モンサントがパーシー・シュマイザーの種子保存裁判であっけない勝利
だが、本当の勝利者は誰か?
アン・クラーク Ph.D
カナダ・ゲルフ大学 植物農学部
04年6月13日
有機消費者協会
訳 河田昌東
5月21日、カナダ最高裁はシュマイザー対モンサントの訴訟の判決を下した。
(http://www.lexum.umontreal.ca/csc-scc/en/index.html
)
しかし、モンサントは本当に勝ったのか? 確かにモンサントは「勝った」、最低限の勝利−−−5対4で−−−異論の多い2つのテーマの一つだけで勝ったが、残りのテーマでは大きな失敗をした。
判決文は判事らの意見の相違の深さを表している。判決文の最初の文章は:「判決(ヤコブッチ、バスタラッチ、アーバー、レーベル判事は判決に部分的異議あり)。部分的に控訴を認める」だった。シュマイザーは控訴人だったから“部分的に控訴を認める”ということは判決の分裂を意味し、どちらも勝者であり敗者であることを意味する。この重要な判決を分析するために、私はまず初めに2つの問題を考え、それからこの判決の意味を議論したい。
争点は何か?
争点1:
判決の最初の部分は経済問題であり、シュマイザー氏の家族に直接関係している。下級審の判決ではシュマイザー氏の1997年のキャノーラの全代金・・・約19000ドル・・・をモンサントに引き渡す、というものであった。さらに、この1人の農民にモンサントの訴訟費用の全て・・・初審分だけで153000ドルに上る・・・の追加支払を命じた。シュマイザー氏に対し、モンサントの弁護士費用を支払へ、というのもまた最初の判決であって、AAFC(カナダ農業・農産物省:アメリカ農務省のような役所)の元職員でサスカツーンのAAFC調査ステーションにまだ事務所を構えているケイス・ドーニーはモンサント・チームの雇われメンバーとしてシュマイザー氏に不利な証言をした。
この第一の争点については、9人の判事全員がシュマイザー氏の弁護士、テリー・ザクレスキーの弁論に同意した。シュマイザー氏はラウンドアップを撒いたわけではないから、彼はいかなる意味においてもモンサントの不可避的なRR遺伝子の存在によって利益を得ていない、ということである。従って、彼の作物の価値のどこにもRR遺伝子に帰せられるべきものはなく、モンサントはその作物の価値に権利を持たない。この点は良く覚えておいて欲しい。
とても重要であることがいずれ分かるのだが、それはシュマイザー氏にとってではない。
さらに、特別異例なことだが、最高裁はまたシュマイザー氏は過去7年間の裁判におけるモンサント側の全弁護士費用を払う義務がない、という決定を下した。こうした裁判の敗者は勝者の訴訟費用を負担するのが普通である。しかし、今回のこの5対4という異論の多い判決ではそうはならなかった。興味深いことである。
最高裁判決の最も直接的な影響は、ザクレスキー弁護士の素晴らしい論議が血族主義者シュマイザー氏の家庭と生活を救ったことである。モンサントはすでに彼らの家屋敷や農場、仕事などに対する差し押さえ令状を用意していた。もし判決が逆だったら、この勇敢な農民家族を貧窮させただけでなく、ホームレスに追いやったことだろう。
争点2:
争点の2番目はモンサントによるカナダ特許法の解釈の妥当性に関する事である。最高裁判事9名のうち5名が癌マウスの事件で彼ら自身の判決に反対票を投じていた。(http://www.lexum.umontreal.ca/csc-scc/en/pub/2002/vol4/html/2002scr4_0045.html
).
