モンサント対ホーマン・マックファーリングの裁判:
クレベンジャー裁判官が理解を示す
2002年12月5日
クロップチョイス(CropChoice)
ダヴィッド・デチャント
訳 鴨下顕彦
モンサント社が、種子を蓄えていたとしてパーシー・シュマイザー氏を訴追したことはきちんと公表された。 しかし、モンサントによる他の多くの農家への訴追行為はもっと公表されるべきだ。 モンサント社対ホーマン・マックファーリング氏の裁判もその1つだ。 先週、「北東ミシシッピー毎日」紙は以下のことを伝えた。 もしアメリカ連邦最高裁判所が上告を認めず、モンサント社の特許権を侵害したホーマン氏は有罪であるとしたミズーリ東地区裁判所に誤りは無かった、とした控訴裁判所の判決を逆転させなければ、ミシシッピー州の大豆農家のホーマン・マックファーリング氏はモンサント社に78万ドル払わなくてはならないであろう。
しかし、控訴裁判所の3人の判事のうちの1人、クレベンジャー裁判官は異議を唱えた。 彼によれば、モンサントの技術契約は“付帯契約(contarct of adhension)”であり、それゆえに、争いはミズーリ裁判所で処理しなくてはならないとするモンサントの条項は、強制できないという(訳注:モンサントの本社はミズーリ州にある)。“私の同僚たちは、付帯契約の中の法廷を選ぶ条項を強制して、被告人の憲法上保障された権利を損なうことを、名誉なことにもこの法廷で最初にやってしまった”と彼は書いた。言い換えると、農家に彼らの居住地域の外での裁判を課すことで、この技術契約は、憲法の第5修正条項の、正当な法手続きを受ける権利を侵している、というのである。
それでは、付帯契約とは何であるか? それは標準型の契約と言う事ができる。すなわち、最も交渉力の強いグループによって起草され、承認するかしないかはあなたの勝手だよ、という条件で、誰にでも同じように提示され、それにサインする人は条件を全く変えられない、ということだ。モンサントの技術協定にサインした農家にとってこのことはよく理解できる。 すべての農家が同じ契約にサインし、契約条件は、モンサントに非常に有利に偏っているのだ。 農家のためによりよい条件にしようとする交渉は持たれたことが無い。 農家がラウンドアップ・レッディ(RR)大豆を作付したいなら、好きであろうと無かろうと契約にサインしなければならない。クレベンジャー氏が記したように、200以上の種子会社がRR大豆の種子を出しているが、どの会社も農家はモンサントの技術契約にサインしなければならないとしている。
アメリカ合衆国で作付されている大豆のほとんどはラウンドアップ・レッデイであり、ミシシッピー州の農家には、ラウンドアップでなくては駆除できない雑草があることを考えて、クレベンジャー裁判官は次のように言う。「マックファーリング氏のような農家は、大豆の市場競争に勝ち残りたいと願うならば、技術協定にサインするよりほかに道は無いと思われる」。
この見解は新鮮だ。 特許のついた種子を植えたくないのなら植えなければいい、という単純化した議論に陥らない、少なくとも1人の裁判官がいたのだ。 クレベンジャー裁判官は適切なことを言っている。 市場競争力を持ち続けるために、多くの農家は、たとえ好きでなくても、RR大豆を植えざるを得ないのだ。それはミシシッピー州だけではない。 中西部の農家も、多くの地主が雑草の無い大豆畑をよしとするので、農地を賃借する時に地主を満足させるためにRR大豆を栽培しなくてはならない。
クレベンジャー裁判官の議論を更に広げると、モンサントが世界知的所有権機構とアメリカ特許商標局で、多収に寄与する大豆の遺伝子と遺伝マーカーの特許をとることに成功したら、どうなるだろうか? 1つの結果だが、モンサントは大豆品種が10%以上多収になるのに寄与する形質を独占することになる。そうなると、農家はより低収の大豆を栽培していられないし、種苗会社はモンサントが特許をとった形質を導入していない種子を売ることが出来ないであろうから、モンサントは、大豆が作付される農地のほとんど100%から技術料金を徴収することができる。
さらに、RR大豆が広い範囲で採用されるマクロ経済的な効果として、技術契約とモンサントの過酷なその適用は(農家にとって)大きな負担となる。 つまり、大豆を栽培するのは容易になりより多く作られ、大規模に作られる作物は全体として希少作物よりも安価になるので、大豆の値段は低下する。 その結果農家は作物を安く売らなければならないため、1人の農家がRR大豆を栽培することで受ける個々の利益は帳消しされたりかえって不利益にさえなる。
アイオワ州立大学の農業経済学者、ネイル・ハール氏は、彼の言う“大いなる逆説”についてうまく記している。これらの作物の生産量は増えるが、需要の非弾力性のために生産者の受け取るお金は減る。農家は競争に勝ち残るために新しい技術を採用するが、その同じ技術によって彼らは財務上圧迫される。こうしたことはこれまでも何年間も起こってきたが、バイオテクノロジーの場合の違いは、種子を蓄える、というような、農家の伝統的な権利を放棄しなければならないという点だ。 農家が憲法第5修正条項の権利をも放棄することをモンサントが望んでいることは驚きではない。
