モンサント社を中心とするグループ、オレゴンのGM表示阻止に大金を投下

 

ポスト・デスパッチ・ワシントン支局長

ビル・ランブレヒト(ワシントン発)

訳 中田みち

 

「バイテク警察」が出来るぞと警告をならしながら、企業が結託して莫大な資金を投じて、オレゴンで行われるGM食品の表示を求める投票の提案を阻止する運動が行われようとしている。 業界筋によると、セントルイスに本拠を置くモンサント社とそれに追随するバイテク企業や食品産業は、表示を求める発議に反対する運動に600万ドルをつぎ込むことを決めたという。これは表示賛成派が活動資金としている15万ドルの40倍にあたる。

この提案は、表示に関する条例では、州の投票にかけられる初めてのものとなる。しかしこれが最後とはならないかもしれない。表示によって消費者の食費が高くつくだろうと主張している食品およびバイテク産業にとってはあまり好ましくないことだろうが……。アメリカの食料品店の棚に並ぶ加工食品のうち、少なくとも70パーセントは遺伝子組み換えされた原料を含んでいる。 表示賛成派によると、企業は表示のコストを大げさに言っているという。そしていずれにしても、消費者は自分達が買う食べ物に何が入っているのか知りたがっているのだという。

遺伝子組み換えされた原料を含む食品の表示は、世界的に論議の盛んな問題で、環境保護論者や消費者の強い要求によって、表示を義務化している国もいくつかある。しかしアメリカでは、FDA(アメリカ食品医薬品局)が組み換え食品は通常の食品となんら違いがなく、したがって製造の詳細を明らかにする表示は必要ないと言っているために、表示されたことはない。

 

遠大な計画

もし実現すれば、オレゴンでは、条例27によってわずか0.1パーセントのGM原料を含んでいる食品や飲料も、遺伝子を組み換えたという性質が消費者に分かるよう、容器包装に表示をしなくてはならなくなる。たとえば、もしコーン・チップスが害虫に抵抗するためバクテリアの遺伝子を組み込んだコーンから作られていたら、消費者にはそのことがわかるようになっていなければならない。

 またオレゴンの大掛かりな提案は、遺伝子組み換えされた酵素によって加工された食品(いくつかのチーズ製品を含む)や、GM穀物を飼料として与えられた家畜の肉や乳製品の表示も求めている。この提案を思いついたのは、ポートランドに住む女性、ダナ・ハリスだ。彼女はラジオで魚の遺伝子をトマトに移植したという実験のことをきいて、この問題に強い興味を持った。「このことを自分で確かめようと考えました。それで食料品店に行ったのですが、遺伝子組み換えされた成分を示すラベルは1枚もなかったのです。」と彼女は振り返る。

 現在、彼女と表示賛成派は発議を投票にかけるのに必要な署名、66,000筆を集めた。人々は食品に何が入っているのか知りたがっているから、この条例が通ると信じているとハリスは言う。

 「消費者として、自分達が食べるものを選ぶ権利を持つべきなのです。」と彼女は言う。「署名を集めている間、人々が私に言ったのは、彼らが問題にするのは遺伝子をいじることよりも、むしろ情報が知らされない事の方だということでした。」

 ヨーロッパ諸国や日本、オーストラリアはすでに表示を行っている。一番最近表示を義務化したロシアでは、今月発効する法律で、GM原料が5パーセント以上含まれる食品については、その旨を容器に表示することが定められている。

 ヨーロッパ議会では7月に、加盟国での表示基準を1パーセントから0.5パーセントに変更することを投票で決定したが、それでもオレゴンの人々が投票する基準よりも5倍高い。

 

企業連合

条例制定を阻止するために結成された企業の同盟の名称が、今後の論争の主な争点を示している。「コストのかかる表示法反対連合(The Coalition Against the Costly Labeling Law)」。この連合は、自身が雇ったコンサルタントの調査を引用し、表示法が成立すれば、主に食品の検査、追跡、分別のためのシステムを立ち上げるための費用として、年間約550ドルが平均的なオレゴンの家庭にかかってくるとしている。

「国中の消費者は、オレゴンの発議によるこのような条例が、最終的には消費者自身への追加の費用負担となるであろうことを理解すべきだ。」アメリカ食品製造者協会(Grocery Manufactures of America)の在ワシントンスポークスマンであり、表示反対派のストラテジストでもあるジーン・グラボウスキは言う。一方、表示賛成派は、過去に表示に踏み切った国々では費用は最小限であったと反論している。

表示反対連合のウェブサイトで彼らは、オレゴン州政府の農業部門が今後オレゴン州内に流入する食品を検査することによって、食品企業にとっての「バイテク・ポリス(遺伝子警察)」になるだろうと断言する。 オレゴン州の政治コンサルタントで表示反対運動を率いるパット・マコーミックは、彼らの連合が戦わねばならないのは、自分達が食べるものについての情報をもっと知りたいという人々の欲求だと言う。「抽象的な情報ならば対応できるが、実際人々は特定の法と規制をきちんと働かせるように、投票しようとしている。そして世論の支持は、こういった細かいことであっという間に失われるのだ。」

バイテク企業の資金に支えられて、表示反対連合は来月初めにも、テレビコマーシャルを始めようとしている。 主なスポンサーは、バイオテクノロジー産業の第一人者であり、世界の主なGM作物の90パーセント以上を支配しているモンサント社だ。モンサントのスポークスウーマン、シャノン・トロートンによると、モンサント社は表示反対キャンペーンを、この連合を通じて、また世界最大クラスのバイテク企業を含む連合であるクロップライフ・インターナショナル(CropLife International) を通じても支援していくという。「普通に考えた場合、その条例がもし通過すれば、新たな官僚的ルールと規制が生まれ、消費者にかなりの費用負担をかけて意味のない情報を提供することになるでしょう。」と彼女は言う。

 

メルズ・キッチン

 また表示反対連合はインターネット上での議論で「表示法案は、消費者がGM食品を恐れて自分達の商品を買ってくれれば儲かる一部のオーガニック食品業者が推進している」と言っている。これは直接的に、オーガニック食品の第一人者で、ユージーンにあるエメラルド・ヴァレー・キッチンの創業者、そして今回の表示法案支持に5万ドルを献じたメル・バンコフを指している。 バンコフは最近、年平均400万ドルの収入を上げていた会社を売却した。「彼らが私について話しているのをきくと、頭がおかしくなりそうだよ。私はこの問題に関心を持っている、ちっぽけな食品製造業者にすぎないんだからね。」と、反対陣営に連なるはるかに巨大な企業を指して彼は言う。バンコフがこの運動に関わるようになったのは、「フードシステムがひそかに支配されてきている」からだという。「私は世界の食糧供給が、あまりよい歴史を持たない一握りの大企業にコントロールされるのがとても心配なんだ。それに、私は消費者の権利の強力な支持者だからね。」

 オレゴン州セーラムにあるウィラメット大学の教授であり、「民主主義の妄想・アメリカでの発議のプロセス」の著者でもあるスティーブ・エリスによれば、表示を求める発議が上手くいくかどうか、判断するには時期尚早という。「お金によって発議権の投票が決まるわけではないけれど、反対勢力が多額の資金を使うことで問題の争点が混乱し、発議を否定するほうに投票する人が出てくることもありうる。この提案が打ち破られてしまう方向に行くのかどうか、まだ投票者の意見は未知数だ。」

 

 

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