儲けが吹っ飛ぶ 失われた利益 ・・・遺伝子飛散の影響は生物学以上に農家の損失

 

アントニー・シャディド 

2001年4月8日 ボストン・グローブ  (ワシントン発)

山田勝巳 訳

 

スーザンとマーク・フィッツジェラルドは黒土の“風が良く吹く”ミネソタの平原で17年間農業をやってきた。100エーカーの土地が有機になるように、考えられる全ての用心をしてきた。有機だと2倍の値が付く。

夫婦は藪、低木茂み、木立、間違いのない作物を間違いのない圃場に植え、遺伝子組み換えのないという保障付きの種を購入した。にもかかわらず、“遺伝子飛散”の犠牲者になった。収穫期が来て自分達のコーンを検査した。ホッパーの中にGMコーンの粒が出て来た。驚きと落胆が一遍に押し寄せてきた。明らかに隣家の圃場から風か鳥か昆虫によって運ばれてきたのだ。有機マーケットから800ブッシェルを引き上げなければならなかった。ほぼ2000ドルの損失だ。

「みんなどうしたらよいのか迷っている、一人で話はできない、遠吠えして居るんですよ巨人に向かって、」

とスーザンはいう。

フィッツジェラルドのケースは、スターリンク汚染がくすぶる中で最近表に出てきた典型的な問題だ。1996年の導入以来GM種子による栽培は急激に増え、現在ではマサチューセッツも含めて全米でコーンの総生産量の1/4にまでなっている。  

昆虫や鳥、風がバイテク花粉を普通栽培や有機栽培の圃場へどれくらい飛散するかは監督官庁、企業、農家もここ数年前まで予測していなかった。 損失が大きくなるにつれ“誰がそのつけを払うのか”が問われている。 隣の農家が払うべきだという者もあれば、種子会社のせいだという者もいる。種子会社は政府に基準を緩めるようにしてくれと頼み、政府は告訴の数が増える中で農家と州政府に問題を振っている。

「しっかり見通すことをしなかった。10年前はこんな問題が起こるなんて誰も考えなかった。レーダー上に現れていなかったんだよ。」

とアイオワ大学教授でアイオワ穀物品質イニシャティブのチャールズ・ハーバーグは話す。  

こんな時の頼みは保険だが、まだ2百万農民にこれをカバーする保険がない。保険会社が遺伝子飛散をカバーする保険がないというのは、この種の問題は新しくて十分に検討されておらず飛散の規模が分からない。つまりどれくらい飛ぶのか、大きな農家の損失がどれくらいになるのかなどが分からないという事を反映している。   既に損害は甚大だ。1997年以来EUは、域内で認められていない組み換え品種が承認されたものに混ざっている恐れがあるとしてUSコーンを巧みに拒否している。農民は2億ドルの市場を失った。アメリカで承認された新しいバイテク作物を他の国も拒否すれば損失は更に増える。

連邦法では組み換え作物との緩衝帯として660フィートを規定しているが、これでは不十分なことは既に証明されている。何マイルも飛散するというものもいる。その上、保管容器やコンバインでも種が混ざる可能性がある。  

「何処から来るか、どうやって追跡するのか、どうやって責任を決めるのか。新しい問題でどうしたらよいか誰も分からない」

とイリノイ・フィートンのアメリカ保健サービス協会のJoe  Harringtonは言う。数字はないが、フィッツジェラルドのようなケースはかなり一般的になってきている。  

先月カナダの農家が、自分の農場に組み換えキャノーラが生えているとモンサントに訴えられていた裁判で、裁判官は農家に対しモンサントへの支払いを命じた。農家は、近所の組み換えキャノーラからの花粉の飛散で汚染されたと主張していた。モンサントは、同じような訴えを国内の農家に対して起こしているが、裁判になったのはカナダのケースが初めて。  

1998年に、テキサスで有機農家の圃場へ組み換えキャノーラの花粉が飛散している疑いがもたれた。コーンが加工されてヨーロッパへ有機トルティーヤ・チップス「アパッチ」として送られるまで、汚染は分からなかった。検査でバイテクコーンが検出されて、87,000バッグが回収され、会社には15万ドルの費用が掛かった。ウィスコンシンの製造会社テラ・プリマは農家を訴えなかった。

