マラリアに挑戦

市民科学大学

ジョー・カミンズ教授

訳 山田勝巳

 

既に効果的対策があるのに、マラリアを抑えるために危険極まりない組み換え蚊を推進しようとしている。

 

組み換え蚊の登場

ジョー・カミンズ教授が、何故組み換え蚊が危険なのかを解説する。

 

マラリア対策では、感染を防ぐワクチンを開発することが最も喧伝されている方法である。 この方法は、マラリア原虫の遺伝学的巧妙さに直面して難渋している(1)。 原虫は染色体が14あり、可変する部分と安定部分がある(2)。 人の免疫システムに対抗する最大の防御は、頻繁に組み変って多様性を生み出す細胞表面抗原の暗号を持つVar遺伝子である(3)。 もう一つ考えられている方法は、病気を広める蚊を撲滅することである。

 

人に害を与える種類は、プラスモジウム原虫(単細胞動物)−P. falciparum, P.vivax, P. ovale and P. malariaeである。 勿論P.ファルシパルムが、最大の感染源であり、致命的である。 マラリアは、迅速に診断され適切な処置がなされれば治る病気である。蚊が感染した人を刺すと、その人の血液中に居る顕微鏡的マラリア原虫を吸飲する。

 

マラリア原虫は、蚊の体内で一週間以上生育した後でなければ、別の人を感染することは出来ない。 潜伏期間後に別の人を刺すと原虫がその人の血中に入り込む。 そして、原虫は肝臓に入り込み肝臓細胞の中で成長し増殖する。

 

原虫が肝臓にいる間は、症状は出ない。 最終的に原虫は、最低8日、最高数ヶ月後に肝臓を去り赤血球の中に入ってその中で成長し増殖する。 赤血球は、破裂して原虫をばらまき、別の赤血球を攻撃する。 原虫からの毒素が血中に放出され、人の具合を悪くする。 

 

最近の発見でハマダラカの遺伝子組み換えが可能になった。 現在の研究の焦点は、蚊の腸内で原虫変形体が出来ないようなハマダラカを作ることである。 このような株の組み換え蚊が出来たら、次のステップは、この変形体原虫を人や動物に広げられない組み換え蚊を自然の蚊と入れ替えることだ。

 

ハマダラカは、DNAトランスポゾンを使って組み換える。 トランスポゾンは、移動する遺伝因子で植物や動物、そして多くのトランスポゾンの科や超科(families andsuperfamilies)で見られる。 節足動物(昆虫を含む)の遺伝子組み換えに使われるトランスポゾンは、DNAとして複製され、トランスポゾンのトランスポザーゼ酵素によって染色体に組み入れられる。 他のトランスポゾンは、レトロウィルスのような逆転写酵素によって複製されるが、これらの因子は現在の組み換え蚊の操作には使われていない。 

 

使われているのは、マリナー(mariner)とハーミス(hermes)というトランスポゾンである。 これらはもともと昆虫から分離されたものだが、その後脊椎動物や高等植物でも発見されているトランスポゾンの近縁種である。 現在のやり方では、トランスポゾンで持ち込まれる組み換え遺伝子は、変形体が昆虫の腸で拡散するので昆虫の腸に特有のプロモーターによるか、原虫が唾液腺段階の複製に影響を与えるために唾液腺プロモーターで活性化される(5)。 

 

変形体の拡散を防ぐためにいくつかの組み換え遺伝子が考案されている。 哺乳類の遺伝子2種が最も有力で、先ず原虫の唾液腺段階を標的にするマウスの単クローン性抗体遺伝子である(5)。 第2の遺伝子は、蚊の腸細胞へ変形体が付着するのを防ぎ、腸内で複製するペプチドを生産するSM1である(6)。 SM1遺伝子は、人から得られたものでマラリアにある程度の抵抗性を持っている(7)。

 

これらの遺伝子が有望視されてはいるが、変形体は非常に変わりやすく、押さえ込もうとするのを逃れる優れた得意技を持っている。 蚊が変形体に抵抗性があることが証明されれば、抵抗株は自然の致死株と入れ替わるかも知れない。 本来的に、宿主を殺したり病気にする蚊の種類よりも、健全な血液を生産する宿主を維持する蚊の方が優勢であると思われるが、致死的蚊が熱帯地域では支配的である。 

 

ある種の昆虫の細胞で共生的に生きるウォールバキア( Wallbachia)菌は、組み換え蚊の生存を助ける可能性がある。

 