この癌マウスに関する2002年の最高裁判決は、カナダでは高等生物を特許の対象にしてはならない、という1982年のアチビチ判決を再確認したものである。特に2002年12月の最高裁判決は次のように述べている。「判決(マックラックリン C.J.およびメジャー、ビニー、アーバー判事は反対意見):控訴を認める。高等生物は特許法第2条の“発明・考案”の意味の範囲内で“人為的製造物”、または“構成物”に当たらないので特許の対象にならない」。
18ヶ月後の今、9人の判事のうち5人が、一個の特許遺伝子を含む高等生物は特許遺伝子の所有者の有効な財産であると判断した。癌マウス事件で高等生物に特許を求めるハーバード大学の提訴を却下した立場と、今回の立場との違いは見分けるのが難しい。遺伝子が高等生物・・・この場合はキャノーラ・ナタネだが・・・にどのようにして入ったかに最高裁は無関心だった。単に一個の特許遺伝子があるだけで植物体全体に所有権が及ぶ、としたのだ。最高裁が“(遺伝子が)どのようにして入ったか”という問題を考えるのを忌避したために、実際の農業現場での混乱をもたらすことになった。そのことは以下に議論する。
これとは対照的に、4人の反対意見の最高裁判事はザクレスキー弁護士が提起した、きちんとした理詰めの議論に同意した。モンサントのRR遺伝子を保護する実際のカナダの特許は、明らかに保護対象を遺伝子とそれを含む細胞に制限していて、植物体全体や種子には及ばない、という考えである。逆に、同じRR遺伝子に対するアメリカの特許は、植物体全体に及ぶ、としており、アメリカ連邦最高裁がアメリカ国内での高等生物に特許を認めた1980年のダイアモンド対チャクラバーテイー事件の判決に依拠している。 (http://caselaw.lp.findlaw.com/scripts/getcase.pl?court=us&vol=447&invol=303
<http://caselaw.lp.findlaw.com/scripts/getcase.pl?court=us&vol=447&invol=303>
):
「判決:一個の生きている人工的な微生物は101条の下に特許の対象物である。被告の微生物はその法令の範囲内で“人工的製造物”又は“構成物”を構成する」(判決文 308〜318ページ)。実際のカナダの特許では、51の特許要件があるが、全て遺伝子と遺伝子の製造方法、キャノーラを含むさまざまな作物種の細胞に制限されている。事実、植物全体を含まないことから、判事らはカナダでは高等生物の特許は認められていないので、モンサントは植物全体の特許を否認している、実際は、否認すべきである、という議論をした。結果的に、9人のうち4人の判事は強い言葉で、判決に異議を申し立て、2002年の癌マウスの判決同様、モンサント対シュマイザーの事件でも高等生物に特許を認めないということを再確認したのである。彼らは理性的で知識の有る人物は、特許の保護が“特許不能な植物とその子孫にまで拡張される”とは期待できない、と結論した。この4人の反対意見の判事達は、シュマイザー氏が証言で釈明したように、彼がモンサントの技術を利用しなかった、即ち、遺伝子導入も遺伝子も、その植物の細胞も利用しなかったと認め、従って“証言で釈明したようにモンサントの技術の利用に関し特許権を侵害しなかった”、という主張に同意した。その結果、彼らは特許法の下に認可された特許は、商業化に先立つ知的財産権の保護をのみ意図したものであることに同意した。モンサントは明確に彼らの特許が植物にあることを否認したので、シュマイザー氏は彼の汚染した種子を次年度に再利用しようとして保存したとしても、モンサントの特許を侵害したことにならない。
ではモンサントにとって、この判決はどんな意味があるのか? モンサントはこの判決により、前にはしなかったこと、あるいは出来なかったことで一体何が出来るようになったのか? 多くはない。
(1)知的財産権。
