(愛知県農業総合試験場、日本モンサント、モンサントの契約書全文:末尾に河田による注)
除草剤グリホサート耐性稲の育成に関する共同研究契約書
愛知県農業総合試験場(以下「甲」という。)、日本モンサント株式会社(以下「乙」という。)とモンサント・カンパニー(以下「モンサント」という。)は、別添の推進要領第1条から第15条に規定される条件に従い、共同研究の実施と成果の取扱いに関する本契約を締結する。
第1条 共同研究の概要
甲及び乙はモンサントの協力及び援助により共同して以下の研究を行う。
1 研究目的
稲栽培における雑草防除の問題に対応するため除草剤グリホサート耐性稲品種を育成する。
2 研究内容
甲が育成した稲品種にモンサントが有するグリホサート耐性遺伝子でもって、除草剤グリホサート耐性稲品種を育成するための系統を作出する。
3 実施期間
本研究の実施期間は、本契約締結日から1997年3月31日までとするが、以降2000年3月31日まで1年毎の契約更新を認める。
第2条 共同研究の分担
1 甲、乙及びモンサントはそれぞれ次のように研究の分担を行うものとする。
ア 甲は、乙によるパーティクルガン法による遺伝子導入を含む組換え体の作出、選抜、環境安全性評価及びそれに付随する研究を担う。また、甲は、パーティクルガン法による遺伝子導入を行う施設を提供する。
イ 乙は、パーティクルガン法による遺伝子導入を含む組換え体の作出、選抜、環境安全性評価及びそれに付随する研究を担う。
ウ モンサントは、植物にグリホサート耐性を付与する遺伝子及び当該遺伝子を含む植物に関する諸権利を有し、当該権利は当該植物及びその用途に関する技術情報及びノウハウの所持、ならびに、植物、種子、遺伝子及びその用途に関する特許権を含むものであるが、モンサントは、グリホサート耐性遺伝子及びその組換え稲の作出及び評価のためのバックグラウンド技術情報、並びに、本共同研究を実施する目的で上記に関するモンサントの権利についての制限されたライセンスを提供する。
2 本共同研究は、主に甲の場所において実施するが、甲、乙及びモンサントのそれぞれは、相互協議のうえ、自己の場所でも研究を実施することができる。
3 甲、乙及びモンサントはそれぞれ自己の分担した研究に要する費用を負担する。
第3条 共同研究の運営管理
1 本共同研究の効率的な運営のために甲及び乙の代表者、さらにモンサントが選択した場合には、これに加えてモンサントの代表者からなる管理運営委員会及び計画実行委員会を設ける。
2 ノウハウ、及び生物素材などの権利の保護、並びにそれらの第三者への流出防止には細心の注意を払うものとする。
3 甲及び乙は本共同研究契約に基づいて作出された稲と野生稲との間で交雑の問題があることに合意し、当該交雑が生じないようグリホサート耐性遺伝子の取扱いに注意を払うことを約束する。
4 本共同研究は甲、乙、又はモンサント、いずれの当事者の意志によっても中止することができるが、予め合意された事項についての守秘義務を負う。
第4条 成果物及び権利の取扱い
本共同研究の成果物であるグリホサート耐性稲系統の商品化については、本共同研究契約に基づく作業の完了後、甲、乙、及びモンサントの協議によってのみ、決定される。本共同研究契約の目的のため、研究成果として得られたノウハウは、各当事者が他の当事者のバックグラウンド秘密情報及び生物素材を尊重する場合に限り、甲、乙、及びモンサントが共有し利用することができるものとし、本共同研究契約の成果として甲が得た特許権に関しては、モンサントは甲のバックグラウンド秘密情報及び生物素材を尊重する場合に限り、これらを無償かつ非独占的に使用することができる。
以上より、甲、乙及びモンサントは、別添された本契約の一部を構成する推進要領の条項に従い、上記の合意を確認し、その証とするため本契約書に署名し相互に交付した。
日付:1996年12月12日
甲 愛知県愛知郡長久手町大字岩作字三ヶ峯1−1
愛知県農業総合試験場
場長 小出仁士
乙 東京都中央区日本橋箱崎町41−12日本橋第二ビル
日本モンサント株式会社
代表取締役社長 通筋雅弘
アメリカ国、ミズーリ州、セントルイス、チェスターフィールドパークウェイノース700
モンサント・カンパニー
Director, Roundup Ready Crops Denise Bertrand