ウォールバキアに感染した雌の蚊は、感染した蚊と感染していない雄、双方ともと交尾し子孫を残せるようだが、感染していない雌は、感染していない雄と交尾したときだけ子孫を残せる。 その結果、ウォールバキアに感染した雌は繁殖に有利になる。このため、遺伝子組み換えされたウォールバキアは、交尾を通して色々な組み換え遺伝子を徐々に野生種に遺伝子移入するために使う事ができる(8)。 (この菌は、蚊に定着するのを制御するには、遺伝子組み換えしていなければならない。) ウォールバキアに感染した雌の蚊は、繁殖優性があるため、マラリアを拡散する蚊に急速に置き換わることが出来る。 蚊の個体数もワタキバガの幼虫のような害虫を根絶するのに使ったのと似た方法で変えることが出来る可能性がある(9)。

 

導入遺伝子の人や環境に対する影響は、遺伝子が地球上に拡散する前に慎重に評価されなければならない。

 

例えば、昆虫の組み換えに使われるマリナーやハーミストランスポゾンは、脊椎動物、無脊椎動物、高等植物のトランスポゾンに拡がり組み変える可能性がある。 

ハーミストランスポゾンは、人の染色体で見られ、精神薄弱やガンに関わる、壊れやすい染色体サイトと関連している(10)。

 

ウォールバキアは膨大な節足動物群にも拡散し、遺伝子組み換えの影響を広める恐れがある。

 

組み換え昆虫の影響は、特に、マラリアを抑える安全な方法が既にあること(以下の報告を参照)を考慮して慎重に評価しなければならない。 新しい技術、まして欲得等で危険な遺伝子構造をばらまくようなことを許してはならない。

 

Kwiatkowski D and Marsh K. Development of a malaria vaccine Lancet 1997,350, 1691-701.

 

1.. Carlton J, Galinsky M, Barnwell J and Dame J. Karyotype and synteny among the chromosomes of all four species of human malarial parasites. Molecular and Biochemical Parasitology, 1999, 101, 23-32.

2.. Taylor H, Kyes S and Newbold C. Var gene diversity in Plasmodium faliciparum is generated by frequent recombination events. Molecular and Biochemical Parasitology, 2000, 110, 391-7.

3.. Moreino L, Edwards M, Adhami F, Jasinkiene N, James A and Jacobs-Lorena M. Robust gut specific gene expression in transgenic Aedes aegypti mosquitoes. Proc. Natnl. Acad Sci USA 2000,97,10895-8.

4.. James A, Beerntsen A, de Lara Capurro M, Coates C, Coleman J, Jasinskiene N, and Krettli A. Controlling malaria transmission with genetically-engineered, Plasmodium-resistant mosquitoes: milestones in a model system. Paristologia 1999, 41,461-71.

5.. Enserink M. Two steps to a better mosquito. Science 2001, 293, 2370-1.

6.. Garcia A, Marquet S, Bucheton B, Hillaire D, Cot M, Fievet N, Dessein AJ and Abel L Linkage analysis of blood Plasmodium falciparum levels: Interest of the 5q31-q33 chromosome region. Am.J.Trop.Med.Hyg. 1998, 58,705-709

7.. Marshall A. The insects are coming. Nature Biotechnology 1998,16, 530-533

8.. Ho MW and Cummins J. Terminator Insects - The Killing of Females. ISIS news No 9/10 July 2001 http://www.i-sis.org/isisnews/i-sisnews9-24.shtml

9.. Liehr T, Reiter L, Lupinski J, Murkami T, Clausen U and Rautenstrauss B. Regional localization of 10 mariner transposon-like ESTs by means of FISH-evidence for a correlation with fragile sites. Mammalian Genome 2001, 12, 326-8.