モンサントは何時も自己の論理で振舞ってきた。彼らによる特許法の説明が最高裁判事の9人のうち5人によって合法化された今でもそうだ。モンサントはカナダの特許で具体的に自らの目的を否定されていることを知りながら、植物全体の汚染を根拠にカナダの農民らを相手に訴訟を起こした。今後、彼らは合法的に同じ事をやりつづけることが出来る。モンサントはこの行為を彼らの知的財産権を保護するために必要だと正当化する。それはカナダで同じように除草剤耐性のキャノーラを販売している2つの他社にも通じるに違いない。今はそのどちらも知的財産権を守るために特許法を発動したり、彼らの特許のある遺伝子で不本意に汚染した畑を持つ農民を告訴したりしたいとは考えていない。
a.バイエル社(元アベンテイス社)は一代雑種キャノーラに除草剤耐性遺伝子を入れたリ バテイー・リンク・キャ ノーラ(グルフォシネート・アンモニウム耐性)を持っている。一代雑種は(子孫が)でたらめに分離するので、農家は雑種コーンの種子を取りたいと思わない以上に雑種キャノーラの種子を保存したいとは思わない。もちろん、モンサントのラウンドアップが特許切れになったのとは違って、バイエルのリバテイー除草剤はまだ特許で保護されている。除草剤耐性作物を売るのは、除草剤の販売を伸ばすためである。
b. カナダで除草剤耐性キャノーラを売っているもう一つの会社はパイオニア社で、突然変異で作ったクリアフィールド産品種(除草剤イミダゾリノン耐性)で植物育種権法の特許を持っていて・・・・その目的通り使われている。最高裁判決はカナダにおけるGM技術の開発に水門を開けた、というモンサントの主張は、一般の人々に特許の保護に関する不確実性はカナダにおけるGMの企業投資の意欲を削ぐものだと信じるよう求めている。この主張は、既存のルールの中で事業を展開してきたバイエルとパイオニアの経験と衝突するように思われる。また、高等生物に特許を認める国を含め、今世界中で広がっている社会的なGM作物排除の機運とも合わない。GM作物が歓迎されず、食料供給システムの中に強引に侵入するとして社会的な排除の対象になっている例を挙げれば・・・・・・・・ これらは全て2004年の初めの数ヶ月間に起こったことだが:
*EUにおけるモンサントとシンジェンタのGM砂糖大根の撤退:GM砂糖大根はGMキャノーラ同様に非GM種に比べて環境に対するダメージが大きいことが数年間にわたる多数の試験栽培で明らかになった、と王立協会の報告書(2003年10月16日)で指摘された。
* この春、イギリスでバイエル社がGMトウモロコシの撤退を決めた:GMトウモロコシは、アトラジンを使う非GMトウモロコシ栽培よりも環境にやさしいと試験栽培で明らかになった唯一の作物である。GMトウモロコシ栽培場所の規制手続きは煩雑過ぎて商業栽培の許可には向かなかったためである。
* 2004年3月、カリフォルニア州メンドシノ郡の市民らによる“条例H”が通過し、同郡ではGM作物の栽培は禁止された。 (http://www.foodfirst.org/media/press/2004/2004-03-03-mendocino.html
)
* 2004年3月、バーモント州の上院は圧倒的な支持(78対0)で農家保護法案を通過させた。それによれば、バイテク企業はGM形質を持つ作物による遺伝子汚染に対して責任を負う。
(http://www.organicconsumers.org/ge/vtlaw031104.cfm )
* 2004年4月にバーモント州政府は「農家の種子を知る権利法案」に署名した。これによりバーモント州種子条例にGM種子は在来種子と異なる、と規定され同州内では全てのGM種子に表示が求められる。
* 2004年4月に、EUで唯一GM作物の商業生産が認可されているスペインでシンジェンタ社のBt176トウモロコシの認可が取り消されたが、これは抗生物質耐性の伝播を懸念したためである。
(http://quote.bloomberg.com/apps/news?pid=10000085&sid=aTHzBgQCkUvs&refer=europe>