推 進 要 領
(定義)
第1条 「モンサント・生物素材」とは、本契約に基づき甲にモンサントから供給されるか(乙から供給される生物素材を含む。)又は本契約に基づく活動の全部又は一部から得られたDNA、RNA及び蛋白質を含む全ての分子、ウイルス、細胞、プラスミド、ベクター、組織、細胞小器官または生物体(当事者の書面による相互の合意によりいつでも変更される別表Aに特定されているものを含むがこれに限られない。)をいう。
2 「甲・生物素材」とは、甲が本契約に基づき供給する全ての細胞、組織、細胞小器官及び生物体(当事者の書面による相互の合意によりいつでも変更される別表Bに特定されたものを含むがこれに限られない。)をいう。
3 当事者の「バックグラウンド技術情報」とは、本契約期間中に一方の当事者から他の当事者へ開示された情報、データ、ノウハウ(当事者の生物素材、メモ、報告、図面その他に表されたものを含むがこれに限られない。)の中で、それらが特許の対象となるかどうかにかかわらず、グリホサート耐性を付与する遺伝子を含む稲生殖質を作出し、かつそれから稲を作出するために有用なもの(遺伝子組換え法、組織培養法、アッセイ、分析、選抜及び再生法、ベクター、プラスミド及び遺伝子の構造、DNA及び蛋白質の配列及びプローブ、それらから得られた種子及び植物のアッセイ、分析、増殖及び選抜法、品種登録申請に関する技術を含むがそれに限られず、また、当事者が自由に本契約に基づき提供又は開示できる権利を有する情報、データ及びノウハウに限られる。その個別の場合での提供または開示は、一方当事者が提供または開示する権利を得た際の条件に従ってなされる。)をいう。
4 本契約で使用される「遺伝子組み換え稲」とは、外来の遺伝子が含まれ及び/又は発現するよう形質転換させた生殖質、種子若くは植物又はそれらから生産された生殖質、種子若くは植物をいう。
契約で使用される「GT稲」すなわち「グリホサート耐性稲」とは、モンサント・生物素材がゲノム中に含まれている、本契約に基づく作業の実行の間に形質転換及び/又は作出された遺伝子組み換え稲をいう。
5 本契約で使用される「モンサント特許権」は、出願中のアメリカ合衆国での特許出願(シリアルナンバー476,008出願日1995年6月7日及びシリアルナンバー306,063出願日1994年9月13日)、アメリカ合衆国特許(特許番号5,352,605、特許番号5,378,619、特許番号5,463,175)、それら全ての継続出願、分割出願、一部継続出願及び日本におけるそれらに対応する権利を含む。
6 本契約で使用される「共同開発特許権」とは、本契約の期間または本契約終了後1年以内になされた発見または発想に基づくもので、その内容が、遺伝子組み換え稲に関する、甲の特許権若くは特許出願・それらの分割、継続、一部継続若くは再発行、またはあらゆる国におけるそれらの特許権若くは特許出願に対応する権利をいう。
7 本契約で使用される「共同開発技術情報」とは、遺伝子組み換え稲に開係する技術情報及びノウハウであり、本契約に基づく作業の実行の結果得られた技術情報及びノウハウをいう。
(協カの期間)
第2条 甲及び乙は、本契約の発効日から1997年3月31日まで、GT稲の作出及び評価並びにGT稲のラウンドアップ等モンサントブランドのグリホサート除草剤への耐性評価において協力する。上記の期間は、当事者の合意により延長することができる(たとえぱ、2000年3月31日まで)。また、本契約の規定に基づき途中で終了することができる。
(モンサントによる研究活動の支援)
第3条 本契約に基づく甲及び乙の研究活動を支援するために、モンサントは、甲及び乙に対し、本契約に基づく共同研究期間が存続する間、GT稲の開発及びラウンドアップ等のモンサントブランドのグリホサート除草剤を使用したときのGT稲の耐性を評価することを目的として、モンサント・生物素材を使用するためのモンサント特許権及びモンサントバックグラウンド技術情報の日本国内限りの非独占ライセンスを許諾する。この条項により許諾されたライセンスは、研究目的のために日本国内でのみ使用されるものとする。
