が逆向きに連結して入っている。 Cry3Aa(殺虫遺伝子):(完全) PVYcp(ウイルス耐性遺伝子): (プロモーター1個不完全) nptll(抗生物質耐性遺伝子):(プロモーター1個不完全) aad(抗生物質耐性遺伝子):1個所に挿入(完全) oriV(AgrobacteriumのプラスミドRK2の複製開始配列) ori322(大腸菌プラスミドpBR322の複製開始配列) |
同上 |
(3) 遺伝子の構成
ニューリーフ・プラスおよびニューリーフYに導入された遺伝子の構成はそれぞれ次のようである。
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組換え体名 |
構造遺伝子名(由来) |
プロモーター(由来) |
ターミネーター(由来) |
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ニューリーフ・ プラス |
RBMT21-129 |
Cry3Aa (土壌細菌 Bacillus Thuringiensis) |
ArabSSU1A (白イヌナズナ:Arabidopsis thalianaの酵素から) |
NO3‘ (AgrobacteriumのTiプラスミドの植物ホルモンの一つ、ノパリン合成酵素遺伝子から) |
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PLRVRep (ポテトリーフラウンド ウイルスのRNA合成酵素) |
35Sプロモーター (Figwort:ゴマノハグサ科の植物に感染するウイルスFMVの35Sプロモーターに大豆の熱ショックたんぱく質の遺伝子の77個のリーダー配列を結合したもの) |
rbcSE9-3‘ (えんどう豆の酵素ribrose‐1,5‐biphosphate carboxyrase のsmall subunit)の 3‘末端側の非読み取り配列 |
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nptll (大腸菌の抗生物質耐性トランスポゾンTn5) |
P-NOS (AgrobacteriumのTiプラスミドの植物ホルモンの一つ、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター) |
NO3‘ (AgrobacteriumのTiプラスミドの植物ホルモンの一つ、ノパリン合成酵素遺伝子から) |
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RBMT21-350 |
Cry3Aa (土壌細菌 Bacillus Thuringiensis) |
プロモーターの構成はRBMT21-129と同じ |
ターミネーターの構成はRBMT21-129と同じ |
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RBMT-22-82 |
Cry3Aa (土壌細菌: Bacillus thuringiensis)の 害虫耐性遺伝子 |
ArabSSU1A (白イヌナズナ:Arabidopsis thalianaの酵素から) |
NO3‘ (AgrobacteriumのTiプラスミドの植物ホルモンの一つ、ノパリン合成酵素遺伝子から) |
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PLRVRep (ポテトリーフラウンドウイルスのRNA合成酵素) ウイルス耐性遺伝子 |
35Sプロモーター (Figwort:ゴマノハグサ科の植物に感染するウイルスFMVの35Sプロモーターに大豆の熱ショックたんぱく質の遺伝子の77個のリーダー配列を結合したもの) |
rbcSE9-3‘ (えんどう豆の酵素ribrose‐1,5‐biphosphate carboxyrase のsmall subunit)の 3‘末端側の非読み取り配列 |
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CP4EPSPS (Agrobacterium CP4株の EPSPS遺伝子の5‘側にArabidopsis thalianのEPSPS遺伝子のCTP2配列を結合したもの)。 選択マーカー遺伝子として利用 |
35Sプロモーター (Figwort:ゴマノハグサ科の植物に感染するウイルスFMVの35Sプロモーターに大豆の熱ショックたんぱく質の遺伝子の77個のリーダー配列を結合したもの) |
rbcSE9-3‘ (えんどう豆の酵素ribrose‐1,5‐biphosphate carboxyrase のsmall subunit)の 3‘末端側の非読み取り配列 |
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ori322 (大腸菌プラスミドpBR322の複製開始配列) |
備考:大腸菌での遺伝子のクロー化に必要 |
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add (抗生物質耐性遺伝子。 ストレプトマイシンとスペクチノマイシンに耐性を与える大腸菌トランスポゾンTn7由来) 断片化して多分機能していない |
備考:大腸菌での遺伝子のクロー化に必要 |
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ニューリーフY |
RBMT15-101 |
Cry3Aa (土壌細菌 Bacillus thuringiensisの殺虫遺伝子) |
ArabSSU1A (白イヌナズナ:Arabidopsis thalianaの酵素から) |
NO3‘ (AgrobacteriumのTiプラスミドの植物ホルモンの一つ、ノパリン合成酵素遺伝子から) |
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PVYcp (ポテトウイルスYの外被蛋白質遺伝子) |
35Sプロモーター (Figwort:ゴマノハグサ科の植物に感染するウイルスFMVの35Sプロモーターに大豆の熱ショックたんぱく質の遺伝子の77個のリーダー配列を結合したもの) |
rbcSE9-3‘ (えんどう豆の酵素ribrose‐1,5‐biphosphate carboxyrase のsmall subunit)の 3‘末端側の非読み取り配列 |
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nptll (大腸菌の抗生物質耐性トランスポゾンTn5) |
P-NOS (AgrobacteriumのTiプラスミドの植物ホルモンの一つ、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター) |
NO3‘ (AgrobacteriumのTiプラスミドの植物ホルモンの一つ、ノパリン合成酵素遺伝子から) |
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RBMT15-02 と RBMT15-15 |
Cry3Aa (土壌細菌 Bacillus thuringiensis の殺虫遺伝子) |
ArabSSU1A (白イヌナズナ:Arabidopsis thalianaの酵素から) |
NO3‘ (AgrobacteriumのTiプラスミドの植物ホルモンの一つ、ノパリン合成酵素遺伝子から) |
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PVYcp (ポテトウイルスYの外被蛋白質遺伝子) |
35Sプロモーター (Figwort:ゴマノハグサ科の植物に感染するウイルスFMVの35Sプロモーターに大豆の熱ショックたんぱく質の遺伝子の77個のリーダー配列を結合したもの) |
rbcSE9-3‘ (えんどう豆の酵素ribrose‐1,5‐biphosphate carboxyrase のsmall subunit)の 3‘末端側の非読み取り配列 |
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nptll (大腸菌のカナマイシン、ネオマイシン耐性トランスポゾンTn5の遺伝子由来) |
P-NOS (AgrobacteriumのTiプラスミドの植物ホルモンの一つ、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター) |
NO3‘ (AgrobacteriumのTiプラスミドの植物ホルモンの一つ、ノパリン合成酵素遺伝子から) |
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add (抗生物質耐性遺伝子。 ストレプトマイシンとスペクチノマイシンに耐性を与える大腸菌トランスポゾンTn7由来) 断片化して多分機能していない |
備考:大腸菌での遺伝子のクロー化に必要 |
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OriV (AgrobacteriumのプラスミドRK2の複製開始配列) |
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ori322 (大腸菌プラスミドpBR322の複製開始配列) |
備考:大腸菌での遺伝子のクロー化に必要 |
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