<http://quote.bloomberg.com/apps/news?pid=10000085&sid=aTHzBgQCkUvs&refer=europe>
)
*2004年4月のヴェネズエラのチャベッツ大統領は、GM大豆禁止法案を通過させた。
* 2004年4月、カリフォルニア州食品農業省(CDFA)はベントリア・バイオサイエンス社がカリフォルニアで医薬用コメの栽培のために行った申請を却下した(Winnick、2004)。
* 2004年5月27日、オハイオ州は農家が種子を保存し、生産コストを削減する権利を確保すると共に、種子の再利用に対し企業への補償を行う法案を導入した。
*2004年4月、モンサント社はカナダとアメリカでのRR小麦の商業化を断念する決定を行った。(Unger 04;その他
//www.monsanto.ca/news/news-display.shtml?pfl=news-display-single.param
op2.rf1=23 )
<http://www.monsanto.ca/news/news-display.shtml?pfl=news-display-single.para
m&op2.rf1=23> )
もっとも、申請書はCFIAで審査延期になってはいるが。
*2004年5月、オーストラリアでモンサントはGMキャノーラの試験栽培を断(Marino,2004)。これはオーストラリアの7州のうち4州(西オーストラリア、ビクトリア、ニュー・サウス・ウエールズ、そしてタスマニア)でGMキャノーラの試験栽培を1年以上禁止する決定を行ったことに対する処置である。
*2004年6月バイエル社がオーストラリアでのGMキャノーラの試験栽培を断念(ABC、2004)。
こうした沢山の社会的な反対を考えれば、シュマイザー氏対モンサント社のGM作物についての事件に対するカナダ最高裁の判決の影響は今後現れるだろう。
(2)市場の戦略。
植物育種権利法よりも特許法を優先することは知的財産権保護よりも市場拡大の圧力に恐らく効果的だったろう。何故なら、キャノーラの花粉と種子は封じ込め不可能であり、特許遺伝子が自分の意図とは 無関係にやってくることは西カナダのどこの農家にとっても事実上ありうる事だからである。モンサント同様、農家もこのことを知っているので、モンサントは“特許権侵害”で事実上どこの農家でも法的にも経済的にも恐らく脅すことが出来たはずである。何故なら国内のどこの場所でも特許遺伝子を持つ種子や植物の意図しない着陸点になりうるから。しかしながら、モンサントがシュマイザー氏の作物の価値を何も所有しないという決定により、最高裁はモンサントの市場基盤から軸足を移動し、あるいは少なくとも重要な軸足を不安定にしたのである。こうして、意図せずにモンサントの特許を侵害する農民は、もはや彼らの作物や家屋敷、農場を失う恐れが無くなったのである。
農家や育種家、伝統的な種子保存家などにとっての判決の影響
(1)個人的な土地所有者の権利についてはどうか。もしたまたま特許遺伝子で自分の土地の植物が感染したら、その人はモンサントに対して契約上の義務を負わないかどうか? 封じ込め不可能な特許遺伝子の所有権は土地所有権に優先するかどうか? 明らかにイエスである。遺伝子が封じ込め不可能かどうかは、9人の判事のうち5人にとって無関係であった。
(2)外部コストはどうか? モンサントとの契約上の義務を負わない人が、何故封じ込め不可能な特許遺伝子の処理に100%のコストと責任を負わなければならないか? 封じ込め問題を考えるに当たり、9人の判事のうち5人が、モンサントと契約を結んでいない人にも汚染を確かめ、それをモンサントに通報する法的責任があると判断した。それが出来なければ、シュマイザーがそうだったように責任が問われることになる。窃盗の罪が問われないリコール・・・汚染したと知っていてモンサントに来て確かめるように言う代わりに、種子を保存し再び栽培すること。種子保存家として、彼は代代のキャノーラでこれをすると予想されるが、今度の判決ではそうした人をどうするか明らかにされなかった。