 

マラリアを撃退する

サム・バーチャー

 

安全で、効果的マラリア対策は既にある。 必要なのはそれを実行に移す政治的決断だけだ。 毎年、推定30億から50億のマラリア症例が報告されている。 マラリアは世界で 最も感染力の強い病気で年150−200万人が死亡している。 90%の死亡はアフリカの幼児だ。 マラリアは、熱帯地方及びサハラ以南の亜熱帯アフリカ、中南米、中近東、インドア大陸、東南アジア、オセアニアで蔓延している(1)。

 

50ヶ国以上のアフリカの首脳が2000年3月にナイジェリアに集まり、2010年までにアフリカ大陸でマラリアによる死者を今の半分にすると誓った(2)。 この会議は第3回「マラリアの撃退」サミットと同時開催で、マラリアが予防でき、治療でき、治ることを強調した(3)。 

 

広がりを防ぐには4つの鍵となる開発分野がある(4)。殺虫剤を染み込ませた蚊屋、早期診断と治療、安価で効果的予防法各種、そして流行の早期認識と効果的対応である。 最近の調査では、蚊屋に寝た子供がマラリアに掛かる確率は、半分にまで下がるという。 WHOは今後4年間で蚊屋を30倍入手できるようにしようと呼びかけている。

 

現存する診断法では、マラリアの症状と他の病気の症状を見誤り安いため、新たな診断法を開発中である。 最も有望なのは迅速な「ディップスティック・テスト」の抗原検出検査で、特別な技術や設備が不要で既に商業的に入手できる(5)。

 

アフリカではマラリア税(後述)を払っている家庭もあり、安くて効果的抗マラリア治療が得られることは重要だ。 マラリア税は、蚊屋、殺虫剤、反マラリア薬、アフリカ全土で使われているマラリア抑制具にかかる関税と税金が含まれる。 ウガンダは、タンザニアの例に倣って、これらの税を全廃して、税と関税を合わせて5%にし、蚊屋の値段をUS$3.50にして入手しやすくした。 マラリアが蔓延する国で蚊屋を使っているのは推定3%に過ぎない。蚊屋の値段がスワジランドでは$45,スーダンでは$30と高く、関税が42%かそれ以上というのではこの値段も驚くに当たらない。 ここでの問題は、殆どの当局が、処理した蚊屋を命を救うための医薬品としてではなく、繊維製品と見なしていることだ(6)。 医薬品会社は、価格引き下げに努力しなければならない。 公的医療の貧困なところでは、医薬品の入手を意図的に自由化する必要がある(7)。 先進国からのマラリア対策援助は6―16億ポンド/年である。 ハーバードの国際開発センター所長ジェフリー・サッチスは、債務の即時キャンセルがなければ、援助だけでは不十分だと語る。 今年ナイジェリアでは、IMFに16億ポンド返済しなければならない。「これはナイジェリアの医療予算の5倍に当たり、命を救うためには返済分が必要だ。」(2)。 

 

ジョン・ホプキンズ大学への匿名の1億ドル寄付が、今後10年のマラリア研究を支える

 

マラリアの完全治癒と予防は、サミュエル・ハンネマン博士がキナノキの樹皮から1791年にキニーネを発見したホメオパシー医療で可能になっている(8)。 キニーネは、マラリア原虫の消化空胞の中で固まり、マラリア原虫には毒性のある鉄ポルフィリン複合体を形成して鉄分の吸収を妨げる。 だが、キニーネ耐性のプラスモジウムが発生し、別の薬品研究でクロロキン、プライリメタミン、メフロキンが発見された。 クロロキンは1934年からあり、今でも致死性ではないマラリアの治療に有効だ。他にキニーネ系統の合剤にはプリマキンがあり、P. vivax(3加熱プラスモジウム) と P. ovale(卵形マラリア)の治療に使われている(9)。

 

1992年以来、キニーネよりも強力な鉄分吸収抑制効果のあるアルカロイド、アルテミシア(ヨモギ族)に研究の焦点が絞られている(10)。アルテミシアには25の亜種があり、どれもキノーナ・オフィシナリス(キニーネ)と似た特性がある。 

セスキテルペン・ラクトン化合物の中には、アルテミシア・アヌアから合成されたものがあり、劇症マラリアの治療に使われている。 これは原虫を急速に排除し、他の薬よりも早く熱を下げる。 アルテミシニンを遅効性抗マラリア薬と併用すれば、原虫が初期の治療で生き延びるのを防げ、耐性を獲得する危険性を減らすことが出来る。 東南アジアの一部では、P.falciparum(11)マラリアに多剤耐性があるためメフロキンとアルテミシニンの併用だけが治癒を可能にしている地域がある。 この多剤耐性マラリアの世界的分布は、よく記録されていて、中央アメリカとカリブ諸島だけが抵抗性を持っていない地域だ。 タイ、カンボジア、ミャンマーの国境付近が最も多剤耐性感染のリスクが高い。

 