モンサントとその技術契約を避けることはどのくらい難しいのだろうか? 今やRR大豆は大豆種子の売上の3/4を占めているのだから、RR大豆種子を買わないことは難しい。 例えば、 私は種子セールスマンに何ヶ月も前に、コロラド州ではこれまではなかったが試しに植えてみたいので、早生の大豆種子を6袋ほしいと言った。GMOではない、慣行育種による種子がほしいと強調した。しかしセールスマンが持ってきたのはみなRRだった。理由を尋ねると、早生の品種で見つけることが出来たのがこれだけでした。 受け取ってください、と言う。私はご苦労様、結構です、といって、お引き取りいただいた。
更に、種子会社はRR大豆種子に他の形質をも入れようとしている。 昨年のガースト社の種苗カタログでは、“有色の1ダース”として、シストネマトーダ耐性の新しい12品種が広告されていた。 しかし12品種すべてがRRで、もし、農家がネマトーダ抵抗性の新しい品種の1つを作付けしようとすれば、RR品種を作付けすることになるのだ。 最近の「大豆ダイジェスト」誌が報告しているように、一握りの食用の慣行品種を除いて、ラウンドアップ・レッディ品種ばかりが2003年の作期用の一覧に選ばれている。
結局、もし最高裁判所が控訴裁判所の判決を支持すれば、ホーマン・マックファーリング氏はすべてを失うことになる。 彼には7万5千ドルの実収入があるというが、生涯勤勉に働いて、ただモンサントへの莫大な借金が残るだけとなるのだ。 彼の健康だって悪くならないわけが無い。 モンサントは、アルゼンチンや中国でそうしたように、そしてブラジルでやろうとしているように、種子を蓄えることを禁じることが出来ないとあらかじめ分かっている国々にも、特許のついた種子を導入しようとしているのだ。実際、モンサントはアルゼンチンでは種子の蓄えを止めさせられなかったのに、今でもそこへ新しい品種を出し続けている。
もし北アメリカの農家が彼らに有利になるように誰かに交渉してもらえたら、より服し易い条件を得られたろう。 ダニエル・チャールス氏は、彼の本、「収穫の主」の中で、パイオニア社は、50万ドルをモンサント社に払って、永久にRR遺伝子の使用権を獲得した、と報告している。パイオニアが売っている種子の量を考えると、他の種苗会社のように画一的な料金を課さず、ほとんど技術料金を課さなくても済むはずなのだが・・・
モンサントは圧制を敷く必要は無い。 USDA(合衆国農務省)の「経済研究業務報告」の1つの図、“農業研究と発展:新たな市場と制度の中での公と私の投資”によると、1992年では、少なくとも73%の作付けされた大豆と綿花の種子は新規購入されており、それは、植物品種保護法の規制が厳しくなる1994年の前であった。もし、種苗会社が少しだけ農家のためを思って価格を妥当な線に抑えれば、毎年新しく売られる種子の割合はより大きくなるであろう。
最後に、作物を育てやすくしより多く生産することは必ずしも農家の益にならない、ということを心にとめておこう。 PhD(博士号)の研究をするまでも無く、栽培が容易になれば、農家の数は少なくて済む。また、より多く栽培されれば、廉価になり農家は損する。
生産を増大させる技術を拒絶すべきだというのでは決してない。 要は、農家は技術の広範な採用で利益を受けず、消費者もそれによって生産される食物を食べたくないのに、なぜそんなに急いで技術を採用し世界中に広げようとするのか、ということだ。 自由競争に残らなければならないので農家はやむなくその条件で技術を用いているが、最初にその条件について何かがなされなければならない。 さもなくば、何千という農家がはるかに強大な敵と法的抗争を強いられる事態になるであろう。
著者について:ダヴィッド・デチャントはアルファルファ、とうもろこしと小麦をコロラド州で栽培している。
ノート:
1. モンサントは大豆の多収性マーカーの発見に関しアメリカ合衆国の特許をとらなかった。しかし、今にも取ることになるかもしれない。大豆の植物と種子の特許を申請したらしい。 モンサントは、特許共同条約の下で正式に公表された特許申請(公示番号W0/0018963)のために、アメリカ合衆国を“指名国”に挙げている。極秘のために、アメリカ特許商標局が上記の特許を発行したかどうかを知るのは難しい。
2. モンサントはもう1つ別の、大変良く似た特許をアメリカに申請している。その特許請求は以下のとおりである:請求番号23。“ダイズ(Glycine max)の多収に関連している連鎖グループU03にある量的遺伝子座の対立遺伝子を含むダイズ。このダイズは黄色の種皮で、この量的遺伝子座の対立遺伝子は、種皮が黒色のダイズPI290136の連鎖グループU03上にあり、SEQ ID番号19-37から成るグループから選抜されたDNAマーカーに連鎖している。特許申請番号:10/037,598、アメリカでの申請日:2002年1月4日、特許所有者:モンサント、状況:特許局で審査開始待ち。
関連事項:“もう目を覚ませ”、穀物購入者は言う;http://www.cropchoice.com/leadstry.asp?recid=1136