封じ込め出来ないテクノロジーに対する支配の痕跡の維持をモンサントに認めるために、外部コストの公平性をどうするかは不明確である。この判決の論理的な帰結は、全ての育種者、農家、農場主は毎年毎年、モンサントだけでなく他の特許遺伝子の所有者に対しても、それぞれ報告書をいくつも書かなければならないことになる。何故農場主や野菜栽培の人まで? もし、9人の判事のうち5人がシュマイザー氏がモンサントの独占を犯した・・・侵害した・・・彼が特許遺伝子を利用したわけではないのに・・・単に特許遺伝子があるというだけで・・・と考えたなら、この判例はキャノーラを栽培したかどうかに関係無く他の人にも適用されるのだろうか? 今回はラウンドアップ・レデイ遺伝子だったが、同じ理由で恐らく同様の知的財産権の保護は、油の品質改善や耐病性など他の遺伝子にも、またモンサントだけでなく他の企業にも等しく適用されるはずである。 育種家、農民、農場主らにとって恐らく自分を守るもっとも賢明なやり方は、毎年キャノーラの特許遺伝子所有者らに必ず手紙を送り、貴方の遺伝子が家の畑にある可能性があるので取り除きに来てください、と通報することだろう。
ある特定の日、まあ4月1日あたりを特許侵害排除の日と名付けると良い。農業や市場の業界紙の広告も、読者に書留郵便で企業に手紙を送らなければならないことを思い出させ、何か変な種子が自分たちの畑にあることを知っていたとしても、(通報さえすれば)特許侵害の罪にはならないことを思い出させるだろう。
(3)種子保存者にとってはどうか? キャノーラの中にある“所有されていない”数万個の遺伝子と(初めは)ゲノムの中に強制的に組込まれたが、何世代もの在来農業や従来の育種を通じて入り込んでしまった遺伝子についてはどうなのか?
一個の特許遺伝子が世界中の育種家や一般の人々による何世紀もの努力に優先するのか。一個の特許遺伝子は全ての他の“公益”に対して所有権を主張できるのか? 表面的にはそうだ。このことは次のような追加的な疑問につながる。
a) 一回汚染すれば自家採取の種は永久に汚染が継続する。そうすれば種を取る種子保存者は永遠の特許侵害者になるのか?
明らかにイエスだ。この信頼問題を解決できる唯一の方法は種子を全て破壊することである・・・全てを・・・何故ならラウンドアップを散布せずに汚染した種子と汚染していない種子を区別できないからである。ラウンドアップは非汚染種子を全て殺してしまうだろう。論理的に考えれば、この最高裁判決は、地球上の全ての育種家も農家も・・・特許権の侵害を避けるためには、特許遺伝子で意図せずに遺伝子組換えされた全ての種子を破壊しなければならないことを意味する。シュマイザー事件の判決は、訴訟できる汚染レベルについては何も示されなかったことを忘れてはならない。25%では多すぎるか? 1%や0.1%ではどうか?
しかし、この最高裁判決の残り半分が、不可避的に、ほのめかしているように、永久的な責任は本当にありうるのだろうか? もし最高裁がシュマイザー氏に適用したのと同じ論理を他の農民にも当てはめるとしたら、特許遺伝子が誰かの種子袋か畑に生えている植物に入っていたらモンサントはどうするのか。この論理で行けば、汚染した種子を単純に栽培しあるいは再栽培した場合・・・シュマイザー氏が実際にしたことで、裁判所がモンサントの特許権侵害だと認めたことだが・・・誰もモンサントに支払う必要はない。もちろんラウンドアップを散布して、RR遺伝子の恩恵を受けなかったとしてのことだが。モンサントはその人を法廷に引きずり出して・・・実際にシュマイザー氏に対して行ったように・・・何を得ようとするのか。モンサントは、公認されないTUA,作物代金、あるいは罰金が獲得できる当ても無く、単に自ら訴訟費用を支払わなければならないだけなのか?
それでは、この判決は種子保存者と種子保存にとって脅威になるのか? 恐らく否、である。モンサントにはシュマイザー氏の作物の代金の取り分は無い、という決定は、事実上、特許権の侵害という技術的認定にたいして有効な対抗策かもしれない。
b)意図せずに入り込んだ特許遺伝子を2個以上含む植物の所有者は誰か?
