ターミネーター昆虫‘雌を殺す’
メイ・ワン・ホー博士、ジョー・カミンズ教授
I−SISレポート 3月26日
山田勝巳 訳
農務省APHISは、ボールワームの被害を防ぐために雌性致死特性を開発する前段階としてこの夏GM桃色ワームの圃場解放を承認した。メイ・ワン・ホー博士とジョー・カミンズ教授が雌性致死システムの遺伝子学と危害を説明する。
雌性致死システムは、1950年頃から生物学的害虫駆除に使われてきた不妊昆虫技術(SIT)から開発された。大量の昆虫をX線照射などの方法で不妊化して放つもので、当初不妊化した雄雌共に放ったのだが不妊の雌は害虫駆除には有益ではないと考えられていた。一つの主な理由は一匹の雄は何匹もの雌と交尾するのに対し、雌は数匹の雄としか交尾しない。ここから雌を殺すために遺伝的分離方式(GSMs)が開発された。つい最近まで、すべてのGSMは放射線で誘発されるX-Y転座(正常なX染色体の一部をY染色体に移す)を利用していた。その結果生じたY染色体は、X染色体上に条件致死遺伝子(conditional
lethal gene)をホモに持つすべての群の中で常に優性選択マーカーとなる。
条件致死とは、特定の非許容条件化、例えば熱照射などで死をもたらす遺伝子をもつこと。こうして、群に熱ショックを加わえれば雄(XY)が生き残り雌(XX)が死ぬことになる。
最近、雌を根絶する方法として他の条件致死システムが考えられている。この方法は遺伝子工学を使ってどんな種の害虫にでも応用できる。その結果、GM昆虫はそのまま不妊化せずに放つことができる。一つの方法は、性特異的条件致死遺伝子(conditional sex-specific
lethal gene)、つまり非受容条件下では一方の性でだけ発現する致死遺伝子を持つ株を作るもの。 そのやり方は、自然界では普通の状態が、ある株にとっては非受容条件で、その株にとっての(生存可能な)受容条件というのは特定の化学物質が存在するときである(訳注:即ち薬物依存性)。この化学物質は昆虫製造工場で餌に混ぜて食べさせることができる。研究者たちは、そのようなシステムをDrosophila (ショウジョウバエ)で実現したのである。
それには、特殊な転写制御因子(プロモーター)、とこれに結びついて転写を促進する蛋白質の転写因子(transcription factors)を使う。まず、転写因子tTa(テトラサイクリンと相互作用する蛋白質)を、雌の幼虫と成虫で活性があるYp3プロモーターのコントロール下に置く。次にlacZ というレポーター遺伝子(βガラクトシダーゼを作る:訳注、大腸菌の遺伝子)を別のテトラサイクリン応答性のプロモーターの支配下に置く。
こうすれば、テトラサイクリンがない状態では、tTaはtReと結びつき、レポーター遺伝子が発現するようになる。テトラサイクリンがあると、テトラサイクリンがtTaと結びつきtReと結びつくのを阻止するため、レポーター遺伝子は発現しない。
Yp3-tTa とtRc-lacZ についてそれぞれホモ (homozygous)の蝿どうしを互いに交配させる。この子どもをテトラサイクリン存在下と非存在下の培地で育てる。成虫は、βガラクトシダーゼ活性で染色される。テトラサイクリンのない餌で育てられた雌は、この酵素による強い染色性を示した。しかし、テトラサイクリンの餌で育った雌と雄は、反応しなかった。その後、
雌性致死株を作り出すために、毒性遺伝子生成物をつくるRas64B遺伝子をtReの制御下に起き、tRe-Ras64B系統を生成した。(Ras1は細胞で転写の鍵を握る蛋白質の暗号を持つ遺伝子、Ras64BはRas1の欠失突然変異遺伝子で不活性のもの。Ras遺伝子は人間の癌を強く誘発する主な遺伝子。)tRc-Ras64B系統を、tTaが非特異的なプロモーター(constitutive
promotor: 訳注、細胞内環境要因に左右されず、いつも機能している)の支配下にある別系統と交配する。こうして生まれた子どもはテトラサイクリン存在下では、生きて生殖能力もある。しかし、通常の培地(即ちテトラサイクリンが無い)では子どもは雄も雌も生き残ることが出来ない。 tRe-Ras64B系統をYp3−tTa
系統と交配すると、生まれた子の雄はテトラサイクリンが無くても生き残るが雌は死んでしまう。
その後、研究者達は、同じ染色体上にYp3-tTa も tRe-Ras64Bもホモにもつ別の系統を作り、Ras64Bが発現しないようにテトラサイクリンの培地で保存維持した。こうして育てた蠅をテトラサイクリンのない培地に移したら、雄が5000匹以上も生き残る中で雌は一匹も生き残ることができなかった。この遺伝システムは雌にだけ毒性を示す遺伝子生成物でも有効だった。
雄は別の雌と交尾するときは生殖能力があった。これは雌性致死遺伝子を害虫全体に広めるためには重要だ。しかし同時に近縁種にもこの遺伝子を広めてしまう。水平伝達で関係のない種にまで広まる可能性もある。
このような遺伝子を尻軽(promiscuous)トランスポゾン・ベクターに組み込む提案は、関係のない種へ雌性条件致死遺伝子を水平伝達するリスクが非常に高く,生物多様性を破壊する可能性がある。
このような開発を完全に止めるには、こうした予見できる危害は十分な根拠である。前回の報告では、GM桃色ワームで使われたトランスポゾンは尻軽で不安定、そして二次移動をしがちだという証拠を挙げた。
参考文献
Thomas
DD, Donnelly CA, Wood RJ and Alphey LS.
Insect
population control using a
dominant, repressible, lethal genetic system.
Science
2000: 287: 2474-6.
"Terminator
Insects ・a primer" by Joe Cummins, ISIS Report, March 2001
"Terminator
Insects give wings to genome Invader" by Mae-Wan Ho, ISIS Report, March 2001
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