他の治療薬には抗葉酸性(antifolate)合剤がある。これの原虫に対する相乗効果は、各成分への抵抗性があっても有効だ。 新しい抗葉酸性合剤ラップダップは、クロールプログラニルとダプソーンの混合剤で、現存するどの医薬品よりもマラリアに対する相乗効果が格段に高められている。 ラップダップは治癒率が高く耐性を獲得する率も低い。 そして大人一人の治療が1ドル以下と安価である(12)。だが、サプソーンのような抗葉酸性剤は発ガン性があることが分かっており(13)、使用上の注意が必要である。

 

テトラサイクリンなどの抗生物質は有効な抗マラリヤ剤でキニーネと併用することが多い 

 

インドで胸躍る発見があった。 トリクロサンといううがい薬や消臭剤の成分が、抗マラリヤ治療の鍵を握るというのである。 バンガロールにあるジャワハラル・ネルー・センターの先端科学研究所の研究者は、この抗菌剤がマウスでは変形体原虫を完全に排除することを発見した。 ナミタ・スリオラ博士と彼女のチームは、トリクロサンが働く代謝経路を発見した(14)。 彼らの結果では、トリクロサンは試験管中でP.falciparumが赤血球細胞の中で成長するのを阻害する。 プラスモジウム・バージェルという人に典型的なマラリアを感染させたマウスは、原虫が排除され、健康を取り戻した。 植物や多くのバクテリアが脂肪酸を合成するのに必須な重要酵素はファビ(Fabi)である。 トリクロサンは細菌の組織でファビを抑制する。 スリオラ博士は、ファビと配列が似ている蛋白質をP.falciparumに発見し精製しており、トリクロサンは原虫の中で必須脂肪酸の合成に影響を与えていると示唆している。

 

ワクチンの開発に関しては、必要とする国が買う余裕がないため殆ど関心がない。 しかし、幼児を守るための予防対策はとられている。 タンザニアで701人の幼児にマラリアと貧血治療剤を、定期ワクチンとして2,3,9ヶ月例で施す実験調査が行われた。 これはP.falciparum高感染地域での予防対策として行われている。 今年集計された結果によると、抗葉酸性合剤スファドキシン・パイリメタニンを受けた子供は入院することが少なかった。 処方量は問題なく許容され、臨床マラリアは55%、貧血は50%減った。 この幼児期の予防治療は、マラリアが蔓延する地域の公衆衛生には重要であると結論している(15)。 

 

文献:

1.. Bloland PB. Drug Resistance in Malaria. WHO/CDS/CSR/DRS/2001.4. WHO2001.

2.. Yamey G. African Heads of State Promise Action Against Malaria. BMJ 2000, 320:1228.

3.. RBMNEWS@WHO.INT.

4.. Editorial. Donor Responsibilities in Rolling Back Malaria. The Lancet 2001, 356, 521.

5.. Craig MH, Sharp BL. Comparative evaluation of four techniques for the diagnosis of Plasmodium falciparum. Transactions of the Royal Society of Tropical Medicine and Hygiene 1997, 91, 279-82.

6.. African Nations urged to end Malaria Taxes. Press Release WHO/48 5July 2000.

7.. Salako LA. An African perspective. World Health 1998, 3, 24-25.

8.. Cook T. Malaria, homeopathic prophylaxis and treatment. Homeopathy International 1999, 12, 12-13.

9.. Foley M. Tilley L. Quinoline antimalarials: mechanisms of action and resistance. International Journal of Parasitology 1997; 27:231-240.

10.. Price RN et al. Effects of Artemisinin derivatives on malaria transmissibility. The Lancet 1996, 347,1654-8.

11.. White NJ et al. Averting a malarial disaster. The Lancet 1999 353:1965-7.

12.. Watkins WM et al. The efficacy of antifolate antimalarial combinations in Africa; a predictive model based on pharmocodynamic and pharmacokinetic analyses. Parasitology Today 1997,13, 459-64.

13.. NCI/NTP Carcinogenesis Technical Report Series, National Cancer Institute/ National Toxicology Program, US Department of Health and Human

Services, http://toxnet.nlm.nih.gov/cgi-bin/sis/search Dapsone.

14.. Berger A. Mouthwash may treat malaria. BMJ 2001, 322, 316.

15.. Schellenberg D. et al. Intermittent treatment for malaria and anaemia control at time of routine vaccinations in Tanzanian infants: a randomized,placebo-controlled trial. The Lancet. 2001. 357, 1471.

 

 

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