2 モンサントは、甲及び乙の前述のGT稲の作出及び評価を援助するために、直接又は乙を通して間接に、モンサント・生物素材を甲に供給し、モンサントの単独の裁量により、モンサントバックグラウンド技術情報を提供する。乙は、さらにGT稲のグリホサート耐性を評価するために使うことを目的として、ラウンドアップ等のモンサントブランドのグリホサート除草剤を提供する。
3 モンサントは、グリホサート耐性遺伝子組み換え植物の開発をしているモンサント所属の科学者及び技術者の他の業務に不当な支障をきたさない限り、自己の単独の裁量により、本契約に定められた条件に従って行われるGT稲の開発及び試験を促進するために、本契約の期間中、甲及び乙に対し無償で限定された時間の技術援助をする。さらに、乙は、本共同研究を促進するために、本契的に基づく共同プロジェクトについて習熟し、モンサントの科学者及び技術者との連絡を促進するために、また生殖質への遺伝子導入を行うために、自己の単独の裁量により、甲に対し乙の費用で乙またはその他に所属する科学者を派遣する。甲が、本契約の期間中、乙からのさらなる技術的援助を要求した場合、乙は、グリホサート耐性遺伝子組み換え植物の作出及び評価に携わる乙所属の科学者及び技術者の他の業務に支障がなければ、乙の単独の裁量により、甲および乙の合意により決定した費用でさらなる技術的援助をする。
(甲の活動)
第4条 甲は、GT稲の作出及び遺伝子により付与されたグリホサート耐性の試験を行うものとする。甲は、試験の実行の際、その試験を国及び地方自治体の規制を遵守して行うことに同意する。
2 圃場試験をする前に、甲は乙に対し、圃場試験の計画を提供しなければならない。その計画には、田植え、溝水及び施肥の時期並びに病害虫及び雑草の防除についての計画を含む。圃場試験計画を変更するときは、甲は乙に対し、その旨を伝える事前の書面による通知を与えることに同意する。
3 甲は、全ての試験に関して乙と協議する。乙の同意なく、いかなるGT稲の圃場試験やその他の試験を実行してはならない。甲は乙に対し、作業の結果及び過程を視察するために圃場試験区画に立ち入ることを許さなければならない。
4 グリホサートタイプの除草剤に関して、甲は、GT稲に対して、乙から供給されたラウンドアップ等のモンサントブランドのグリホサート除草剤のみを使用しなければならない。甲は、さらに、そのグリホサート除草剤を散布する前にかならず乙に通知するとともに、グリホサート除草剤散布の際は必ず乙の社員及び乙が指名した協力者(モンサントの社員を含む。)を同席させなければならない。甲は、試験の結果を乙及びモンサントに提供しなければならない。
5 甲は、当事者間で合意した年間計画に基づいてGT稲から系統を選抜する場合を除いて、GT稲が花を生じ、実を結ばないよう最大限の努力をしなければならない。本契約に基づく作業のために必要とされる限られた範囲を除いて、乙の書面による許可なく、GT稲から無性繁殖を行ってはならない。
甲は、全てのGT稲及びその系統について記録を書面にて保存しておかなければならない。
6 甲は、乙の書面による同意なく、引渡を受けるいかなるモンサント・生物素材又はモンサント・生物素材を含んだいかなるものも第三者に引渡してはならない。甲は、GT稲の作出のみにモンサント・生物素材を使用することに同意する。
7 甲は、乙の事前の書面による承認がなければ、モンサント・生物素材の改変、分離、分析、配列決定または特性評価をしてはならない。
(協議、報告及び記録)
第5条
本研究の管埋及び施行は、管理運営委員会及び計画実施委員会の指示に基づき行わなければならない。
2 管理運営委員会は、共同研究の実施を決定しなければならない。管理運営委員会は、甲より指名された2名並びに、乙及びモンサントより指名された2名の計4名により構成される。
3 計画実施委員会は、年間計画及び年間費用計画等を準備し、管理運営委員会の同意を得て、それらの計画を実行しなければならない。
4 当事者は、本契約に基づく協力が続いている間、定期的に(すなわち、少なくとも6ケ月に一度の割合で)協議しなければならない。当事者は、GT稲に関係するデータ、GT稲を使用して実行されまたは計画された圃場試験の結果(それらの実験の評価、実験区画の広さ、テストに使用した植物の概算数を含む)並びに生育及び品質特性値への効果を含む、試験の方法及び目的についての一般的な情報を交換することを合意する。
