モンサントが世界中でGM小麦プロジェクトを断念
ザ・ガーデイアン
04年5月11日
ポール・ブラウン(環境記者)
http://www.guardian.co.uk/gmdebate/Story/0,2763,1214066,00.html
訳 河田昌東
モンサント社は7年間を費やし数百万ドルの開発費をつぎ込んできたにもかかわらず、GM小麦の世界市場への導入を断念した。昨日(5月10日)公表されたこの決定は、反GM勢力にとって大きな成果であり、GM小麦の導入がヨーロッパと日本の数十億ドルの市場を失うことにつながるのではないかと恐れるアメリカとカナダの農家の圧力に屈したものだ。モンサントは世界最大のGM種子企業であり、世界のパン市場の支配を夢見てGM小麦の開発と導入を目指してきた。同社はGM小麦が5%から15%も収量が増えることを示したが、GMパンを食べることに対する消費者の抵抗、特にヨーロッパにおける反対は巨大なアメリカの輸出市場を一夜にして失うことを意味した。
昨日の声明でモンサント社は、当分の間GM小麦を導入できる十分な市場がないことを認め、今後はトウモロコシと綿、菜種などすでに大きな種子市場を確保しているものに集中する、と言った。モンサント社の副社長カール・カセールは「小麦産業のリーダーたちと我々の市場見通しと協議の結果、我々はモンサントの他の商業上の優先順位と比べて小麦のビジネスは魅力が少ないと判断した」と述べた。
GM反対グループのジーン・ウオッチのスー・メイヤーは「これは驚くべき、例外的な出来事だ。モンサント社はこの巨大な新製品に邁進していたし、世界中を市場に出来るだろうと固執していたから。これは大きな撤退の動きだ。彼らは農民が他のGM製品もボイコットするのではないかと恐怖を感じたんだろう」と言った。
小麦は世界中のもっとも主要な食物のひとつであるが、ヨーロッパやアメリカなど豊かな地域で栽培され利益も大きいので、種苗会社にとってはもっとも価値のある作物である。しかし、ヨーロッパでGMコーンと大豆のボイコットが始まり、小麦農家は自分たちの市場を失うことを恐れた。過去10年間、EUと日本はアメリカの小麦の45%を輸入してきた。アメリカ農務省によれば1999年から2000年のアメリカの小麦の輸出550万トンの約半分はこの二つの市場に出荷された。ヨーロッパにおけるパン用小麦の大半は北アメリカからのものである。何故ならヨーロッパ産の多くの小麦は食パンには向かない品質だからだ。
GM小麦の導入に対しては、遺伝子汚染や流通における混入で売れなくなるのではないかという懸念から、この間アメリカの生産者の抵抗もあった。ノースダコタ州では2001年にGM小麦の導入を阻止する法案を試みて失敗した。しかし、この試みはGM小麦に対するヨーロッパの輸入業者らの間にある懸念が大きいことを明らかにした。EU最大の製粉業者のひとつであるランク・ホービス社のジュリアン・ワトソンからの一通の手紙には「GM小麦に対するランク・ホービス社の政策を完全にクリアしない限り、我々はあなた方から提供されるいかなるGM小麦も受け入れない。今日、我々は顧客に対してGM小麦は現在市場には出ていない、と言ってきた。これは何らかの保護処置で守られる必要がある。あなた方はこの問題をもっとも深刻に受け止め最優先の課題として取り組むべきだ。そうしなければ、春小麦さえもGMを含んでいるかもしれないと疑われ、EUへの輸出計画全体を台無しにしてしまうかもしれない」と書かれていた。
もしアメリカがGM小麦の導入を強行したら巨大な供給破壊と消費者のボイコットを恐れて、製粉業界はオーストラリアや東ヨーロッパからの代替小麦の供給を模索してきた。地球の友のGM広報担当のピート・リリーは「これは世界中の消費者と生産者の勝利だ」と言った。しかし、モンサント社はGM小麦の夢を永遠にあきらめたわけではない、と明らかにした。EUのGM反対に対するアメリカのWTO提訴は現在も進行中で、モンサント社はEUのGMボイコットが違法だと宣言されるのを望んでいる。長期的には同社は「適切な規制が行われればGM小麦への扉は開かれるだろう」と期待している。