植物の一方向性プロモーターを双方向性にする

 

Nature Biotechnology

Technical Reports

20017月 Volume19 No.7 

Mingtang XieYuehui He.& Suheng Gan 

抄訳 河田昌東

 

典型的な真核生物のプロモーターは、最小限必要なプロモーター部分(ミニマル・プロモーター)とその上流にあるシス・エレメント(注1)からなっている。ミニマル・プロモーターは基本的には、RNAポリメラーゼ(RNA合成酵素)とTATA配列結合蛋白質(TBP)とTBP関連因子(TAFs:転写活性化因子群)が結合して遺伝子の転写を開始させるが、ミニマル・プロモーター単独では転写活性を持たない。

各組織や個体発生の各段階に特異的な転写因子が結合するシス・エレメントは単独に、あるいはいくつか協調しあって、それぞれの時期に特有な空間的・時間的な発現パターンを決めている。ミニマル・プロモーターとともに上流のシス・エレメントがどう配列しているかが、プロモーターの働きの極性を決めている。

これまでにクローン化され、基礎研究にもあるいはバイテクの応用にも広く使われている植物のプロモーターは一般的に一方向性であり、その3‘側(下流)に連結された遺伝子しか機能させない。

しかし、代謝や形質を制御するために一度に複数の遺伝子を植物に導入したりすることが必要なことがしばしばある。また、同時に遺伝子サイレンシング(沈黙化:機能停止)をもたらすといわれる1個のプロモーターの反復使用を排除し、最小限の機能を持たせることも必要である。

この論文で筆者らは、一方向性のプロモーターを双方向性に改造し、1個のプロモーターでその両側にある2個の遺伝子を発現させる手法を述べる。

 

訳注:

(注1)           シス・エレメント:DNA上の意味を持つ複数の塩基配列が同一のDNA鎖上にある場合をシス配列、別のDNA鎖上にある場合をトランス配列という。一般にシス・エレメントはその下流にあるプロモーターと一緒に遺伝子の働きを制御し、環境変化や発生段階における細胞分化などの変化に対応した遺伝子の働きを可能にしている。

 

(注2)           こうした、本来一方向性のプロモーターを双方向性に変えることは、遺伝子操作上は「便利な」プロモーターとして利用されるだろうが、外来遺伝子を導入された宿主植物(動物)の本来の遺伝子にとっては有害であり、本来なら発現しない宿主遺伝子の発現をもたらす危険性が倍増すると思われる。

 

 

戻るTOPへ