5 研究の目的とする成果を得られなかった場合又は研究の継続が自然災害のような避けることのできない事態のために難しくなった場合には、甲、乙又はモンサントのいずれも、本件共同研究を中止することができる。
6 もし研究の目標が達成されなかった場合には、以下の手段を採るものとする。
1 年間目標が達成できなかった場合、管理運営委員会が速やかに開催されなければならず、同委員会は、会議開催後60日以内に計画を継続するかどうかについて結論(その結論は、計画の修正及び新しい目標の設定も含まれる。)を出し、その結論を甲及び乙に提出しなければならない。
2 甲及び乙は、上記の結論を各自で検討して計画を継続するか否かを決定する。もし、甲又は乙の一方が計画を中止すると決定したときは、計画は中止される。その中止は、第7条第3項に定める場合を除いて、各当事者にいかなる義務を生じさせるものではない。
(商品開発に関する権利)
第6条 本契約に基づく当事者の協カは、グリホサート耐性稲の商品開発において、各当事者のバックグラウンド技術情報、生物素材又は、GT稲のいずれかを使用するライセンス又はその他の権利を付与するものと解釈されるものではなく、単にGT稲のグリホサート耐性に関する開発及び評価を意図したものである。各当事者は、自己の単独の裁量で、他の当事者が行なうGT稲の商品開発に参加するか否かを決定しなければならない。もし、いずれかの当事者が他の当事者とGT稲のさらなる開発を継続しないと決定したとき又は共同開発を継続することが当該当事者のビジネス上の最良の利益とならないと決定したとき、当該当事者の参加は行われないものとする。
(権利)
第7条 モンサント・生物素材及び甲・生物素材の権利は、単独で存在するとGT稲又はその後代の中に存在するとを問わず(その量は問わない。)、モンサント及び甲各自に帰属したままとし、それぞれの当事者は、これを研究目的にのみ使用し、いかなる第三者にも使用を許諾してはならない。もし、当事者が第6条に定める商品ライセンスの条件につき合意に至らなかった場合には、全ての当事者は、いずれかの当事者が開発したGT稲につき、それが他の当事者から供給されたその所有にかかる素材(又は供給された素材からの成果。)を含んでいる限り、これを商品化し又は販売する権利を有しない(また、商品化又は販売に関するいかなる権利も他の当事者に許諾しない。)。
2 甲は、モンサントに対し、共同開発特許権及び共同開発技術情報に基づいて、GT稲を含む外来の遺伝子によって組み換えられた植物を作出、使用及び販売する目的で、実施料無料、非独占的かつ期間永久の、全世界を対象とする、サブライセンスを付与する権利を含むライセンスを与えることに同意し、ここにこれを与える。ただし、第8条第6項に規定されたように、本契約のいかなる条項も甲の生物素材に関する権利をモンサント又は乙に与えるものではない。
3 圃場試験が終了したとき又は本契約が終了したときのどちらか早い時点において、第6条による許諾がなされなかった時は、甲は、いかなる商業的利用をすることなく、全ての遺伝子組み換え稲およびモンサント・生物素材を廃棄しなければならず、それ以後もいかなる目的にもモンサント・生物素材を使用してはならない。
(秘密保持)
第8条 契約当事者の本研究におけるより一層の協力のために、一定の財産的価値のある秘密のバックグラウンド技術情報を互いに開示することが甲、乙及びモンサントにとって必要となる可能性があり、また、本契約に基づく作業の間に共同研究技術情報が開発されることが期待される。それら全ての情報を本条項では以下「秘密情報」という。それら秘密情報の取り扱いについての基準を提供するために、本契約の当事者は以下の通り合意する。
2 各当事者は、(a)本契約に従って、全ての秘密情報を秘密にしなければならない。そして、第8条第4項の場合を除いて、他の契約当事者の書面による事前の同意なくして秘密情報を第三者に開示してはならない。(b)秘密情報の開示を共同研究に関係すると考えられる合理的な範囲の雇用者及び役員に限定しなければならない。(c)いかなる方法でも秘密情報を複写または使用してはならない。
ただし、次の情報の使用または開示については、当事者は本条項に定める義務を負わない。T)他の当事者から開示を受ける以前から受領当事者が保有していた情報。U)受領当事者の過失によらず公知になったか刊行された情報。V)契約当事者以外の者から開示に関する制限なく合法的に取得された情報。又は、W)受領当事者において他の当事者から受領した秘密情報から独立して自ら開発したことを証明できる情報。上記(a)、(b)及び(c)に定める義務は、本契約の効力発生日より10年間で失効する。