このような植物はすでに存在する。そしてもし農業バイテクが他のGM形質を開発すればその数はますます増大するだろう。マニトバ大学のフリーセンら(2003年)は、認可済みのキャノーラ種子33ロットについて1個から3個以上の商業的に利用可能な除草剤耐性遺伝子(グリフォサート耐性、グルフォシネート耐性、そしてイミダゾリノン耐性)による汚染を比較した。33個の種子のうち、18個は非除草剤耐性だったが、8個はグルフォシネート耐性、7個はイミダゾリノン耐性だった。 グリフォサート耐性の種子は見つからなかった。何故なら、農家は(モンサントとの)契約上いかなる理由でも、例え研究目的でも他人に種子を提供してはならないことになっているからである。彼らは33ロットの種子のうち7ロット(21%)にグリフォサート耐性とグルフォシネート耐性の両方の性質をもつ種子が混入しており、そのうち3ロットの種子が認可された種子の純度基準である0.25%を超えていることを発見した。心に留め置くべきことは、これらの種子は認可された種子栽培業者が作った、認可された種子だということである。彼らは遺伝的純度を守る専門家である。されば、2重に汚染した種子の所有者は誰なのか?この程度のダブル汚染がすでに存在することは、複数の特許遺伝子が隔離できずに地上を飛散する地域で、最高裁判決の実際上の有効性が疑わしいことを示す。
(4)汚染した認可種子はどうなるか?
この同じ論文で、フリーセンら(2003)は試験した33個の種子のうち42%が認可キャノーラ種子の許容汚染限界0.25%以上の汚染があったことを示した。GM種子と非GM種子をより分けるのは事実上不可能なことを考えれば、パイオニア・ハイブレッド社が少なくとも2000年に非GM大豆種子に対して行ったように、企業はGMのある作物について全ての種子の袋が非GM種子であると認めるのを諦めているのである。
(
http://www.nelsonfarm.net/validation.htm ): 曰く、“・・・穀物の形質は穀物ハンドリングの過程で機械的に混ざったり、あるいは受粉において遺伝的に混入したりする。従って、100%の純度は遺伝的な組成でも、また外部からの混入という意味でも、現在大豆種子を含むいかなる農産物でも達成出来ない。”
その程度の汚染を気にする必要があるのか? ヴァン・アッカーら(2003年)は、許容汚染限界(0.25%)の認可キャノーラ種子を播種した場合、もし収量と飛散ロスが期待通りならば、翌年は1.3平方メートル当たり1本(1ヘクタール当たり7700本)の除草剤耐性キャノーラが生えてくる、と推定した。その状態を図で見るには(http://www.percyschmeiser.com/contamination.htm).
もし、毎年毎年シュマイザーのように自家採取した種子を植えれば、これら勝手に生えてきた耐性キャノーラと自分で植えたキャノーラは区別がつかなくなるだろう。もし貴方がシュマイザー氏のように種子採取家であれば、汚染した種子の子孫は他の全てと一緒に穀物貯蔵所に行き、それを植えれば貴方は再び特許侵害をすることになる。
そうすると、非組換えの種子の袋に汚染種子が入っていたとして誰に責任があるのか? 最高裁判事達が特許キャノーラ遺伝子が封じ込め不可能だということの意味を認めたがらないことは、シュマイザー氏同様、貴方方に責任があるということを意味する。この判決によれば、GM種子が非GM種子の袋にうっかり紛れ込んでも、あるいは近所の畑から風で運ばれ、あるいは花粉で受粉したとしても、それは関係無い。
結論:
そうなると、結局モンサントは実際には勝ったのかどうか? この重要なケースで、彼らの勝利で得たものは彼らが失ったものよりも大きいのか?
