キャノーラ(ブラシカ・ナパス)と類縁種間の遺伝子伝達

 

In: Proceedings of the 8th Symposium on Environmental Releases of Biotechnology Products: Risk Assessment Methods and Research Progress, Ottawa, Canada, June 1996.

ジャック・ブラウン、 ドン・C・スィル、アンジェラ・P・ブラウン、トレィシ・ア・ブラマー、

ハリ・ネア植物、土壌、昆虫科学部、アイダホ大学 モスコウ、ID83844−2339,USA

訳 山田勝巳

 

要約

遺伝子組み換えキャノーラ(グルフォシネート除草剤耐性)と雑草類縁種(栽培カラシナ−ブラシカ・ラパ)、野草カラシナ(B.カバー(DC)L.C.フィーラー)、黒カラシナ(B.ニグラ《L》W、J、D コッホ)を温室と野外圃場で花粉の移動と交雑性による遺伝子流動を試験した。 キャノーラの種は小さく機械、動物、通常の交通機関によって長距離を移動できる。 花粉による交雑は30m離れたところで起こっている。 従ってキャノーラの花粉はこの距離は少なくとも移動する。

キャノーラの胚と内胚乳の発生は、栽培カラシナとは似ているが、野生カラシナや黒カラシナとは一線を画していて、温室内でのキャノーラと野生カラシナ、キャノーラと黒カラシナの交配では、失敗率が高い。 キャノーラと栽培カラシナでは、高率で正常な胚が形成された。 圃場試験ではキャノーラと栽培カラシナは高い頻度で一代交配を作り、交配したものもほとんど全てが生存能力のある種子だった。 圃場試験では、野生カラシナとキャノーラ、黒カラシナとキャノーラは交雑が見られなかった。

 

初めに

組み換え作物の大規模商業化に伴うリスクに関する知識がないため大きな論争になっている。組み換え作物を解放することに伴うリスクは、在来育種で出来る作物と大差ないと感じている研究者もいる。 一方組み換え作物を解放すること、特に異種生物からの遺伝子を持ったものは、農業や環境に望ましくないウィルス、バクテリア、雑草が発生し管理できなくなるため危険であるという研究者もいる。

 

しかし、組み換え遺伝子を解放すると、改変特性によって大なり小なり環境リスクがあるということはほとんどの研究者が合意している。 その理由は、除草剤耐性の生理学的基本は良く分かっており、抵抗性は一つの有力な遺伝子が支配的であることが多く、組み換え遺伝子自体が組み換え過程で選択マーカーとして使われる。また、除草剤耐性は農作物では望ましい性質であると考えている研究者も多い。

 

キャノーラは、雑草が蔓延って収量が極端に下がる可能性がある。 それは、アブラナ族は簡単に変わることがあり特定の遺伝子はすでに除草剤耐性を持っていることも分かっており、遺伝子工学者がキャノーラで除草剤耐性を行ったのは偶然ではない。

 

遺伝子操作除草剤耐性作物が農業で起こす問題は、特に花粉によって近縁野草種に拡散することである。その上除草剤耐性キャノーラのこぼれ種が隣接圃場で発芽することもあり得る。組み換え特性が作物から野生種へ移行するリスクは:(1)種子の移動;(2)花粉の動き;(3)作物と雑草の共通性;(4)交配種としての生殖適合性によってきまる。 この論文では(1)、(2)、(3)の要因を検証する。

 

材料と方法

この実験で使用したキャノーラは、グルフォシネート除草剤耐性を持つ遺伝子操作が施してあるもの。雑草種としては、カラシナの栽培種(field mustard)、野生カラシナ、黒カラシナを使っている。 この3種類の雑草種は皆キャノーラの近縁種でアメリカの北西太平洋岸一帯に蔓延っている。

 

花粉の動きは、3回の調査でモニターした(1993,1994,1995)。 1993年には、グルフォシネート抵抗性キャノーラの圃場(20m x 20m) を8m幅で交雑しやすいキャノーラで囲った。 収穫時には、中心部の除草剤耐性から1.5m毎に東西南北4方向でサンプルを採種した。 続く2年間は、グルフォシネート抵抗性キャノーラ圃場(20m x 20m) を30m幅の交雑性キャノーラで囲った。 登熟期に交雑性キャノーラとの境界部分から1.5m毎に22.5間隔(ネルダー輪法)26m長に16本の放射状にサンプリングした。

 

3年間のサンプルは全て除草剤耐性の検査をした。 各サンプリング場所からの200粒のサンプルを4カ所に播いた。苗が3−5枚に達したところでグルフォシネートを0.42kg(活性成分)/ha 散布した。生き残った苗に再度散布して散布漏れを無くした。二度目の散布後に生き残ったものを数えて、これらを中心部の除草剤耐性植物からの花粉交配によるものとした。

 

−−−−−−−−−−−中略−−−−−−−−−−−−−−−

 

結果

種子移動: キャノーラは種子が小さい(約200粒/g)。 通常の農作業中に種子が作業機械によって農場や周辺に運ばれることは避けようがない。 また動物や鳥によっても運ばれたり、加工のための運搬中にもこぼれることがある。 アメリカ北西太平洋諸州では、春のキャノーラは最近商業的に作られ始めているが既にこぼれ種が生産地から数千キロに渡って発芽成長しているのが見られる。 