3 本契約の当事者は、開示された特定の情報については、その情報が、公知またはその当事者の保有するより一般的な情報に包含されることを埋由として、それを公知であるか又はその当事者が以前から保有していたものと見なすことはできない。
4 甲、乙及びモンサントは、自己のバックグラウンド技術情報と同様にかつ同等の範囲で共同開発技術情報を使用又は開示する権利を有するが、各当事者は、他の当事者のバックグラウンド技術情報及び生物素材を使用、開示しないことについて、本契約に基づく義務を継続的に負うものとする。上記義務は、本契約の効力発生日より10年間で失効する。
5 本契約又はその内容に関係する出版、記者発表、公表及び確認は、他の当事者の書面による事前の同意がなければすることができない。
6 本契約の目的により特に認められた方法及び範囲を除いて、本契約のいかなる条項も、モンサント特許権を含む当事者の特許権や、当事者のバックグラウンド技術情報若しくは生物素材に関する何らかの権利を、他の当事者に与えるものとはみなされない。
(補償)
第9条 もし、契約の当事者に過失があるか又は本契約に違反した場合には、それにより生じた人の傷害若くは死亡又は財産上の損害についての一切の請求、損失、責任及び出費(合理的な弁護士費用を含む)について他の当事者を補償し、免責する。但し、その請求、損失、責任及び出費が他の当事者の過失、不実表示又は本契約の違反(本契約に規定する保証の違反を含む。)による場合を除く。本条項に規定する補償責任は本契約消滅後も存続する。
(保証・制限)
第10条 本契約の当事者は、本契約の条項に従い譲与することのできる権利を有することを保証する。ただし、本契約に基づいて譲与がなされたとしても、当事者は、以下の点に関する一切のものについては、明示にも黙示にも保証せず、かつ責任を引き受けるものでないことを明確に合意する。
1.1 提供された生物素材またはバックグラウンド技術情報の性能、商品性、特定の目的への合致
1.2 本契約に関係して供給された情報又はその他のデータの適合性、完全性又は正確性
1.3 本契約に基づき許諾された全ての特許権の範囲又は有効性
1.4 生物素材又はバックグラウンド技術情報のいかなる使用も、本契約の目的達成のために同契約によって許諾された特許権以外の特許権を侵害していないこと
(終了)
第11条 本契約の他の条項に明示されている場合を除いて、本契約に定める当事者の相互の合意による延長または早期の終了がない限り、当事者の共同研究及び本契約は、1997年3月31日に終了する。ただし、いかなる理由により本契約が終了しても、第7条、第8条、第9条および第10条の規定は失効しない。これらの条項の義務は、本契約終了後も全面的に効力を持続する。本契約が終了した場合、これらの義務に従うことを条件として、各当事者は、自己単独の決定で、あらゆる研究、開発又は商業的活動を行うことができる。但し、この条項は、本契約に基づき明示的に許諾される場合を除いて、ノウハウの使用又は種子、植物その他の素材の使用について、何らかの特許に基づく権利やライセンスを付与するものと解釈されてはならない。各当事者は、上記に定める継続する義務を遵守することを条件として、いつでも本契約を終了させることができる。
(当事者の住所)
第12条 本契約の下で要求又は許される全ての通知およびその他の連絡は、書面でなされ、郵便料金前払いの書留または配達証明付郵便により、以下に定める当事者の住所、又は、一方当事者が目的に応じてその都度書面にて指定した住所に対して送付されたときに、適式になされたものと見なす。
甲に対し:〒480−11 愛知県愛知郡長久手町大字岩作字三ヶ峯1−1
乙に対し:〒103 東京都中央区日本橋箱崎町41−12日本橋第二ビル
モンサントに対し:700 Chesterfield Parkway North, St, Louis, Missouri 63198
(譲渡性)