彼らは法的な意味では9名の判事のうち5名の支持で勝った、それは彼らがすでに特許を主張して行ってきたことをするためである。 5名の判事達は彼らの特許遺伝子を含む植物は、それがどこからやってきたか、あるいはどのようにやってきたかには関係無く彼らのものだと認めた。ならば、この判決はモンサントがこれまで出来なかった何を可能にしたのか?
間違い無く、多くは無い。モンサントが失ったものは何か? それは極めて多い。彼らのこれまでの膨大な訴訟費用やシュマイザー氏の1997年の作物代金を失ったのみならず、意図しない特許侵害に対する経済的報復による脅しの能力は失われ、あるいは大幅に弱体化された。願わくば、モンサントの調査員が責任のない農家の玄関にやってくるのがすぐにでも過去のものになって欲しいものだ。しかし、この問題の長期的な重要性はいっそう大きくなり、シュマイザー氏初め数百人の農家に対するモンサントの行動は、世界中に知られることになった。“世界が注目している”というアムネステイ・インターナショナルの働きかけは、それが牢屋にいる囚人であろうと農場の農民にとってであろうと、力の悪用に対する強力な抑止力になる。数多くの国々で、過去7年間に行われた、数え切れないスピーチを通じて、シュマイザー氏はこの次々に明らかになる物語を伝え、行動し、そして広がった人々の輪を結びつけた・・・彼らはGMテクノロジーの後始末のコストを危うく払わなければならなくなるはずの人々だった。 環境保護活動家や科学者、主婦からエレベーター係り、宗教グループ、食品チェーン担当者、食品加工業社、政治家にいたるまで、今では誰もがモンサントの思い描いた農業の意味について目覚めた。 非GM農家や種子採取家、先祖伝来の品種の保全、作物のバイオデバーシテイ、そして所有権などに対する外部的影響も、考え、議論し、行動する全ての人々に明らかになった。
感化され、関わったコミュニテイーを広げることで、シュマイザー氏はモンサントと農民たちの力のバランスを効果的にシフトさせ、農民達に大きく持続的な利益を与えた。
参考:
●ABC (オーストラリア放送協会)2004年放送:モンサントがオーストラリアでのGMキャノーラ私権栽培を断念。
http://www.abc.net.au/rural/news/stories/s1107529.htm
●Friesen,
L.F., A.G. Nelson, and R. C. Van Acker. 2003. Evidence of contamination of
pedigreed canola (Brassica napus) seedlots in western Canada with genetically
engineered herbicide resistance traits. Agron. J. 95:1342-1347
●Kinzel, B.
2004. Vermont governor signs GMO bill into law. http://www.publicbroadcasting.net/vpr/news.newsmain?action=article&ARTICLE_ID=629248 <http://www.publicbroadcasting.net/vpr/news.newsmain?action=article&ARTI
CLE_ID=629248>
●Marino, M.
2004 Monsanto halts GM canola trials. http://www.theage.com.au/articles/2004/05/12/1084289748081.html?oneclick=true
●Unger, E.
2004. Monsanto pulls RR wheat plans.
http://www.biomedcentral.com/news/20040512/01
●Van Acker,
R.C., A.L. Brule-Babel, and L.F. Friesen. 2003. An Environmental
Safety Assessment of Roundup
Ready Wheat: Risks for Direct Seeding Systems in Western Canada. Report for the
Canadian Wheat Board, Winnipeg, MB.
http://www.worc.org/pdfs/WheatCWBEnviroReportJune2003.pdf
<http://www.worc.org/pdfs/WheatCWBEnviroReportJune2003.pdf>
●Winnick,
E. 2004. No go on GM pharm rice crops.
http://www.biomedcentral.com/news/20040415/02/
終わりに:
この論文は2004年6月10日、オンタリオ州ミルバートンで行われた全国農民連盟の集会で出された。クラーク教授の許可を得てクロップ・チョイスのアン・クラークが出版。