 

花粉の動き: 花粉移動は、除草剤耐性植物と非耐性境界植物との間の交雑率で調べたところ、1993年には、除草剤耐性花粉源からの距離が増えるに従って減っている。 隣接して植えると6.3%が交雑した。しかし7.5m離したところ、交雑率は0.5%1:200種子)となった。

 

1994年は1993年よりも暑く乾燥した年だったため、花の期間がかなり短くなり、花頃の花粉の量と観察された昆虫の数も実験圃場では相当に減った。 交雑は、前年の寒く湿り気の多い年に比べて少なかった。 この年も組み換えキャノーラからの距離が増えるに従って交雑は急速に少なくなっている。花粉源から5m離れると交雑率は1:1000になった。僅かな除草剤耐性のものが最も花粉源から離れたところでも見られた(最大26mの所で)。

報告を書いている時点で、1995年の実験で得られた種子はまだ全部試験が終わっていない。だがこれまでの観察と分析では、1994年に見られた、より離れたところで交雑が増えるパターンは変わらないようだ。 交雑の頻度は花粉源から風下で最も高くなっている。

 

和合性: 試験した全ての組み合わせで、柱頭で花粉が分裂し、子房に入り込み、胚のうへ近づくものが見られた。キャノーラとの対比で見る胚の発生は、栽培カラシナとさほど変わらなかった(0.65)。キャノーラ胚の発生は野生カラシナよりもかなり遅く(P<0.01)、黒カラシナよりは有意に速かった(P>0.01)。 同様にキャノーラの内胚乳の発生は栽培カラシナや黒カラシナとはさほど違わないが野生カラシナよりかなり遅い(P<0.05)。 胚の発生では自殖したものが常に最も高かった。 自殖したキャノーラの場合93%が正常な胚発生を示し、栽培カラシナ、野生カラシナ、黒カラシナはそれぞれ79%、91%、57%だった。 キャノーラと野生や黒カラシナとの交雑したものの胚発生率は低かった。キャノーラと栽培カラシナの交雑では胚発生率は高い(74%と81%)。 ほとんどの胚は受精したものの中絶(発生途中で死亡)している。 キャノーラ X 野生カラシナの交雑では平均74%の中絶がありキャノーラと黒カラシナでは59%の胚が中絶している。キャノーラと栽培カラシナでは、ほとんど中絶はなく、キャノーラで自殖したものより僅かに多いのみだった。

 

抵抗性キャノーラ/雑草混合の中で育った野草の種を集めて除草剤耐性を調べた。1994年の2カ所で栽培カラシナの苗53,560本、340,896本の野生カラシナ、40,572本の黒カラシナの苗でグルフォシネート耐性試験を行った。野生カラシナとキャノーラ、黒カラシナとキャノーラ間では除草剤耐性の交雑は見られなかった。しかし、約3000本の苗を調べたところ18本でキャノーラと栽培カラシナが交配していた。キャノーラと栽培カラシナの一代雑種は、有効な種を残し、約2%が元の雑草の親系統よりも同様若しくはより以上の種子を生産していた。 これらの雑種と親系統は現在さらに詳細に繁殖と細胞調査を行っている。

 

 結論

これら初期の調査では、(1)キャノーラの種子は、地域内で簡単に移動し、自然発芽する危険性がある;(2)キャノーラの花粉は、最低26mは移動し、風向きによって影響される;(3)キャノーラと栽培カラシナでは胚と内胚葉の発生率が似ており、高い頻度で交配種が出来る;(4)キャノーラと少なくとも一つの類縁野生種が野外試験では交配種を作る。

 

謝辞

除草剤耐性キャノーラ株を提供し研究での使用を許可してくれたベルギーのプラント・ジェネティックシステムに感謝します。

 

参考文献

Brown, J., D.C. Thill, A.P. Brown, T.A. Brammer and H. Nair. 1996. キャノーラ(ブラシカ・ナパス)と類縁雑草種間の遺伝子移動。In: Proceedings of the 8th Symposium on Environmental Releases of Biotechnology Products: Risk Assessment Methods and Research Progress, Ottawa, Canada, June 1996.

 

Martin F.W. 1959. Staining and observing pollen tubes in the style by meansof fluorescence. Stain Tech. 34:125-128.

 

Snow, R. 1963. Alcoholic hydrochloric acid-carmine as a stain for chromosomes in squash preparations. Stain Tech. 38:9-13.

 

1. キャノーラと雑草性3品種の胚と内胚乳の発生率を時間で見たもの。

 

Canola

Field mustard

Wild mustard

Black mustard

 

Embryo

0.65

0.60

0.86

0.47

 

Endosperm

0.16

0.19

0.24

0.17

 

 

2.  キャノーラと雑草性の品種間の交配による胚の発生率。

胚が中絶したものの比率はかっこ内に表示。

 

Canola

Field mustard 

Wild mustard 

Black mustard

Canola

93 (2)

81 (4)

0 (82)

5 (74)

Field mustard 

74 (9)

79 (1)

0 (0)

22 (66)

Wild mustard

8 (65)

0 (50)

91 (4)

52 (14)

Black mustard

13 (44)

0 (0)

24(27)

57 (0)

 

訳注: この論文は、1995年産の種子の検討が終了していないという記述から1995−1996年当時のものと思われる。 

 

 

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