第13条 本契約に基づく甲の契約上の権利、義務及び債務については、第三者(全株所有の子会社を含む。)に対し、その全部又は一部を譲渡、移転又は再許諾することはできない。いかなる譲渡、移転又は再許諾の企ても無効であり、本契約に基づく甲の一切の権利を消滅させる。
(分離・独立性)
第14条 本契約の条項の一つ又はそれ以上が、理由のいかんを問わず、何らかの点に関して無効、違法又は強制不能である場合には、その無効、違法又は強制不能は、本契約のその他の条項の効力に影響しない。しかし、本契約は、それらの無効、違法又は強制不能の条項が含まれていなかったものとして解釈される。
(完全合意)
第15条 本契約は、本契約の内容に関する本契約以前の全ての契約を統合し、それに優先するものである。
別表A
モンサント・生物素材
以下のモンサント・生物素材は、現在若しくは将来の特許権又は契約条項によって保護されるものである。代表的な特許権を以下に例示する。モンサント・生物素材は、特許権によって保護されると否とにかかわらず、本頁が添付される本契約に規定される義務の対象になるものとする。
目的遺伝子
CP4 特許権の例示:WO 92/04449
GOX 特許権の例示:U.S. 5,463,175
その他のホスホン酸塩代謝酵素
葉緑体トランジットペプチド(CTP)
アラビドプシス、トウモロコシ、その他植物由来のCTP
プロモーター
35s or E35s プロモーター 特許権の例示:U.S. 5,352,605
U.S. 5,196,525
U.S. 5,378,619
イントロン
Hsp70 特許権の例示:U.S. 5,424,412
別表B
甲・生物素材
以下の甲・生物素材は、日本国種苗法に基づく現在若しくは将来の農林水産植物品種登録によって保護されるものである。甲・生物素材は、種苗法によって保護されると否とにかかわらず、本頁が添付される本契約に規定される義務の対象になるものとする。
稲品種
愛知93号 品種登録出願 1996年4月18日受理
出願受付整理番号 第8751号
祭り晴 登録番号 第4416号
月の光 登録番号 第1201号
葵の風 登録番号 第2451号
除草剤グリホサート耐性稲の育成に関する共同研究契約書の一部変更に関する覚書
愛知県農業総合試験場(以下「甲」という。)、日本モンサント株式会社(以下「乙」という。)とモンサント・カンパニー(以下「モンサント」という。)は1996年12月12日付け「除草剤グリホサート耐性稲の育成に関する共同研究契約書」の第1条第3項を次のとおり変更することに合意した。
第1条
3 実施期間
本研究の実施期間は、本契約締結日から1997年3月31日までとするが、以降2001年3月31日まで1年毎に契約更新を認める。
2000年3月31日
甲
愛知県愛知郡長久手町大字岩作字三ヶ峯1−1
愛知県農業総合試験場
場長 原幹博
乙
東京都港区三田3−13−16 三田43森ビル
日本モンサント株式会社
代表取締役社長 木村廣道
モンサント
アメリカ国、ミズーリ州、セントルイス、チェスターフィールドパークウェイ、ノース700
モンサント・カンパニー
Director
Strategy, Portfolio and Transactions
Ag Technology
David A. Eichholtz
(河田:注)
これは2002年12月に愛知県が破棄した、愛知県農業総合試験場と日本モンサント、米国モンサント(本社)との除草剤耐性イネ(祭り晴)開発のための契約書である。愛知県の農家、松沢政満氏の求めにより愛知県情報公開条例に従って公開された(「行政文書一部開示決定通知書:12令農総試第178-5号、平成12年11月2日付」 愛知県知事 神田真秋 印)。
問題点1)権利の不平等性
この契約書に見る限り、モンサント社は愛知県農業総合試験場(以下、農総試)に対し、除草剤グリホサート耐性遺伝子とそれに付随した遺伝子(カリフラワー・モザイク・ウイルスのプロモーターその他)とそれをイネに導入するパーティクルガン装置を提供し、農総試は親のイネ(祭り晴)を提供してGMイネのクローン株を作るが、その後は農総試が苗を育成、選抜しその特性を調査する、という役割分担が行われている。しかし、その両者の権利関係は極めて不平等である。