一方、これまでで最も報道されたケースのアベンティス・クロップサイエンスは、スターリンクの混入で訴訟の標的になっている。この紛糾している法律問題にアイオワの集団訴訟もある。スターリンクの汚染で輸出ができない、アメリカの加工業者へ売れないと主張している。同様の訴訟がイリノイでも起きている。  

アベンティスは、スターリンクを承認された用途へ振り向けているという以外のコメントはしなかった。この損失を押さえ込もうとする困難さが、飛散問題の広がりとその賠償責任の大きさを示唆している。

表示を必要としない混入レベルは国によって違う。EUは昨年世界でも最も厳しい1%と決めた。日本は表示義務が来月から始まるが豆腐やコーン粉は5%とした。  

アメリカの有機食品では混入ゼロ。フィッツジェラルドのコーンが有機加工会社によって拒否されたことは消費者にどう取られるかが懸念されている。(農務省のキース・ジョーンズは遺伝子飛散で有機食品に許されるレベルはケースバイケースになると言った。)スターリンクは食品で許されていないので許容値はない。交配は起こりうるし、起きているだろう状態でアベンティスは2000年の作付けは栽培面積の0.02%に過ぎないのだが、今後も何年かは問題が続くだろうと覚悟している。

「この問題に終わりはあるのかという質問には、ゼロ許容値がある限り"No”としか答えられない。」

と北米製粉協会のジョン・A・ウィクトリチは言う。  

許容値があったとしても、バイテク作物の作付けが今年の春10%も増えるのでは汚染は増えるばかりだ。どれくらいが多すぎでどれくらいが消費者に許されるのかまだ決まっていない。  

1996年当時の倍に増えた有機農家は、特に被害を受けやすい。脅威を知ってか知らずか、消費者は有機農産物をバイテクフリーと思って買っている。普通栽培の農家も似た状況だ。ヨーロッパや日本への輸出用には許容値を超えないようにしなければならない。「一度使いだしたら一所に留まっていない。境界なんてこの技術にはないからね。」有機認証農家は言う。  

USDA,FDA,EPAは共に賠償責任は、連邦政府の問題ではなく、各州で決めればよいことだという。全米コーン生産者協会は方針がないという。

「伝統的には付加価値のある作物、例えば有機作物、は生産農家が責任を持って作物を守ってきた。でもバイテク作物は難しい問題だ。」

と協会のロビーイスト、スーザン・キースは言う。かねてから問題になっていて農薬散布した農家や企業が負ける判決も出ている農薬飛散と、遺伝子汚染問題は性格が似ている。

モンサントとアベンティスはバイテク農業の立て役者だが、責任問題には触れない。

「責任ある行動をとります。生産者にも近所の農家と良く話し合い責任を持つように話しています。」

とモンサントの広報担当ロレン・ワッセルは話す。  

しかし、責任ある行動では不十分だ、自分達の主張を支持する裁判所の決定がもうじき降りると期待する農家や活動家もいる。

「我々が打ち出した姿勢は、あんたが特許を取ってライセンスしたそのものから汚染が出たんだからあんたが責任を持ちなさいということだ。」

と言うのは有機農業研究基金の代表ボブ・スコウクロフト。  

裁判では、無断進入、迷惑、怠慢などが争点となるだろう。この辺の事情は全くの灰色だ。法律の専門家は裁判所がどう判断を下すかは全く見えないというが、カナダの判決のように判事が企業側に有利に判断を下すことも有り得るのだ。アイオワや他の地の農家はそれまで法律的措置があるかもしれないので用心するように言われている。  

農家が裁判で不利にならないように、言ってはならないことを示すガイドがある。遺伝子飛散がなかったとか、バイテク成分は入っていないとか、取扱中に汚染は起きなかったというようなことが、事実と違えば裁判では反証になる。  

スーザン・フィッツジェラルドにとってはそれでは不十分だろう。来年は花粉交配をしない有機大豆を栽培するつもりだ。近所に告訴のことも話しているが、汚染を防ぐような大したこと事ができないのではと懸念している。「風に吹くなとは言えませんからね。天候は変えられませんよ。」と45歳のフィッツジェラルドは話す。

 

筆者のアンソニィ・シャディドはe-mailで連絡がつきます。ashadid@globe.com.                

 

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