メキシコの在来コーンに組み換えDNAを発見
カリフォルニア大学バークレイ校
プレスリリース
2001年11月28日
訳 山田勝巳
人里離れた地域で生産されているメキシコのコーンの在来品種が、組み換えDNAで汚染されていることがカリフォルニア大学の研究者によって発見され、驚きと失望で受け止められた。
「これは、在来コーンの多様な品種があることで有名な、絶対に守らなければならない地域なので重大な問題だ。」とカリフォルニア大学バークレイ自然資源学部の環境科学、政策、管理学部のイグナシオ・チャペラ微生物環境助教授は話す。
11月29日発行のネーチャー誌に発表された研究では、チャぺラとUCバークレイ環境科学政策管理学部卒業生で主執筆者のディビッド・キストは、原種と遺伝子組み換えでない品種と、組み換え品種とを比較している。
在来種又はクリオーロ(中南米原産の)サンプルは、オアハカ州シエラノルテの人里離れた山岳地帯の4つの圃場から採種された。 対照群は、ペルーのクスコ渓谷で育てた遺伝子組み換えは施されていない青トウモロコシと、組み換え作物が登場する前の1971年産のオアハカ州シエラノルテの種子コレクションからである。
高感度のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に基づく検査で、研究者は植物ゲノムに組み換え遺伝子を挿入した場合の、組み換えDNA構造の色々な因子を調べた。
1971年のペルー産コレクションからは、組み換えDNAは全く検出されなかった。クリオーロ産には6検体中4検体から僅かな組み換え作物に広く使われているp−35Sカリフラワーモザイク・ウィルス由来のプロモーターが検出された。 これのDNA配列を調べたところ商業GM作物に使われているCaMVプロモーターと一致した。
組み換え汚染の証拠であるアグロバクテリウム・チュメファシエンス由来のノパリン・シンターゼ ターミネーター配列(T-NOS)が6検体中2検体から検出され、1検体からはBt菌の遺伝子Cry−1A自体が検出された。
「確認のために最低3回は、検査を繰り返した。 始めの中は、これ程遠隔地で陽性反応が出たのは信じがたい事だった。」とキストは言う。 チャペラとキストによると、汚染は何回もの受粉で起きたものではないかという。
CaMVプロモーター配列の両脇に別のDNA片を検出した。 これらのDNA片は、多種多様でトウモロコシのゲノムに組み換え配列がランダムに挿入されたことを示している。「もし汚染が一度の組み換えだけであれば、組み換えDNAがクリオロゲノムの特定の場所に出るはずだが、ゲノムの色々な場所に見つかっている。」
最初に見つかったのは2000年の10月でチャペラが科学部長であるオアハカ州菌研究所だった。 この直後にメキシコ政府へ警告を発し、政府は独自に検査を開始した。 環境自然資源省が9月に報道発表した結果では、オアハカ州シエラノルテメイズに3−10%の組み換えDNAが検出され、UCバークレィの研究結果と一致した。
一体どうして汚染が起きたのかは不明で、専門家やバイテク作物支持者は、コーンの花粉は重いので風でコーン圃場からは飛ばされないというが、この前提は今回の発見で見直す必要があるだろうとチャペラは言う。 「栽培停止がきっちり守られていなかったのではないか、又は停止前に汚染されたのかも知れない。 いずれにしても、遺伝子がバイテクコーンから在来コーンに何らかの原因で移行したのは明らかだ。」
メキシコでは、バイテクコーンの新たな作付けは禁止されているが、輸入は許されている。 今回の事で、既に起きているバイテク論争が更に激化するだろう。
推進派は、バイテクが作物収量を増やし世界の増加する人口を養い、栄養価を高め、農薬の使用量を減らすといっている。 反対者は、健康と環境影響が十分に分かっておらず、恩恵より危害の方が大きいと出張している。 米国国立科学アカデミーとロンドン王立協会を含む7カ国の科学アカデミーの発行する「組み換え植物と世界農業」白書2000によると、これまで世界中の3000万ヘクタールで組み換え作物が育てられている。
意図しない組み換え作物からの遺伝子の拡散は、在来植物を脅かすものだ。 豊富なトウモロコシ品種がオアハカ・シエラノルテで何千年にも亘って作られており、貴重な遺伝子銀行の「口座」だった。 遺伝的に多様な作物ほど病害虫や気候変動に強く、「これを失うことは出来ない。」とチャペラは言う。