例えば、第11条は「いかなる理由により本契約が終了しても、第7条、第8条、第9条および第10条の規定は失しない。これらの条項の義務は、本契約終了後も全面的に効力を持続する。」と規定しているが、この条項は、ほとんど半永久的にモンサントの権利を農総試側に押し付け、共同研究で得られたノウハウなどの以後の利用を不可能にする。にもかかわらず、第7条第2項では以下のように述べ、農総試側の権利をモンサントは一方的に利用できるのである。「甲(注:農総試)は、モンサントに対し、共同開発特許権及び共同開発技術情報に基づいて、GT稲(注:グリホサート耐性イネ)を含む外来の遺伝子によって組み換えられた植物を作出、使用及び販売する目的で、実施料無料、非独占的かつ期間永久の、全世界を対象とする、サブライセンスを付与する権利を含むライセンスを与えることに同意し、ここにこれを与える。」これでは全くの不平等契約であり、一旦開発がすめばモンサントは勝手気ままに共同開発したGMイネを販売し利用できることになる。
問題点2)見せかけだけの「商品化のための合意」
農総試でのGM祭り晴(仮にこう呼ぶ)の商品化は確かに三者(農総試、日本モンサント、モンサント(米))の合意によってのみ行われることになっているが、日本モンサント社は茨城県筑波の自社試験場において、同じ除草剤耐性GMイネの試験を行っており、農総試との共同研究の成果は、ここで生かされている。従って、GM祭り晴が商品化できなくても、この共同研究の成果は一方的にモンサント社に利用されることになる。これに対して、農総試側は相当具体的な独自の栽培技術に関するノウハウでもない限り、祭り晴以外のGMイネに関しては権利を主張できない。
問題点3)交配は「特許遺伝子流出」が心配
野生種との交雑の危険性についての認識はあり、栽培に際して具体的な対策を取るよう約束しているが、この目的は野生種の遺伝子汚染にたいする懸念よりは、グリホサート耐性遺伝子の流出、つまり特許遺伝子の外部への漏洩を防ぐのが目的である。
問題点4)あいまいな農総試側の権利
モンサントは、グリホサート耐性遺伝子とその導入技術のみならず、その遺伝子を含む植物体とその利用方法にまで特許権を主張している。即ち、仮に商品化されれば、このGMイネはモンサントの特許対象になり、農総試側がどのような権利を主張できるのか明確にされていない。もし将来このGMイネを利用し農総試が交配などで新たな品種を作り出そうとしても、未来にわたるまでモンサントの特許権の対象として縛られることになる。
問題点5)モンサントの管理下で秘密裏に行われる研究・実験
モンサントが最も厳しく権利を主張するのは「モンサント・生物素材」である。これはモンサントから供給されるグリホサート耐性遺伝子関連の全てのDNA、RNA及び蛋白質を含む全ての分子、ウイルス、細胞、プラスミド、ベクター、組織、細胞小器官または生物体を含む。即ち、グリホサート耐性遺伝子を組み込んだGMイネ(に限らない)の本体は勿論、花粉や植物体の切れ端、断片にまで及ぶ。これらを一切外部の第三者に提供することは勿論、イネからDNAやRNA,タンパク質などを勝手に抽出したり塩基配列の分析もしてはならない、とされている。研究者は実験の細部に渡るまで全てにモンサントの許可を得なければならず、また結果を報告しなければならない。勿論研究結果を学会などで発表する自由もない。
問題点6)矛盾だらけの契約
グリホサート耐性関連遺伝子を外部に流出させないように、という厳しい流出防止の義務を農総試に科しながら、既にこれらの遺伝子が大豆やトウモロコシ、ナタネなどに組み込まれ、世界中に流布している事実をどう考えたら良いだろうか。市販のラウンドアップ耐性大豆を買いその遺伝子を分析したらモンサントの特許権侵害に当たるのか。除草剤耐性大豆を食べ、体内に生じた除草剤耐性の腸内細菌はモンサントのものなのか。土壌にすき込まれたGM作物の残骸からグリホサート耐性遺伝子が土壌細菌に水平伝達したら、モンサントはその土壌細菌に権利を主張できるのか。カナダのパーシー・シュマイザーさんの場合のように、周辺のGM農家の花粉による汚染が生じた場合にモンサントが特許権侵害を主張するなら、花粉を飛ばしたGM農家は契約違反にはならないのか。
この矛盾は農作物などの生き物自体に特許権を主張するという無理を反映している。そもそもモンサントが、自社の除草剤生産工場の排水溝から分離したグリホサート耐性菌の遺伝子のみならず、それを含む全ての「生き物」に特許を主張する事からこの本質的な無理が派生しているのである。